第35話 あばよ涙、茶番
「始まる様ですよ。」
ハンスの声で俺はステージ上に目をやる。
ステージ上の一番偉そうな
なんか王様っぽい恰好した老人の傍に
袖から執事ような・・・って、あれ
バルタん爺さんじゃないか。
て、事は王様っぽい恰好をした老人が
領主ローベルト・ベレン6世なのか
急用ってコレの事だったのか。
バルタん爺さんは領主に何やら紙を渡した。
領主は一通り目を通すとステージの前方へ歩み出た。
それに合わせて軍服っぽい
ていうか軍人なんだろうな。
そいつがババァルの膝の裏に棒とういか棍で
軽く一撃を入れ無理やり跪かせる。
お前、顔覚えたからな
同じ軍服を来た他の連中が
ステージ上から観衆に静かにするよう呼びかける。
静まるのを待ち、領主は大きな声で
紙にかかれている内容を読み上げ始める。
内容はなんか
神の前でこの者の魔女が立証されただぁなんだ
頭に来ていたので良く覚えていない
言いがかりなのだから覚える必要も無い。
「じゃ、いつも通りで」
そう言うと同時に俺は人込みから抜け出し跳躍する。
超スピードで行ったので常人には消えた様に映るだろう。
そこに居ると知っている目の良い人で
なければ見つけられない上空まで来ると
俺はデフォルトサイズ悪魔に戻る。
その最中も俺はステージ上を注視していた。
ステージの横からガラガラと音を立て
ギロチンが数人掛かりで引かれて出てくる。
ババァルを拘束している板は
ピッタリとギロチンにセット出来る仕組みだ。
乱暴にギロチンに取り付けられるババァル。
肌の一切見えない服、とんがった頭巾は
目の部分だけくりぬかれている。
色は黒一色、執行人だ。
顔が見えないのは誰だか分からない様に
する為だ、執行人にだって普段の生活がある。
執行人は死神が使いそうな大鎌を持っていた。
ギロチンの刃を支えている綱を切断するだけには
大袈裟な刃物だが、ショー的な意味合いで
選ばれた器具なのだろう。
ハンスの着ている服の上位版
ヨハンの着ていた服と酷似している服を
着た者がババァルの傍に立ち祈りの言葉を述べ
最後にババァルに話しかける。
「何か言い残す事は。」
そう言われたババァルは笑顔で答えた。
痣だらけ、血も拭いてもらえていない
目の上がはれ上がった痛々しい
そんなヒドイ状態なのに
「そうですわね。ドラ焼きを頂きたいですわ。」
執行人は大鎌を振り下ろす。
言い残させる気なんて無いタイミングだ。
綱は一発で切れ、摩擦する金属音を上げながら
巨大なギロチンの刃は落ちて行く。
悲鳴を上げる者、手で顔を覆う観衆もいた。
しかし、ギロチンはその使命を果たす事は
出来なかった。
刃は落ちる途中で摘ままれているのだ。
「んなモン、いくらでも作ってやるよ」
身の丈は4mにも及ぶ巨体
頭には山羊の様な角を生やし
背中には蝙蝠の翼
猿の様な尻尾と下半身
肌の色は茶色というか紫というか
そんな色。
そんな生き物がギロチンの刃をつまんでいた。
突然、ステージ上に現れた。
実際には音速で降下してきたのだ
大気操作のせいで、音も衝撃波も出していない
人の目には瞬間移動で現れたように見えたはずだ。
ステージ上も観衆も皆、まるで時間が停止したようになっていた。
誰も声を上げず、驚かず、ただ見ていた。
なんだよ無反応かよ。
「人間、コノ者ヲ、ナゼコロス」
演技入った口調で俺は言った。
効いてるか、練習したんだぞ。
「コノ手ガ、ナニカ盗ンダノカ?
