第44話 強襲

異変に気が付いたのは、エルフの里まで後数キロの辺りだ。


「どうかしたんですか?」


背中のチャッキーは俺の様子の変化を察してそう聞いて来た。

そんなにわかりやすいのか俺。


「敵襲だ。ヨハンが戦闘中だ。」


「マジっすか!?」


デビルアイ望遠モードで確認すると

里前広場ど真ん中にヨハンが立っている。

周囲には数体の下位悪魔の死体が転がっている。

ヨハンは腰を落とし如何なる方向からの

攻撃にも対処出来る姿勢で構えている。


バルコニーには弓を構えた数人のエルフ。

あの装備は精鋭だな。

彼等が周囲を注意深く見回している。


昼間、ヨハンは400m先のチャッキーを察知していた。

熟練のエルフ戦士は頭上の精霊から

敵の位置を教えてもらう事が可能だ。


その彼等がこの状態だ。

この事実から敵の見当はついた。


魔神13将・10位 影のダークだ。


ババァル救出後に俺は記憶に残された

アモンサイクロペディアから13将の

記述を繰り返し読んだ。


ババァルを保護すると決めた以上

彼等と戦闘になるのは避けられない。


相撲に限らず、どんな勝負の世界でも

大金星・大番狂わせがある。

一位と言っても下位との差は僅差なら

僅かな隙で敗北も十分有りうるのだ。


どんな技を使うのか?

弱点は?

