第45話 かと言って先に話が出来るわけもなし
俺は潰れたナナイをデビルアイで解析する。
変な作りだ。
俺やベネット、それと今のダークは義体だ。
金属粒子が集まっている体だ。
ナナイは一見すると受肉と間違えそうな程
金属粒子で骨や内臓を作っていた。
が、ほぼ形だけで生命体として有機的な
機能はしていない。
言ってみれば保健室にある人体模型が動いてるような感じだ。
圧壊した組織にナナイの力は通っていない。
魔核は潰さないでおいたので死んではいないが
しばらく動けないだろう。
こっちは後でいいか。
潰している最中も完全膝カックン耐性で
監視はしていたが、もう仲間は居ない様だ。
居るならばナナイの様子が豹変した時に出てこないと行けない。
俺は同じく倒れているダークに歩み寄ると
左手の小指を延長しダークに突き刺す。
そのままダークの魔核に巻き付ける。
「変な気起こしたら即壊す。」
「・・・・・。」
ダークは何か言おうとしている様だが全く声になっていなかった。
殴り過ぎた。
魔核周囲にすらロクに力が通っていない
このままでは話にならないので
俺は指を通して力を注ぎこんでやる。
「・・・クッ、殺すでござる」
即時に回復が始まり
ダークはそう言った。
「いくつか聞いてからだ。それと・・・。」
「・・・それと?」
「そのセリフ、男子は言ってはいけない。」
「な・・・なにゆえ」
「貴様が理由を知る必要は無い。」
俺はカッコ悪い事をカッコ良く言った。
さて、そのセリフを是非聞きたい方も回復するか。
俺は左手の薬指の方を延長しナナイに
突き刺すとダーク同様に力を注ぎこんでやる。
「・・・・くっ」
こちらも即時回復が始まり
潰れた胴体が見る見る戻って行く。
さぁ聞かせてもらうか
「なんでもするから、殺さないで」
こいつは常に俺の期待の反対に行く。
「・・・ナナイ殿。」
ダークが呆れているがナナイは必死だ。
「私が居なくなってしまったら誰が
姫様をお守りするの!
その為だったら何でもするわ
アモンにだって頭を下げる!」
「ナナイ殿!」
今度は感動するダーク。
なんでもするって
俺がその姫様とやらを殺せと言ったら
どうする気なんだ。
後、アモンに頭を下げるのは
そんなに
そぉーんなに屈辱なんですか
シンアモンさん、どんな扱いなんだ。
バキン
物理的に音はしなかったが
俺にはそう感じた
その時、世界が音を立てて止まった。
なんだこりゃ・・・
ふと周囲を見回すと大気が止まっている。
なんか薄紫色っぽいドームが俺達を
中心に半径1km程度で展開されている。
「これは・・・。」
ナナイとダークが声を上げる。
「姫様の時間停止?!」
空気の振動も止まっているので音で
聞こえたワケでは無いのだが
口の動きに合わせて脳内では音声認識出来た。
見えるという事は光は動いている。
俺は右手を握ったり開いたりしてみたが通常速度だ。
停止というよりは厳密に言えば減速だ。
悪魔、恐らく天使も時間停止は効かない
動く事が可能だ。
では、何故
その姫様とやらは時間停止を行ったのだ。
なんとなく想像はつく
時間停止の効果が及ばないのは
悪魔の体内だけで皮膚から外は停止している。
一度体から放たれた技は発動しないか
した瞬間に止まってしまうだろう。
俺は確認の為に右手から狩りで使う
弾丸を射出してみた。
想像通り弾丸は体から出た位置で浮いたままだった。
「成程、その姫様とやらはお前達を保護したいようだな。」
だが、完全に無駄だ。
俺の指は動く。
技など使わない、いつでも魔核を破壊できる。
しかし、その姫様とやらは、どこに居るんだ。
何故、俺が感知出来ない。
「アモンさーん」
俺達以外に停止時間内で動ける奴がいた。
そいつはベランダからモタモタと飛行してくる。
ババァルだ。
「ババァル。」
引っ込んでいろ、まだ、こいつらの仲間がいる。
続けてそう言おうと思った俺だが
ナナイ達の声で言えなくなった。
「姫様!!」
「姫!」
ん
もしかして
姫=ババァルなのか
え
お守りするとか言ってたよな
あれ?