ダレゾ命ヲ奪ッタカ?」
答えを尋ねてるワケでは無いので
勝手に喋る俺。
「人間ノ、理屈デ、存在ガ、許サレナイカラカ」
ざわつき出す観衆。
ステージ袖から飛び出したバルタん爺さんは
その高齢とは思えない動きで領主を
ステージ上から強引に脱出させる。
流石だ。
やっぱりスカウトしたい。
俺は片手にババァル、もう片手に
引き抜いたギロチンの刃を持ち
後ろのお客さんにもよく見える様に
10m程度、上昇し滞空する。
「ナラバ、俺モ、俺ノ、理屈デ人間ヲ裁ク」
目ぢからをたっぷり気味で決める。
「全員、死刑!!!」
ギロチンの刃を体内に取り込む、
なんだ、なまくらな鉄だな
折角なのでお返しの悪魔光線の材料
弾丸にさせてもらおう。
狙いは今後の事を考えて
領主の家はパス
演出的な意味と安全を考えて
・・・・・
教会だな
視界に入る教会。
ハンスが偽騎士団の情報をもらいに行った
あの教会のてっぺん部分のシンボル含む
屋根を悪魔光線で吹き飛ばす。
爆発音の後、雷の小さいヤツみたいな音で
屋根の部分は崩れ落ちて行く、
シンボルは燃えながら溶け消える。
「ウオォオオオオオー!!!」
前回の反省を生かし回りの人が
死なない程度の悪魔力(当社比)を開放
そして
主に頭上、上を向いて咆哮を上げる。
それを合図に会場は大パニックに陥る。
いい感じだ。
それを更に煽る為に全開悪魔光線。
これ以上は俺が溶ける。
を、地上に撃つワケにはいかないので
上空に放つ。
自分でもビックリするほどデカい音がした。
目がチカチカする。
地面も揺れたみたいだ。
大勢転んでいる。
発射後の硬直が長い、実戦では止めておこう。
ビームが通過した部分を中心に雲は信じられない
速度でドーナッツ状に変化し、その穴の内側から
外側に向かって無数の雷光が走る。
プラズマ化した通り道の空気は変な匂いだ。
音がデカ過ぎた、耳を押えている人もいる。
これは今回の反省点だ。
これでは有難い女神様のなんたらかんたらが
聞き取れなくなってしまう。
つか
ヴィータぁ早く出てこい
間が持たんぞ。
「本当に作ってくださるのですか」
移動して俺の肩に腰掛けるババァルがそう言って来た。
て
何をだ?
「え?あぁドラ焼きの事か」
そうだな
今度はパンズ部分に抹茶を混ぜたバージョンも試してみたい。
抹茶が無いな、探さないと
俺はそんな事を思いながらウォーウォー
激昂し続けた。
そんな頃
やっとヴィータとハンスがお出ましだ。
ハンスが処刑文を読み上げたちょっと偉そうな神父に
何やら指示出ししている様も見て取れた。
準備して無かったので悪魔耳で内容を聞き取れなかった。
まぁヴィータの説明と避難なんたらってトコだろう。
恋では無いが二度目なので
今回の茶番は上手く行った。
なんでも繰り返しが大事だな。
規模も大幅アップだ。
前回のバロードが町のライブハウスなら
今回のベレンは武道館並みだ。
盛り上がりもスゴイ事になっていた。
後、前回と異なったのは
俺は反省からちゃんと加減したのに
ヴィータの女神びーむは前回と同じ
いや
それ以上だった。
脳内アラームがベネットの時と
同じ様に鳴り響いた。
「殺す気ですわ」
ババァルも注意する程
今回の女神びーむはデカかった。
なんとなく
こうなる気はしてしたので
今回は俺の方が対策を準備していた。
デビルバリアを二重にしたのだ。
危ないなら二枚でどーだ。
遅っい女神びーむがデビルバリアに
到達、拡散・貫通するタイミングで
俺は300m程度上昇すると体内に
収納しておいた爆薬を取り出す
今回は派手さを重視して
火薬だけでなく、燃焼時にキレイな色を出す
様々な金属粉、多分マグネシウムとかだろう
を種類別に層上に配置した爆薬だ。
こいつに着火、俺自身は170cm級になり
ババァルをお姫様抱っこすると更に上昇する
これなら生き残っているのは分かるまい。
爆薬はドーンと大きな音を立て
緑や赤といった綺麗な火花が瞬間で
直径200m程度広がりスっと消えて行った。
そう、花火だ。
「きゃっ」
抱っこしたババァルが爆発音に驚く
しかし、その後すぐに喜んでくれた。
「キレイですわぁー」
それにしても柔らかいなぁ
それに見てみればババァルの傷は
幻だったかのようにキレイに治っている。
衣服はボロボロのままなので
あの惨状が幻では無かった事を主張している。
この現象は想像がつく。
美味しかったのだ。
以前ベネットがベレンの事を
美味しそうな餌と言っていたが
その通りだった。
今の茶番で得た大量の恐怖は
ベアーマンなどと比べものにならない程質が良かった。
こんなに差があるのでは
悪魔が犬をいたぶったりするより
手間を掛けてでも人間を標的にする事に納得だ。
美味しさに酔いしれる一方で申し訳なさに
心のどこかが痛む、それが非常に希薄な事に
俺は少し悩む。
心は人間のつもりでいるのだが
徐々に悪魔になって行っているのか
