第24話 単独行ったり来たり
「やりすぎじゃ・・・最初の咆哮で数名即死者が出たぞや」
「アモンさんは、やはり凄い悪魔なのですね」
「・・・最低」
俺はパターン8【素直に謝罪】でみんなに謝った。
「ごめんなさい」
「我の見立ても甘かった。防ぎきれると思うておった」
最初の咆哮時、ヴィータは聖域を展開し
悪魔の力を無効化していたのだった。
無効化しきれる自信があってこその作戦だったのだが
俺の力がヴィータの予想以上だったという事だ。
なんにしろ一回リハーサルしておくべきだったのだ。
何事も練習は大事だ。
宿にこっそり戻って来た俺は
皆が宿から村長の家の客間に移動になった事を
宿屋の主人から聞き、村長の家に来た。
そこで冒頭のやり取りの後、
その後の顛末を聞く。
死者の蘇生は楽だったらしい
ショック死なので外傷は無く。
飛び出た魂を戻すだけだったそうだ。
楽なんだ・・・すげぇな女神。
しかし、蘇生を見逃したのは残念だ。
デビルアイで解析しておきたかった。
女神御一行ということでVIP待遇だ。
まぁVIPといっても貧しい村なので
豪華とはいかないが、金が掛からないのは
ありがたい。
今夜はこの村に滞在するという事なので
俺は許可をもらい、単独行動に移る。
「何をする気じゃ」
「畑が酷い。痩せた土地でも育つ作物の
種を分けてもらいに一回エルフの里に行く」
それを聞いた皆は何か言いたげだ。
「使いがあるなら聞くぞ」
俺がそう言うとハンスはヨハン宛の手紙を
俺に渡してきた。
様子も見てくると約束する。
女子二人は果物と蜂蜜を要求してきた。
俺は再び人目を忍んで先ほどの人目の付かない
村外れまで移動すると170cm級悪魔になる。
デフォルトサイズだとエルフ製リュックと
創業祭の鞘、これらは大きさが変化してくれないので
使いずらいのだ。
徒歩だと何日も掛かる距離でも音速で移動すると
あっという間だ。
むしろ巡行している時間より適度な加減速に
掛かる時間の方が長い位だ。
瞬時に最高速に達する事も、0距離で停止も
やれば出来るのだが、俺の肉体以外の物が
偉い事になるので、壊さないように気を遣う。
もうエルフの里が見えたので減速しながら
降下するがこのまま飛び込むと大騒ぎだろう。
どうしたものかと思案する。
歌うか。
ちょっと恥ずかしいがヒーローの歌を
大声で歌いながら里のベランダまで
ゆっくりと減速し着地する。
歌のおかげで矢が飛んでくる事は無かった。
俺は人化して挨拶する。
「どうもータムラさんに会いに来た」
エルフ達に凄い歓迎された。
ちょっと恥ずかしい位だ。
歌を聞いた子供エルフが歌いながら
次々と出てきて取り囲む。
プラプリが出てきたので俺は声を掛ける。
顔見知りは有難い、話がはやい。
「あれ、旅立ったのでは・・・。」
俺は現在地と戻って来た要件をプラプリに説明する。
「その距離を短時間で飛べるなんて」
プラプリは驚きと羨望の混じった感想を
言いながらもタムラさんのいる厨房まで
俺を案内してくれた。
「おや、旅立たれたのは・・・。」
首を傾げるタムラさんにプラプリは
先程の俺の説明をリピートしてくれた。
「なるほど・・・荒れ地でね・・・。」
俺は失礼して厨房内に入れてもらうと目的の野菜を指さす。
食った料理の中にトウモロコシっぽい物と
ジャガイモっぽい物があったのを覚えているのだ。
タムラさんは気前よく種と種芋を分けてくれた。
岩塩とってこようかと聞いたが
しばらくは大丈夫な事とベアーマン経由で
今後は安定的入手になりそうだとの事だった。
なんと交渉は続いているそうだ。
あのベアーマンの中にも話が通じる奴がいるらしい。
滅ぼさなくて良かった。
「そうだ。丁度良いいや」
交渉で思い出したとタムラさんは俺に相談を始めた。
その内容はなんと蜂人だった。
俺たちが去った後、蜂人が森の妖精宛てに
蜂蜜を持って来るようになったそうだ。
「そんな事、要求してないぞ」
「そう言ったんですけどねぇ。妖精さまに
納める供物だと言ってなぁ・・・。」
使い切れない位、持って来るそうなので
困っていると言われた。
俺は蜂蜜がベアーマンの交渉にも有利になる事を
伝え、それと合わせて必要な分、適切な供給量を
タムラさんと話し合い。時期と量を決めた。
必ず伝えると約束し厨房を出る。
その後、ヨハンの病室に見舞いに向かう。
ヨハンは思ったより元気そうで
手紙を目の前で読んでくれた。
内容は単純に経過報告だった。
その後、目の前で返信をしたため
手渡された。
偽装聖騎士団に対する対応策関係だと言っていた。
エルフの里を出た後、蜂人の巣まで行き供物の件を女王に伝えた。
ここでもすごい歓迎だった。
全員ひれ伏している。
森の妖精すげぇ権力だ。
なんだかんだで時間が掛かり
戻ったのは夕刻になってしまった。
「ただいまー」
ほんの数日なのに懐かしさや
深い親交を感じたのは色々濃い出来事が
多かったせいだろう。
何年も勤めた工場の連中より
エルフ達の方が愛おしく感じる。
時間よりも密度なのか
逆に言えばリアルの俺は
本気で向き合っていないのだろう
元の世界に戻ったら、ちょっと
付き合い方を変えてみようかと思った。
