第25話 中間都市ベレンへ先行

「幻」はそのままで相手に幻を見せる能力。

ちなみに俺とベネットには効かないそうだ。

自分より上位には通じないとの事だ。


つまり聖都側に3位以上の実力者がいない場合

見破る事は不可能になる。


「四大天使が出てくるまでは無理でしょうね」


そう言いうベネットに俺は反応する。

その部下になる上位天使アークエンジェルこそ

俺がキャラメイクしたアバターなのだ。


天と炎の天使長ミカを筆頭に

才と風のラハ

愛と水のブリ

裁と地のウル


この厨二心をくすぐる設定。

悪魔側は読まなかったが天使側はしっかり覚えている。


「まだ四大天使は出てきていないのか」


「来ていれば、ここまで上手く行かないでしょう」


俺の問いに対するベネットの答えは結論からの推論だ。

ベネット自身に距離を超えて感知する力は無い

という事になる。


「全く何をしておるのじゃ・・・。」


ヴィータは誰に言うでもなく呟いた。

そいつらが来ていればヴィータはもっと安全だ。

悪魔などに頼らなくても済むに違いない。


俺としても早くこの女神を引き取って欲しいものだ。

まぁその時が最後かもしれない。

俺を殺さない

あぁは言ったが所詮、悪魔との口約束だからな。


それにヴィータがやらなくても四大天使が

こんなチャンスを逃すはずは無いだろう。

ヴィータの命令がどこまで拘束力があるか分からない。

内緒で狩りに来る事を想定して準備しておいた方がいい。


実の所、一対一の勝負なら四大天使相手でも勝てる。

ゲームの設定通りの能力である事が前提になるが

天使側は長所も弱点も熟知しているのだ。

元々はそちら側でプレイするつもりだった為

かなり真面目に事前ファイルを読み込んである。

この場合に役に立つのは想定外だったが

これは十分なアドバンテージだ。


逆に向こうは今のアモンを全く知らない。

ヴィータが情報を漏らす事も考慮してなお

まだ試していない技がいくつもあるのだ。


「幻はまぁ分かるが、磔って具体的にどんな能力なんだ。」


石化させて十字架に括りつけるのだろうか

ヒッポ〇ト星人みたく


「相手の自由を奪います。特定の事柄を禁止させる能力です」


簡単な内容ならかなり大勢の自由を奪うそうだ。

複雑な事、複数の禁止などは

内容によって使う力の残量と相談になるそうだ。

これも当然、自分より上位の相手には通じないそうだ。


「幻の能力を使い、恐らくダッソが神

ジュノが大司教、配下の悪魔が聖騎士にそれぞれ化けて

ジュノが疑う事を禁止してしまう作戦です。」


「看破のスキルや特別なアイテムでの

鑑定をそれらでパスする気か・・・・

その辺どうなんだハンス君」


ハンスは少し考えてから意見を述べる。


「ヨハン様が言えば大体その通りに

下の者は動いてしまうでしょう。」


「あっさり入城できるって事か」


「はい。残念ながら」


入るはイイ

でも、その後どうするんだ?

俺は自分の意見を言ってみた。


「記憶をいじる力じゃないんだろ

いくら姿が同じで疑う事を禁止されても

聖騎士の家族が中身が他人だと

すぐに気づくんじゃあないか」


「はい。仰る通りです」


あっさり認めるベネット。

しかし

それからの言葉に皆、驚愕した。


「なので近しい者を次々と悪魔に

入れ替えていきます。教会関係者は

言うに及ばず皇帝一族も、政治・軍事から

押さえて行けば最終的には幻も磔も

必要無くなるでしょう」


「えーなんで必要無くなるの」


プリプラ

無理にしゃべらんでいい


「・・・なんという」


ハンスはショックがでかいようだ。

ヴィータは黙っている。

俺は首を傾げる。


「そんなに上手くいくか?

