第20話 一体何が始まるんです

かつての戦で廃墟になった城。

今は誰も居ないその城の一室に

ヴィータは腕を鎖に繋がれベッドに横たわっていた。

大粒の涙を大量に溢れさせ嗚咽している。


「うっ・・・私、汚されちゃ・・・った」


その言葉に敏感に反応した悪魔は

椅子に座ったままテーブルを叩く。


「何もしてないでしょうが。人聞きの

悪い事は言わないで下さい」


寝たまま首を起こすヴィータは

涙をピタリと止め、憤慨するベネットを見る。


「練習じゃ。アモンが来た時のな」


「・・・・どんな効果が?」


「おのれーよくもーとなって

秘めた力を開放するイベントじゃ」


「はぁ・・・」


むっくり体を起こすと鎖をジャラジャラさせ

座ったままベネットに近づく。


「それより今のどうじゃった?

ぐっと来るかのう」


「・・・・ダメです。」


ダメ出しだ。


「なにぃどこがイカンのじゃ。」


食ってかかるヴィータに

冷静に解説をするベネット。


「元気そうですよ。ボロボロ泣くより

ぐったりとして一筋の涙の方が良いのでは・・・。」


何をアドバイスしてるベネット。


「フムフム。こんな感じかの」


ヴィータの大きな瞳は光を失う。

いわゆるレイプ目になった。


「・・・・アモン・・・許して」


一筋の涙が「て」のトコロで頬を伝う。


「あっーーーいいですね。ぐっときます」


ぐっと来るのか

でもそれ

お前の趣味だろ。


「ではこの【パターン2】で行こうかの」


ウキウキしているヴィータを冷めた視線で見るベネット。


「しかし、よくもまぁ自在に涙を流せるモノですね

呆れると言いましょうか感心すると言いましょうか」


「は?女子おなごなら誰でもこの位は出来るぞや」


「・・・嘘だ」


「嘘なものか、古来より涙は女の武器となり

男共を操ってきたのじゃ」


何を当たり前の事をとでも言いたげなヴィータに対し

ベネットはショックを隠せない様だ。

小さな声で呟く。


「・・・あのお方は違う」


その小さな呟きをヴィータは聞き逃さない。

玩具を見つけた子供の様な顔になる。


「いや、違わないぞや。オヌシもそやつに

操られているのじゃ」


「ははは、戯言を彼女は私が見ている事を

知らないのだよ。誰にも見せない様に

隠れて泣いていた所を私は見てしまったのだから」


何故か勝ち誇るベネット。


「ははは、知らぬハズなかろう。オヌシが

来るまで涙溜めて待っておったに決まっておるわ」


何故か勝ち誇るヴィータ。


「・・・バカな」


「やってみせようか。その時はどんな状況じゃった」


思い出す様に考え込むベネット

付き合いがいいな。

状況をバカ正直にヴィータに説明する。


「丁度、位置的にはこんな感じかの」


そう言うとヴィータはベネットに

斜め45度位の向きで背を向ける。


「これで涙が見える角度じゃ・・・・」


右手でベットの金属性の支柱を指さす。


「鏡でも良いが映り過ぎじゃの

あの柱ぐらいで丁度良いな、誰だか

判別さえ出来れば良いのじゃからして」


その柱には若干、比率が縦に伸びた

ヴィータとベネットが映り込んでいる。


「あれを見ながらオヌシを待つ

その時と同じように動いてみよ」


言われるがままに席を立ち

思い出しながら歩くベネット

もうコントだよ。

彼女にハッと気が付く演技をする。


「セリフはこんなトコロかの

・・・私・・どうしたらいいの。」


大粒の涙が、どうやってやったのか

光りながら頬を伝ってポタリと落ちた。


ガーン


音を付けるならこんな音か

衝撃を受けたベネットは

大口を開け白目になり

ブルブル震えだす。


「・・・うそだ」


得意げな顔でベネットに振り返るヴィータ


「どうやら図星だったようじゃの」


「・・・・違う」


「違わない。涙は見せてナンボじゃ」


「ヤメロ・・・だまれ」


「オヌシは彼女とやらにいいように騙されたんじゃ」


「嫌だ!俺は信じない!!」


「今こうして動いている事が何よりよりの

証拠じゃ、彼女の望みを叶えるべく独断で

オヌシは動いたつもりじゃろうが全て計算づくの・・」


「黙れダマレだまーーっれ」


感づかれない様に人化して気配を殺し

部屋の様子を伺っていた俺だが

突入する事にした。


もう限界だ。

ベネットが。


「やめろベネット。その女と長時間の会話は危険だ」


部屋に飛び込んできた俺に驚く二人。


「アアモン!」


ベネットは泣いている。

可哀そうに・・・・。


「来いよ・・・ベネット。人質なんて要らないだろ」


自分でも驚くほど優しい声が出た。


「ああ、要らねェ。こんなの要らねえ」


ヴィータはお尻を左右にフリフリしながら

定位置に戻ると仰向けに倒れる。


「・・・私、汚されちゃった」


この状況で【パターン2】を実行に移す

その鉄の精神には敬服するが

そのポーズはベアーマンを思い出して

イライラが過熱する。

「元から真っ黒だ。

終わるまでそこで転がって待ってろ」



出展

来いよベネット 伝説のネタ映画「コマンドー」でのセリフ


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