第34話 待っていたステージ

素早い動きでバルタん爺さんは動き

あっという間に荷物と俺達と言うお荷物を運び込んだ。

その目奪う見事な動きは先程のヴィータの叫びを忘れさせる程だ。

何コレ

なんてスキルなの


ロビーに運び込まれた俺達はそこでも

田舎者を演出しだしてしまう。

もうキョロキョロ辺りを見回してしまう。


調度品、絵画などもう現代のホテルでも

こんなアンティーク高級ホテルあるよね。

なにより清潔感が全然違う

泥は言うに及ばす、砂や埃も全く無い。


「こちらでお待ちください。」


そう言ってバルタん爺さんはチェックインの手続きに行ってしまった。

俺はその隙にすかさず窓に近づきガラスを走査する。


「・・・・なんだこりゃ。」 


ガラスとはぶっちゃけ石や砂だ。

そこいらに良くある物だ。

石の中に曇っていながらも透明な部分

砕けて、その部分だけになった砂。

それと後は炭かな

それが主な成分だ。

知らなかった。

なんか特別な素材で出来ているモノだと思い込んでいた。


ただ濁らせている部分を取り除く手間が大変だと思う。

俺は蒸着で集める素材を選ぶ事で不純物を混ぜない事が可能だが

普通はどういう手段で透明な部分だけ集めているのだろうか。


これは俺にしてみれば屋外ならすぐ作成が可能だ。

湯船を作るにしても岩を削り出すよりガラスで作った方が

もしかしたら楽かもしれない。

うーん

ここで俺が透明な風呂桶に浸かっている姿を想像してみる。

キモイやめよう

若い女性以外は使用してはいけない。

風情などからも岩削り出しの方が良い。


バルタん爺さんが手続きを終え戻って来た。

俺たちの荷物を持ち部屋まで案内をしてくれる。


「食事も兼ねてちょっと観光してきたいのですが」


そう申し出る俺達にバルタん爺さんは

お出かけの場合は大体の戻り時間を

フロントに伝えて置いてくださると助かる。

みたいな言い方だった。

助かるというより必須だろうな。


了解の旨を伝えるとバルタん爺さん

及び部下執事は屋敷へ戻って行った。

領主が戻った際はこちらに来ると言っていた。


俺達三人は高級なベッドに突っ伏すと

「フーっ」と深いため息をついた。


「肩がこるのぉ」


「嘘つけ、自然体だったじゃねぇか」


「馴れないですね。」


三人はそれぞれ言葉を漏らした。


「大体お前は隣のスィートかなんかだろ」


そう言う俺を睨むヴィータ。


「寝る時はそうするでの。そんな事より」


「「メシが食いたい」」


俺達はバルタん爺さんの言いつけ通り

フロントに予想戻り時間を伝えると街へとくりだした。

もう、おやつの時間頃だ。

ランチタイムサービスは終わっているかもしれない。

・・・そんなサービスがあればだが。


街はこの前の区画と違い格式がある高級な区画だった。

ラフに行きたいとの俺の提案にハンスもヴィータも

同意してくれたので

この間の歓楽街まで少し足を伸ばして繰り出す。


小さめの屋根の無い一頭引きの馬車。

今で言うタクシーを使い、この間の歓楽街まで向かってもらう。

俺の断片的な説明、店の名前とか噴水広場だけで

御者は頷き目的地を察してくれた。

馴れたモノだ。

こいつもプロだな。


歓楽街に向け出発。

驚いたのはあの区画は城壁内の中の

更に城壁内で一般人や旅人が間違って入り込めない

作りになっていた。

出る時に検閲があり、戻る時も同じ門からに

してくれれば早く済むとも言われた。

御者の話では要人の住居は皆あの中だそうだ。


目的の歓楽街にはすぐに着いた。

やっぱり、この雑多な雰囲気、活気賑わいが合う。

ヴィータは目をキラキラ輝かせ

鼻をクンカクンカさせる。

散歩に連れてきてもらった犬かお前は

かく言う俺も同じような状態なんだろうな。


「あっちじゃ。」


食指が反応する匂いを嗅ぎつけた方向に駆け出すヴィータ。

俺もハンスも慌てて後を追う。

シュタシュタ走る

速い。

ババァルが運動神経無い系女子なら

ヴィータはアスリート女子だ。

俺もハンスもちょっと本気で追う。


文字通り駆け込んだ店で食事。

注文はお任せ店自慢を三人分という

何が出てくるか分からない上に

何を出されても文句が言えない注文方法だった。

おいおいと思ったが店の主人は一言。


「あいよ!」


と返してきた。

いいのかこれで。


待つ事数分。

出てきたのは一皿で三人分くらいありそうな量だ。

種類も豊富で一言で言うと

肉体労働者用お子様ランチだ。

某ゲームのハンターが狩り前に食うアレだ。

ハンスもヴィータもガツガツ食いだす。

俺も食うが、味付けが大雑把だと感じた。

醤油が欲しい。

痛切に感じた。

余裕が出来たら醤油の再現に取り掛かろう。


食い終わって腹をポンポンしながら

まったりしていると、あのお揃いの鎧を着た

二人組の衛兵が店に入って来る。

警察官立ち寄り所なのかこの店。

そう思って見ている俺を発見すると

衛士二人がこっちに来た。

なんだなんだ


「アモンさん。この間はどうも」


「すっかり御馳走になっちゃいまして」


ああ

酔っぱらいA.Bの二人か


「あんたら警察だったのか」


「ケイサツ・・・あぁここでは衛士って言うんだ」


より優雅にかね

で食事の邪魔をして何のようかね


「しかし、また違う美人を連れて」


「羨ましいよなぁ金も女もあるですかい」


お堅い恰好なのにフランクに話す

酔っぱらいA.B

嫌いじゃないけど回りの目はいいのか

勤務中だろ


「力もあるぜ」


俺は不敵に笑ってそう言った。

ひとしきり挨拶が済むと

酔っぱらいAが真顔になる。


「しかし、なんと言いますか残念な事に

なっちまったよなぁ」


酔っぱらいBも連られて真顔になる。


「あぁ勿体無ぇよな。」


見当がつかない。

俺は素直に尋ねる。


「何の事だ?」


俺の返事を聞いて顔を見合わせるA.B

再び俺の方を向くと信じられない事を言い出した。


「知らないんですかい!この間の」


「アモンさんを探していたあの美人が」


ババァルの事か


「魔女裁判で有罪になっちまった」


「これから公開処刑ですぜ」

魔王ババァルが公開処刑される?

意味が分からない。

魔女裁判?

魔王だぞ

とっくに転移で自陣に戻ってるハズだぞ?

