第37話 新生ハンバーグ
だから俺にはスパイも二股も無理だって
俺の嘘はすぐバレるのだ。
驚きの表情で硬直しているヨハン。
プラプリはヨハンの驚きを勘違いした。
「あ、大丈夫、これは神様の使いです。」
違って無いのか女神の使い走りだ。
「危険はありませんのでご安心を」
「まぁ危険は無いなわな。」
「もう元の姿に戻っていいよ。アモン」
あーこれはもう誤魔化せないなー
名前も外見も13将のアモンそっくりの
聖獣ですだなんて言っても無理だ。
もういいだろ。
ヨハンは当事者なんだし
今の俺が少なくとも神側の敵じゃないんだから
正直に話そう。
何か言うより、人化した姿を見せる方が
ヨハンも理解が早いだろう。
そう思った俺は言われるがままに
ヨハンの前で人化して見せた。
ヨハンは驚きの表情から恐怖の色が消え
唖然とした顔に変わった。
がんばって推測してくれ、ゆっくり説明するから
そんな俺達の葛藤など露知らず、プラプリと
介護役のエルフは楽しそうに話ながら
ヨハンの車椅子をリフトに積む作業に入る。
おれも同乗した。
「えーと、部屋で全部話しますから。」
俺はヨハンにそう言って部屋まで一緒に行った。
途中で俺を発見したババァルも
何故か着いてきてしまった。
まぁ、いいかコイツは全部知っているし
説明上いても問題無いだろう。
部屋は以前と同じ部屋だった。
特に変わった様子は無い。
ヨハンは車椅子のままテーブルにつき
俺は向かい合う形でババァルと並んで座った。
「持ってきたのか」
ババァルはどら焼きとお茶を用意してくれた。
長くなりそうなので有難いか
テーブルに並べると早速食い始める。
て自分用か
それにしても、まだ食うのか。
ヨハンは俺の話を黙って聞いてくれた。
この里での再会時に衰弱していたヨハンに
余計な衝撃を与えたくないが為に
俺がアモンだという事を伏せる事にした。
そう説明する。
ヨハンは数回頷いた。
ハンスは俺が救世主で
ヨハンは命がけで、その召喚をした英雄だと
思い込んでいると説明した所では
ヨハンは少し照れていた様だった。
バロードの村の話は知っているので
省いたが、俺を見抜けなった事と同様に
聖都の教会も悪魔を止める事が出来ず
聖都への悪魔軍団の侵攻が進んでしまっている事。
この辺りからヨハンの表情は一変し
残り少ない歯をギリギリと食いしばり始める。
隣にいるのが魔王ババァルで
悪魔軍団の奸計で処刑されそうになったトコロを
女神と一緒に、女神と一緒に(ここは強調しておく)
助けて、直ぐ合流する事が出来ずに
ここに一旦避難した。
ふぅ、説明したぞ。
日数にしてみれば大した日にちでは無いのに
色々あり過ぎて濃密だ。
ヨハンは声を絞り出して聞いて来た。
「・・・勇者は?!あの、お方が何もしないハズは無い」
ああ
その説明もしなきゃだよね。
俺は天使は秘匿。
この事実をヨハンは知っていると仮定し
ガバガバ脱出、行方不明その後の捜索隊。
この話をざっと説明した。
ヨハンは少しほっとしたようだ。
「まだ、希望はありますな。」
お茶とドラ焼きに手をつけず
両手の拳を強く握りしめ
まるで何かを堪える様にヨハンは震え出す。
いつキーボードクラッシャー化しても
おかしくない様子だ。
ババァルはヨハンが食べようとしない
どら焼きを注視している。
やめろって
「しかし、何という事だ。聖都の存亡を懸けた
一大事だと言うのに・・・私は何もできん」
いや
もう十分だって。
むしろ英雄級だよ
大金星でしょ
アモンを倒したなんてさ。
文字通り命懸けでさ
これ以上を望む奴なんていないよ。
そうは思ったが
今、この男に慰めの言葉は意味をなさない。
掛ける言葉が無い。
「命ある限り戦う覚悟だった。だが
手に力が入らんのだ・・・足も・・・
私はもう戦えないのだ。」
遂に我慢の限界を超えたヨハンは泣き崩れた。
俺は無いと知りつつも何か言える事は無いのか
と考えを巡らせる。
自慢の高速処理も答えがあってこそだ。
無いものを生み出しなしない。
重い。
老人の嗚咽だけが部屋を支配している。
そんな空気だというのに
あろう事かババァルは
笑い出した。
ババァルも堪えていた。
しかし堪えていたのは涙では無く笑いだった。
それがヨハンの決壊と同時に
我慢の限界を超えたのだ。
「何が可笑しい!?」
俺は殺意剥き出しでババァルを睨む。
ヨハンを、男の覚悟と無念を笑う奴は許せん。
「ごめんなさい。でも笑わずにはいられなくてよ」
ババァルは全く悪びれる様子は無い。
それどころか
上から目線でドヤ顔になって言い放つ。
「笑わせないで坊や。手段がありながら
それから目を逸らして僕は戦えないー
後はみんなでがんばってーって
