第51話 無敵の能力

しかしオーベルの奴も早い

もう少し時間が欲しかった。

まだバゼル一匹しか悪魔を始末出来ていない。


向こうにしてみれば

処刑の段階でもう数は揃っていると

推測されるので、いつでもバーストを

始めてしまいたいのであろう。


ここまでは止められたが

この先は難しいかもしれない。


「姫の安全は我らで確保出来た

その死んだ振り作戦とやら

今から我らで実行すべきだな」


ナナイが提案する。

まぁそうなるわな


ここから止めるのは2パターンある。


パターン1【懇願】

ババァルの情に訴え止めてくれと頼む。


パターン2【強奪】

ナナイとダークをぬっ殺して

ババァルを誘拐、気絶させるなりなんなり自由を奪う。


1はよろしくない

主導権を完全に譲渡する恰好だ。


2は確実性が高いがしたくない。


どちらもしないとなれば

死んだ振り作戦は実行されバーストが始まる。

焦った悪魔連中はなり振り構わず

恐怖エネルギー獲得の為動き出す。

まぁそれがバーストなんだが

逆に言えば、バーストならば

いちいち判別せずとも悪魔を見つけられる。

片っ端から始末していくしかない

俺一人では無理かも知れなかったが

幸い今ならヨハンとチャッキーが居る。

忙しくなりそうだ

覚悟していかないとな


「はい、出来るだけ長い時間止められるよう

頑張ってみますわね」


なに?

