第48話 バゼル飛ぶ

突然、目の前に男が現れ

振り下ろした錫杖を掴んで止めた。

バゼルは驚く事は無く

ただ不機嫌さに拍車が掛かった。


俺はコイツよりも取り巻きが気になった

コイツは破壊確定だが、取り巻きは人間だ。

バゼルが「掛かれ」かなんか言ったりして

集団で襲い掛かって来たらどうしよう。

殺さない程度に手加減出来る自信が無い。

だが、その心配は無用だった。


「あの男、殺さ・・・裁かれるぞ」

「おぉ神よ愚かな咎人に慈悲を」


などなど、狼狽え祈るばかりで戦闘する気は無いようだ。

つか

ヨハンやこいつが異例なだけで神父は戦わないのが普通だ。

街の人たちも遠巻きに見ているばかりで

誰も助けも加担もしてこなかった。

が、これは好都合だ。

安全に見ていてね。


「ヨハン。おやじさんの手当てを頼む」


俺は振り返らずに、錫杖を掴んでいない方の

手でバイザーを二つ生成し放り投げながら言った。

位置は完全膝カックン耐性で把握してある。

柵を飛び越え、俺の後ろまで来ていたヨハンは

キャッチし、モノを確認すると瞬間で察し

一つは自分が掛け、もう一つをチャッキーに投げて渡す。


「あいよ。おい歩けるか、離れるぞ」


ヨハンは子供を庇いつつ、その親に

そう言って、取り合えず避難させてくれた。

それと入れ替わりにバイザーを装着した

チャッキーがカッコよく参上する。


「いやっほぉぉおう」


いい気合だ。


「勇者パーテイの格闘家

史上最強の男、チャッキー参上!!」


・・・パターン1失敗です。


「アホ、顔隠した意味無くなっただろが」


チャッキーを責める俺に負傷者の手当てをしながら

ヨハンが助け船を出してきた。


「普通に装備だと勘違いしたんじゃねぇか」


そんな気を利かせてくれるヨハンの好意を

全く気が付かないチャッキーは大声で言った。


「カッコイイからじゃないんすか」


もういい

パターン2に移行だ。


しかし、事態は俺の想定外に動いた。

今度は神父達だけで無く遠巻きに

見ている観衆からも声が聞こえる。


「チャッキーだって?」

「処刑されたんじゃ・・・。」

「生きているのか」

「本物なのか」


どうも避難させた勇者PTも

身代わりを立てられて処刑されてるっぽいな

隠れた本物は見つけ次第、暗殺ってトコロか。


「ふっ俺は不死身の男!

