第26話 酒場にて

アモンを探すとはどういう事だ。

4m級の悪魔がこんな平和な街をウロウロしていたら


そりゃもう町は大騒ぎさ


悪魔姿ではない人化した俺を探している

となると、アモンが人化している事を知っている人物になる。

思い当たる人達で今この街に来ている人物などあり得ない。

ヴィータなら探す必要は無い聖刻を使用すれば呼び出せる。

プリプラが単独で来るとも考えにくいが精霊の風の力を

移動に補佐すれば時間的には可能だが

プリプラはそこまで熟達してはいない

旅の様子を見る限り、その技術は習得していない。


単純に同名の別人。

それが一番可能性が高い。

行く必要は無いな。


「いいなぁ兄ちゃん、あんな美人が知り合いとは」


行かねば。


話しかけてきた酔っぱらいAがそう言った。

酔っぱらいBも同意し、注意もしてくれた。


「あぁ、心配だぜ。アモンに会わせてやるって

騙して、そこいらにシケ込む輩がいてもおかしくないぜ」


「美人?」


ヴィータか

聖刻がぶっこわれでもしたか


「行ってみるか。場所はどこですか」


探し人は中央の噴水のある広場で

アモンを探していたとの事だった。


俺は酔っぱらい達に礼を言うと

金貨と自分達の伝票を渡して

余った分を謝礼代わりにした。


「って、おいおい多すぎるって」


慌てふためく酔っぱらい達に

手を振ってハンスと共に急いで店を出る。

渡した金貨は実は蒸着で作成した

厳密には違法な金貨だ。

偽物と言っても

もう俺でもオリジナルと見分けがつかない。

完全にコピー出来ている。

重たいばっかりで柔らかい金は

武器としては使い道が無いのだ。

これまでの旅では価値が無かったが

人里関係なら便利だ。


「ヴィータ様ですかね」


ハンスは、そう予想しているみたいだ。

まぁアモンを探す美人ってキーワードじゃ

そう考えるわな。


「いや、これ使えば事は済む」


俺は聖刻が刻まれた辺りを指さしてハンスに答えた。


「壊れている感じはしないけどなぁ」


噴水のある中央広場。

地元の人間なら知らない者はいなかった。

そこいらの人にちょっと尋ねただけで

その場所はすぐに分かった。

そして問題の人物が立っているであろう

場所もすぐに見当がついてしまった。

 一か所だけ、不自然に人がいない。


ゲロ吐かれた電車の車内で起きる

あの現象だ。


今回の場合は汚いから近寄りたくない

では無く、むしろ逆の方向の理由だった。

近づいてみて、その人物がヴィータでない事はすぐに判断出来た。


赤いロング髪の背は高目の女性だ。

これは人違いパターンだな。

でもせっかくなので話しかける事にし

近づく事にした。


顔が判別できる距離

丁度、人垣のラインに並び、その人物を見る。


うっわあああああ

そう女

もう女女女


ヒゲや筋肉が男っぽさのキャラクター表現なら

もう、真逆の女キャラ全開

色っぽいわ


顔は美人には違いないがヴィータとはタイプが違う

ヴィータが近づきがたい高見にある高貴な顔なら

その人物は親しげを感じさせる、愛嬌のある顔だ。

目も大きくは無いが

ナニ

ひじきでも付けてんのかって感じのまつ毛の加工具合。

困ってる様な印象を受ける眉毛の形

鼻は整っているのだが高くは無い

一言で言って

ヴィータがモデルや女優なら

その人は近所で愛されている評判のおねえさん

何らかの事情で夜の仕事をしている感じだ。


顔の作りの印象とは違い

もう体が

もう

すごい

乳袋ってレベルじゃない

ボディペイントじゃないのかって感じで胸の形まるわかり

そしてデカい

巨乳を超えて奇乳とか魔乳とか言うレベルだ

そしてフィギアスケーターが着るような衣装の

あの肌色の布の部分が


生で肌

やばい


どんな作りになってるの

どうやって体にくっついてんのコレ

見る角度によっては

見えちゃうんじゃないの

ゲームキャラならジョイスティック動かしまくりで

ベストポジション探しちゃうよ

そんな感じの上に一体型のロングスカートの

下半身なんだが、スリットがチャイナドレス

もう

お店どこですか

行きますよ


「どなたかアモンさんをご存じありませんかー。」


そう言いながらキョロキョロする美女。

何も知らず迂闊に前を通る人は

なんかデバフにやられた状態になって

急ぎ足で退散する。


「知りませんゴメンなさい急いでます」


街角アンケート状態が続いている。


かく言う俺も人垣から抜け出せないでいた。

なんか

このラインが絶対防衛線だ。

どうしたものかと考えあぐねていたら


見つかった。


目が合う。

燃えるような赤い瞳が一瞬光る。

その瞬間に分かった。

デビルアイだ。

いや

それの上位互換だ。


俺を発見出来た喜び。

本当に嬉しそうな表情になると

その美人は叫びながらこっちへ走って来る。


「アモンさーん」


走って来る。

遅い。

運動神経皆無な女子の走り方そのまま

大した距離じゃないのに

まだ

こっちに来れない。


「もー探しましたわよー」


そして

すごい

胸が

すごい

走る動作で左右に揺れる

胸がすごい事になっている。

例えるなら

例えるなら

デンプシーロールを食らっている

スライム最大金冠が二匹いる

回転に入ったら止めようがあらへん


「・・・いけません」


ハンスはボソっと呟いた。

俺のインデイアナはジョーンズでも問題無いが

お前のアークは失われていなければマズいんじゃないのか

それでもいいのか聖職者。

ぜってーガバガバにチクるからな


「ババァル様!?」


俺に向けられたデビルアイ上位互換に

気づいた背中の創業祭が声を上げる。


「え・・・あれが魔王なの」


えーとナニ

魔王のランクって胸のでかさで決まるの?