聖都には勇者が居る。そいつはどうする」


レベルがいくつなのか分からないが

自称劣化版の妹エッダちゃんでもイイ線いってる。

ガバガバが、それ以上なのは間違いない。

それが3・4位より上位にいれば

まず最初でつまづく

すんなりは行かないし

敵の行動を見す見す許すとは思えない。


「勇者には看破させます」


ベネットが予想外の意見を言った。

勇者を騙す気は無いという事だ。

即答するという事は

もう勇者対策は準備が済んでいる。


「やっぱり3・4位以上の実力者なのか」


「さぁ存じません。ですが見破って頂きまして

出来ればその場で襲い掛かってくれれば

良い処刑の正当な理由になります

慎重に動く様なら皇帝を乗っ取った時点で

適当にでっちあげて」


ベネットはそこで言葉を一回切り

告げた。


「いずれにせよ処刑します」


完全膝カックン耐性がなければ

許してしまっていたかも知れない。

それ程に意外だった。

ハンスは槍を創業祭に穿つ。

もう全身全霊の全力だ。


俺は左手で槍を掴んで止める。

人の皮膚を貫通して中の悪魔の肉体に

ピリピリとダメージが入って来る。


結構イイ感じに黄金に輝いている。

やればできるじゃないかハンス君。


「なぜ、止めるのです!!」


大声だ

ハンス君にしては珍しいな。


「まだ情報を持ってる。それに

ベネットを始末して止まる事じゃない」


怒りの表情から反省の色

いや

自己嫌悪かな

ハンス君は表情を変え力を抜いた。


「これからどうするか考えようじゃないか」


「・・・すいませんでした」


「いや、勇者の側近だもんな怒って然りだ

やっぱり大事な人なのかい」


照れ・・・か

この感情は先程と違って美味しくないな


「はい」


なんだと

それでも聖職者か

畜生

リア充なのか

ちょっと処刑に協力したくなったが流石に言えない

とりあえず情報が欲しい。

早速、行動に移る事にした。


170cm級悪魔になった俺は背中に創業祭

腕でハンスの脇を抱え飛行中だ。


ヴィータとプリプラは貧しい村

バロードに留守番という名の女子会を行っている。


余り過ぎた蜂蜜の使い道に俺は餡子

まぁアンパンの中身だ

どうも小豆っぽい豆がエルフの里にあったので

砂糖の代替品に蜂蜜で作ってみた。

これがエルフの里に中々高評価だったので

壺一つ分、持って来ていた。

しかし

壺からアンコだけをひたすら

すくって食うのは絵面的どうも

なんか妖怪みたいなので

もち米っぽい物も頂いて帰り

あんころ餅を作り、ついでに小麦粉を

コネて焼いてドラ焼きも作ってみたのだ。


これが女子二人を獣に変えてしまった。


情報の為の偵察を理由に自分達の分を確保し脱出した。

あそこに居るのは危険な気がしたのだ。


バロードから中間地点の街ベレンまで一日の距離なので

ハンスを抱えて低速飛行でも小一時間で到着する。


人目に付きにくい林に着陸すると俺は人化し

ハンスと二人で徒歩でベレンに入る。


ベレンは大きな街だ。


もう都市と表現したほうが適切だろう

天然の川、二股に分かれた川を

そのまま堀の代わりに利用し

城壁で市街地は囲まれている。


その川がそのまま舟での流通経路になっていて

西の聖都、北と南の大きな都市の流通が

集まる場所になっている。


日が暮れて間もないが

貧しい村のバロードはもう睡眠タイムだ。

夜明けと共に目覚め、働き

日暮れと共に眠る生活だ。


しかしベレンは違う。

眠らない街って言うの

通りは光る鉱石や苔を利用した街灯に

照らされ、様々な店が絶賛開店中だ。

もう、なんでもある。

宿屋はもちろんメシ屋、酒場、武器屋、防具屋。

遊興も力が入っていてカジノも色街もある。


ここを治める貴族が商才にも溢れた人との評判で

どこかの国のように法律上はいけないと言いつつ

実質的には見逃されている状態だ。

もちろん裏では情報やら金銭やら天下りが横行している。


 そんな所まで、どっかの国とソックリだ。


