第49話 ゲカイ登場

そいつは俺の正面に向かい合っていた。

三人が東西南に座っていたとするならば

北の位置にいた。

ヨハンはもちろん、完全膝カックン耐性を

持っている俺ですら気が付かなかった

いや視界に入っている。

目で見て分かるハズだ。


一体どうやって接近したんだ。


魔神、直感的にそう感じたが姿を見ると自信が揺らぐ

そいつは少女の姿をしていた。

小学校高学年程度の年齢にみえる。

当然、胸はペッタンコだ。

金髪のツインテールだ。


ついに来た。

ツンデレの登場だ。

いや、まて

振り返ってみれば

凡そここまでセオリーというか

お約束というか

ほとんど裏切る展開だった。


頭脳明晰だが不幸キャラの青髪がヴィータだった。

情熱的で活発な赤髪キャラがババァルだった。

ババァキャラの緑髪は勇者の妹エッダちゃんだった。

金髪ツインテールだからツンデレ

その図式はここでは当てはまらない可能性が高い。


以上が

話し掛けられて驚き、咄嗟に左右のチャッキーと

ヨハンを突き飛ばした0.5秒で高速処理した内容だ。


両手は突き飛ばすのに使用してしまったが

悪魔光線に手は必要ない。

必殺の間合いを取っておきながら脅かす為だけに

費やいしたこいつの真意は分からない。

余裕だとナメているのか

まぁ、なんでもいい

俺に、これだけの時間を与えてくれた。

次の0・5秒で俺はそれを感謝しながら

悪魔光線を遠慮なくそいつに叩き込んだ。


「なにぃ!」


俺はそいつが突然現れた時よりも驚いてしまった。


悪魔光線から身を守るように突き出した

そいつの手の平、悪魔光線はそこでかき消えた。


「嘘だ」


俺は再び悪魔光線を今度は照射しっぱなしで放ち続ける。

しかし、やはりそいつの手の平で

俺の悪魔光線はかき消えてしまう。

ただ光線の勢いでそいつはズルズルと後退していく。


なんかプール掃除でふざけて

ホースの水を掛けているような状態になった。


ショックがでかい

俺は悪魔光線は防御不可能の必殺技だと信じ切っていた。

一度、発射すればそれで勝ち

発射のタイミングを見切って視線を逸らさせ回避する。

ベネットに一度これで破られているが

そんな高等技術は技のベネット以外

出来ないだろうとタカを括っていた。

悪魔光線は無敵だ。

その自信が崩れる。

みっともなく狼狽し

通用しないと分かっているのに

光線の照射を止められない。

止めたらそこで死ぬような焦りが

俺をパニックにさせていた。


なんだコイツは

誰だ


そう思った時にふと思い出した。

忍者であるダークを出し抜き

自分より上位のババァルの術を解除した魔神。


魔神13将・序列6位 解のゲカイ


俺の悪魔光線は発射するまでは

悪魔の力だが、一度放出された光線は

術では無く物理現象だと思い込んでいた。

違うのか?