護衛はどうしたんだ

影のなんだっけ

13将の何位だっけ

あれ

あれ


「公開処刑の場所はどこですか」


横からハンスが酔っぱらいA.Bに聞いてくれた

俺の頭の中は同じ問答がループしている。

やり取りは聞こえてはいた。


「とにかく行きましょう時間がありません」


「あ・・あぁ」


俺の肩を軽く叩くとハンスはそう促した。

店への支払いを済ませると俺達は

公開処刑の場所である、噴水公園近くの

野外ステージみたいな場所まで移動する。

既に大勢の人でごった返していた。


ステージ上には数人の人が居た。

中でも異彩を放っているのが中央の人物だ。

板に三か所穴が開いていて、それぞれに

両手首、首とはまっている。

足には鉄球が付いた鎖のアミュレットだ。

服装はこの間と同じ服装だが

所々破れ、体のあちこちに暴力の痕跡が見られる。


綺麗な赤い髪は乱れ一部に黒い塊が

こびりついて髪を固めている。

凝固した血液だよな。


俺はデビルアイを起動して確認する。

初めて自分の能力を疑った。

中央の罪人は間違いなくババァルだ。


「何やってんだよ・・・。」


後になってからも

この時のセリフの意味が特定できなかった。

魔王のクセに捕まり下等な人間に

いいようにされているババァルに対して言ったのか


最重要人物をこんな目に遭わせてしまっている

無能な悪魔軍団に対してなのか


攻撃力0の女性に、こんな仕打ちが出来

更に晒し者にしたうえ処刑しようとする

人間達に対してなのか


気に入った人は守ってやれると

どこか軽く考えていた

自分自身に対してなのか


大体、後になってから考えるのもどんなモノか。

当時の感情を冷静に理解できるモノだろうか

後悔なり反省なり事件をカテゴライズ

分析する行為であり

自分自身の事であっても

きっとこうだったんじゃないかなと

想像という行為になってしまう。


とにかく

ババァルの姿を見た俺は

何か

スイッチみたいなモノが入った。


気持ちの整理とか関係無く

時間は無常に進む

その中で人はいつだって

最善だとその時判断した行動をしている。


俺もそうだ。


「ヴィータ。例の茶番を今やるぞ

そのついでにババァルを救出する。」


「救出?本末転倒ではないかババァル討伐は我の目標じゃぞ。」


「ヴィータ。いいか、ちゃんと聞いてくれ」


うまく伝わるかな


「今、目の前で行われるのは魔王討伐じゃない

権力とその行使者が真実関係無く自分の都合のみで

無実の人に罪を着せ、潜在的な反抗の芽を摘む

目的で見せしめとして殺人が行われるんだ」


もっと上手く説明したい

太郎助けてくれ


「これは魔王討伐じゃない。殺人だ」


分かってくれ

しかしヴィータは冷静だ。


「結果的には好都合ではないか

どのみち魔王は討たねばならん」


やべ

キレる


「じゃあ俺は人類を殺しまくるぞ」


こうじゃないのに


「人はいつか死ぬよな。寿命はもちろん

怪我や病気とかで、それをさそれをさ

どうせ死ぬんだから同じだろって

殺す理屈だよな。結果的に同じってさぁ」


呆れるヴィータ。


「極論じゃ。話にならん」


そのまま自分の腰に手を当て

ヴィータは説教口調になる。


「冷静になれ、目的を思い出せ

あやつを仕留めなければ今後大勢の人が