「どうか、その者達は手に掛けないで下さいませんか?」
まーだ、先の方でモタモタ飛んでいるババァルは
そう言って来た。
「姫、私たちに構わずお逃げ下さい。」
「命に代えてもアモンを止めるでござる」
殺気立つ二人。
うーん
どうなってんだコレは
「お願いですわアモン。この二人は数少ない私の騎士ですの。
助けて下さるなら・・・・・婚姻の話お受けいたしますわ。」
「それだけは、なりませぬぞ姫様」
「そうです。こんな男の妻になる位なら死んだ方がマシです。」
偉い言われようだなシンアモンさん。
なんか魔界での彼の扱いが心配になってきた。
「卑怯者、姫様をモノにする為にどこまでも卑劣な真似を許せぬでござる」
「最低な男ね」
俺は背を向け膝を抱えて泣いた。
魔核が壊れない程度の圧を閉めたり緩めたりする。
二人はそのリズムに合わせて悶え苦しむ。
やっとババァルは俺達の所まで到着する。
細い両手で膝を押えハァハァ言っている。
「敵襲だって聞いたから応戦しただけだぞ俺は」
「はい、私もそう聞かされていまして奥で
匿って頂いていたのですがヨハンが終わったと
仰ったので外を見てみれば。」
「こいつら敵じゃないのか」
頷くババァル。
一応、本人達にも聞いておくか
俺は振り返り二人に聞いた。
「お前ら何しに来たの?」
キリッと答える二人。
「悪辣非道なアモンに囚われし姫様を
救出に馳せ参じたでござる」
「全く最低な男よね」
俺は再び魔核が壊れない程度の圧を閉めたり緩めたりする。
今回の事件のまとめ
ヨハンは密かに接近する者達を感知し敵が来たと思い迎え撃った。
ババァルは誰が来たのか知らない。
魔神二人はババァルが俺に保護されているとは知らず
捕えられていると思っていて救出にやって来た。
ヨハンがダークの呼び出した下級悪魔を撃退
ダークとの戦闘中に俺が帰還。
俺もババァルを殺害にやって来た魔神だと思い
戦闘継承。
つまり
全員カン違いしていた。
むっ殺さなくて良かった
「とにかく大事になる前で良かったですわー」
満面の笑みでババァルはそう言った。
「アモンさん。二人を開放して差し上げてくださいな。」
「・・・・。」
「アモンさん?」
それは疑問が解消してからにしよう。
俺は真顔でババァルに聞いた。
「この時間停止は、お前が行使しているのか。」
「はい。そうですわ。」
今は術が使えるのか
そうか
「ベレンでは転移が発動しなかったと
言っていたが、いつから術が使える様になった。」
返答次第では皆殺しだぞ。
いつから
俺を騙していたんだ。
俺の気合は暖簾に腕押しだった。
ババァルは顎に人差し指を当て考え込んでいる。
「いつからでしょう・・・か?
今は咄嗟に使用したらうまく発動いたしましたの」
俺の殺気が分かるのか
見かねた様子でダークが割って入って来た。
「その説明は拙者が」
ダークはババァルと会ったベレンの店の後の出来事を話し始めた。
それによると
魔神13将・序列6位「解のゲカイ」の仕業だという
ダークは純粋に護衛としてババァルの影に潜んでいたのだが
ゲカイの解除能力で強制的に潜伏を解除されてしまい
かなり離れた森の中まで飛んでしまったそうだ。
「護衛のクセに敵の接近に気づかなかったのか」
そう言った俺に申し訳なさそうにダークは答えた。
「面目無い。殺意も敵意も発せぬとなると
見分けが付かぬでござる。」
解除能力。
あらゆる仕掛けを解除する能力。
それ自体に殺傷力は無い。
攻撃力が無い
その代償という訳では無いのだろうが
上位の術にも解除は通用するようだ。
影に潜伏するダークの術を解除し彼を排除した後
ババァルを尾行し事あるごとに転移を解除。
当初の予定だった魔女裁判ついでに魔王殺害の為
衛兵の目前で飛行をしようとした所で
一時的に成功させ浮き上がった所で解除。
目撃者の大勢居る魔法の現行犯として捕縛され
以後は俺がババァルから聞いた通りの流れだろう。
森からベレンに急ぐダークはババァルを抱え
エルフの里方面に飛行する俺を目撃し
進路をエルフの里に変更したそうだ。
「ナナイとはいつ合流したんだ。」
俺の質問に今度はナナイが横から口を挟んできた。
「私には計画が伏せられていてな」
偽聖騎士団を尾行させている彼女の部下から
魔王殺害の計画を知ったナナイは東の魔都から
ベレンに向け急行していた。
その途中でダークに会ったそうだ。
「ふーん。なるほど」
「ふーん・・・だと!」
なんか
ナナイが凄くおっかない顔で睨んでいる。
「なんだよ。」
「貴様の立てた計画だろうが!
詳しい作戦内容がいつまでたっても
伝えられぬから怪しいと思ってはいたが
まさか殺害などと強行手段に打って出るとは」
「ナナイ殿。計画自体はオーベルが
立てたと拙者は見ているでござる」
オーベル
魔神13将・序列5位「計のオーベル」
一言で言うと参謀ポジションだ。
「アモンが命じて立てさせたに決まっている
仮に違っていたとしても反対しなかった同罪だ。」
ババァルは困った様にキョロキョロしている。
そうか、ダークとナナイはアモンさんの
中身を知らないか説明しておこう。
「アモンはもう魔界に戻った。」
俺は自分の胸に刺さった冠婚葬祭を引き抜くと
ナナイの腰の鞘に戻してやる。
その際にナナイの腰に触ったが
すっげー細い
「だから魔核を破壊しても死なない
もう死んでいるからだ。」
改めてその事実に気が付くナナイ。
ダークも同様に驚いていて二人して説明を求めてきた。
俺は降臨からの流れを説明し
ババァルの保護を決めた経緯まで説明した。
「何とも信じがたい話だが
それならば姫様を保護するというのも頷ける
しかし・・・そんな乗っ取りがあり得るのか」
なんとなく俺への敵意が薄れた様子の
ナナイは消化に時間が掛かっている様子だ。
「しかし、目の前のアモンは確かに
我々の知っているアモンとは別人としか
思えぬでござる。我々の知っているアモンならば
話し合いなど有り得ぬでござるよ」
流石は忍者。
現実を現実として冷静に受け止め
その後で仕組みを分析していくつもりだ。
何かに気づき
ハッと顔を上げるナナイはババァルに強く訴えた。
「ならば、なおの事ダメです
下等な人間と婚姻などグギギギ」
ナナイの魔核には、まだ俺の指が巻き付いたままだ。
「でも、あんなに強く求められたら・・・。」
頬を赤く染め上げるババァル。
こいつはヴィータと同じ受肉なので生体反応がある。
そんな分析に逃げても
俺がババァルに求婚した事実は変わらない。
さっさと蹴ってくれて良いのだが
何故か引っ張る。
許可申請中のまま取り消しも認めない
俺は女のこういうハッキリしないトコロが苦手だ。
そういえばシンアモンさんも
ババァル苦手って書いてあったなぁ。
取り合えずもう危険は無い。
俺は話せる程度で止めて置いた
力の供給を再開し満タンにしてやると
二人の魔核を開放してやる。
「外じゃなんだ。エルフ達にももう危険は
無いと安心させてやりたい続きは中で話さないか。」
ダークは指が刺さっていた辺りを押え
異変が無い事を確認していた。
さらに驚いて言う。
「我ら二人に力を供給してまだ余裕とは
・・・これが力のアモン恐るべき男でござる。」
ナナイは若干、恍惚とした表情で言った。
「いっぱい注ぎ込まれちゃった・・・。」
俺は再び指を差し込むと
出来る限りの勢いで吸引してやった。
「ギゃーなんでなんでやめやめヒッィィィィ裏返る裏返る」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます