第36話 女性は鼻歌を歌うものだ

簡単に言ってくれる。

魔王・悪魔にしてみれば本体は安全な魔界に有り

こちらには遊び半分とは言いすぎかもしれないが

やはり真剣さが足りない。

死んだらそれまでの一度きりの人生な

人間にしてみれば正直腹立たしい。


だが、ついこの間までの自分もそうだった。

ログアウトしてしまえば関係無いと思っていた。

人の事言えない

大いに反省すべき点だ。


「あのなぁ。」


しかし、よくよく話をしてみれば

撤退(死)まで含めた作戦は珍しく無いそうだ

ここ何百年の幾多にも渡る戦いでは

審判を待たず撤退という作戦も

しばしば見受けられたそうだ。


はーっ何だかなぁー

でも、これは真面目に考えてみよう。


【死亡ルート】

これは考えるまでも無く

悪魔側の計画通りに進む。

俺達にとっては都合が悪い。

まぁだから阻止したワケだが


【生存ルート】

悪魔達へのエネルギー供給が行われ続ける。

悪魔側は処刑が失敗に終わったと悟る。

どうなる?どうする?


ババァルの話では主だった悪魔は

基本的に自分勝手で13将クラスの幹部と違い

集団の為に個を犠牲にする精神は無いそうだ。

そのせいで魔王処刑などという乱暴な手段が選ばれた。

エネルギーが供給されているなら

その間は自分の興味本位だけで行動してしまい

集団として纏まらないのだ。


これは聖都の乗っ取りが滞る事は間違いない。

面白がってるのは幹部クラスで

下級悪魔は窮屈な人間の振りを

いつまで続ければいいのか分からない

やりたくないハズだ。

そうなれば

悪魔側はなんとしても魔王抹殺のために

残りの13将が動くだろう

人間に処刑させ悪しき習慣の旗揚げついで

という余興の余裕は無い。

変な搦め手は止めて直に狙ってくるに違いない。


ルートはもう一つある。

【死んだふりルート】

エネルギーの個別お遮断は出来ない。

一個のコンセントから全ての電化製品に

タコ足配線してる様なモノだ。

生存しながら全遮断し死んだと見せかける事は出来そうだ。

どのタイミングで実は生きていましたー

ってやるのかが問題・・・・

いやいやいや

聖都侵攻が進んでしまうので

このルートの意味が無い。


迷うまでも無く生存ルートだ。


「生きろババァル」


カッコよくそう言った俺。

しかしババァルはクスクスと笑った。


「いつ死ぬかという事は

いつまで生きればいいかと同義ですわ

おバカさんですわね。言い方を変えてさしあげましょう

いつまで生きれば良いでしょーうかっ」


バカにバカって言われた。

俺は終わりじゃないのか。

ムっとするのを堪え俺は

同じ調子でカッコよく言った。


「ずっと生きろババァル」


なんか

もっと頭悪くなった感じだこれは

だめだ失敗だ。


案の定ババァルは声を出して笑い始めている。

笑顔がかわいいなぁ


「少なくとも審判の日まではな」


そこまでなら俺は存在が可能だ。

太郎の予想では審判の日とその後の変化

そこまでは社もモニターしたいだろうから

意図的に電源が落とされる事は無いとの話だ。

俺も同意だ。


「難しいですわね、身を守る術がありませんわ。」


ババァルも分かっているのであろう

悪魔が早急に自分の命を落としに掛かって来る事を


しかし、なんなんだコレは

魔王だよ。

それがさ、神側、悪魔側の両サイドから

命を狙われるってさ

本人の攻撃力0で

人間風情にまで、あんなボッコボコにされてさ

その上もっと強い連中が来る予定

勇者とか13将とか

オーバーキルもいいとこだ。


 なんだろう


胸の奥底が焦げ付くような感触


気に食わないな


「俺が守る。お前を狙ってくる連中は

全員、漏れなく返り討ちにする。」


ババァルは俯いてしまった。

あれ

喜ぶトコロじゃないですかここは


「その見返りに嫁になれとおっしゃるのですわね」


体をガードするかのように

両手でそれぞれ反対側の肘を持つババァル


「はぁ嫁?何言ってんだ」


真っ赤な顔でキッと睨んでくるババァル。


「こここの間、求婚なさったじゃありませんか」


言った


「言った。」


誤魔化せて無かったか。

冗談だと言うと怒りそうな気がしたので

俺はそれとこれとは関係無いと言っておいた。

仮にに了承されもても今それどころじゃない。


「そう・・・ですの。」


なんか残念そうだ。

どっちなんだお前


「後・・・その・・・」


モジモジし始めるババァル

あー

何が言いたいか察しがついた。

このアンコ食う魔王


「そうか、じゃ移動だ」


そう言うと立ち上がる俺。

しかし、どこに連れて行く

流石にこのままベレンには行けない

処刑予定だった魔女だしな。

うーん

バロードの村・・・も

まずいな

ベレンと交流がある

こんな美人じゃ話題になる

噂はすぐにベレンに伝わるだろうし

そうなるとあそこしかない。


「どちらに移動なさるのですか」


神の信仰が始まってしまっているが

まぁ、なんとか胡麻化せるだろう。