元々そういう奴だったのか
どちらにしてもヒドイ奴だ。
ババァルの衣服が修復されないのは
俺の服と同じ理屈なのだろう
髪や爪といった部分を素材にしているので
治癒の対象外、代わりに痛みやエネルギーの
供給の心配もいらない。
なので、早く別の服を生成して欲しい。
キズの治った健康体でその恰好は
マジで薄い本が熱くなるレベルだ。
あれっておかしいよね
服は紙みたいに簡単に破れない
布が破れるほど強く引っ張れば
破れる前に投げ飛ばされるでしょ
柔道がそうでしょ
生地が薄ければスゲー伸びるでしょ
服がボロボロなのに血の一滴も零れない
肌が無傷ってあり得ないでしょ
服だけ切り刻んでキズ一切つけない
それも服はキレイに切れていない
破かれた様にボロボロの切断面
更に言えば背中側まで同様に切り刻んで
一瞬で まっぱに剥いてしまう。
そんなよくいる剣の達人。
すごいよね
どうやってやるんだ。
物理的におかしいだろ
でも
あれでいいんです
あれで正しいんです
ビリッって行かなきゃ
キャあぁっ
ぐへへ
ってならないし
血が噴き出したりしたら
ギャー
うわぁゴメン
ってなって
可哀想で
それどころじゃなくなる
優しく酷い目に遭わせないといけない
しかしマンガやドラマなどでは
おぉっってなる状態なんだが
いざ目の前にいられると
まともに見られない。
頼むから、なんか着てください。
俺は取り合えず思いついた避難場所
例のコントが行われた古城に即飛んだ。
「まずなんか着てくれ。」
これでは話が始まらない。
「替えはありませんの」
聞いてみた所、ババァルは変化も生成も
出来ない(試した事がない)そうで。
仕方が無いのでその辺にあった
適当な布のど真ん中に穴を開け
そこに首を通して着てもらった。
貫頭衣って言うんだっけ
なんかTV見ながら「白い方が勝つわ」とか
言いだしそうな恰好だ。
まぁ色白なので違うのだが
ともかく見られる様にはなった。
「やっと話が出来るな。聞きたい事が山ほどあるぞ」
そう言って俺は長い話になる事を伝えておく
話が長いならばと、俺は話をしながらお茶を入れた。
体内に貯めていた金属から銀を選んで
カップとポットを作り、水は大気から冷却で集め、
持ち歩いているセットの中から茶葉を出す。
伸縮性の高い素材、いわゆるゴムバンドで
大きさの変動に対応した特性ベルトに
収納出来ない物やすぐに生成出来ない物を
まとめて入れてある、俺専用のお出かけセットだ。
茶葉は生物由来なので体内収納も生成も出来ないのだ。
ババァルは話よりも、そのお茶を準備した方に興味深々だった。
「まぁ、まるで魔法のよう」
魔法だよ。
胸の大きい女性はバカという俗説があるが
あながち嘘では無い気がする。
難しい事を考えてばかりいる人って
なんか小柄だったり痩せてたりする。
のほほんとしていると成長が良いとかないかね
遺伝なのは間違いないのだが
育つ過程と環境の影響もあると思うよ。
思春期になってからも
胸がデカいというだけでも
圧倒的なアドバンテージで
それだけでデレデレする男子が
チヤホヤしてくるので
益々考えなくなる。
そうでない人は意中の男子の気を引く為に
あれこれ考えたり努力して
思考するクセ・実践する行動力が身に付き
デキる女の要素が鍛えられるとか
で、肝心の大きなバストと意中の人は手に入らず、
おっぱいばっかりでバカな女に取られちゃったりしてね。
何を考えているんだ俺は
そう思いながらもポットに適当に
弱悪魔光線を断続照射してお茶を完成させる。
聞いた話の内容を纏めると
魔王ババァル本人である事は間違いない事。
転移は使用しようとしたが発動しなかった事。
護衛はいつから居て、いつ居なくなったのか
ババァル本人は分からないという事。
転移が発動しないので、他の方法
今回の場合「飛行」をしようとした所を
魔女の実行犯という事でとっ捕まったという事。
尋問らしい尋問は無く
ただ暴力を振るわれたとの事だ。
暴力の詳しい内容は聞かなかった。
「ほっとしますわー」
泣きながら訴えてもイイような内容なのに
ホンワカと話すババァル。
すごいギャップだ。
大物には間違い無いのだが
大物だ。
そこまで確認すると俺は自分の推論を
ババァルに説明した。
俺が助けたのは悪魔側の陣営を勝利させない
為である事も隠さず伝える。
がっかりさせてしまうかもしれないが
ココは早目に説明して誤解させておかない方が
どっちの為にもイイと考えたのだ。
と言うか。
上手く誤解させて有利に事を運ぶ自信が無い。
自慢では無いが俺は嘘が下手くそだ。
どうせすぐバレる。
スパイはもちろん二股とか絶対無理だ。
「そうですか・・・。」
残念そうだな。
やっぱりがっかりさせちまったか
「では、私はいつ死ねばよろしいでしょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます