第46話 魔王の器

俺はババァルに時間停止を解除するようお願いした。

一体どんな掛け声やポーズSEや視覚効果が

あるのか興味ワクワクだったのだが

ババァルは閉じた口をフニフニ動かしただけで

時間停止は解除されてしまった。

サマンサかお前は


時間が通常運行に戻った瞬間

近くの茂みがガサガサッと音を立て

間髪入れず悲鳴が響き渡る。


「痛ってぇええええ!!!」


茂みの中から尻を押えたチャッキーが転がり出てきた。


「ふざけーんなよ!なんだよ、この鉄の玉!」


片手で尻を押え、残りの手で尻に突き刺さった

弾丸を抜き取り、激昂しているチャッキー。


間違い無い。

あれは俺が時間停止の効果を確認する為射出した弾丸だ。

時間が動き出したと同時に弾丸も本来の

運動エネルギーが作用し飛んで行ったのだ。

それがたまたま茂みの中にいたチャッキーに

直撃したというワケだ。


ごめん

わざとだ

完全膝カックン耐性でチャキーが出てきたのは知っていた。

脅かすだけで当てるつもりは無かったのだが

彼の事だ

もしかしたら命中するかもと思い

威力はおもちゃの鉄砲程度で射出しておいたのだ。

しかし尻で受けるとは流石だ。


「無事かチャッキー」


俺は何食わぬ顔で近寄る。

チャッキーは尻をさすりながら答える。


「超痛いっす。まぁ無事ですけど」


俺は顎に手を当てわざとらしく感心してみせる。


「その弾丸でその程度とは、流石だな鍛え方が違うのかな」


チャッキーは照れっ照れで答える。


「いや、別に普通っすよ」


「いや、並みの戦士じゃ死んでたんじゃあないか」


「いやいやマジ、全然っ凄い攻撃じゃなかったす」


もう痛く無いようだ。

チャッキー

君はなんて扱いやすいんだ。

世界中の人が全員チャッキー君だったら

戦争なんか起きない

きっと平和だろう

すごくやかましい世界かもしれないが


何をしているのかを聞いたら

無くなった靴を探しているとの事、

ベランダまで超加減速した距離はおよそ1km

さらに今は夜。

諦めるよう勧めた。


俺達はエルフの里に戻った。

プラプリに頼んで会議室的な大部屋を使わせて

貰うのと、皆に危険は去った事を伝えてもらう

様に頼んだ。


その横でババァルはタムラさんと何やら話している。


会議室というより個人経営の山のロッジの

広間みたいな部屋だった。

テーブルと椅子は宿泊の部屋に置いてある物と

基本は同じで、複数並べて大きくしている。

各々適当に腰掛けると俺は早速話しを切り出す。


「まず言いたいのは・・・ダーク」


「はっ」


畏まって返事をするダーク。


「お前の背中の剣・・・なんだそれは」


「刀と呼ばれる剣でござるが、

この地方では珍しい刀剣でござるな」


こいつ

何を分かった様な口きいてんだ。


「馬鹿野郎!それは侍が使う太刀だ

忍者なら忍者刀を使わんか」


片刃で大きく美しい弧を描いた刀身

日本刀は時代劇でもお馴染みの武器だ。

しかし忍者が使っていたのは

もっと短く真っすぐな刀身の忍者刀なのだ。


「ちょっと見してみ」


俺は寄越せとばかりに手を出す。

ダークは嫌がる素振りも無く

背中から刀を外し鞘ごと俺に手渡す。

受け取った刀をデビルアイで走査してガッカリする俺。


なまくらもイイ所だ。

創業祭や冠婚葬祭とは比較対象にすらならない。

俺が鍛え直したプリプラのレイピアのほうが

この刀よりも数段上だ。

逆に興味が湧く

これは悪魔の身体材料では無い

鉄を人が鍛えたモノだ。

何故、魔神がこんな武器を使っているのだ。


俺は理由をダークに聞いた。

ダークが言うには以前の降臨の際に

ひょんな事から共闘した風変りな戦士から

死の際に譲り受けた思い出の品だそうだ。

もっと強い武器があるのは承知の上だとも言っている。


まぁ今回はそのお陰でヨハンがかすり傷で済んだ

魔神が武器で切り付けたのだ

いくら改造してあるとはいえ人間ベースだ。

絶命していてもおかしくない。


「これは歴史的価値の高い剣だ」


俺は説得の為に適当な嘘をついた。


「大事に保管して家宝にするべきだ

普段使いには勿体ないぞ。」


「そうでござったか・・・そうするでござる」


「かと言って丸腰も困るよな。コレを使え」


俺は瞬間的に忍者刀を作成する。

光を反射しないように刀身の材料は

黒ずんだ金属を複数選び、なお割れない様に

