第27話 暗黒魔王が
魔王の攻撃力は無い。
ベネットが語ってくれた内容を纏めると
魔王とは簡単に例えると
悪魔達の電池だ。
悪魔がこの世界で現存するために
使用されるエネルギーの供給源だ。
各自が現地で人々の悪感情を
吸い上げ自身の使用量を上回れば
魔王に還元され、魔王の力はアップする。
恐怖を献上出来なければ、魔王そのものの
現存する為の力が枯渇して存在できなくなって
しまい魔界に強制帰国してしまう。
その場合、悪魔達は魔王抜きで現存する
ためには常に人々の悪感情を吸い続けなければ
ならない、自転車状態だ。
人々を痛めつけなければ魔王が枯渇し
それでも行為に及ばねば自身も消える。
どう転んでも悪魔は悪感情が必要に
なってしまう仕組みだ。
そしてそのエネルギーで活動し
悪感情と契約によって得る人の魂で
自軍の領地の拡大の為に行動するのだ。
魔王の序列は、各自異なる特殊スキルと
蓄積出来る魔力量で決まっているそうで
目の前のババァルはその量が当然一番多く
結果、悪魔達個人個人の使用できる力も
増え有利に事が運べるというワケだ。
ならば毎回、一位を送り出せばイイだけ
なのだが、これがどうも魔界から
出てくるにもゲートの開き具合があって
余り開いていないのに一位を送り出しても
開き具合によっては下位の力しか持ち出せない
物凄い損な降臨になってしまう
開き具合に適応した魔王を送るのが
無駄が無いとの事だった。
そして「審判の日」神と魔王の手下達の
頑張りの結果で次の降臨までの領土が決定する。
負け続ければ帰る世界が存在出来なくなる。
最悪、魔界あるいは神界がなくなり
人のこの世界に落ち延びて細々と
落ち武者狩りに怯えながら生き延びる道しか
残らないという事だ。
これが、この戦いの仕組みだ。
そしてババァルは暗黒魔王。
特有のスキルは文字通り「暗黒」
暗闇そのもの、それだけで
昼間はなんでも無い場所を
恐怖の空間にしてしまう。
そして光で人を導こうとしている神側に
とって最も厄介なカウンターでもある。
圧倒的に上回る量で力押しする以外の対処法がないのだ。
今回のアモンさんのデタラメな強さも
ババァルのお陰なのだが
この話が本当なら今までの俺はイタズラに
力を消費するばかりで
悪感情を献上出来ていない。
かなりの足手まといだ
味方に戻らないなら早々に退場した方がいい。
ベネットの行動は正しい。
ヴィータは圧倒的不利な状況を
一気に覆した一手を打ったワケだ。
ババァルもようやく理解が追いついた。
俺もベネットの話を理解した。
さて
これでやっと話が出来る状態になった。
神には会った。
なんとしても魔王と話をしなければ
俺の今後今後の方針が決まらない。
後、もう一人いるのだがこっちは
会えるかどうか全くの未知数だ。
「魔核があるのに帰還できますの?」
この体を残してアモンが魔界に帰還した。
その事実が納得いかない様子のババァル。
魔核はこちらの世界での悪魔の本体だ。
これ無しでは存在出来ない。
逆に言うと有る以上帰還出来ない。
「それにつきましては見て頂くのが
説明するより早いかと」
俺よりもベネットがババァルにそう促した。
あの時のベネットの顔は傑作だった。
言われるがままにババァルは上位デビルイアイで
俺を細かく走査する。
先程の判別と違って多少時間が掛かる。
「あらあらまぁまぁ」
いい表情だ。
「これは、どういう手品なんですの」
「前例の無い現象です。彼が異界の
人間である事が関係していると思われます」
ベネットなりの解釈を説明した。
そう言えばシンアモンさんも
界外の力と表現していた。
「俺からも聞いてもいいかな」
俺は話を切り出した。
返事の変わりに頷くババァル。
「魔王は人間の世界をどうするつもりなんだ
やっぱり阿鼻叫喚の地獄にするつもりなのか」
キョトンとする魔王。
「どうする・・・と言われましても」
ベネットを見る。
助けろと
おいおい目的分かってないのかよ。
「魔王様に代わり私から」
察したベネットが語り始めた。
「短期的な力の収穫が目的なら
それも一つの手ではありますが
長期的な視野で見るとむしろマイナスです
人間には是非、神の束縛を離れ己が欲望に
従って繁栄して頂きたい」
「繁栄?それじゃあ幸せになっちまって
収穫が無くなるんじゃないのか」
不敵に笑いながらベネットは俺の疑問に答えた。
「幸せになどなりません。極一部の人間は
なるかもしれませんが圧倒的大多数は
不幸になりマイナスの感情で世界は満たされます」
ここよりも遥かに文明が発達した世界。
「我々は、その極一部さえ押えればよろしいのです」
そこは何十億と人が生きている世界。
「後は勝手に人は不幸になりながら
増えていくでしょう」
そんな世界から俺は来た。
「そして、その不幸で神を恨むのです
何故救ってくれないのかと」
俺は俺たちは幸せだったか。
「悪魔のせいにする人など誰もおりません」
俺はイヤな予感してハンスの方を見た。
案の定、今にも壁に立てかけたエッダちゃんの槍改に
飛びつき襲い掛かりそうな雰囲気だった。
こいつに武器を渡したのは失敗だったかもしれない。
「ちょっとトイレ」
俺はトイレに行く為、立ち上がるとハンスに目くばせする。
「あ、では私も」
察しが良くて助かる。
店員にトイレの場所を聞くとハンスと入り
並んで小便の振りをする。
隣のハンスは勢い良く音を立てる。
なんだよ
本当にしたかったのか
「ふううううううう緊張いたしますねー」
緊張から解き放たれたハンスは下の蛇口も
豪快に解き放っている。
俺はハンスに釘を刺しておく事にした。
「変な気は起こすなよ」
「しかし、これは魔王を討つ千載一遇のチャンスでは」
ただの人間では気づかないのも仕方が無いが
想定出来ても良さそうな物だ。
「ババァルの影の中に何か居る。
何位か知らんが魔神だろうな。」
護衛も無しに一人でうろつける立場じゃない。
天然ババァルでは敵にもバレてしまうので
ババァルにも内緒で護衛が終始ついて守っている。
気を利かせて動くのはベネットだけ特別と
言うワケでは無いのだろう
それが逆に魔王自身の求心力の無さと
ババァルを落ち込ませている原因になっているのだが
部下共は気づいているのだろうか
いくらただの電池とは言え
王なんだから、もう少し持ち上げてやればいいのに
「な・・・・そうですか」
音が止まる。
「ベネットさんは、そんな注意は」
「あのなぁアイツは俺と違って純粋な悪魔だ
ハンスがここで殺された方が面白くなりそうだ
位にしか思ってないぞ。味方じゃないからな」
俺がトイレに誘わなかった場合を
想像しているのだろうかハンスは冷や汗を流していた。
「聞かれ無かったら言いませんでした。殺しますけど
殺さないで下さいなんて通りません」
俺は手を洗いながら続けた。
「お前が殺された後、奴がいかにも
そう言いそうじゃないか」
「ハハ・・・ですね」
ハンスも手を洗う。
「それにまだ聞く事があるしな」
部屋に戻ると俺は椅子に腰かけ話の続きを始める事にした。
「俺へのエネルギー供給を止める事は出来ないのか」
出来ないのは想像がついている。
やれるならとっくにやっているのだ。
何故出来ないのかが知りたい。
キョトンとした顔のまま・・・もしかして
これが素の表情じゃないだろうな・・・。
とにかくキョトンとした表情で頬を赤らめ
ベネットに助け船を求めるべくベネットを見る魔王。
おいおい
本当に何も分かって無いんじゃないのか
このポンコツ魔王。
「・・・それも私から」
えーと、これも纏めると個別のスイッチは無い
クリスマスツリーの電飾みたいなもので
全悪魔への供給か停止しか出来ないらしい。
「さて、そろそろ纏めようか」
悪魔がこの世をどうするつもりなのかは知った。
後は俺をどうする気なのかだ。
「俺をどうする気だ」
二位が返り討ちだ。
魔王は攻撃力無し。
力の供給も止められない。
ひとまず身の安全は確保できた。
少々強気でもいいだろう。
「こちらには強制的にどうこうする
手だてはありませんわ・・・あなたは
その・・・・どうなさるおつもりなんですの」
逆に聞かれた。
正直に言おう。
「もう少し考える。とにかく今は無事にハンスを帰したいな」
俺はババァルの足元の影を見ながら。
ちょっとだけ殺気を出して言った。
「・・・チッ」
悪魔耳でなければ聞こえない程小さくベネットが舌打ちした。
気づいていなければ俺をどうにかする算段がどうやらあったようだ。
「ベネット君は魔王の所へ帰りたいよねー」
「その気持ちは山々なのですが、我が君
このままこの者について行く事を希望いたします」
すかさず申し出るベネット。
生殺与奪はこっちにあるが
ここで破壊するのは騒ぎになる。
持って帰って壊す方がイイだろう。
「分かりましたわ。あのよろしいのでしょうか」
魔王ー
もう少し部下に愛着があってもいいんじゃないですかー
「はぁ、じゃあお借りしますね」
なんか魔王がモジモジしはじめた
揺れる揺れるすげぇ
「あの・・・私たちの味方になって
くれるのを待っておりますわ」
「・・・その時はヨロシク」
「はい」
いい笑顔だ。
もう悪魔だし悪魔サイドに加担でイイかな
この揺れをいつも堪能できるなら
もう
それ以外何もいらないんじゃないだろうか
「あの・・・」
まだモジモジしてやがる
他に何かあるのか
「どうしました」
「何か・・・その・・・・」
「どうしました」
「あ・・・甘いモノを頂きたいのですが」
頼んだ料理は食事や、つまみなどだった
魔王も女子だ。
あの二匹の獣達と同じ女子か。
「メニューには甘味がありませんでしたね」
ハンスが思い起こしながら言う。
確かに無かったような気がする。
ざっと今日街を見て回った感想だが
この世界にはスィーツが少ない。
俺は出発の際に確保したドラ焼きもどきを
思い出し、荷物から包みを取り出すと
魔王の前に置いた。
「こんなんしか無いけど」
魔王は包みを開いてドラ焼きもどきを
取り出すと向きを色々変えながら
しげしげと眺める。
「これは・・・なんですの」
「俺のいた世界のお菓子です。ドラ焼きと言って
アンコを小麦の焼いた生地で挟んだものです」
「・・・アンコ?」
知らないのか・・・。
魔王は警戒する素振りも無く
ドラ焼きにパクつく
でかい口なのに可愛く小さく噛む
くそう可愛いじゃねーか
魔王が何かに覚醒した。
目を見開くと一心不乱に
ドラ焼きをむさぼり始める。
こいつも獣だった。
「これは・・・これは・・・」
すごいすごい
ブルンブルンさせながら
バクバク食っていく
「黒い塊なのに上品な甘み私の理想に近いですわ」
×暗黒魔王
〇アンコ食う魔王
だった。
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