「戻ったか」
「お帰りなさい」
「おかー」
背中のリュックを下ろし、依頼されていた品物を女子二人に渡す。
二人は早速フルーツ蜂蜜和え作成に取り掛かる。
どんだけ好きなんだ。
ヨハンからの返信をハンスに渡すと
俺はそのまま、ヨハンと話した事を
ハンスに説明する事にした。
「聖都には偽聖騎士団は入れない・・・ですか」
俺の言葉を繰り返すハンスに俺は力強くうなずく。
「ああ、なんでも・・・」
ここからが大事だ。
「大司教クラスの目を誤魔化す程の
変化は悪魔には出来ない、と俺の
目の前で断言してたぞ。俺の目の前でな
そりゃあもう自信たっぷりのドヤ顔で」
「その辺で許してあげて下さい」
こめかみを押えるハンス君。
元気そうだったのは事実だ。
威厳に満ち満ちていた。
あれが普段のヨハンなのだろう
俺が見たヨハンは普段とは違う
例外的な状況ばかりだった。
「・・・同様の事が書いてありますね。」
ヨハンの手紙に目を通すハンス君。
「いや、ヨハンの言う通りではないか
こやつの変化は特別じゃぞ」
横からヴィータだ。
どうでもいいが、食いながら喋るな。
「いえ、見破れないと思いますよ」
今度は背中からだ。
復活したベネット、インテリジェンスソードと
なった創業祭が喋った。
俺は背中から創業祭を壁に立てかけてやり
皆に良く聞こえる様にしてやった。
「かたじけない」
「お前、悪魔のクセに丁寧だよな」
「いえいえ、下級悪魔のほうが見かける頻度が
多いせいで下品なイメージが先行しているようですが
本来、悪魔は親切丁寧、信用第一です」
「そうなのか」
「ですです。考えてもみてください。
願いを叶えて魂を頂く。これは契約です。
信用してもらわねば始まりません」
「だな。」
「しかも飛び込み営業です。
友人のように長い年月を共に過ごして
得た信頼とかありませんので」
「欲に目の眩んだ人間が呼び出すんじゃないのか」
「そう言う儀式を行える知識のある方も
もちろん居られますが少数ですな。
こちらから探して営業を仕掛ける方が多いのです」
いわゆる、魔が差す・悪魔が囁く
そう表現される現象なのだろう。
人間の方も怪しいと分かっていながらも
託すワケだから、信頼を得る話術・交渉術に
長けるのも頷ける。
「私に言わせれば、神の方がよっぽど
いい加減で適当で感情的な俗物ですよ」
「なんじゃとー貴っ様ぁー」
早速、感情的になってるヴィータ。
俺はいい加減で適当な俗物の口を塞ぐと話を戻す事にした。
「話を戻そう。見破れない確信の根拠を教えてくれ」
くそ、口の周り蜂蜜だらけじゃ無ぇか手がベタついて不快だ。
俺はすかさず、もう一方の手でポケットから
ハンカチを取り出すと悪魔光線とは反対の力を込める。
悪魔光線は熱線だ。
物体を構成している原子。
中心の原子核の周りを周回している
電子の回転速度の速さ温度だ。
これが停止する速度が低温の限界
良く言われる「絶対零度」アブソリュート・ゼロだ。
どっちも厨二心をくすぐる言い方なので
好きな方で呼ぶといい。
現実問題として絶対零度は理論上の存在で
電子の動きが停止する事は無い。
そのまえに崩壊してしまうのだ。
限りなく近づく事は出来ても決して到達しない。
悪魔光線は逆で電子を加速させる。
電子の質量をゼロと考えるならば
高温には物理上限界点は無い事になる。
しかし、これも物体がプラズマ化を経て
崩壊に至る。低温と違い原子の種類で崩壊の
温度はまちまちだ。
悪魔の体を構成している金属粒子、これを
加熱しプラズマ化させ光線として打ち出す。
これが悪魔光線だ。
色々試してみたが最低でも6000度
これ以下だと光線になってくれない。
もっと低温で発動する金属があれば
出せるかもしれない。見つけたら是非
体に取り込みストックしておきたい。
悪魔光線は便利だが、威力が強すぎて使いどころが難しい。
それとは逆の力。
つまり電子速度を落として低温を生み出す技だ。
これが実は苦手。
というか加速させる方が簡単なのだ。
元の世界でも暖は太古から人類は取っていたが
冷房は科学技術が発達してからだ。
俺は出来なくは無いのだが
攻撃力に至る程の低温は出せない
出せるまで時間もかかる上
労力に見合わない威力になってだろう。
それでも生活程度ならば便利なので
今回は手の平を低温化させ結露させ
空気中の水分を集める。
氷を入れたグラスの周りが濡れる
あの現象だ。
そうやってハンカチを濡らすと
ヴィータの口の回りを拭いてやる。
ヴィータは抵抗せず、どちらかというと
気持ちよさげに、されるがままになっている。
もちろん、その後自分の手も拭う。
「聖都に向かった部隊。その中にいるのが
魔神13将序列3位・幻のダッソと
4位・磔のジュノ、この二人なのです」
力強く、ドヤ顔で・・・顔は付いていないが
ベネットは言い切った。
どうだと言わんばかりだが俺達はポカーンだ。
「誰じゃ。」
「魔神13将序列3位・幻の」
繰り返そうとするベネットに俺は能力の説明を要求した。
「どんな力を使うんだ、その二人は」
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