今ババァルが変な事を言ったぞ・・・。

ナナイもダークも微妙な表情になっている。

これは確認しないといけない。


「ババァル・・・ちょっと聞いていいか」


「はい、なんですの」


「もしかして全停止は永続的に出来ないのか」


供給は自動で永続的に行われている。

もし呼吸みたいなものだとすると・・。


「3分位なら間違いなく、それ以上は・・・・」


覚悟を返せ。


俺はダークに魔都に、この事実を

広く知らしめる指示を出した。

これで作戦にかこつけた暗殺は出来なくなるだろう

ただ暗殺の危機そのものが無くなったワケでは無い

魔都には通いにして、ダークとナナイに

隠れ家的な居場所を作ってもらった方が良いかもしれない

24時間、警護は難易度が高い。


バーストの危機が去った事で

ヨハンもチャッキーもがっくりきていた。

即戦闘になるつもりで緊張していたようだ。


「ん・・・・んー。」


ソファから声が聞こえた。

ゲカイが目を覚ましたようだ。


俺を含め、皆注目する。

ゲカイは目を開くと上体を起こし

辺りを見回し、ババァル・ナナイ・ダークを

見たトコロで錯乱した。


「きゃああああああああああああああああああ」


俺は天井を打ち抜かない様に170cm級の

悪魔になるとゲカイを抱きしめて落ち着かせる。


「大丈夫だ、安心しろ」


ゲカイは俺の顔を確認すると泣きついていた。


「アモン様ーー!!」


頭を撫でながら繰り返しなだめる。

3分位だろうかそんな状態が続いた。


仲間だと思っていた俺に光線を

浴びせられ、気を失い、気が付いたら

罠にハメたババァル達に囲まれていたのだ。

混乱するなと言う方が無理だろう。


俺はゲカイが落ち着くのを待ってから話を始める。


彼女はやはり魔神13将序列6位の

解のゲカイで、受肉は解除能力に限っては

そちらの方が有利だという事で

魔界に居る時にアモンに指示されたそうだ

ナナイも言っていたが、より繊細な操作には

受肉の方が向いている。

解除は意外と言ったら失礼かもしれないが

繊細なコントロールが必要な能力なようだ。


ベレンで行ったババァルに対しての行動は

アモンからの指示という風にオーベルに言われたそうだ。


「やはりオーベルか」


ナナイは怒りを露わにしていた。

黙ってはいるがダークも同じようだ。


「あ・・あの・・・アモン様」


「んーなんだい」


あまりにカワイイので俺はゲカイを

膝の上に乗せ背中を抱きしめる恰好で

頭をなでなでしていた。

振り返りながらゲカイは聞いてきた。


「ど・・どうしてババァル様が一緒に」


そうか、ババァルとシンアモンは敵対

とまでは言い過ぎだが保守と改革で

反目しあっている仲だ。

その二人が同席している事に不安を感じているのだ。


「そうかーちょーっと長いけど

ちゃーんと聞いててねー」


俺はナデナデしながらアモンの中身交代を説明した。


「そういうワケで、今の俺は君の知っている

アモンじゃないんだ分かったかなー」


コックリと頷くゲカイ。

うんカワイイなぁ


「で、ゲカイちゃんはどうする

本当のアモンのいる魔界に帰るかい」


首を横に振るゲカイ

首の動きに遅れて連動するツインテールがかわいい


「私はアモン様のしもべです。

なんなりと命令してください」


「んーだから、今の俺は」


「アモン様です。間違いありません」


困ったな。

理解出来ていないのかな


「んー困っちゃったなー」


そんな俺を指さしてチャッキーが言ってきた。


「なんかキモいっすよ」


そうか

小さい子相手に態度が違うのは普通じゃないのか

なんとヨハンもチャッキーの意見に同意している。


「兄貴・・・ロリコンだったのか」


いや、子供はみんなカワイイものだろう


「いやぁだってカワイイじゃないか」


笑顔で言ったのに

なんか逆効果だったみたいで

二人ともドン引きしている。


「・・・・私に・・求婚しておきながら」


ふと気が付くと

ババァルが凄い形相でこっちを睨んでいた。

なんか紫色の禍々しいオーラが立ち上っている。


どうした子供相手に嫉妬か

若さが憎いのか


すっくと立ちあがると

威厳たっぷりにババァルは

とんでもない命令を出した。


「内臓が食べたいわ。ダークそのガキをかっ捌きなさい」


「姫様・・・。」


ダークも困り果てている様子だ。

ババァルを落ち着かせないといけないな


「そんな事をしても若さは手に入らないぞ

どうした落ち着けって」


なだめるつもりが逆効果だったようで

ババァルは「キィー」とか言って怒っている

本当にどうしたんだ


「解除しますか?」


その様子を見ていたゲカイは

再び振り返り、そう言ってきた。


「あーお願いできるかなー」


よく理解していないのに俺は

反射的にお願いしてしまった。

それを聞いたゲカイは膝の上から

ピョンと飛び降りババァルに手をかざす。


パシュ


悪魔光線の時は光線の発射音が

大きすぎて聞き取れなかったが

同じなのだろう

そんな音を立てババァルのオーラは

かき消えた。


「あら?私ったら・・・。」


ババァルもいつものほんわかした様子に戻った。

もしかしたら

ゲカイはとんでもない兵器になるんじゃないか