何度だって蘇って来るぜ!」


すごい

実話だってトコロがすごい


カッコよくそう叫ぶと

人があげたばかりのバイザーを

カッコよく外し例の子供に放り投げる。


慌てて両手でバイザーをキャッチした子供は

キラキラした目でチャッキーを見ている。


「チャッキーだ!」

「生きてる本物だぞ!」

「あの黒髪間違いない!!」

「ツンツンとんがっている髪、何つけてんだ」


なんか

パターン2うまく行きそう。


ちなみに黒髪はこの世界では非常に

珍しいそうで

俺が人化の際、目立たない様に茶色を

選んだのは正解だった。


「チャッキーだとぅ・・・フン

ギルティギルティ何度でも処刑するまで」


更に息巻くバゼル。

こいつ本当ウゼェな。


「チャッキー様!こいつ俺がやっちゃっていいすよね」


俺はへりくだってチャッキーに聞いた。

パターン2、チャッキーと愉快な反乱軍だ。


「許す!」


「ありがたき幸せ!」


なんか二人とも語尾が笑いを堪えている感が

出てしまったが、大丈夫だろう。


握っていた錫杖に尋常ではない力が加わった。

俺を引き剥がすつもりだ。

だが、俺はビクともしない。

もう握っていない、金属製の錫杖の表面は

俺の手にもう溶接済みで重力操作で体重は

2トン程度にしてある。


「ん?なんだコイツ・・・んんん」


悪魔パワーで余裕だと思っていたバゼルは

全く動かない俺にやっと疑問を抱いた様だ。


街に被害は出したくないな。


俺は最短時間悪魔光線で魔核だけ狙い撃つ

バゼルは急速に力を失いふらつき出す。


「天に召されよー!」


俺はそう言って力の無くなったバゼルから

錫杖を奪い取り、大振り一回転で

野球のホームランの様にバゼルを打ち上げる。


ギィーン


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ー」


重たい金属の衝突音をと耳障りな悲鳴をさせ

バゼルは東の空へと飛んで行った。

多分、落下地点は来る途中で見た

人気のない森の辺りだ。

もう来るな。


さて噂話のネタ振りとしては

これで十分だろう、騒ぎになる前に撤収しないとな

今後の方針は決めてしまいたい。


俺は素早く錫杖を放り捨てると

チャッキーとヨハンを抱え街の反対側までジャンプした。

音速加減速の要領で二人の身体保護も忘れない。


「あーバイザーが」


「あげたんじゃねぇのか」


「結構気に入ってたんすよ持っててもらおうと」


二人は自由落下の最中でも余裕の会話だ。

だいぶ慣れたみたいだな。


「また作ってやる」


適当な公園に着地出来る様に位置を調整しながら

俺はチャッキーにそう言った。


公園と思われる場所に軟着陸する。

上から見たた時、都合良く人気の無い

広く視界の開けた広場を選んだ。


これで俺達に、こっそり近づく事は出来ない。

身を潜める物も人もいないのだ警戒が楽だ。

話に集中しやすい。


俺は蒸着で簡素な卓と椅子を作成、

例の如く、ポット、カップ、水と生成し

お出かけセットに補充しておいた茶葉を

取り出しお茶を入れる。


「食後の一服出来なかったからな」


手際よく準備する俺を見てヨハンは

嫁に欲しいぐらいだなどと

身の毛もよだつセリフを言って来た。

こんなマチョメンに兄貴呼ばわりされている

だけでもアレなのに恐ろしい事を言うな。

俺はアモンであって、アドンでは無い。


PCエンジンは名機だ。


「予想通りちゃ予想通りだが早急に

教会に入り込んでいる悪魔を減らしていかないとな。」


俺の淹れた茶をうまそうに飲みながらヨハンは呟いた。

それは、もちろんそうなのだが

もう一つ忘れている。

帝王側だ。

政治が乗っ取られるのはマズい

なり代わった王に命令された人間を

迎え撃つのはよろしくない。

ヴィータが最も懸念している事態だ。


俺はそうヨハンに突っ込んだが

ヨハンは半ば呆れた様な顔で俺を見た。

なんで


「あー兄貴は本当にバリエアの事を

知らないんだな。まぁバリエアでも

一般には伏せられているから

どこまで市民が知ってるかは未知数ちゃ

未知数なんだが・・・。」


そうしてヨハンはバリエアが首都でもあり

聖都でもあるバルバリス帝国の成り立ちから語り始めた。


王政・宗教・金融

この三つは本来相容れない別の支配だった。


支配

人が何かを命令された時

なんでそんな事しなきゃならないのか

この反論を最初から封殺するモンだ。


王の為・神の為・金の為

直接、自分自身の利益にならない行動を

納得させ仕事・使命として従事させる根源だ。


王は財を奪われたくない、増やしたい。

財とは王の支配地に生きる民の命と財産だ。


隣の国が豊かだ。

実り豊かな広大な農地を支配している。

価値の高い鉱石を採掘できる山がある。

漁にでれば毎回大量の海産物が採れる海がある。

などなど

欲しい

くれ

やだ

じゃあ力づくで奪う


戦争だ。


力づくで奪う=強盗だ。

これを宗教は善しとしない

どんなに国が豊かになろうとも

悪い事だ。

王を批判する。

信者は王に協力しない

国が内部から崩れる。

それを阻止するために弾圧する。

ヘタをすると他国と争っている場合ではない

内戦になる。


金融は困る。

内戦は困る。

戦争は大歓迎だ

大量の武器が売れる

人が移動すれば金も動く

他国の物資は新たな資金源だ。

戦争バンザイだ。

だが、内戦は疲弊していくだけだ

貧しくなっていくだけだ

喜ぶのは他国の金融だけだ。


王政・宗教・金融

この三つは本来相容れない別の支配が

ある日、結託した。

裏返ったらピッタリはまるパズルだったかの様に

まるで、悪魔と契約したかのように

その結託は破竹の勢いで国を強くした。