「まぁうまいモンが食えるトコロだから」


こうして俺達はドラ焼きの材料が

全て整っている里に向け出発した。



「ドラ焼きの歌」

作詞:作曲 ババァル


それは甘い夢

黒い小さな粒がとけてるの

柔らかな生地に

包まれて


まるで私とあなたみたい


デスワークですわー

デスワームですわー

モンゴリアン

デスワームですわー


変な歌をBGMに俺はエルフの里まで来た。

例によって大歓迎だ。

そして例のごとくプラプリを探し出し要件を伝える。


「それにしても忙しいね君は。」


プラプリは感心とも呆れとも取れる調子で

答えながらも、こちらの要望通りに動いてくれた。

食堂の椅子に座りご機嫌にまた変な歌を

歌いながらドラ焼きの完成を待っているババァル。

即興で変な歌なんて

お前はかぁちゃんか


「アモンさん灰汁抜き終わったですわー」


タムラさんに伝染してる。

しっかりして


しかし音楽センスが抜群なエルフが

気に入るということは、この変な鼻歌

良いものなのか

いや

俺は俺のセンスで生きていくぞ。


エルフの里の厨房は改造が施され

火が使える様になっていた。

タイル替わりに切り出した石が床や

壁を敷き詰め耐火性が向上。

更に極めつけは緊急時には

この部屋を吊るしている蔦が真っ先に燃え

部屋ごと下のため池に落下する仕組みなのだ。

本来エルフは火を禁忌にしているのだが

俺に影響されたタムラさんの強い申し出と

その料理に心奪われた者達のタムラさんへの

猛烈な後押しにエルフ首脳陣が折れる形になったそうだ。


そうかタムラさん

あんたはあんたで戦っているんだな。


出来上がった山積みのドラ焼きを見て

目がハートマークになるババァル。


この絵はどっかで見た事があると思ったら

ダメダメ主人公がネコ型ロボットに

頼み事をするときと同じだ。


俺の場合は特に頼む事はない。


それにしても、なんであんな数食うんだ。

一個、食っても二個だろ、ドラ焼きなんて


幸せいっぱいで両手を使って食いまくるババァル

それをほっこり眺めているとプラプリが話しかけてきた。


「悪いのだが、聖獣化して手伝ってもらえないだろうか」


快く引き受ける。

そうか、ここでは悪魔じゃなく聖獣なんだよな。

頼み事はリフトの修理だった。

リフトを吊るす数本ある蔦、その内の一本が

寿命で切れてしまい、降ろす途中で傾き

丁度、運悪く木に引っかかって

引けば他の蔦が切れそうだし

降ろすと縦になりそうになって

にっちもさっちもいかなくなったそうだ。


本来なら登山家の様な装備で数人掛かりで

修理に入るのだが、飛行・滞空できる力持ちが

居るならば作業の負担は大幅に軽減される。

まさしく俺はうってつけだ。


ババァルを放置して俺はバルコニーに向かい

デフォルトサイズになると問題のリフトを

水平に戻して滞空する。


「いいぞ」


俺の合図で蔦が緩められる

そのスピードに合わせてゆっくりと地上まで降りる。

蔦の交換作業は任せた。


「なぁついでに全部替えた方がイイんじゃないのか」


隣で俺に礼を言うプラプリに俺はそう提案したが

それだと切れる寿命も同じタイミングになってしまうので

最悪落下の危険があるのでやらないそうだ。

手間よりも安全を最優先している。


偉いと思うがこれが普通だ。

エルフの里には金銭が無い。

これにコスト問題が絡んでくると

本来自然に正しく行われるべき行為が歪んでくる。

産地偽装・手抜き工事・etc

利益を出来るだけ多く出さねばならない

その為にコストは出来うる限り下げなければならない

この仕組みが色々なズルを産み出している。


お金の悪い面だ。


「とにかく間に合って助かった」


プラプリはほっとしている。

顔がプリプラと似ているので

プリプラを思い出してしまう。

まだ二日程度だが、あっちはどんな状態だろう

首尾よくガバガバを見つけてくれるだろうか。


「間に合うって、何にだ」


当然の疑問を俺はプラプリに尋ねた。


「あぁ長の友人が世話係と散歩に出ていてね。」


長の友人。

シンアモンと対決し寿命をほぼ使い切って老人化してしまった大司教だ。

旅は出来ないのでここで面倒を見てもらっていた。


「特別な椅子だからリフトじゃないと」


特別な椅子。こっちで言う車椅子だ。

そうか

散歩が出来る程回復しているのか

これはハンスに伝えてやろう

きっと喜んでくれる。


「あっ丁度戻って来た様だ」


プラプリがそう言って振り返る。

俺も、その声に合わせて振り返る。

そこには車椅子に座ったヨハン。

膝にブランケット的なもの掛け

世話掛かりのエルフに押されて

こっちに向かって来ている。

確かに最後に会ったときより顔色が良い。


こちらに気づくヨハンは驚きの表情に一変した。


「あ・・・・お・・・お前は」


しまった

デフォルトサイズのままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る