ファンタジー世界の街のイメージそのままだ。

ここで洋食屋とか居酒屋やってれば

もう、それでイイような気がする。


街には、拍子抜けするほどあっさり入れた。

人の出入りの多さから検閲にあまり時間を

掛けていられないのだろう。

その代わり街中の警備はしっかりしている。

軽装ながらも揃いの鎧を着た衛兵が

どこでも目に入る。


来るもの拒まず、犯罪者逃がさず。

そんなスタンスなのだろう。


ベレンで真っ先に向かったのは教会だ。

来る途中の様子、聞こえてくる会話などから

聖騎士団はまだ到着していないようだ。

そんなハズは無いので確認の為にハンスは教会に行った。

流石に教会をスルーするはずは無い

来ているのかいないのかハッキリさせる。

俺も教会に誘われたのだが遠慮した

完全人化は不安なので半人化だ。

この状態で教会は色々よろしくない。

俺は教会近くの飲み屋で時間を潰す事にした。


「ここには立ち寄っていませんね」


背中の創業祭が喋った。

こんな大勢人がいる場所でなんて事をと思ったのだが

注目が集まる事は無かった。

人が多すぎるのだ。


「そういう予定だったのか」


「いいえ、予定はお任せなので

細かい日程は知らないのですが」


俺も常にデビルアイを起動させ

周囲を観察しているが、変わった様子は無い。


「滞在しているなら、こんなに美味しそうな

餌を放っては置かないでしょうからね」


最もだ。

栄えている街

人生を謳歌している人々ばかりだ

そんな幸せそうな彼らが恐怖に怯えるとしたら


かなり美味いだろう。


「居なくて残念だな。オレから逃れる

チャンスはまた先の機会だな」


「それなんですが」


皮肉を言ったつもりだったのだが

ベネットの反応は予想とは違った。


「剣のままでよろしいので、連れて行って

頂けないでしょうか」


「なんでだ。魔界に帰りたいんじゃなかったのか」


「はい。いずれは、しかしこのまま

今回の成り行きを見届けたい気持ちが

私の中で大きくなりました」


嘘はついていないようだ。

ただ「技」のベネットなので

話術や交渉も技術に含まれるならば

俺には見抜けないかもしれない


「酔狂なんだろ」


「今ならアモンの気持ちが少し理解

出来ます。あなたは面白い」


嫌な気はしないが

いい気もしない。

もっとこう

カッコイイとか言えないものか


適当に店を見て回ってから

打合せの待合場所である飲み屋向かうと

なんと、すでにハンスが来ていた。


「アモンさんこっちです」


入り口の俺を見て、

ハンス君は爽やかに大声を出す。

恥ずかしいからやめろ。


「悪い。時間潰しに色々見て回っていた

待たせちまったか」


「いいえ、丁度私も今来たばかりです」


んー

こういうのは女の子とやりたいぞ。


首尾を聞くと、なんと聖騎士団が立ち寄っていないのは

本当らしいそれどころか「神を保護した」という

情報すら教会にはいってなかったのだ。


「これは・・・もう聖都に行ってますね」


背中の創業祭は断言した。

この街に時間を掛けるより

戦略的価値の高い聖都陥落が優先されたのだ。

聖都さえ手に入れば、後はどうとでもなるのだ。


「でも時間的に不自然にならないか」


距離に対して馬車の移動速度が異常な速さになってしまう。


「神の奇跡とでも言えば良いでしょう」


疑うな。

この命令は常識的な不自然さをも凌駕するのか

いやー無理があるだろう。


「あんた、アモンていうのかい?」


隣のテーブルの酔っぱらいが話しかけてきた。


「・・・あぁそうだが。何か?」


ひと目見て酔っぱらい。

良く観察しても酔っぱらい。

念のためデビルアイで走査しても酔っぱらい。

怪しい所は無い。


「ヒック・・・あんたを探している人が居たぜ」


そいつの隣の連れも思い出した様に言った。


「ああ、アモンって言ってたっけなぁ」


・・・・誰だ?!

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