事前に準備出来る事はやっておいた。


ましてや試合では無い、律儀に

一対一で戦ってくれる訳も無い。

俺は数体を相手しての戦闘も考え

頭の中にいくつもの対応策を練ってある。


「チャッキー、ベランダに降ろすぞ

そこで観戦しててくれ。」


「何言ってんすか。俺もやりますよ」


昼間に感じた以上の闘気を背中に感じた。


「いや、今回は見て覚えてくれ

これから聖都で相手してもらう

悪魔っつうモノがどういうモノなのかを

知らなかった、で死にたくないだろ。」


「・・・分かった。」


渋々ながらも納得してくれた様だ。


「急激な加速減速で一瞬でベランダ前に

飛び込むからな、しっかり掴まっていろ」


俺が、そう言うとチャッキーは俺の

後頭部から両足を首に両手は角に

しっかりとホールドする。

俺は右手を回しでチャッキの背中をそっと押さえる。

この右手はチャッキーが落ちない様に支える目的では無い。

重力操作で彼の体重を限りなく0にしておく為だ。

こうすれば音速で行われる加減速での

慣性で挽肉にならないで済むのだ。

大気の摩擦は大気操作でほぼ無風にする。


「行くぞ」


そう言って一秒でベランダ前に到着。

エルフ戦士達が音を立てビクっとするが

すぐに俺だと気づき安堵の息を漏らした。


「アモンかぁ脅かすなよー」


エルフ戦士の内の一人はプラプリだった。

兜のバイザーを上げながら文句を言った。


「敵襲だろ、俺がやる。こいつを頼む」


俺はホバリングしたまま転回し背中をベランダに向けた。


「おい、チャッキー降りろ」


チャッキーは固まったまま動かない。


おいおい嘘だろ

こんな時に・・・。


「え?アレ!!今何が起きたんすか?!」


良かった死んでいない。


「着いたんだよ。降りろって」


チャッキーはわたわたと背中からベランダに飛び移った。


「あれ?俺の靴どこっすか??」


振り返るとチャッキーは片方しか靴を履いていなかった。

知らないので無視して俺はヨハンに向けて

ゆっくりと飛んで移動する。

背中の方でチャッキーの叫び声が聞こえた。


「俺の靴どこっすかあー!!!」


俺はそよそよと空中を漂いヨハンの

後方3m上2m位まで来た。


「ヨハン。チャッキーの靴見かけなかったか」


近くで見るとヨハンは満身創痍だった。

ただ傷自体は浅く、派手なだけで深手と呼べる傷は無い。

ただ妙なのは、傷はあらゆる方向から

一種類の刃物で付けられたモノだ。


「靴が必要って事は生きてんのか

良かったぜ。兄貴、気を付けろ敵は」


「影に隠れる奴だろ、雑魚掃除ご苦労さん

後は俺に任せろ・・・つか俺にやらせろ」


影のダークについては

ちょっと

いや

かなり

結構

頭に来ているのだ。


「おう・・・頼むぜ」


振り返ったヨハンは何故か顔面蒼白になっていた。

傷は多いが元気なハズなんだが

まぁ俺が来た事で緊張がほぐれて

疲れがどっと押し寄せたってトコロか


体中の傷の具合を確認しながらヨハンは里に戻って行った。

しっかりとした足取りでヨハンはベランダまで来た。


「ヨハンさん大丈夫っすか!?」


駆け寄るチャッキーにヨハンは手で平気な事をアピールした。


「体は大したことねぇが、恥ずかしいが正直ブルってる。」


「アモンさん・・・ですか」


チャッキーも少し青ざめた顔だ。


「あぁ、ありゃヤベぇな・・・・

殺気に縮こまるなんてガキの頃以来だぜ

しかも、あれ俺に向けたんじゃないんだからな」


バルコニーには腰を抜かして尻餅をついて

ヘタり込んでいるエルフもいた。


「あんなのが聖都にいるんすか?」


冗談じゃないと言った感じでチャッキーは漏らす。

笑いながらヨハンは答えた。


「全員アレ以下だから安心しろ」


ヨハンの様子が気になったので耳その他で

探ってみれば、言いたい放題だな。

聞いていなかった事にしよう。


さて、戦闘だが

周囲にいるのは気配及び俺の各感覚器官で

分かっているのだが、場所が特定できない。


そういう能力だ。


影のダークは文字通り影を利用した技だらけだ。

アモンサイクロペディアでも絶対にダークの

居る影に引きずり込まれるな、と書いてあった。


ダーク対策は簡単だ。

浮いていればいいのだ。


体が影に接触していなければダークは攻撃の

為には手近な影から飛び出すしかない。

また、影から影の移動に関しても

重なっていない影に移るにも

一度、影から出なければならない。


気になったのは夜の場合どうなるのかだ

まぁ今、丁度その夜なわけだが

幸い影が出来る程、月明かりが明るい

今もってなお攻撃を仕掛けてこない事からも

ほぼ昼と同様と考えて間違いない。


相手も隙を伺っているのだろう

まだ仕掛けてこない。

影の中に居られるタイムリミットは無いので

向こうも焦る必要は無いのだ。


このまま警戒を続ければ先に集中が

切れるのはこちらだ。

それを待っているのだ。


「試してみるか・・・。」


失敗してもデメリットは恥ずかしい事位なので

誘い出す作戦をやってみる事にした。


「この中にひとーり!!」


多分、赤面してる俺は大声を張り上げる。


「忍者がいるぅううう!!」


