第29話 悪魔と天使とエルフで同窓会
髪、碧眼、細マッチョの中背、正義感溢れるイケメン。
背中の3対6枚の猛禽類の翼はもちろん白色。
俺がプレイするハズだったキャラが高速で接近して来る。
俺の想像通りならあの中身は・・・。
「たけしー」
上位天使は様子を見るまでも無く
そう言いながら目の前まで飛んできた。
かなりの高さで滞空し二人は相対した。
アモンの中身が宮本たけしだと
知っている人物で俺の作ったキャラの中身の人物。
やっと出てきたか。
もう会えないんじゃないかと心配したぜ。
先ほどの反省からキッチリ確認してからにするか
俺は同じ過ちを繰り返さない男だ。
「太郎なのか?」
「うん、無事だったんだね」
・・・・。
ふー
せーの
「テメぇ俺をハメやがったな」
軽く、ホントに軽く
右ストレートを天使の顔面に放つ。
壊れ具合を確認しつつ
次のパンチの威力を調整しよう。
「痛っ、何するんだよ」
この位の威力でイイか
「あれー触られている程度で痛みは
無いって話だったよねーおかしいなー」
左右のワン・ツー
「ちょ・・・やめ」
「ゲームなんだし、ぶっ殺してもいいよね
対戦格闘ゲームみたいにさ」
驚愕の表情で青ざめる天使。
「マジ?」
「最後に聞かせろ、わざとなのか
それとも間違えたのか」
「何が?」
「この悪魔はお前のキャラだろ」
俺のキャラのデーターが入ったUSBメモリーは
太郎が持っていた。
「後で現地で」と言ったのだから太郎も
自キャラのデーターが入ったUSBメモリーを
持っていたのだ。
それが入れ違いになったのだろう。
アモンは太郎のキャラだったのだ。
「わざとなワケないでしょ間違えたの」
「わざとじゃ無い?」
俺は殴るのを止めた。
「ふーん、本当に?」
コクコク頷く天使。
「うん」
「証明しろ」
悪魔が悪魔の証明を要求している。
証拠が無いなら
言い張れば勝ち
俺はソレ大っ嫌いだ。
「証明は無理でしょ」
天使は困った様に言った。
俺は用意していたセリフを言う
「じゃあ泣くまで」
「泣くから、もう止めて」
取り合えず少し小突いて留飲が下がった。
聞きたい事だらけなので殺すのはもちろん
拗ねられても面倒なのでこの辺で止めよう。
「全部、説明してもらうぞ」
「あ、うん。それなんだけど・・・。」
何か含みがある。
それも含めて聞かせてもらうがもう一人交えたい。
「場所を変えよう。小梅も一緒なんだ」
「えっそうなの助かったよ。二人とも見つからなくてさ」
探してはいたようだ、今回は流れ星を
見つけたのでよく見たらアモンだったそうで
それで慌てて飛んできたと言っていた。
結果的にはあの無茶な大気圏突入の
おかげ・・・いや計算通り。
バロードの村近くまで天使と悪魔が
バカ話で盛り上がりながらランデブーしていく
ハタ目にみたら、どんな状況だ。
でも、これが理想じゃいけないかね
まぁこの場合は中の人が二人とも
人間だから成り立つ状態なんだが。
いつもの人目に付かない雑木林に着地すると俺は人化した。
「すごい。ナニそれ」
太郎にも変身するように促すつもりだったが
出来ないのか・・・。
自分が会得した時を思い出し太郎に
アレコレ指導してみるが、さっぱりだった。
このまま天使を連れて村にはいれば話どころじゃなくなる。
ただでさえ常時光り輝いてるせいで目立つのだ。
変身は諦めて、光るのを止めさせる。
これはパッシブスキルの「加護」なので止められるハズだ。
四苦八苦している様子から察するに
やはり想像通り太郎もメニュー画面が出ない状態のようだ。
俺はイメージをとにかく強調して指導する。
出来ると思う事は大体出来る。
よく分からないが、プレイヤーキャラはそういうものだ。
少なくとも俺はそうだった。
こうして発光を止める事に成功。
その時、頭上の輪っかも同時に消えた。
あれは「加護」に含まれるモノだったようだ。
なんか、まんま蛍光灯のようでおかしい。
次に困ったのが六枚の翼だ。
太郎も頑張ったのだが才能が無いのか
結局、収納する事が出来ず、途中から
小さくする事に従事し、なんとか
服の中に入るまではいった。
不自然に背中が盛り上がっているが
まぁ夜だし、村長の家のあてがわれた
部屋に騒ぎ無しで辿り着ければ良いので
これでなんとかなるだろう。
髪、碧眼、細マッチョの中背、正義感溢れるイケメン。
カーテンでも巻きつけているようなローマ調の服
その背中には絶対何か入ってる感じで膨れている。
足は皮のサンダル、脛までバッテン模様のやつだ。
うん、不自然。
「疲れたよ」
「うるさい。行くぞ」
人目を忍んで侵入するつもりだったが
大佐ぁどういう事だ。
誰も居ないぞ。(ねっとりと)
村人達は既に熟睡モードで灯りもまばらだ。
先程まで喧噪とはえらい違いだ。
やはりベレンは都会になるのだ。
結局、人目に触れる事無く村長の家までいく事が出来た。
預かっていた合鍵でそーっとドアを開ける。
村長夫妻はもう寝ているだろうから
騒ぐのは悪いからだ。
そーっと開けたにも関わらず
人の気遣いを無駄にする勢いで
数人、玄関までバタバタとやってくる。
灯りは持ち運び用の小さな燭台。
いわゆるロウソク立てだ。
それを持って先頭でやって来たのはハンスだった。
「アモンさん。戻って来てくれたのですね」
バカ、声がでかい。
「だから言うたじゃろ。心配いらぬと」
腕を組んで言うヴィータをプリプラがからかう。