王は自分の欲望では無く

教会から言われ立ち上がる。

神託がありました。

神は仰っています。

あの土地は元々我らの土地

遥か昔に奪われ、国民も捕らわれた

取り返しなさい

圧政に苦しむ人々を開放しなさい


これは聖戦です。


本来、宗教は暴力を否定しているものだ。

なのにこの理屈で武装する

聖騎士と呼ばれる殺戮集団の誕生である。

悪魔が神と偽って隣の国の人々を

騙し、苦しめている。

助けなければ

本当の神

我らの神を教えてあげなければ

人を殺めるのでは無い

人を苦しめる悪魔とそれに魂を売った者の

抵抗から身を守り、苦しむ人々を救い出すため

堂々とその宗教のシンボルが刻印された

武器を手に

略奪集団は今日も国境を越える。


この理屈で

王・宗教の支配下の人々の

文字通り血のにじむ努力で

次々と隣国へ侵攻していく。


国が豊かになり王は満足。

豊かでない国が武器を強化すれば民が飢える。

どこぞの黒電話みたいな頭の頭が支配する国がそうだ。

民が飢えず、武器も強い

それは豊かな国ならば可能な事だ。

王自身も贅沢の極みを満喫した。


宗教も満足

信者は増えていく

強大な権力は自分達が正しい事の証明と錯覚する。

布施の額も莫大だ。

教会は王と同様の立派な建物になる。

更なる信者獲得へのアプローチとして

神の御業、その片鱗を醸し出す人の芸術も

貪欲に取り入れていく

絵画、ステンドグラス、賛美歌

キラキラした華やかな雰囲気は

何も知らない子供を惹きつけていく。


金融も満足

大量の金が流動する。

神が誰でも構わない

王が誰でも構わない。

この大量の金の流れさえ

自分達がコントロール出来ている限りは。

戦争ですか

新しい武器がご必要では

新しく開放された土地に教会を

建築でございますか

お力になりますよ。


今の宗教を国教としたバルバリス帝国は

こうして大陸の半分を開放した。


そして王は飽き始めた。

指輪が100個ある

指は10本だ。

付け替えるのが面倒くさくなってくる。

これが1000個になりますっていわれてもなぁ

でも、教会に背くのはマズい

大義名分を失う。


教会はじれったく感じ始めた。

全世界の人々に我らの神を教える

その日まで

彼等は止まらないのだ。

例え自らが倒れても同士に託し

前に進むのを止めない

〇ルガ状態だ。


金融は微妙だ。

一種類の通貨はよろしくない

錬金術が使えなくなる。

彼等の錬金術

簡単に言うと

ギルという通貨

ゴールドという別の通貨

この相場変動で無限に金を生み出すシステムだ。

一個のリンゴ

100ギル

100ゴールド

ある時相場が変動しリンゴ一個

100ギル

200ゴールド

この時

ギルはリンゴを売って

200ゴールドを手にする。

(ゴールドはリンゴ一個を手に入れ200ゴールド失う)

そして相場が戻りリンゴ一個

100ギル

100ゴールド

この時ギルは先程手に入れた

200ゴールドでリンゴを買う

(ゴールドは200ゴールド取り戻しリンゴ2個失う)

すると

元々一個しか持っていなかったリンゴが

二つに増えているのだ。


これを例にあげ

儲けませんかと大量の人々を

そそのかし

逆の立場に落とすのだ。(リンゴ一個損した)の方だ。

これを巧みに操作することで

金は無限に増え

欲に目の眩んだ人々が搾取されていく。


通貨は統一されて欲しくないのだ。

まぁ同じ通貨内でも同様の事は可能なのだが

分かりやすく言うとこんな感じだ。


ヨハンの話を纏めると

今のバルバリス帝国は完全に教会の

傀儡と化し、お飾りだ。

悪魔側は教会さえ押さえれば良い。

悪魔にしてみれば

傀儡は逆の方がやりやすかっただろう

俺でもこの地に居るのは少々不快だ。

信者が多い。

まして、その中枢を乗っ取るとなると

一筋縄では行かない。


「まぁ片っ端から悪魔を始末する事には変わんねぇんだけどよ。」


「俺はソレだけを考えるぜぇ!!」


それだけしか分からないんじゃないのかチャッキー君。


「問題は兄貴が居ない時にどうやって判別するかなんだが。」


俺のデビルアイなら悪魔を看破出来る。

しかし、俺はこの後、別行動に移る予定だ。

勇者探しに出かけた太郎に会いたい。

デビルアイ抜きでヨハンとチャッキーは

悪魔退治を進めなければならない。

別の判別方法が無い訳ではない。

俺はハンスに聖書を読み聞かされた時の事を話した。


「ウーン、怪しい人を捕まえて一々読み聞かせるのかぁ・・・・。」


やはり現実的でないか。

ヨハンも首を捻っている。


「アモンさん、俺を改造してくれないか」


唐突にチャッキーが言い出した。

ヨハンが悪魔の契約で力を手にした。

自分も同様にして欲しいとの申し出だったが

俺が何か言う前にヨハンが割と強めにチャッキーを諭した。


「だめだ。お前は若い、まだ可能性が

一杯あるんだ。鍛錬をせず手に入れた

力は必ず失敗を経て破滅に至る。」


なんだろう

耳が痛い。


「都合良く聞こえるかもしれないが

俺は鍛錬の果てに、そのご褒美で

兄貴に会えたと思っている。」


若くしてはひたすら鍛錬

成熟しては責任のある立場で指導教育

そして決戦では文字通り命懸けで

戦った男のセリフは

俺にもチャッキーにも重かった。



「じゃあ、俺も最後の最後の時にアモンさんに契約してもらうよ」


ボクと契約してマッチョな格闘家になってよ

おいおい俺はそんな生き物なのか

どうだろうババァルはもうダメって言うかな

勝手にやってのいいのかな


「アモン・・・契約?」


全員の背筋が凍り付いた。

目の前に魔神がいた。

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