「スゴイねーゲカイちゃんはー

何でも解除出来ちゃうのかい」


この解除の能力については是非詳しく知っておきたい。


「兄貴、頼むから普通の話し方に戻ってくれ」


これが普通なんだが

そう返す俺だったがヨハン以外も同意だった。


「キモいっすよ」

「だな」

「でござる」

「ですわ」


そうかな・・・。


「アモン様、私は子供ではありません」


ゲカイちゃんの説明によると

解除能力の有効活用の為に受肉を選択

更に解除の有効射程が短い為

対象に接近しなければならない

なので、大人よりは警戒の薄くなる子供を

選択したという事だ。


確かにこんなカワイイ女の子が

接近してきて身の危険を感じる奴はいないだろう。


「・・・接近自体に気が付かなかったけど」


俺は広場での邂逅を思い出して、そう尋ねた。


「あれは自分の存在の認識を解除しました。」


ならばどんな背格好年齢でもいいのではないかと思ったのだ。

そして色々、解除能力について質問した。

ゲカイは全て分かりやすく答えてくれた。


同時に複数種類の解除は出来ない。

存在の認識(存在は解除出来ない)を

解除すれば敵の索敵から外れるが

存在を示す能動的行為をしようとすれば

解除が解除されてしまう。


あの時は、俺達の会話の中に

アモンというキーワードを聞き取った

彼女が発声したため、そこで解除が切れ

俺達にしてみれば突然目の前に

現れた格好になったのだ。


複数種類の解除が出来ない為に

相手を油断させる外見が必要になってくるワケだ。


解除の対象は基本何でも

これはかなりズルい

魔法はもちろん、物理現象も全て無しにできる。


ただし発生直後と自分の周囲に限る。

これが少しややこしい


太陽そのものを消す事はできないが

降り注ぐ太陽光は常に新しい光を

発し続けているので自分の周りだけ

解除可能だが、それまでに浴びた

日焼けはどうにもならない。


公園での出来事になぞらえるなら

俺は消せないが自分に飛んできた

俺の光線を消すことは可能。

解除前に命中してしまったらOUT


試しに俺が蒸着で作ったチャッキーの

ナックルを解除してもらったが効果は無かった。

作成から時間が経過しているため

存在が時空に固定されているからだそうだ。

作成直後なら元の金属粒子に戻せるそうだ。


「なんで俺ので試すんすか」


俺があげたモンだろうが


その時空に固定される時間が

何秒なのかはモノにもよるそうだ。


チャッキーの尻に当てた金属弾に関しては

変わった結果になった。


作ってすぐ射出した弾丸はチリになったが

予め作成しておいた弾丸は運動エネルギーだけが

解除され、ポトリと彼女の足元に落ちたのだ。 


俺の高〇クリニックで解除した皮は

どうなるのだろう

俺のお宝は大人として時空に固定されている

のだろうか気になった。


早速お願いしてみよう。


俺はズボンを降ろそうとしたが

またもやチャッキーに全力で阻止された。


説明と実演を経て

デビルアイで解析した結果

ゲカイの解除は一種の時空系能力だ

部分的なタイムスリップだ。

「オールラウンド今の無し」だ。

上手く使えば無敵の能力になる。


「そんなワケでゲカイに協力を

頼んでみようかと思うんだが」


「イイんじゃねぇか、兄貴の命令なら

喜んでやってくれそうだぜ」


受肉の為、空腹を訴えたゲカイ。

実験の為、あれこれ能力を使わせ過ぎたかも知れない

丁度、チャッキーとヨハンも夕飯を欲していた為

買い出しに行き、今ヨハンと隠れ家のキッチンで

料理しながら俺とヨハンはそう話していた。


チャッキーもゲカイも料理は出来ないそうだ。

二人とも単独行動の時にはどうしていたのだろう。


ババァルとお供二人は転移で魔都に戻っていった。

「また、お会いしましょう。」と、言っていたので

また、いつ現れるか分からない状態だ。


魔王の能力を行使は出来ないが

知識として役に立った。

ゲカイの能力の解析も

魔王の技を伝授してもらったお陰だ。

転移も時空系の能力なのだ。


メシを作りながら今後の方針をヨハンと話した。

ゲカイの解除で悪魔を炙り出し

チャッキーの名の下に鉄槌を下していく

場所や重要度はヨハンに任せた。

と、いうか彼以上の適任はいないだろう

かって知ったる自分の所属していた組織なのだ。


「そういえばベレン滞在中のハンスから聞いたんだが」


俺はベレンに居る9大司教の「流のパウル」

あのババァル処刑未遂の際

最後に言い残す事はと聞いていた神父

についてヨハンに聞いた。


「あぁ、あいつかぁ・・・。」


反応はあまり良く無い

当然知らない仲では無いだろうが

良い関係では無かった様だ。


「武が軍事なら流ってなんだ、何やってんだ」


ヨハンの説明によると

人・物・情報の管理が「流」の役割だそうだ

成程、ベレンに居るのも当然だ。

川を使った物流と各地方の人の行き来が

最も盛んな都市だ。

ていうか元の世界で言えば

「流」ってCIAみたいなモノじゃないか

滅茶苦茶重要だぞ。

領主よりも重要な人物かも知れない。


「先に押さえておくか・・・。」

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