あなた逃げてるだけでしょ。」
鬼かお前は
こんな立つ事もままならない老人に
何の手段が残っているっていうんだ。
俺が怒鳴るより先に
ヨハンが叫ぶ様にババァルに詰め寄った。
責めるでもなく
怒るでもない
すがる
救いを求める様に必死にだ。
「手段!?手段があるというのか」
笑顔から一転。
今度のババァルは呆れた様子で
つまらなさそうに言った。
「ごめんなさい。黙っていれば良かったわね
そうすればあなたは無実な老人で安全に
居られたのに、気づかない振りをしてあげる
べきでしたわ」
俺もヨハンもババァルの言葉の続きを待った。
「知らなかったんだーそう言えば全て許されたのに
聞いてしまえば知ってしまう、知っている以上
しない事は許されない。逃げる事になりますわ。
臆病者の汚名を受け入る事になってしまいますわね。」
勿体ぶるなぁ
ヨハンは力強く答える。
「どうか教えて下され。覚悟なぞとうの昔に
出来ておりますゆえ、逃げはありません。」
だろうな
血反吐を吐いてなお
まだ足掻いていた姿を
俺は見ている。
「・・・あなたの目の前に居るのは誰と誰?」
ババァルの口の端が吊り上がる。
「魂、差し出せば、どんな願いでも叶える
そんな存在、聞いた事無いかしら?」
魂と引き換えに願いを叶える
悪魔の契約だ。
しかし神の使徒である神父にそれは
「お願いいたします。」
即答だ。
目力が違う、洞窟内で見た感じに近い。
先程までの老人のそれではない。
コイツもハンスと同じ人種だ。
堅物キャラだ。
冗談が通じないタイプだ。
「今、戦えるというのならば、この魂
喜んで差し出しましょう。」
パチパチと拍手するババァル。
その拍手の後、上位版デビルアイで
ヨハンを走査する。
「あら、流石にこのままじゃキビしいですわね」
何がキビしいんだ?
俺もデビルアイでヨハンを走査してみるが
うん
ただの老人です。
「何がどう困難なんだ」
俺は素直にババァルに尋ねた。
「神への忠誠が強すぎで手がつけられませんわ
あなたに刻まれた聖刻で全身ビッシリなイメージ」
それは手がつけられん。
「ですので。神を捨てなさい。」
凄い事をさらっと要求する。
相手は神父、それもトップに立つような人物だぞ。
その相手に神を捨てろとか
出来る訳無い、仮に出来たとしても
何年も掛かるんじゃないのか
それこそ修行に費やした時間と同じ位に
「・・・捨てました。お願いいたします。」
即答するヨハン。
えー嘘ーっ
俺もババァルも疑いの目たっぷりだ。
二人ともデビルアイで再び走査する。
「あらあらまぁまぁ」
ババァルの驚きっぷりから察するに
ヨハンは神を捨てるのに成功したようだ。
俺にはさっきと何が違うのか分からん。
ただの老人だ。
聖刻と同様なら
発動していれば分かるのかもしれないが
スリープ状態では判別出来ない。
それも見抜けるのだから
流石は上位版と言うべきか
恐るべしババァル。
「スゴイですわね。あれ程の信仰を
瞬間で捨て去るなんて・・・・」
ババァルが初めてヨハンを認めた瞬間である。
「では、アモンさん契約して御上げなさいな」
「え?俺、出来ないよ」
どうやってやるんだよ。
全くイメージ出来ない。
「出来なくないですわよ。悪魔ですもの」
「いやいやいや、やった事ねぇし、魔王やってよ」
ハァーっとため息をつくババァル
「こちら側に臆病者がいると思いませんでしたわ」
「臆病?やった事無いから分からない
経験者に任せようって普通の判断だろ」
ジト目になるババァル。
「あら、ではあなたは異世界で人間だった
時に目から怪光線出してらしたの?」
「いいえ」
なわけあるか
「では生身で音速飛行してらしたのかしら?」
「・・・いいえ、出来るかなーって思ったら出来た。」
もしかして悪魔の契約もそうなのか
「本能的にやりたく無い事を都合良く
他人に押し付けようとしてるだけですわよ。」
「でも先生、やった事ないのは本当なんです
それに飛行やビームと違って相手がある事なので
失敗を回避し成功率の高い方を選択するのは
アリだと思います。」
ここでヨハンが割って入る。
「どちらでも構いません。早くして頂けませんかな」
「すいません。もう少しお待ちください」
なんで悪魔の俺の方がへりくだるんだ。
逆だろ。
こっちが強者じゃないのか。
「こちらの方がお望みなのは戦闘力ですわよ
あなた私の戦闘力御存じでしょ。」
0です。はい
「あ、何でもって言っても適任みたいなのあるのね」
「そうですわ。自己の能力を超える願いは叶えられませんわ」
玉を7個集めると出てくるドラゴンも
同じ事を言っていたな。
地域や宗教によってはドラゴン=悪魔だから
あれも悪魔の契約だったのか?
「ほらーほらーだから、そう言う基本的な事も
知らない初心者なワケじゃんオレって」
自分でもいい加減見苦しくなってきた。
認めよう。
嫌なのだ。
中身が人間の俺は、やはり悪魔の力を恐れている。
特に物理的な力でどうこう出来ない
得たいのしれない力が怖い。
宇宙人よりお化けを怖がるタイプだ。
結局、俺がやるハメになった。
俺はババァルの助言と
アモンサイクロペディアの知識を
その場でなんとか覚え儀式を行った。
「望ミヲ言エ。」
「演技しなくても同じですわよ。」
うるさいな
こういうのは気分が大事なんだよ
テンション上げてかないと
盛り上げていかないと
「力を・・・我に全盛期の力を」
実はこれは言わなくてもイイ
心の中に願っている真実と差異があるのか
その確認だ。
神の加護が消え、悪魔への警戒を解いたヨハンの
心は丸見えだった。
強く願う願望。
それは全盛期をも超える力を欲している。
これはヨハンが嘘を言ったのでは無い
全盛期とは終わってから、そう呼ばれる時期で
全盛期真っ最中のヨハンも更なる力を欲し
体を鍛え続けていたのだ。
もっと、もっとと
そう思っていたのだ。
ここで先程のババァルの言葉の意味が分かった。
もっと強い力を授けるにも俺の力を超える力は
授けられない。
これがババァルだったなら
例えばババァルが10分でどら焼き20個食うなら
ヨハンは最大でも19個って
なんだこの例え
いらないか
ともかく俺は力を授けるのだが、ここで考えた。
人間の肉体は脆過ぎる。
所詮、カルシウムとタンパク質だ。
強大な力と言ってもたかが知れている。
人間の組織の限界値の力を与えたとしても
鋼の肉体を持つ悪魔に対しては
物理的には何も通用しないだろう。
本物の悪魔なら
骨がひしゃげる程の力を与えて
それでも悪魔にダメージが入らず。
騙したと叫ぶヨハンに向かって
「望ミハカナエタ、通用スルトハ言ッテイナイ」
と言うのだろう。
使う方の問題ですよと
今回はそうじゃない。
全盛期プラスアルファだ。
ヨハンには望み通り聖都の悪魔を葬ってもらいたい。
悪魔を肉弾戦で圧倒出来る体を持ってもらう。
なので、骨の組成から見直す。
カーボンを骨の中にハニカム状に内蔵させ
大幅に強度を向上。
筋肉繊維は細胞内に金属を埋め込み
神経の電気伝達でソレノイド効果を出す様に
仕込んだ。これで反応速度とパワーはかなり上がるハズだ。
他にも色々弄った。
人間の肉体でありながら
機械のような力と頑丈さを兼ね備えた人間。
文字通りの魔改造だ。
やべぇ
楽しい
俺は、ついつい夢中になり時間がかなり掛かってしまった。
「上出来ですわーやれば出来る子だと信じていましたわよ」
熱い、フラフラする。
目が開かないやり過ぎた。
「なぁ、鏡ってないか」
若い男の声がする。
ヨハンだろう、全盛期って何歳になるのか知らんが
最高の肉体の状態時まで戻した。
「今は、我慢なさって、アモンさんこんな状態ですのよ。」
ババァルが気遣ってくれる
ありがとう
でも鏡くらいなら楽勝だ。
砂利素材から抽出してあるガラスを生成
その片面に金属膜を貼るだけだ。
「ほらよ」
俺は姿見サイズの鏡を作る。
「こぉおおおおおおっふぅうううう」
なにやら呼吸法ですか
格闘家みたいなって
あ
確か9大司教の「武」担当だっけ
格闘技の心得くらいあるのか。
ようやく調子が戻って来た。
次やる時はもっとゆっくりやろう
負担が思いのほか大きかった。
俺が目を開けるとそこには
なに
怒ると皮ジャン破けそうな若い大男が
上半身裸で色んな構えを取っている。
もちろんマチョメンだ。
誰って
ヨハンだよな
すっげぇええ
若い頃すげぇえ
年取るの怖ぇええ
「ふーっ大司教ヨハンは今日死んだ。」
声もしわがれた老人ではない
ノイズの少ないまったりした低音だ。
ちかおがあきおになった感じだ。
「ここに居るのは、一格闘家
ヨハン・ブルグ。ただの男だ」
振り返るヨハン。
その顔は皺など無い
精気に満ちた顔。
色々持て余していそうだ。
「ヨハンブルグ・・・ヨ ハンブーグ・・・。」
ヨハンの名を繰り返すババァル
まて何を言う気だ。
「よっ!!ハンバーグ」
仕方ない乗るしかない
俺は絶叫した。
「ハンバァアアアアアグっ!!」
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