第23話 バロードの村に到着
「動く・・・のですか」
槍を構えるハンス。
治療の時と違い聖属性の輝きが弱い
根本的に攻撃には向いていない性格なのだろう
「この剣は悪魔の体の一部から作られてはいる
皮膚を変化させたもので単独では動かないが
力の根源たる魔核をセットしたら勝手に動ける
かも知れない」
翼ほどではないが他の部位でも重力の
制御はある程度可能な事は体感で知っている。
「動く素振りを見せて破壊して頂くのも一つの手ですかね」
創業祭、ベネットが喋った。
俺のイメージで声帯を作ったので元より
喉太い声になってしまった。
柄の部分に加工した口がパカパカと
魔核の光の点滅に合わせて動く。
槍に力を込めるハンス。
緊張が伝わる。
「インテリジェンスソード!」
雰囲気をぶち壊しにしながらプリプラが狂喜する。
小梅、お前なら分かってくれると信じていた。
ファンタジーはこうでなくっちゃあな。
俺はハンスを手で制して創業祭に話しかけた。
「さっきの続きだ。魔王はどこだ」
ヴィータが西の端、聖都を目指すように魔王は
反対側の東に魔都とでも呼ばれる拠点でもあるのだろうか。
そもそも降臨はいつ、どこだったのだろう。
創業祭は淡々と疑問に答えてくれた。
降臨はなんとヴィータの洞窟と同じ場所だった。
魔王ババァルは降臨すると直ぐに転移を発動した。
ヨハンが聖属性の秘術を使っていたせいで本能的に
ほぼ反射で使用したのではとの創業祭の予想だ。
この時に壁を含む球状の転移のせいで
洞窟内の構造が急変し崩落に至ったのだろう
遠ざけたいと魔王が願望したせいでヨハンは
森の中、単独で転がされたワケだ。
そこにエルフが通りがかったという流れだ。
神と聖騎士団に偽装し、あの廃墟の城で
魔王と護衛で東に向かうグループと分かれたそうだ。
あのコントは現地で再現されたのか。
「つまり魔王はもう東に到着してる感じか」
悪魔の飛行能力なら一日で大陸を横断出来る。
こちらと違って人の移動速度を気にする必要は無い。
「私は魔王の憂いを晴らすべく単独で女神討伐に動いた次第です」
「で、その有様か。大勢で来れば良かったのに」
そうは言ったが、事実ベネット一人で事足りた。
あの時、連れ去らずにヴィータを亡き者にしておけば良かったのだから。
「警戒され発見が困難になる事と聖騎士の集団が
偽装だと人間共にバレてしまう
この二つの理由から大群という選択はありませんでした」
魔王に会いたかったが、今の段階でPTを抜けられるはずもない。
ヴィータの話を信じるなら俺は聖都には入らないで良いので
近くの街まで護衛して引き渡してからだな。
「うーん、一回ババァルに会いたかったな」
俺の一言に皆、驚愕する
「ババァルじゃと?!」
「ババァル?それは本当なのですか」
「やっだーババァルって最強じゃない」
「様をつけて呼んでください」
俺はベネット以外の三人に「そうらしい」と返事をした。
「よりにもよって暗黒魔王じゃとは、我とは相性が最悪じゃ・・・。」
なんでも豊穣の効果は全て打ち消されるらしい
俺に言わせればヴィータの格が低いから
輝きが足りないだけじゃないかと思ったが
黙っていよう。
降臨のカラクリを知っていない者達には
かなり残念なお知らせになってしまった。
ハンスは落ち込むヴィータを勇気づける
「神だけに頼るのではなく皆の力で勝利しましょう」
ハンス君、それってヴィータにダメ出ししているのと同意だぞ。
でも、これが言い方ぁって奴か勉強になるな。
「えー」
こいつはいつも通り「えー」しか言わないので
これまで通り放置しよう。
俺は余裕だ。
降臨のカラクリを知っている事と
魔神13将の1・2位がここにいるのだ
2位がこの程度なら3位以下も問題にならない
もう相手は飛車角落ちの状態だ。
問題はババァルだけだ。
アモンサイクロペディアには
「苦手」と一言だけしか書いてない。
シンアモンさんは筆不精だ。
これでどう戦えと言うのだろう
一夜明け旅を再開した。
中間の町、ベレンまで二日の距離
久々に村、というか初の人里に到着した。
バロード村
一言でいうと貧しい村だ。
荒れ地にあるせいで農作物はロクな物が採れない。
何故こんな所に暮らしているのか
正直理解出来ないが、思えば人はどこにでもいる。
前の世界でも、ほとんど氷しかない土地でも
アザラシやクジラを食いながら生きている人
砂しかない土地に日中は50度という土地でも
人はそこで生きていた。
宿は質素ながら存在したのでエルフの里で
貰ったモノをいくつか金に換え宿代その他を工面した。
「これが・・・硬貨か」
「なんか作りが雑ぅ」
俺とプリプラは硬貨を初めて見たのだ。
エルフの里では使用されていなかった。
ベアーマンや蜂人は言うに及ばずだ。
医者らしい医者もいなければ
当然、治療の施設もない。
村人の健康・衛生状態はひどい状態だった。
ハンスとヴィータは村の中央の広場でボランティア活動を始めていた。
俺とプリプラは、その間に宿の手配その他、買い物などをこなす。
その帰り、宿に行く途中で広場に寄って
ヴィータに聞き込みで得た情報を伝える。
「やはり偽聖騎士団はこの村には立ち寄っていない」
「そうか・・・ならば実行じゃ」
「・・・・なぁ本当にやるのか」
力強く頷くヴィータ。
俺は肩を落としプリプラの元まで戻る。
「やるんだって」
「がんばってねぇ」
楽しそうだ。お前はイイけど俺は
「えー」だよ・・・。
宿に戻ると俺は創業祭だけ持って人目を忍んで村外れまで移動する。
「神の布教は大変な手間ですな」
「いや、コレは違うと思う。こうじゃない」
背中のベネットは呑気だ。
まぁ恥ずかしいのは俺だけだ。
村外れまで移動する最中に畑をチラ見したが
やる気があるのか疑いたくなる。
こんな痩せた土地なのだから、もっと荒れ地でも
よく育ってくれる。トウキビとかジャガイモ系を
植えれば良いものを・・・って無いのか?
