第43話 蘇るチャッキー
「仕方が無いのぅ。ふふふ」
なんで嬉しそうなんだ。
いや、今は好都合だ。
ご機嫌の内にやってもらおう。
俺は箱の縦のパーツを展開して開いた。
横たえられたチャッキーを
しばらく観察したヴィータは顔色を変える。
いつもなら直ぐに蘇生するハズの
ヴィータが固まっている事に
不審を抱いたのかハンスが尋ねる。
「どうかされましたか。ヴィータ様」
「こやつ、どうやって死んだか分かるかの」
やはり普通の死体では無いようだ。
俺は覚悟を決め、魔法陣を取り出し広げると
洗いざらい話した。
「二つあるのぉ」
「使ったのは特殊なインキで書いた
俺の居た世界の言語の方だ。
読めないだろうと考えたので
こっちは普通のインキで書き写した
こちらの言語版だ。」
ヴィータはオリジナルの方を手に取りしげしげと眺め
時折うなずいている。
ハンスはコピー版の方を手に取り読んでいた。
ヴィータは魔法陣の上に指を当て
それをスライドさせてブツブツ言っている。
俺の作った魔法陣は簡単にいうと
雑誌の企画でよくある様な
性格診断でお馴染みの、YES・NOで
分岐していくタイプの図式を
円の中にまとめた構造だ。
「ココじゃ!」
魔法陣の一か所を指さしヴィータは大きな声を出した。
俺はその場所を覗き込む
「ココはこっちに繋がらないとイカン折角
円で描いてあるのにココで循環が途切れておる。
これでは生命エネルギーが全部出て行って
霧散してしまうでな」
傷を治癒する事は成功したがそんなプログラム上の
ミスでチャッキーの生命エネルギーは枯渇してしまったのだ。
俺はまた失敗した。
ハンスの身体を操った時もそうだったが
俺は基本的に僧侶系に
向いていないのかもしれない。
悪魔だし、向いているハズが無い。
しかも今回は人命を損なった。
ショックがでかい
ヴィータがいなければどうなっていたのか
つか
蘇生出来るんだよねヴィータ様。
「蘇生は出来ないのですか。ヴィータ様」
俺の心の声が聞こえているのか、ハンスはヴィータにそう尋ねた。
「いや簡単じゃ。ただ見た事も無い
死に方をしておるので気になっての」
ほっとする俺。
良かった。
「時間が経ってしまっても大丈夫なのか」
念の為に俺はヴィータに聞いた。
と言うか早く蘇生してもらい安心したいのだ。
「腐っておらねば大丈夫じゃ、今やる。」
ロクにチャッキーの方を見もせず手をかざす。
黄金の光に包まれたチャッキーは
血色が見る見る良くなっていく。
「ん??」
しかし、ヴィータは想定外の事態に驚いた様子だ。
なんだよ
やめてくれ
生き返らせてくれ
「なんじゃ、こやつは?!」
「どうかされましたかヴィータ様」
「おい、何が起きてる説明してくれ」
驚くヴィータに俺とハンスが詰め寄る。
「こやつ・・・魂と肉体の結合が根本的に
緩いぞ。ここまで緩いのは初めて見た
これではちょっとしたショックでも
死んでしまったりするやも知れんぞ」
はい
かもじゃなくて
そうなんです。
「ホレホレ、見てみぃホレホレ」
ヴィータは手毬でもするかの如くチャッキーの魂を
チャッキーの肉体から出し入れする。
そのドリブルの度にチャッキーの
顔色も高速で変化対応している。
「ヴィータ様ーーー!!!」
「やめてあげてーーー!!」
命を弄ぶなと怒られる覚悟していたのに
叱るべき女神本人が命を遊びに使い始めた。
こいつは本当に予想外を攻めてくる。
「ド・・・・ドウすファンゴォオオ!!」
やっとこさ蘇るチャッキーは
死を超越する者の称号を手に入れた。
「なんか目がすげぇチカチカすんですけど」
間違いない
ドリブルのせいだ。
「あれぇ?ココどこっすか?」
「チャッキー君!!!」
意識朦朧としている様子のチャッキーに抱きついて喜ぶハンス。
「え?ハンスさん。え?なんで」
俺はチャッキーに事情を説明し実験の失敗を謝罪した。
「あ、そうだったんですか」
チャッキー君は怒る事無く快諾してくれた。
大物だ。
「ヌシは肉体と魂が分離しやすい体質じゃ
ついでと言っては何なんだがの今回の
蘇生ついでに結び付きを強化しておいたでの」
助かります。ヴィータさまさま
「マジっすか?!」
驚くチャッキー
今まで良く無事だったな。
「じゃが、それでもまだ抜け易いの十分注意するのじゃ。」
何をどう注意すればいいの?
