第19話 敗北で知る事もある

俺は悪魔化してバックステップで距離を取る。

悪魔光線を放とうとする俺だったが

その瞬間ベネットは左手から何かを宙に放った。


多分、小石か何かだったのだろう

悪魔光線はその小石に当たる。


 やられた


俺の悪魔光線は読まれていた。

視線で捉えたモノに飛んでいく悪魔光線の

特性を知っているのだろう。

ベネットは上手に俺を視線誘導したのだ。


間合いを詰めるには十分すぎる隙だった。

もう避けられない。

仕方ない、初手は譲るか。

まぁ耐えられるだけ耐えてみよう。

大剣が自分の体を切断していく感覚を味わう。

脳内処理速度が速すぎる。

体の反応速度を上回っているため

分かっていても体がついて来ないのだ。


今度、磁気でコーティングしよう


「魔核を切った・・・終わりだ」


はぁ?

何言ってんの


そう思った俺だが、意味は一瞬で理解した。

神経が全て切断されたかの様だ。

体の感覚が無い。

見れば切断された胸の切り口から

なんか真珠のでっかい奴みたいなのが

真っ二つになっているのが見える。


これがナニ

魔核って言うの


「あまりに無防備なので何かの罠なのかと

警戒していたのですが」


力が全く入らない。

視線が下がる

膝をついたのだ。


「フン、本当にこれがアモンだというのか」


ベネットはそう言うと、翼を展開し俺を飛び越していく。

振り返りたいが動かない。

感覚を失いつつある聴力だったが

俺の後ろで暴力が行われているのが

聞いてとれた。


逃げ切れないよな

ヴィータの聖属性攻撃に期待するしかない。


「思ったより簡単に済みました」


俺の目の前にベネットは再び飛んで戻って来た。

鎖で、がんじがらめにされたヴィータをぶら下げている。

さながら獲物を仕留めたハンターのようだ。

事実そうだ。


おい、やめろ俺達と違って脆い

呼吸だってしているんだ。首に絡んでいる

鎖は緩めろよ


俺はそう叫んだつもりだが

もう声は出なかった。


ベネットは乱暴に鎖を引き上げ、自分の顔の

位置に来るまでヴィータを持ち上げる。


「無駄ですよ。神である以上、この鎖の

束縛からは自ら逃れる術はありません」


ヴィータの顔色は既に土気色だ。

なのか?

それとも俺の視力がもう色を再現できないのか


「このまま食ってしまいましょうか

それとも目の前で汚して差し上げましょうか」


最後の方は上手く聞き取れなかった

視界もブラックアウトしていく

指先から俺は砂になって崩れていく


 ベネットの笑い声が遠くで聞こえた。


気がする。


もう、分からない




負けだ

終わりだ


『助けて』



失われた五感

それ以外の感覚で

それは確かに俺に伝わって来た

生き残った器官があるのか


『助けて』


とっくに砂になった腕

もう失われたはずの腕から

それは伝わってくる

聖刻だ

俺以外の力だ


『助けて』


ヴィータ

聞こえるか

聞こえているのか

俺がわかるのか


『助けて』


分かった

待ってろ

ここから

なんとかする

ちょーっと待ってろ

必ずなんとかする

お前を助ける


『・・・助けて、新一!』


・・・

そら

確かに

最強の生存フラグですけど


俺は死ぬ事にした。


暗闇の中俺はどこまでも落ちて行く。

そうは言ったが明暗が感じられないから

暗闇と言っただけだ。


落ちるというのも表現だけで、

実際は上も下も分からない。


俺は死んだのだ。


くそったれ

なんて人生だ。

勉強も運動も才能が無かった。

彼女も出来ない。

就職も思ったトコロには行けなかった。

努力が足りない?

自己責任?

ああ

そうだよ

上手くいった奴らはみんなそう言う

勝てばイイだろ、と

あほか

勝つのは一人だけで

後はみんな敗者だろうが

多数決で言えば

勝った奴がマイノリティだろ

例外が偉そうにナニ言ってんだ。


【・・・。】


せめてゲームぐらい

好きに出来たってイイじゃないか

くだらない現実を相手に

自分を殺して忠実に仕事してきた。

その代りにゲームでは好きに自由に出来た。

そのゲームですらこの扱いかよ。


【もしもーし】


なんて哀れで

みじめな生き物

〇ウシカが

そう言ってそう


【おーい】


うるせぇー

死んでんだよ

静かに逝かせろよ


【悪いが死んではいない】


「・・・え、そうなの?」


【そう思ってくれたお陰でこうして

意志疎通ができるようになったのだがな】


「えーと・・・どちら様で」


そう言いつつ

俺は相手が誰なのか分かっていた。

そう気が付いた瞬間

俺は暗闇の中で形を取り戻す。


【アモン・・・は既にお前の名になったな】


暗闇の中で仰向けの俺

背後に黒い太陽。

闇の中に更に黒い太陽って変な表現だが

他に言い表せない。


【困った・・・俺は他に名を持たぬ】


「前のアモンさんですよね?」


【そうだ。お前に支配権を奪われる前のアモンだ】


「真のアモンさんって事でシンアモンで

イイじゃないでしょうか」


【うむ、それで行こう。シンアモンだ】


シンアモンさん

・・・なんかトンチが得意そうな

小坊主の友達のお侍さんっぽい


「俺が死んでいないっていうのは

どういう事ですか」


【そのままだ、こうして会話している】


「なんか魔核を破壊されて終わりって」


【そう言われてそう思っているから

こうなっているだけだ】


「思い込みっすか」


【そうだ。魔核なら以前に既に破壊されていた】


「・・・・。」


【俺が支配権を持っていた時、人間の術者相手に

壊された。完全に油断していたなあの時は】


対ヨハンの時か・・・。


【そこにお前が界外の力で侵入してきて

あっという間に魔核を再生し支配権を取った。

お陰で魔界に帰り損ね、体も自由にならず

今に至る】


ログインの時か


【あの力は、なんなのだ?中から見ていたが

お前は神でも悪魔でもないただの人間にしか見えん】


「あ、はい。そうです」


【とにかくお前にとって魔核とは自らの心臓では

無く、ただの材料だ】


「そうなんですか」


【あの蒸着とかいう技でくっつくぞ】


「いいのか、そんな簡単で」


【というかこのままでも問題無い

一個であろうが複数に分断されようが

用を成せばイイ様だ。お前の場合はな】


「・・・用を成す・・・ですか」


黒い太陽は少し怒って言った。


【とにかくだ。ベネットに敗北は許さん

もう負けないのは分かるな】


そうだ、シンアモンの言う通りなら

もう敗北は無い。


【俺はもう魔界に戻る】


「お疲れ様でした」


【・・・。】

「・・・。」


【許可しろ。お前が支配権を持ってるんだ】


「ああ、すいません。許可します」


【・・・おぉ、やっと帰れる】


パソコンの管理者権限みたいなモノか

分からないせいでシンアモンさんには

窮屈な思いさせてしまったな。


【記録のコピーを残していく戦闘はソレに従え、

それだけでベネットに遅れを取る事は無い】


「ありがとうございます。」


【短い間だったが貴重な経験をさせてもらった】


「こちらこそです」


【過去に例の無い状態だお前は新種になるかもしれん】


「新種・・・ですか」


【悪魔(Devil)でもあり人間(Man)でもある】


シンアモンさんは少し考えてから言った。


【悪魔人間(デビルマン)となるな】


考えた割にそのままですね。


【行けぃDevilManよ!】


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