第47話 それぞれ首都へ
「良いお湯加減ですわー」
魔王から伝達された情報量は
俺の処理能力をパンクさせた。
視界は完全にブラックアウトし
話す事もままならない。
体温は70度を超えた。
そんな訳で俺は今水没している。
風呂に沈められお湯を沸かす熱源として活躍中だ。
ババァルはそれを利用して二度目の入浴をしている。
声はかろうじて聞こえている。
かなり近くにいるはずだ。
目の前にあのボディがあるというのに
目は完全に見えない。
くそう
コレいつ処理終わるんだよ。
結局、処理に1日掛かった。
そして結果はなんと
「あはははは安心いたしましたわ」
ご機嫌で笑うババァル。
解析した結果、アモンでは魔王の術のほとんどが
再現不可能だったのだ。
うーん、無駄な事をしてしまった。
結果待ちをしていた魔王とお供二人は
転移で東の魔都へ帰っていった。
「協力してくれるかと思ったんすけどねー」
残念そうに言うチャッキー。
「存命という意見が一致しただけでも助かるじゃあないか。」
魔王の生存の是非で対立していただけで
聖都乗っ取りに関しては彼等も賛成なのだ。
これは仕方が無い、彼等は向こう側の陣営だ。
人間の味方では無い。
今回の話で分かった事だが、
悪魔側も一枚岩では無く、派閥が存在している。
今にして思えばベネットは中身が人間の
アモンを利用し入れ替わりを知らない
他の悪魔に対してアモンが魔王擁護に
傾いたと誤解させ王家側の力を
確固たるものにしようと
目論んでいたのかもしれない。
あのまま投げずに太郎の言うような
ガイドをさせていたら
ババァルも酷い目に遭わずに済んだのでは
無いのだろうか。
また俺のせいか
最近、空振りが多い気がする。
ババァルを見送った俺とチャッキーはヨハンの部屋へと戻った。
「おぅ、おかえり。冷めたようだな兄貴」
全身、包帯だらけでミイラ男の様になった
ヨハンが迎えてくれた。
「魔法陣使うか」
そう尋ねる俺にヨハンは首を横に振る。
「遠慮するぜ、まだ死にたくない」
「それがだな・・・・あれ?」
俺はチャッキーに預けていた俺のエルフ製リュックを弄ると
コピー版の魔法陣が入っていない事に気が付いた。
ハンスに渡したままか、まぁいいや。
「女神に間違った箇所を修正してもらってだな」
俺はオリジナルの方を広げ、ヨハンに説明する。
ヨハンは納得し自分で行うと言って来た。
「自分でやるなら、死ぬ前に止まるだろ」
修正版をこちらの文字で新たに書き起こしてから
ヨハンは包帯を解き、自分で詠唱を始める。
俺はデビルアイで力の流れを見る。
寿命が消費されそうなら、すぐ止めるつもりだ。
結果的にはそんな心配は無用だった。
傷はキレイに修復されヨハンも生きている。
「今度こそ成功だな。兄貴」
一回で腕一本分の傷が修復された。
残りも同様に取り掛かる。
最後の方は魔法陣が必要なかった。
覚えてしまったのだ。
流石は秘術を使える大司教だった男だ。
それにしてもどら焼きといい
治癒魔法といい
俺より伝えた側の方が上手くこなす
・・・うーん、考えない方がイイな。
次の段階は一文字で長文と同じ意味になる
圧縮言語を開発し詠唱の時間短縮だ。
最終的には一言で発動させたい。
傷の修復を終えた後はヨハンとチャッキーは就寝した。
俺は、また夜なべで過ごした。
翌早朝に俺達は聖都バリエアに向けて出発した。
「いやっほぉううう!」
「うああああ怖い!まじで怖いってぇの!!」
同じ格闘家なのに飛行の感想は正反対だ。
どっちもやかましいが・・・。
直に乗り着けるワケにはいなかいので
毎度のごとく人目に付かない場所を選んで
そこで二人を降ろし半人化した。
聖都は面積ではベレンの十倍以上あり
その広さもあいまって城壁も門も無い
帝王のいる城と教会本部以外は
ノーチェックで自由に出入りが出来た。
農場の合間にぽつりぽつりと
民家があり、3kmほどすると街に入った。
街並みは一言でいうと質素だ。
繁華街でもベレンの様に喧噪としてはいない
昭和の八百屋みたいに大声で売り子を
している者は皆無で
どの店も薬局かってぐらい店員が静かだ。
人々は皆、礼儀正しくゴミも転がっていない。
文化の高さと規模はベレンより上だ。
俺達は昼食をとるために一軒の店に入った。
天気が良かったので店の大窓から広いベランダに
あるパラソル付4人掛けのテーブルで頂いた。
「様子が変だな・・・。」
食い終わったトコロでヨハンが呟いた。
「そうっすね。」
小声でチャッキーも同意するが俺は
バリエアに来たのは初めてなので
何が変なのか全く見当がつかない。
「静かな普通の街じゃないのか」
「兄貴は聖都は初めてだっけな
なんか、活気が無ぇんだ人の目が
怯えているような・・・・。」
ヨハンの言う怯え、説明は要らなかった
その原因はすぐにやって来た。
ハンスの服に酷似した衣装を身にまとった集団
中心には一人だけ馬に騎乗した
これまた偉そうな神父がふんぞり返っている。
集団が通るタイミングに合わせて
すれ違う人は皆、膝を着き、頭を垂れ
祈りの言葉を口にしている。
「笑えるわ」
俺は思わず口を衝いてそのセリフを言ってしまった。
祈りの言葉。
似たようなシーンがあった。
その時は完全人化しようかってぐらい
人々の祈りが悪魔の俺には苦痛だった。
ここよりもっと貧相だったバロードで
女神に捧げられた祈りだ。
だが、今はどうだ
美味しい
悪魔の俺が喜ぶくらい彼等は怯えている。
こんな祈りならどんどんやってくれ
「兄貴・・・それじゃあの神父達は」
セリフの意味を説明した俺にヨハンは察して聞いて来る。
悪魔による聖都の制圧は間違いなく進行しているのだ。
「んー馬に乗ってる奴だけだな。」
デビルアイを起動して観察した結果。
騎乗している一名以外は人だった。
「OKっ!チャッキーランチシークェンス!!」
妙な掛け声でチャッキーは俺が夜なべで
作ってやったナックルを装備した。
普段は黒皮のジャケットの肩の部分に
装着されていて、肩を揉みにいくような動作で
一秒で戦闘態勢になれる。
ナックルは当然特別製で
創業祭を参考にチャッキーの闘気が
そのまま破壊力に転用される仕組みにしてある。
「だめだ。しばらくは様子見だ。」
「そうだな、兄貴の言う通りだ今、お尋ね者になるのはマズイ」
俺とヨハンに制止され
不服な表情ながらも椅子に戻るチャッキー。
そのタイミングで打撃音が聞こえた。
暴力の音だ。
「貴っ様ぁああ!セント・バゼル様の
前を横切るとはぁ何と不敬な!!」
音のした方を見てみれば
子供を庇って殴られ地面に倒れる男が見えた。
馬に乗った偉そうな奴が息巻いていた。
「バゼルだって、知ってる?」
ヨハンは9大司教だ。
所属しているブラザーシスター全員は
流石に覚えきれないだろうが
偉い奴なら知ってるかと思い
俺はそう聞いた。
「あの服装なら知って無きゃおかしいんだが、
全く知らねぇ。兄貴、俺の記憶は弄ってないよな」
恐らく磔のジュノの能力だろう。
疑う事を制限されてしまって
見知らぬ人が高い地位に突然就いても疑問を持てないのだ。
入れ替わりだと家族が疑う。
これを制限するには力が掛かる
見知らぬ人間で交代させる方が負担が少ない
そんな所だろう。
「あれを見ても黙っていろって言うのかよ」
目前で理不尽な振るわれた暴力にチャッキーはキレた。
正義の心が燃えている。
「そうだ。クールにな」
俺は椅子にふんぞり返って偉そうにチャッキーを諭した。
ヨハンの言ったセリフを繰り返して
チャッキーには我慢してもらう
一時の感情で全てを無駄にする気か
とも言っておいた。
チャッキーは椅子に戻らず凄い形相だ。
こっちの緊張など露知らず
バゼルは調子に乗る。
「このクソ餓鬼ぃが聖なる教えを受けよ」
馬を集団の前まで出しバゼルは長い錫杖を振りかざす。
せっかく親が庇ったがそれもむなしく
前を通り過ぎた不敬の罪が裁かれようとしている。
「兄貴!」
「アモンさん!」
このセリフの後は
これを見過ごす様なら俺と縁を切る
二人はそう言うつもりだったと
後に何かで聞いたっけ。
その時そのセリフは言えなかったそうだ
そらそうだ
俺はもう椅子に座ってなかったんだ。
勢い良く振り下ろされた錫杖が
子供を打ち付ける事は無かった。
音速で飛び出した俺が錫杖を掴んでいるからだ。
「・・・人には我慢しろって言っておいて」
チャッキーはそうボヤいた。
「全くだ。これだから兄貴は・・・最高だ」
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