「ハイ!!分かりました。
ありがとうございます!!」
え
今ので
分かったの
まぁいいか他人事だ。
ツッコミたい気持ちは山々だったが
今回は立場が弱い。
大人しくしていよう。
「なぁ、こっちは茶番の後どうなったんだ」
俺は自分が不在の間。
二人がどうなったのかを聞いた。
「それがの・・・大騒ぎじゃ・・・。」
疲れ切った表情になったヴィータは話し始めた。
女神ビームで魔女もろとも悪魔を葬り
ベレンを救った救世主。
ハンスが持っていたヨハンの9大司教の証
この二つの事実から疑う事無き真の神降臨。
都市に居る全ての人々がひれ伏し感謝の祈りを捧げた。
領主ローベルト・ベレン6世は
自分の居城に招き入れようとするも
教会側、特に9大司教「流」のパウルが
強硬に拒否、教会と敵対する事を領主が
恐れた形で教会入り。
教会に入ってからは、ご覧の服装と化粧を
施され次々と謁見を希望する要人達と
あの演技で適当にあしらう状況になった。
ハンスの地位は微妙な事になった。
絶対的信頼をヴィータが醸し出した為
本来、立場が上のハズの神父も
命令出来なくなってしまっていた。
「彼を通してからです」事あるごとに
ヴィータはそう言い事実上
神の代弁者たる最高位に値する
地位を確立させられてしまったのだ。
うまいな
後は領主をうまく抱き込めば
ベレンは俺達の思うがままだ。
「で、そっちはどうだったのじゃ
毎度毎度、単独行動の度に何かを
拾ってくるが、とうとう死体じゃ何があった。」
ヴィータの言葉に驚くチャッキー。
「えー死体っすか?!マジっすか」
お前だよ。
俺は順を追って話し始めた。
「フーム、ババァルが転移出来なかったじゃと」
それがそもそもの捕まってしまった要因だ。
ヴィータは解せぬと言った感じで首を傾げる。
「アモンよ。ババァルを調べたか。」
「一応見てみたが変わった所は無い
・・・と思いたいが自信がない。
彼女は俺より上位だ。俺の力が
通用しない可能性がある。」
俺の返事を聞いてジト目になるヴィータ。
「彼女・・・・。」
「ん?女性だろ・・・。」
何か変か
「まぁ良い。」
なんか、ヴィータは渋々といった表情だ
俺は気にせず話を続けた。
「魔神の策略だったと思うんだが魔神が
上位の魔王に細工なんて出来るものなのか」
「そこじゃ。ヌシが言うた通り
最上位である魔王の行動を魔神が
阻害出来るとは思えん
が、今回もコレじゃろう。」
そう言ってドレスのスカートの中に
手を突っ込んでモゾモゾし始める。
そして古城でヴィータが繋がれた
例の鎖をジャラジャラと取り出す。
「持ち歩いてんのか・・・。」
何で持ち歩く
そう思う俺の横でチャッキーが叫んだ。
「知ってるぜソレ」
「ほぅ、格闘家と聞いたが知識も優れておるようじゃの。」
感心するヴィータにチャッキーは自慢気に語り始めた。
「普段は左程でも無いがガチの時は
丸い方は防御専門、三角の方は
何百光年の先の敵にも攻撃を」
君のコスモは燃えっぱなしだな。
再びジト目になったヴィータは
チャッキーを無視して話を続けた。
「これと同様のアイテムを使ったのじゃろう。
これは対神用じゃが対魔王用の何等かの
アイテムを使用すれば行動を阻害できうる。」
そんな大袈裟な鎖は巻かれていなかったが
鎖とは限らないか
エルフの里に戻ったらババァルに聞いてみるか。
「で、ババァルはどうしたのじゃ」
ヴィータに聞かれて俺は古城から
エルフの里に移動した話をした。