苦しむ事になるのじゃぞ」


そう言われて俺は言葉を繰り返した。


「目的・・・冷静・・・。」


目的。


そう言われ思い出す。

俺の居た現代社会は悪魔側がほぼ勝利を収めた

世界だ。あんな風じゃない未来がいい。

ただ

それは神側が勝利する世界でなければ

ならない事では無いのだ。


「今後、大勢の人が苦しむのを避けるんだな」


満足気に頷くヴィータ。


「そうじゃ、目の前の出来事に流されてはいかん」


いや、違う。


「なら尚の事、この処刑は阻止だ

丁度いいからって見過ごしちゃダメなんだ。

これを善しとすれば今後、無実の人が

偽りの神の名で大勢殺される事になるんだ

そうなれば神は死んだも同じだぞ。」


「なっ・・・。そんな事には」


言葉に詰まるヴィータ。


「なる。」


教科書にだって乗っている本当の黒い歴史だ。

これは、その始まりの方だ。


「一見冷静なようだが目の前のエサに流されているのは

ヴィータ、お前の方だ。」


黒い歴史の始まり

冷静に考える

目的

こいつはもしかすると


それまでの勢いがピタリと止まる。

顎に手を当て考え込む俺は

一つの結論に辿り着いた。


「どどどどうしたんじゃ。」


俺の様子の変化に同様するヴィータ。


「やっぱり阻止だ。これは悪魔側の計画だ」


俺は自分の推論を二人に伝えた。

聖都を偽女神を掲げて制圧。

人々と入れ替えで多くの下級悪魔が呼び出される。

その段階で魔王喪失。

こうなれば下級悪魔は存在のため人々に恐怖を

否が応でも与えなければならなくなる。

神の名を使い、為政者と悪魔にとって都合の悪い人物を

主に敬謙な信徒からだろう次々と粛清。

人々は

無実と知っていながらも保身のため見殺し

保身の為に密告や疑心暗鬼が渦巻く。

不安・恐怖・強者への媚びへつらいだらけになる。


その為に魔王はここで撤退してもらう

それならば護衛がいないのも計画通りだ。

護衛では無かったのかもしれない

こうする為に魔王に気づかれず付き

この事態を起こすタイミングを待っていたともとれる。


ベネットは短期的な収穫を目的とするなら

人々を恐怖に陥れるのは有効だと言っていた。

それをそのまま鵜呑みにして

長期的視野からその様な手段は取らないと

悪魔側がそうすると

こちらは勝手に誤解してしまっていたのだ。


今回の降臨は悪魔側は一位だ。

召喚出来る下級悪魔の数も一番多いと予想される。

統制を取るより

そいつらを暴走させるバーストを発生させ

審判の日を待たない勝負に出てきたのだ。


幸い神側は下位で人々に認知されていない。

偽女神で恐怖によって人々を縛り

早目にこの体制を構築してしまえば

こちらが何を仕掛けても全て後の祭りだ。


「じゃが・・・・。」


これだけ説明してもまだ迷っている。


「じゃがもバターも無い。ヴィータ、お前は何だ

神だろ、救う者だろ。」


「そうじゃ・・・しかしそれは神と、それを信じる者を」


「そんなケツの穴の小さい事言ってるからダメなんだ

魔王も救ってみせるぐらい言ってみろ」


「・・・無茶苦茶じゃ」


ああああもううう


「うるせぇ!!!!!やれっ!!」


「はいっ」


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