「拙者は違うでござる!」


「そこだああああああ」


俺は返事のあった影に悪魔光線を放った。

光線は影に突き刺さり、その瞬間

光線の光のせいで影は消えるが

軽い爆発と共に人影が飛び出す。


もんどりうって転がる、その物体は人型サイズだ。

身長は低い、160cm位じゃないか服を着ている。

本当に忍者みたいな恰好だ。

日本刀を背負っていた。

竹輪好きの忍犬とペアのアイツを

そのまま悪魔化したような奴だった。


俺は超加速して、飛び出した悪魔に襲い掛かる。

接近中に殴りやすい様にサイズも変える。

そして拳の連打、相手は悪魔だ。

手加減無用でいい


今までの手加減でストレスが溜まっている。

ここで発散させてもらおう

デビルアイで相手の状態を見ながら

魔核を壊さない様に注意しながら

動けなくなるまで殴る。


体を構成している金属粒子に

相手の力が通わなくなり始めた。

動けなくなって来ている。

これなら影も操れまい

フヒヒ

俺はダークの胸ぐらを掴み上げると

お約束を実行する。


「これは俺の分!!」


観客に見える様にオーバーアクション気味で

右ストレートを叩き込む。


「へぶぅ」


10m位水平飛行すると着地しそのままゴロゴロ転がる。

俺は間髪入れず追いつき

また胸ぐらを掴み上げると


「これは俺の分!!」


今度は左フック。


「ぷぎゃ」


走ってる最中に外れた車輪のようにキレイに回転し

大きな円を描くようにダークは転がった。

新体操の演技の様に俺は先回りしてキャッチすると

また胸ぐらを掴み上げ


「そしてぇこれはぁ!」


お前が護衛だったと思えばこそ

守るのはハンスだけでイイと

思ったんだぞ。

ババァルが酷い目に遭っちまったじゃねぇか


「俺の分だぁあ!」


右フック。

多分モーションは素人感バリバリだが

威力は問題無い。

ダークは目の前で縦回転して滞空している。

もう戦闘不能だろう。

これでコイツに奥の手を使わなくて済んだ。

俺は勝ったといった感じで隙だらけの状態になる。


「兄貴ィーー後ろだーー!!」


ヨハンが叫んだ。

流石だ。

よく気が付いた。


勝利を確信した瞬間の無防備な状態

これが絶好の必殺の機だ。

この瞬間に絶対来ると思っていた。


影に引きずり込まれるな、この事は

影に他人が入れるという事でもある。

自分より強い奴と戦いにいくなら

入れるだけ仲間を入れていく


「貰ったぞ!アモンッ!!」


そう叫び、高速で突っ込んでくる人影。

俺は振り返り、しまったという演技を

しながら相手を確認する。

女性だな。

なんか宇宙海賊みたいな恰好だ。

手にしているのもサーベルだ。

やべ

こいつは多分

本当なら一位争いを出来る位の実力だが

本人が「7」という数字に拘っていて

7位に喜んで甘んじている

魔神13将・序列7位「貫のナナイ」だ。

・・・・名前のせいじゃねぇの


ナナイのサーベルは見事に俺が

一か所に集めておいた魔核を貫く。

細い刀身には、やはり刻み文字があって

漢字だと思って無理やり読むと

「冠婚葬祭」と読めた。


「しまったあーーーー!!」


大袈裟に叫ぶ俺。


「兄貴ぃーーーーーー!!」


本気で絶叫するヨハン。

彼はこのカラクリを知らないか


横眼でバルコニーを見てみると

叫ぶヨハンの横でも悲鳴を上げるプラプリやら

放心状態のチャッキーやら・・・死ぬなよ頼むから

そうか

みんな知らないよな


「フッ。油断するクセは相変わらずだな」


サーベールを根元まで差し込むナナイは

したり顔だ。

だそうですシンアモンさん。

今回も油断でヨハンにやられたんだよね

そう言えば


「やっ・・・やられたぁあああ!」


「あ兄貴ィー・・・。」


「フッ。先に魔界へ帰っていろ」


ベネット戦での反省

武道の心得の無い俺がまともな戦闘しても

いいようにやられるだけ

悪魔は必ず魔核を狙ってくる


「くっそおおお何て事だぁあああ」


「・・・・兄貴?」


「フッ。勝負は私の勝ちだハハハハ」


段々頭に来る俺。

少しは不審がれよ

魔核破壊されて、こんな元気なワケないだろ。

ヨハンの方が勘付いてるじゃねぇか


「ぬわぁあああ悔しいなぁああ」


「何か飲むか、チャッキー」


「フッ。これで一位とはお笑いだ」


俺は両手でゆっくりとナナイを抱きしめる。

そして、その腕の速度は変えない。

ヨハン達は引っ込んでしまった。


「俺は負け犬だぁああ」


「フぐぅ・・・ちょアモン?」


ミシミシ音を立てて俺の腕はナナイに食い込んでいく。


「ふっ じゃねー何故魔核を破壊されて

生きてるって驚くトコだろがああああ」


「痛たたたたたたやめやめやめて」


どんだけ実力があろうが

この状態だと「力」以外は

何の役にも立たない。


「得意気にネタバラシする楽しみ

奪いやがって、だからバカ女はやなんだ」


「ギャーー死ぬ死ぬ死んじゃう」


歌詞などで、たまに見受けられる

壊れる程抱きしめて

実際に行うとグロい。




出展

この中にひとり:嘉門達夫の歌でこんなのがある。

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