湾曲して積層させ、靭性を持たせた。

木目みたいな模様が浮かび上がっている。

なんだっけコノ製法

ググレカス

じゃない

ダマスカスだ。

基本片刃だが先端は両刃

戦闘以外での実用性も考慮し

サバイバルナイフのデカい奴にしてみた。

鞘も目立たない様につや消しのカーボンだ。

・・・・・

折角だ、名前も入れてやろう

悪魔文字はよく分からないので

漢字で「葛飾北祭」と入れてやった。

和風だ。

もしかして

エッダちゃんの口癖って

いや考え過ぎだ。


膝を着き大袈裟に両手で俺から忍者刀を

受け取ると、引き抜き確認するダーク。


「こ・・・これが忍者刀でござるか」


黒い刀身はまるで光を飲み込むかのようだ

影、まさしくその刃に相応しい。


「そうだ。」


嘘です

適当です


「有難く頂戴するでござる

この刀に相応しい働きを誓うでござる」


真剣な眼差しで言うダーク。


と言ってもコイツ瞳がない

まんがではよく見る全部白目

4番サイボーグみたいな目なので

どこ見てんのか分かんないだよね。

まぁ口調から真剣な眼差しだったと言っておこう。

これで少しは口が軽くなるか

戦闘で気になった事をきいてみよう。

なぜ

あの下らない挑発に乗って出てきたのかを

俺がそう聞くとダークは意外そうに答えた。


「あの時、拙者はてっきり隠れ場所が

バレていると思って身構えていたのでござる

そこで、あの挑発・・・もう出るしかないと」


居るのは感知していたが

場所までは分からなかった。


「なぜバレたと思ったんだ」


ダークは懐に手を突っ込みゴソゴソと

探ると、ある物を取り出して言った。


「拙者の隠れている影にコレが投げ込まれたからでござる」


ダークの取り出したある物を見てチャッキーが絶叫する。


「俺の靴!!!!!」


面白い

持ち上げて降りられない様にしよう


「ふっ流石だなチャッキー。俺より先に

ダークの隠れ場所を察知していたとは」


俺は腕を組み目を閉じ

うそ解説をでっち上げ

更に畳みかける。


「しかも音速で移動中に命中させるとは

もはや人の領域では無い精度、神業だ」


俺とチャッキー以外の面々が「ホォー」と

感嘆し尊敬の眼差しをチャッキーに向ける

もっと

もっと見てやって


「・・・えっ・・いや・・そんな

それ程でもないっすよーーーー」


上がる上がる

もっと上がれ


「俺の靴どこっすか、あれはチャッキーの

靴を見つければおのずとダークに行きつく

そういう意味だったんだろう」


俺は畳みかけるのを止めない

真っ赤になるチャッキー


「ややややめロッテまりーんず!!」


「お待たせしましたですわー。」


不意に扉が開いてタムラさんが

ワゴンを押しながら入って来た。


「お待ちしておりましたわー。」


嬉しそうに答えるババァル。

ワゴンにはお茶と菓子が満載だ。


人が部屋の手配している横で

何やら話していていたが

こういう事か

いや

これは気が利くのか

とは言え、ここで食事が可能なのは

ババァルとチャッキーだけだ。

ほぼ自分の為だけだろう

ふと菓子を見ると、どら焼きが有り。

俺のより上手に焼けている。

更にエルフの文字で焼き印まで入っている。

見てみれば何やらタムラさんが

勝ち誇ったような顔で俺を見ていた。

ババァルはすっかりタムラ製どら焼きの虜だ。


なんだこれ

これももしかしてNTRになるのか

しかも焼き印が気なる。

元祖とか入れてんじゃねーだろうな

おいおい盗作だろ

って俺のオリジナルってワケでも無いか


「みなさんもどうぞー」


ババァルはそう言ったが

やはり魔神二人は食事を摂取しない

俺も半人化のままが良い様な気がしたので

不要だと言った。


「あら、では私一人で」


「俺は食うっすよ!」


スルーされそうだったチャッキーは食らいついていく


「俺は食うっすよ!!」


分かったから

さて次はナナイだ丁度良いタイミングなので

疑問に思っていた事を聞いて見よう。


「ナナイは食えないのか、内臓を形成していたみたいだが」


機能していないのは承知の上だったが本人が何て言うか気になった。


「あぁ形だけで生物としての活動はしていないのだ」


ナナイの解説によるとキメ細かな剣技には

生の肉体の方が理想的なのだが

いかんせん脆弱である事と

細目な栄養補給や体温維持などなど

戦闘に不向きな事が多すぎなので

せめて義体で形だけでも似せているそうだ。

実際の効果は疑問だが

これも本人の気持ちの問題だ。


「よく分かる。俺もやってみようかな」


言ってみたものの俺には剣技など無かった。

俺の言葉が意外だったようで

理解者が居た事にナナイは驚きと喜びを露わにした。

他の悪魔には理解されないらしい。


「後、ババァルをなんで姫と呼ぶんだ」


「成程、そのような質問が来るとは

本当に中身はアモンではないのだな」


そう前置きをしてナナイは説明を始めた。


魔王は12の王家、まぁみんな親戚で

それぞれの王家から一名代表で魔王を襲名

ババァルは代替わりしたばかりの魔王だそうだ。

先代は激強のじいさんで、込み入った事情で

一代飛ばして孫にあたる今のババァルが誕生したそうだ。

襲名の際、技を引き継ぐのだが

性格が性格だった為か攻撃系はてんでダメで

こうなったそうだ。


「失格とか無いのか」


無いそうだ。

基本、最終決戦以外で魔王は戦闘しないとの事で

その最終決戦で勝った試しが無いので

戦闘力はあまり問題にならないそうだ。

大問題じゃないか

シンアモンが決着を急いだのは正解じゃないのか


そして13将も各王家の家来から1名を選出。

ナナイはババァルの王家の代々つづく家来の

出身だそうで、幼少期は親友だったらしい。

ダークも近縁の王家の選出だ。


「12の王家から魔神を1名選出?」


俺は当たり前の疑問を言ってみた。


「あぁそうだ。」


「ひとり多いぞ。13将だろ」


ナナイはため息を一つ付いてから説明してくれた。


「それがお前だ。アモン」


王家に近い者が強力な力を有している。

この悪魔の常識外の存在だったそうだ。

無名の下級悪魔の中から突如として台頭し

最後はオーベルの策を持って挑んだベネットを

打ち破り、周囲を黙らせた。

将の地位に王家関係から脱落させられない

そんな事情から12将が13将に変更になったそうだ。


長年続く王家の支配に疑問を提示し

圧倒的な力で勢力を拡大している成り上がり


それがアモンだ。


すげぇなシンアモンさん

さすが本物

そっちの話の方が面白いんじゃないか

アモンサイクロペディアにはアモン自身の

記述は一切無いので新鮮な話だった。


なるほどな、そういう事情があって

それで婚姻がどーたらこーたらで

ナナイはプンプンしているのか

なんか魔界も人間界も

こういうドタバタは同じなのね。


「ババァル」


最後にババァルに聞きたい事

というかお願いしたい事があった。


「んぐ」


飲み込んでからでいいですよ。


「はい、なんですの」


俺は転移及び時間停止など継承した魔王の力を

俺に教えてもらえないか、お願いしてみた。


「人の話を聞いていたのか。それを

させない為に我々はだなぁ!」


ナナイが激昂するが俺は冷静に説明した。


「俺は死んでも魔界には行けない。

死んだら終わり、これは今回限りの事だ」


ナナイ達の言うアモンは既に魔界に帰った。

ここでの俺の経験は彼には還元されない。


「それでもなりませんよ姫様この者は神側の陣営です。」


落ち着いたものの、ナナイは

不機嫌そうにババァルに忠告した。


「最もだ。だからお願いなんだ」


教え導いてくれる師はいない。

そんな俺には貪欲に知識技術を

吸収し選択肢を増やしていくしかない。

自らがだ。


「はい、よろしいですよ」


ババァルは何でも無い事の様に言った。


「「姫様!!」」


ナナイとダークが声を揃えてババァルを咎める。


「この方の活躍がなければ私は処刑されて

いましたわ。お二人が残っているのも

この方が手心を加えて下さったからですわよ」


ババァルがそう言うと、二人はしどろもどろだ。


「そ・・・それは、いやしかしだからと言って」


「拙者は刀も頂いたでござる」


ババァルの口の端が吊り上がる。


「むしろ好都合ですわ。

アモンが魔王の器足りえるのか

魔界で試す訳には参りませんもの

ここで実験してみませんこと」


魔王の器

なんかヤバ気なワードじゃないか

迷った俺を察したのか

ババァルは素早く俺の前に立つと

自分の手と俺の手を合わせる。


「あ、ちょ」


「参りますわよー」


チャッキーにやらせれば良かった。

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