でも

魔王の乳なんだから

まさに

魔乳

言葉に偽り無しだ。


大した距離じゃないのに

やっと俺の目の前まで魔王は来た。

魔王が近づくに比例して人垣が避ける。

なんかアジの群れに鮫が来たみたいな状態だ。

おいハンス

お前まで下がるなよ。


魔王はハァハァ言ってる。

ハァハァ言う声もやばい

なんだ、なんかピンク色の煙が見える気がする。

すっげーいい匂いが魔王から漂ってくる。

鼻の下をのばす

俺はこの表現の由来になる動作をついしてしまう

だって嗅いじゃうでしょ

女子だってそうしてもらう為になんか着けてんでしょ

ほっそい腕は自分の膝に当て

馬飛びの台みたいな姿勢になってる魔王

だから疲れるような距離じゃないでしょうに

そして重力に従う豊かな胸

いかん

ガン見しちゃイカン

でも見ちゃう

男の性ってやつだ。


俺は魔王の両肩に手を添えると言ってのけた


「ババァ結婚してくれ」


もろタイプだったので

つい口から出てしまったが

なんとか胡麻化し場所を変える事を提案した。


話をしようにも、とにかく目立つ

なので手近な宿に休憩でも思ったのだが

色っぽいお姉ちゃんと神父二人で休憩って


「絶対、無理です」


ハンスの強い反対にあった。

俺の服はもう変えた方がいいだろう

背中に大剣背負った神父は流石におかしい。

丁度良い機会だった、街で人のファッションを

観察出来たので良く見掛かる冒険者風の恰好に変えた。


宿は無理なので個室のある、お値段高めの酒屋を探して入る。

個室といってもパーテーションで区切られただけだが

取り合えず無関係な人の注目を集めずに済めば良かったので

そこにした。


三人とも酒は飲まないとの事なので店に気を

使い高めの料理を頼む 

話の内容が荒唐無稽な話になりそうな

気がしたので取り合えず多めに注文をして

品が揃った所で話を始める。


さて何から話せば良いものかと思案するが

ババァルから話を切り出してきた。


「・・・アモンさん」


深刻な表情だ。


「何からお話しましょうか・・・そうね

まずは急ぎの要件からお話しますわ」


探していた位だから話があるのは向こうだ。


「このお話が終わったら、どこでもいいから

逃げて下さいまし、そして身を隠してくださいな」


「何か俺に危険が迫っているのですか」


なんだろう。

総攻撃とかか


「ベネットが・・・何も言わず消えましたわ

裏切者を始末しろと命令出来ない不甲斐無い

私の為に気を使ったのでしょう。あなたを

殺しにやってきますわ」


はいはい

あの古城のコントで再現したアレね。


俺は壁に立てかけた創業祭を余っている

椅子に持って来て立てかけてやる。


「それなら、もう返り討ちにして

今、ベネット君はこのザマです。

おい、話し合いに参加していいぞ」


基本、ベネットには許可なく口をきくなと言ってある。

まぁあまり守ってくれてないが・・・。


「よろしいのでしょうか。」


こいつ面白がって黙って見てるつもりだったな

そうはさせん。


「当事者の一人だしな」


創業祭と俺のやりとりを見て

ババァルは目を白黒させている。


「ババァル様、勝手をした挙句この不始末

許しを請うにも罰を受けるにも今現在アモンの

所有物です。なんとも情けない」


ババァルは怒るでもなくキョトンとしている。

理解が追いついて無いのか

どう理解したのか嬉しそうな表情になった。


「まぁ・・・良かったですわね」