それともゲカイは術に限らず

物理現象をも解除するのか


ゲカイ繋がりで思い出す。

ダーク、彼は現実を現実として冷静に受け止め

後で仕組みを分析していた。

考えている場合では無い。


「ごめんダーク、俺も気づかんかった」


俺は悪魔光線の照射を止めた。


「兄貴!顔が燃えている」


ヨハンがそう叫んだ。

長時間照射は初めてだった。

目元付近の皮膚が炭化し火を噴いたのだ。


「ああ、中身は何ともないから」


しかし炎越しではデビルアイの機能が落ちる。

俺は叩いて火を消し

ゲカイの反撃を見逃さない様に警戒しつつ思い出す。


ゲカイの対策


アモンサイクロペディアの記述では

確か「殴れ」とだけ書いてあった。

だから俺は特別な対策を練らなかった。

悪魔光線はシンアモンの術では無い

俺がこの体で色々試している内に

開発した技、今回は術扱いになるのか

だから、こうなった

殴れば良かったのだ。

拳そのものは術でも技でもない。

物体だ。

レベル上げて物理で殴れ

これは単純だが、やはり強いのだ。

俺は拳を握りしめ超加速の準備に入った。

音速で飛び込んで、そのまま叩き込んでやる。

しかし、そうならなかった。


「アモン様?・・・どうして」


皮膚が燃え、剥き出しになった中の悪魔の顔

それを見たゲカイはそう言って倒れた。

ピクリとも動かない。


俺はデビルアイでゲカイを走査し

この短時間で3度目のビックリに声を上げた。


「こいつ・・・受肉だ」


ヴィータやババァルと同様に脆弱な

人間のボディだったのだ。

魔核は心臓と左右反対の位置にあった。

悪魔の力はほとんど残っていない。

このままではいずれ崩壊が始まってしまう

ババァルから随時供給されている

力は頼りなくチョロチョロとしていて

肉体の崩壊を止められない。


解除能力にも力が必要だったのだ

悪魔光線連続照射を解除し続けた結果

ゲカイは保有量を使い切ったのだ。

後一秒照射していれば・・・

いや

これでも勝ったも同然だ。

破壊せずなので逆に良かった。

倒れる前のセリフも気になる。

歯向かう様なら殴れば良いのだし

俺はゲカイを回復する事にした。


倒れ伏したゲカイにゆっくり歩み寄る

俺の前に両手を広げ通せんぼし

割り込んでくる男がいた。

チャッキーだ。


「アモンさん・・・まだ子供っすよ犯さないであげてくれ」


は?

何を言ってるんだチャッキー君は


「おい誰がいつ誰をほのぼのレイプしたっていうんだ」


そう言った俺から視線を逸らせ斜め下の

地面を見つめながら言いづらそうにチャッキーは言った。


「ナナイが・・・動けなくなるまで暴力を

振るわれた後、アモンさんが大事なトコロに

突き刺さして・・・一杯注ぎ込んできたって」


ふざけんな

あの女

何を吹聴してやがるんだ

ヨハンもなんか神に祈る仕草をしてる。

信じてるのかよ!


「そうだけど、そうじゃねぇ」


だめだ

これ説得力皆無だ

言い方を変えよう


「性的行為じゃねぇ回復なんだよ

失った悪魔力を補充しないと

そいつも崩壊しちまうぞ」


なんか信じて無い様な微妙な表情だな

二人とも

傷付くぜ

俺はどんな風に思われているんだ。


「見れば分かるから」


俺は渋々道を譲ったチャッキーの横を

通り抜けゲカイを仰向けにしてやる。

顔の穴という穴から血が垂れていた。


「兄貴、先に俺が治癒魔法を」


ゲカイの姿を見たヨハンがそう申し出てきた。


「バカ、悪魔にソレやったら崩壊するって」


俺は手でヨハンを制し、そう言った。


「あ・・・そうか。いや

見た目が人間なもんで、つい」


ヨハンも冷静さを欠いてる様子だ。

受肉した悪魔なら平気なのか

いやダメだ

ババァルは恐怖エネルギーで回復してたし


受肉?

あれ

俺の金属棒突き刺したらマズイんじゃないのか

どうしよう


義体である悪魔に金属棒を差し込んでも

場所にもよるがダメージは気にするレベルでない。


だが人間の身体となると一大事だ。

臓器はもちろん大きな血管、またその付近も命に関わる。

更に悪い事にゲカイの魔核は肺や心臓の隣だ。


人体に差しても問題のないレベル

注射針程度だと細すぎる。

断面図で見たとき指一本の何百分の一の

面積になるんだ?

ハンスを操作した時の様に

注射針程度の触手を大量に差す事は出来るが

あの時は命令を伝達するだけなので

あれで十分だったが、エネルギーの補充と

なるとどうだ?

焼き切れないレベルで補給が出来るか

自信が無いが他に思いつかない。


抱えて飛んで近場の人々を恐怖に陥れる事も

考えたが、ゲカイを激しく動かし回すのは良くない。

ハリセンボン作戦やるしかないのか


「・・・兄貴?」


普段なら即決で即行動の俺が

考えあぐねている様子を心配したのだろう

ヨハンが不安そうに聞いて来た。


「うまく行く自信が無いが

他に思いつかない。やるしかないか」


俺は意を決して準備に入った。

その時に変な感触を近くに感じた。

表現するのが難しい

なんか時の歯車が一か所だけ空回りする様な

感覚とでも言うべきか。

とにかくただ事では無いが脳内アラームが

反応しないので危険が迫っているのでは無いようだ。


「御機嫌いかが、お久しぶりですわー」


ババァルだ。

あの変な感覚は転移か。


「いや、昨日も会ってるだろ」


出現する場所は分かっていたので予め

そっちを向いておいた俺はそう言った

ババァルは魔都で着替えたのだろう。

ベレンの店で会った時と似た恰好になっていた。

うーん貫頭衣とは破壊力が違う。

後ろのチャッキーが鼻血を噴射しながら倒れた。


「・・・許したまえ」


ヨハンがそう呟くが誰の何を許せと言うのだろう

後で聞いて見よう。


カテジナだっけ?(カーテシーです)