「ヨハン様には会いましたか元気でいるのでしょうか。」
やっぱり気にするよねハンス君は
ここでもチャッキーが横から入って来る。
「ハンスさん。あのマチョメンと知り合いなんすか」
「マチョメン・・・?」
意味が分からないハンス。
そりゃそうだ
さて
正直に言うべきか
「いえ、9大司教のヨハン様がエルフの里で療養中でして」
同名の人違いとカン違いしてくれたようだ。
「大司教ヨハンは昼間に死んだ。」
俺の言葉に凍り付くハンスとヴィータ。
「と、本人がそう言っていた。」
続く俺の言葉にコケそうになるハンス。
「はぁ?」
「・・・・キチンと説明せい」
どうせ、俺の嘘はバレる。
正直に悪魔の契約の話をした。
「・・・それで、今はマチョメンなんですね」
怒るかとも思っていたのだが
ハンスは想像が追いていかない様だ。
なんかポカーンとそう言った。
対してヴィータ不審に思っているようだ。
「寿命わずかの人間に契約じゃと?」
俺は、その後のババァルとの会話をヴィータに説明する。
「ふーむ・・・読めん」
ババァルが何を考えているのか
と言う事であろう。
「単純に裏切った部下どもに
お仕置きするつもりなんじゃないのか」
俺も疑問には思っていたので
考え着いた結論を言ってみた。
しかし、ヴィータは首を傾げる。
「兵を減らすマネを魔王自らが加担する
メリットは無いぞや、あやつは一体何を
考えておるのじゃ・・・・。」
「話をした感じでは、彼女は」
「彼女?」
しつけぇな
「ババァルは世間知らずのお嬢様って感じだ
自分で考える事をせず、言われたまま
疑問を待たずに行動するタイプだ。」
俺の言葉を聞いたヴィータは
なんか可哀想な生き物を見る様な目で俺を見て言った。
「ベネットといい、オヌシといい、はぁー。」
なんだ騙されているのか俺は
「まぁ良い。で、ババァルを今後どうするつもりじゃ」
それだ。
どうしよう
「魔神の襲撃が考えられる。エルフの里に
置いておくのは迷惑が掛かるしなぁ・・・。」
殺害されてバーストを引き起こされる
これは避けたい。
「んーベレンにも入れんじゃろうし
処刑しそこなった魔女じゃからな」
良いアイデアが出ない。
バロードの村も考えたのだが
ベレンと交流が深い、
あんな美人はすぐ噂が広まってしまう。
「うむ、ヌシが責任を取れ
お主の計画でこうなったんじゃなんとかせい。」
丸投げだ。
まぁでもそうだよな。
「分かった。チャッキーと戻ったら
本人と話して考える。迷惑は掛けない。」
そして今後の予定の話になった。
明日は朝からヨハンとチャッキーを聖都に
送りついでに、俺も聖都の様子を探る。
ヴィータとハンスは基本的に教会から
移動する事はなさそうなので
今日の様な感じで俺が教会に出入りする。
ここでの俺の立場はハンスの懐刀的な感じで
根回しをしておくとのことだった。
「聖都の帰りにカルエルと一度会いたいな」
俺の申し出も許可された。
これは二人も気にしている案件だった。
こうして再び俺は蘇ったチャッキーと
エルフの里に戻った。
「いっやほぉおおおおおおおおぅうう!!!」
夜空を飛ぶ俺の背中にしがみ付くチャッキーは
行きとは違い、元気そのもので
生まれて初めての空の旅を雄たけびを上げて喜んでくれた。
「夜空を見る度、思い出せー俺は
ナイトライダーだああぁああああ」
うるさかった。
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