嬉しいの?


「ベネットは、いつも仰ってましたものね

【我、一振りの剣になりたい】と、夢を叶えたのですわね」


「そうだったのか、良かったなベネット」


俺とババァルはパチパチとベネットに向けて拍手をしてやる。


「それは物理的になるという意味では無いのでは」


真面目なハンス君には冗談が通じない時がある。

拍手をピタリと止めるとババァルは

またキョトンとした表情になる。


「あら、違いましたの?」


うーん

やばいな

ババァルもしかしてポンコツか


天然と、カタブツと、ひねくれものと、俺だ。


これは話しが纏まるどころか

まともに進行するかどうかも怪しいぞ。

どうします監督?

ええい、このままカメラを回せーーー


「・・・いえ、これもまた一興」


ほらな

素直に悔しがれよ。


「それでは、緊急の件はもう大丈夫ですわね」


いいの?

大丈夫なの?

ベネットこれでOKなの?


「では、次のお話ですわ」


流れた。

まぁベネット本人の希望は

このままついていくだったからな。

魔王が返せと言わないなら

無理に魔王に戻してもしょうがないか


次のお話が始まるものと構える

俺とハンス、恐らくベネットも

しかし中々口を開かないババァル。

引っ張るなぁ・・・。


「どうして・・・どうして裏切ったのですか」


俯いてしまったので表情は分からない。

俺は返事の変わりに袖をまくった。


「あーコレです」


聖刻を見たババァルは驚き目を見開き

手で口を押えると涙を見る見る溢れさせた。


「そんな・・・非道い」


んー

コレってやっぱりヒドい仕打ちなのか


「ごめんなさい。私てっきり裏切られたと

ばかり・・・最低だわ私って」 


ババァルはテーブルに手をつくと

ペコリと頭を下げた。


「神、降臨の際に何が起こったのか説明しましょう」


ババァルは真剣だった。

相手が真剣なら、こっちも真剣にならなければ失礼だ。

俺は今までの事を洗いざらい話した。

VRゲームの事は説明しようが無かったので

別世界の人間という風に説明した。


「正に奇跡です・・・ヨハン様」


ああ、そうか

ハンス君には言ってなかったっけな

凄い感動して泣いている。

ヨハンの命掛けの秘術で悪魔は去り

その体に一筋の希望である救世主を召喚した事になってる。


一方ババァルは両手の人差し指を

こめかみに突き立てて考え込んでいる。

理解が追いつかない様子だ。


つい正直に話してしまったが軽率だったか


ここで魔王が「おのれ人間め」と激怒して

暴れまわり始めたら止められないんじゃないか

人化した見た目はこんなだが

今、目の前にいるのは魔王だ。

俺より上位の存在なのだ。

現にデビルアイも俺より上位だった。

勝てるかどうか分からん。

ハンスを含め町の人々に被害無しなんて無理だ

怒って暴れ出す前に戦うなら場所を変えるように

説得しないといけない。


俺の緊張を察したのかベネットが

助け船を出してくれた。


「アモン。戦いにはなりませんので

怖い顔は止めて頂けませんか」


あ、顔に出てるのか


「いや魔王が怒って暴れ出すんじゃないかと」


「怒るかもしれませんが魔王様は戦闘力0です

騒ぎにはなっても被害は出ないでしょう」


「はぁ?戦闘力0って」


それでラスボスが務まるのか 

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