スカートの両端をつまんで足をクロスさせ

カクってやる挨拶。

馴れた感じでババァルはその仕草をした。

おかしくないですよ。


俺もバルタん爺さんの見様見真似で挨拶を帰す。

俺を見たヨハンも慌ててそれに習う。


「よく来れたな。聖都内だぞ」


以前、ババァルは教会や聖都などには

転移出来ないと言っていたのを思い出したのだ。


「皆さんの頑張りのお陰で、聖都内でも

アモンさんの近くなら降りられる様に

なりましたわ。流石に教会は無理そうですけど」


俺自身が強力な悪のパワースポットって事か

後、神への信仰自体が聖都で大きく歪んで

来ている事も影響しているのだろう。

俺は先程のバゼル騒ぎの祈りを振り返って

そう結論づけた。


ババァルの影の中から飛び出す者がいた。

言うまでも無くダークだ。

ダークは俺に片膝を着いて畏まる。

すると小さな声がババァルの影の中から

聞こえてくる。


「私が居るのは内緒でね。」


って

許す訳無いだろ

悪魔耳をナメるなよ


「コラァ!!チャッキーに何を吹き込んだー!!」


俺はババァルの影に手を突っ込みナナイの

頭を鷲掴みして強引に影から引きずり出した。


「ギャー痛痛痛痛痛痛い」


「このまま潰す。親でも見分けが

付かないぐらいバラバラにしてやる」


ドタバタ喜劇の横からヨハンが口を挟んできた。


「兄貴、今はコイツを助けるんじゃ・・・。」


そうだ

ナナイなんかどうでもいい

ゲカイだ。

俺はその辺にナナイを放り投げると

ババァルに詰め寄った。


「丁度良い。ババァルこいつに悪魔力を

補給する良い方法は無いか」


ババァルは横たわるゲカイを見て言った。


「あら、こちらの方は悪魔ですの」


ババァルは上位版デビルアイを起動させ

ゲカイを走査し始めた。


「なんですのこの方、受肉?」


ババァルのセリフにダークも

起き上がって戻って来たナナイも驚いていた。


戦闘におけるメリットはほぼ無い受肉を

選択する悪魔がいる事実はやはり腑に落ちないのだ。


「そうなんだ。これだとダークやナナイに

行った俺の方法だとトドメを刺しかねない」


ババァルはあっさりと凄い方法を口にした。


「粘膜同士の接触で直接注入出来ますわよ。」


「そうか、分かった。」


俺は完全人化するとズボンのベルトを外し始めた。

チャッキーが凄い勢いで止めに来る。


「離せ、これは性的行為ぢゃない

治療なんだああああああ」


高〇クリニックで邪魔な皮を取ってある

俺のは粘膜剥き出しなのだ。


「ダメっすよ!何言ってんすか」


で、女子の粘膜って言ったら

フヒヒヒ


「HA・NA・SE!!!」


このコントの間にババァルが

何とも百合百合な手段で補給は終了していた。

ヨハンはまた「許したまえ」とか言っていた。

唇も粘膜だよね

ババァルも受肉だっけ

はぁ残念

いや

良かった良かった。


「あ、拭いてやるよ」


俺はお出かけセットからガーゼを取り出し

熱交換で結露させた水分で濡らす。

ババァルの口にはゲカイの血液が

汚れとして移ってしまった。

ババァルの顎に指を当て、反対側の指で

ガーゼをそっと優しくババァルの唇に当てキレイに拭ってやる。

ババァルはその間、なんか見た事も無い

表情になって、体はカチンコチンに緊張していた。

どうかしたのか

まぁ、嫌がらないのだから、いいか

その後でゲカイの汚れもキレイに拭いてやる。

やっぱり女の子はキレイにしてないとな。


ゲカイ顔色はすっかり健康状態に戻っている。

念の為デビルアイで確認すると

一部、出血箇所があったが

これは病気やケガでない女子特有の月一のアレだ。

受肉はこんなトコロまで再現するのか。


完全膝カックン耐性が周囲に接近する

まばらな集団を感知した。


悪魔光線の音と光が野次馬を呼んでしまったのだ。

場所を変えよう。


「アモン殿。」


ダークも気が付いたようだ。


「分かってる、場所を変えよう。ババァル!」


「っはい!」


どうした、変だぞお前。


「俺達ごと転移できるか」


「拙者の術で全員影に入れるでござる」


察したダークがより早い解決策を言って来た。


「よし、それで行こう」


誰の影に隠れるかだが

ここに居ても変じゃない恰好の人物はヨハンかチャッキーだよな。

よし


「全員チャッキーの影に!!」


「俺っすか?」


異論は認めない。

皆そう思っている様で俺の掛け声で

チャッキー以外は素早く行動に移った。

ダークがチャッキーの影に手を当て

何か呟くと、ナナイはチャッキーの影に飛び込んでいく。

続いてババァルがスカートを少し摘まみ上げモタモタと入って行く。


「兄貴、俺は外でも問題無いよな」


得体の知れない術に警戒しているのか

チャッキー一人を残すのに不安を感じているのか

ヨハンはそう言ってきた。


「そうだな。ちょっと待っててくれな」


確かにヨハンは入る必要は無い。

俺はまだ意識の戻らないゲカイを抱え上げると

チャッキーの影に飛び込む。


視界が完全にブラックアウトした。

影のは中は一切の光が無かった。

ちょっと怖い


「へぶぅ」


飛び込んだ俺の足が何かを蹴ってしまった。


「あ、ゴメン」


「何すんのよ!」


「なんだナナイか、どけよ」


完全膝カックン耐性が機能しない

当たり前だが通常空間では無いので

センサー系がパニくっているようだ。


「音は漏れるので静かにするでござる

後、発光する技は厳禁で」


最後に入って来たダークがそう注意してくれた。


ダークが入って来た場所は

すぐ頭上でチャッキーの影の形で

光っており、そこから空とチャッキーが見えた。

これが影の中か

へー

ふと自分の手を見ようとするが

頭上の光が中を照らす事は無い真っ暗だ。

不思議な感覚だ。


「チャッキーどっか移動しろ」


俺は頭上の光に向かって囁いた。

チャッキーの代わりにヨハンが答えてきた。


「こっから近くに良い隠れ場所があるぜ着いたら呼ぶからよ」


「任せた」


俺はそう返事をしてから

抱えているゲカイの様子を見ようとしたが

やはり見えない。

感触から生きているのは伝わってくる。


足の裏に明確な感触が無いが

光が遠のいて行かないトコロを見ると

落ちて行くワケではない様だ。


座れるのかな

俺はしゃがみ込み

片手で地面があると思われる足の付近を手探りする。


「キャッ」


俺の手は何か柔らかい物を掴んでしまった。


「ごごゴメン」


「何すんのよ!」


「なんだナナイか、どけっつたろうが」


思い切り握ってやる。


「痛痛痛痛痛痛信じらんない最低!」


「静かにするでござる!」


ナナイのせいで怒られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る