これは、なんとか出来るかもしれない
茶番が終わったら単独行動にしよう。
村外れで4m級の悪魔になる。
創業祭も同率で大きくなってもらい
ヴィータに聖刻を介して合図を送る。
返事が来たらGOだ。
こなければイイのにと思っていたが
GOサインが来てしまった。
あーやだ恥ずかしい。
覚悟を決めて俺は翼を起動させる。
一瞬で村の上空、広場の上あたりまで来ると
俺は半ばやけくそ気味に叫ぶ。
ええい、もうなるようになれ。
「フハハハ!愚かな人間共よ。」
すんごい注目度だ。
村人全員じゃないの
みんな俺を見上げている。
ガチのタンクがヘイト取ってるみたいだ。
邪気っていうの
悪魔力のオーラ全開で叫ぶ俺。
加減がよく分からない
怖がってもらわないと困るので全開だ。
昼なのになんか薄暗くなっちゃってるし
ゴゴゴワァとか大気が震えてるし
木々は見る見る枯れていくし
すごいなコレ
「我こそは魔王軍幹部、コグレ様だー
貴様ら全員を血祭にあげてやるわー」
爆笑されたらどうしようと恐れる俺の
予想に反し、村は一瞬で大パニックに陥った。
気絶する者、半狂乱になる者、泣き出す者
もう阿鼻叫喚だ。
「アモン・・・人間相手にやり過ぎでは」
ベネットは呆れ気味だ。
だって加減が分からないモンしょうがないじゃん
次はもっと上手にやります
いや
今回だけで勘弁してほしい。
「それより・・・どうだ、この恐怖
美味いかベネット?」
村人達の恐怖が俺に流れ込んできているが
正直、大味でマズい食い物が量だけはある
そんな印象を感じていたのだ。
これならエッダちゃん一人の方がイイ。
あれは実に美味であった。
「いいえ、全く食指に反応いたしません
私の趣味では無いですな。低級悪魔なら
この程度でも満足するでしょうかね」
「フム・・・この恐怖を作ったのは誰だー状態か」
「あなたですよね」
ああ通じないか。
だよね。
そんなグルメ談義に花を咲かせていると
群衆の中から敢然と名乗りを上げる者がいた。
「悪魔め貴様の思い通りにはさせないのじゃ」
もうノリノリのヴィータ様だ。
プリティでキュアキュアな戦士の様に
ポーズを決めて校長が乗る台みたいなのに
キメッ決めで立っていらっしゃる。
やべ笑いそう
堪えろ俺。
「なんだ小娘、貴様何者だー」
本当
何者なんですか
「我こそは12柱が一人、豊穣の女神ヴィータなるぞ」
「みなさん大丈夫です。私と共に祈りを」
ノリノリのヴィータと対照的にハンスは
真面目に一生懸命だった。
こんな馬鹿げた企画なのに
本当にハンス君は真面目な人だ。
「フハハハ村人共々、食らってやるわー」
「そうはさせぬー女神びーむー」
ビームって言ってもビームでは無かった
物凄い遅い、でもまぁこの場合は
見えやすく分かりやすいのが一番なので
これでイイのだ。
ほぼ光速で刹那の瞬間だけの光線など
通常の人間には何が起こったのか理解できない。
しかしこれは、 すごい速度が遅いが、神力の塊だ。
まともに食らうのは、これはヤバい。
かと言って躱すワケにもいかない。
ちゃんと食らって負けなければいけないのだ。
それも分かりやすくだ。
プロレスは格闘技とはまた別の才能がいる。
俺は咄嗟に創業祭を盾代わりにして
デビルバリアのタイミングを合わせる。
「ぬぅうううううわーーー」
パパスの断末魔を参考にして
命中と同時にダイナミックに吹き飛ばされる。
飛んだのではなく
吹っ飛ばされた感じになるのが重要だ。
ふっとんだ先でデビルフラッシュ
それに合わせて火薬の詰まった玉に着火。
偽の爆発ドーン
これでやられた様に見えるはずだ。
流石にアム〇相手には無理だろうが
村人なら胡麻化せるだろう。
ヴィータ考案
布教大作戦だった。
完全なマッチポンプの猿芝居
騙した訳だが、これで獲得できた信者に
価値はあるのだろうか
疑問だ。
しかし女神びーむ
なんて馬鹿げた威力だ。
デビルバリアを簡単に突き破って
創業祭に直撃だった。
「スマン。生きてるかベネット」
「アハハ、大きい...彗星かな。イヤ、違う、
違うな。彗星はもっとバーって動くもんな。」
いかん
壊れたかも。
出展
パパス ドラゴンクエスト5のNPC。プレイヤーの父親で個性的な断末魔を残し退場する。
アハハ、大きい...彗星かな。 機動戦士Zガンダムの主人公。個性的なセリフを残し表舞台から退場する。
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