「その割には落ち着きが無かったよね」
「騒ぐな。村長夫妻はもう寝てんだろ」
皆を静かにさせ、事情を聞くと
どうも、ハンスは俺がそのまま悪魔側に
行ってしまうつもりなんじゃないかと想像していたらしい。
「戻ると言ったろ」
「ハハそうですよね」
「・・・で、外に居るのは誰なんじゃ
まーた単独行動で何か拾ってきおったな」
流石は女神だ。
太郎の存在を既に感知している。
しかし、言われてみれば単独行動で
何か拾ってくるクセ返す言葉が無い、
その通りの行動をしているな。
お持ち帰りするなら太郎より
ババァルの方が良かった。
ああ、もう一度あの揺れを
いや、今は考えるな。
「ずーっと探していた人物なんだ今回は許してくれ」
「・・・え?」
俺の言葉に敏感に反応するプリプラ。
何、今のカワイイ「え」って声
普段からそういう声で俺とも
話してくれないものだろうか。
「太郎を連れてきた。」
俺がそう言うと、太郎は扉を開けて玄関の中に入って来た。
打ち合わせてもいないのにうまいタイミングだ。
「何そのアバターださーい、たけしじゃないんだから
やっだー笑っちゃう」
ぶっ殺すぞこのアマ
「例の言語!?ではお話にあった異世界の人なんですね」
ハンスは日本語の発音や口調を判別出来るようになっていた。
やぱり頭はイイのだろうな
「そうなんだ、それでちょっと頼みがある」
少し三人だけで話がしたいという事を二人に頼み込む。
ヴィータもハンスも快諾してくれた。
男子部屋と女子部屋という事で二部屋あてがわれていたのだ。
その内の女子部屋に俺たちは集まった。
ハンスとヴィータは男子部屋で待っていてもらう事になった。
「みんな無事でよかったよーあ、もう翼を
出してもイイよね窮屈なんだよねコレ」
そう言うと許可を待たず服の外に翼を出す。
「あー背中が凝る。肩凝りが背中で起きてる感触だよコレ」
バサバサと腕を回すかのように翼をワキワキ動かす太郎。
その度に羽が舞うわ風が結構吹くわ
うわ、室内の天使って邪魔だな。
飼うなら外だな
「羽ばたくな。後、無事じゃねーから」
「そーよ。メニュー画面が開かないのなんなのーこのバグ」
太郎はすました顔でベッドに腰掛けると
慌てる事無く、普通の調子で言った。
「・・・やっぱり開かないか。」
「お前も開かないのか」
俺の問いに太郎は即答する。
「うん。そしてこれはバグじゃない」
「え?」
「えー」
太郎は語り始めた。
「最初は俺もバグじゃないかと
あれこれ試したんだけどね・・・
これだけ時間が経過してしまっていたら
これはバグじゃないもう一つの可能性の方だ」
現実の異世界に転移。
俺はずっと考えていた事だ
しかし、太郎の口から出た言葉は想定外の内容だった。
「僕等はもうNPCだ」
時間が立った?
NPC?
予想外の言葉に俺は混乱した一つづつ聞いていこう。
「時間の経過で判断できるのか」
加速時間。
こちらで何日経っても現実では数分
その可能性で考える事をしないでいた。
「うん、プレイは社の方でモニターしてるからね
最大でも3倍速、それ以上だと何言ってるか
分からないからね」
もう何日経ったっけ
「だからこんなに時間が経つハズ無いんだ
飲まず食わずで寝っ転がってる本体が
飢え死にしちゃうからね」
そうだ。
心電図などを取る為に体にセンサーは貼り付けた。
しかし栄養を供給するような点滴は無い。
糞尿だって大変な事になる。
「ええええいいいいいやいや待って
じゃ、なんでログアウト出来てないの」
俺もプリプラも今まさにプレイ中じゃないか
「とっくにログアウトしてるんだよ
ここでのプレイの記憶を持って
人間本体はもう現実世界で生きてるよ」
唖然とする俺
意味が分かってなさそうなプリプラ
「あー面白かったって言ってさ
アンンケート記入して記念品もらって
早く製品版プレイしたいなーって
家でビール飲みながら言ってるよ
きっと、ここにいる自分のコピーの事なんて
想像すら出来ていない」
「自分のコピー?」
「うん。このゲームのNPCには人工知能が奢ってあってさ。
今までのゲームと違って各々個性が設定されているんだ。
いつ何時でも村の入り口に突っ立ていて、話しかけられたら
【ここは○○の村だ】としか言えないキャラじゃない
雨が降れば濡れない様に引っ込むし、バカにすれば怒ったりもする」
周りくどくも分かりやすい様に太郎は話してくれている。
「今回の僕等は、いわゆる冒険者みたいに突然
現れたり消えたり出来ないNPCでログインしてしまった。」
ゆっくりと話す太郎。
この辺りは上手だと思う
俺なら凄い早口で説明しそう
「NPCは消えるワケにはいかない死亡する以外はね。
操作した僕等がログアウトした後も存在してゲームの
時間と共に生きている。
そこでプレイした人の個性をそのまま
プログラムとして残し人工知能としてプレイを続行させる。
前後の行動に齟齬が出ない様にする為
いや、実際には実験だね。
もう一つの・・・もしかしたら社の
こっちが本命かもしれない」
俺は
今ここにいる俺は
「NPCだから痛みを与える方がリアルになる
本人は知らないワケだから苦情も来ない」
誰なんだ
「NPCだからメニュー画面が開かないのは
当たり前だよね。ログアウトしないんだから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます