第18話 黒い剣士

翌朝

俺達は大勢のエルフに見送られて里を後にした。


風呂の一件は「水浴び」が出来るという事で

そのまま有難く使わせてもらう。

と言われたのだが勝手に施設を作られるのは

困るとも言われた。


ただヨハンは残るので風呂としても活用したいとも

長は言ってくれた。


ヨハンはまだ(もう かもしれない)旅が出来る

状態では無いという事で里に居残りだ。


ハンスと固い握手をし、何やら話していた。

悪魔耳で聞く事はしなかった。

どうせ女神をくれぐれもヨロシクって辺りだろう。


エッダちゃんは途中まで同行だ。

故郷の村は聖都との道中では無いそうだ。


で、結局プリプラはついて来た。

「里にいても太郎に会えない」という事だそうだ。

まぁそう言うなら、それでいいですよ。


なんかベアーマンは放置で良かった気がする。

徒労に終わった感じだが仕方がない。

蜂蜜は収穫だったが喜んだのは俺以外の人達だしな。


エッダちゃんが同行している間は悪魔化出来ない。

戦力的に不安だったが

思いの他エッダちゃんは強く(失礼)

道中に遭遇した魔物はエッダちゃんだけで片付いてしまった。


うーん、レベルが知りたいぞ。


二日程で森を抜け、そこでエッダちゃんとはお別れだ。

プリプラとすっかり仲良くなってしまっていたので

別れ際は二人で抱き合ってわんわん泣いていた。


森を抜けると平野だ。草原に道が走っている。

たまに馬車とすれ違う。

馬はこの世界でも普通に馬だった。


悪魔化して担いで飛行は昼間は目立つので

夜になってからだった。

一気に距離が稼げるが思っていたより

互いの負荷が大きく、消耗よりも痛みのせいで

俺もヴィータも「もうやだ」と言い出した。

ハンスとプリプラは力関係無く単純な

乗り物酔いでダウンした。


草原を抜け、荒れ地に入る手前で野営する。

火を起こしてメシの準備をしていると

ダウンから回復したハンスが手伝ってくれた

残りの二人はまだテントで倒れている。


「南側に見える峡谷なんですが」


ハンスの視線の先を見る。

元の世界で言うアメリカの

グランドキャニオンのような地形だ。

背の高い岩山で頂上が平で広い。

それがいくつも連なっている。


「あの中に滅んだ、とある王国がありまして

なんでも城は毒沼に沈んだそうですよ」


「地下から毒が沸いたのか。それとも何かと戦っての末か」


「聞いた話では前回の降臨時に悪魔によってだそうです」


「うーん、俺にも出来るのか。いや意味が無いな

悪魔光線で全て破壊した方が楽だ」 


特に含みは無いようだ、単なる観光案内的な

意味合いで教えてくれたのだろう。

「そうですね」と笑うハンス。

俺を疑ったり、また責めたりするつもりでは無いようだ。

むしろ俺の方が敏感になっているフシがある。


「ぬぉー腹が減ったのじゃ」


もそもそとテントから出てくるヴィータ。


「復活したか」


「おはようございます」


いや、おはようは変だろハンス君


「メシじゃ、メシをー」


こいつには救済者メシアじゃなく

飯屋の方が大事なんだな。


食事は出発当初とは違い、味が豊になっていた

エルフの里で様々なスパイスを入手出来ていた。

出発して三日目だが、もう肉肉肉だ。

エルフの里ではお目にかかれなかったせいで

皆、肉に飢えていた。

大学のラグビー部かってくらい食いまくっている。


プリプラを呼んだが、まだ乗り物酔いから

再起動出来ずにいた。「絶対に残しておいて」と

言うとパッタリ倒れる。


なので三人で夕飯だ。


「エッダの言う、聖騎士団一行にはまだ

追いついていないのじゃな」


俺たちは本命に見せかけた偽装の女神護衛団だと

エッダにはでっち上げで納得してもらっていた。

「わふー手が込んでいますね。」と素直に騙されてくれた。

本当にいい子だ。


「エッダさんの良く言われる【わふー】は何なんでしょうか」


「知らん。姉のガバガバは言わないのか」


「言いませんねー」


首を横に振るハンス。

勇者ガバガバが言わないのであれば

勇者の家系の伝統というワケではなさそうだ。

単純にエッダの口癖だろう。


「聖騎士団があの洞窟の悪魔の偽装なら

徒歩じゃ追いつかないだろうな。」


話を戻しながら俺は考えを言った。


「全員飛行ができるからなー不自然じゃない

移動距離で夜に一気に移動して昼に町に入る」


「だとすると4日後あたりには中間の街ベレンに

到着するでしょうね」


聖都バリエアを首都とするバルバリス帝国。

大陸の西端にあるバリエアから中央の山脈まで

帝国の領土だ。

バリエアから例の洞窟のおよそ中間に位置する

大きな街ベレンは一日50km~60km移動で

10日程の予想だ。


俺たちは移動速度を気にする必要は無いので

夜一気に追い越す事も可能だ。


「鉢合わせするより先んじて聖都に入りたいな」


俺の意見に大きく頷くハンス。


「ええ、こちらにはヨハン様から預かった大司教の

証と何よりヴィータ様がおられます。」


先に入られ信用を得られ、俺達を偽物扱いして

味方にお尋ね者にされるのは避けたい。

ただ相手が俺なら、その前に見つけて始末する。

その方が確実だ。


これからの四日間のうちに襲撃がある可能性は

非常に高い。


翌朝、荒野を進む俺達。

道という道では無いのだが

馬車が通った所は石などがどけられて

自然と道になっている。


進む俺達の前に一人の男が佇んでいた。

背は低くも無く高くも無い。

背中にクロスさせた二本のロングソード

剣士なのに鎧や小手の類は一切装備していない

メットも被っていない頭部がむき出し

黒髪に白い肌、端正な顔立ちは女性と見間違う程だ。

そして何より黒いロングコート!


あいつだ


「たけし・・・アレって・・・。」


小梅の奴も気づいている。


「ああ、間違いない」


どんなオンラインゲームにも1000人以上いる

一人見かければ、その周囲には

30人は居ると噂されている。


素早さが売りの黒いアイツ!


「このゲームにも居ると覚悟はしていたが・・・」


そう


キリトくん だ!!!!


「やっだー・・・えーでも隣にアスナさんがいないよ」


本気で嫌がっている小梅。


「このゲームは複垢できないからな

いつもの様に一人二役でIN出来ないんだろ」


「えーPTに入れろとか言ってきたらどうしよう」


「大丈夫だ。それは絶対に無い【キリトくん】は

ソロって決まっているからな」


近づいてくる俺達に気づいた様だ。

キリトくんはこちらに向き合う様に

体を向けて待っている。


「ここは通行止め、とか言わないよなキリトくん」


俺はキリトくんにそう声を掛けた。


「何故、俺の名前を知っている」


分からないワケ無いだろ


「そのアバターなら、もうその名前しかないだろ」


フッと笑うキリトくん。

あームカつく


「そうか・・・あなた達もプレイヤーなんですね」


「違います。じゃあね」


立ち止まらず通り過ぎようとする俺達。


「えっ・・・ちょ・・・まっ」


慌てるキリトくんは

小走りになって俺達についてくる。


「なんだよ、来んなよ。オメーはソロなんだろ」


「困ってるんです。メニューが開かないから

MAPも見れないし何にも出来ないんです」


俺は背負ったエルフ製のリュックを親指で指し示し言った。


「アイテムストレージが使える奴がこんなモノ

背負うと思うか?みんなメニュー開かないの

じゃあな、アスナさんにヨロシク」


「えっ・・・そんな・・・待って下さいよ」


その後も追い払おうとする俺だが

キリトくんは根性があるのでついてくる。


「また・・・例の言語ですね」


意味が分からなくとも発音で同一言語だと

分かるのだろう、ハンスが呟いた。


そんなドタバタなやり取りをしながらも

進む俺たちの前に佇む一人の男が居た。


二本のロングソードを背に

黒いロングコートって

おいおい


「やだー」


「夏休みかよ」


キリトくんは学生が夏休みの時期に

増える傾向にある。


「えーでも同じ名前で登録出来ないハズだよ」


小梅の疑問はすぐに解決した。


「キリトです」

「きりとです」


あー平仮名なのね


「ソロなんでしょうついて来ないでくださいね」


いやカタカナキリト、お前もついてくんなよ。

何しれっとパーティの一員ヅラしてんの


「助けてください。メニュー画面が出てこないんです

それにあなたのせいで平仮名になったんですよ」


知るか

二人だけでやれよ。

ついてくんなよ。


そんな俺達の進む先に

一人の男が佇んでいた。


二本のロングソードを背に

黒いロングコートって

おーい、いい加減にしろ


「キリトです」

「きりとです」

「KIRITOです」


どうしてもキリトくんがいいのね

もはや収集がつかなくなり始めた。

三人のキリトくんが

ああでもない

こうでもない

もう何言ってるのか分からない

そのうちルーデウスとかまで

出てくるんじゃねーだろうな


そんな俺たちの前に

一人の男が近づいてくる。


背中に剣を背負った

黒いロングコート


さすがにハンスまで笑っている。

しかし小梅は首を傾げる

そう

剣は一本

体格は大男

一瞬【ガッツさん】かと思ったが

俺の本能が危険を知らせる

それもかつてない規模の大音量でだ

緊急事態だ。


「いかん」


ヴィータは青ざめている

俺は咄嗟に大声を出す。


「ハンス!ヴィータとプリプラを連れて逃げろ

キリト隊っ抜刀!!敵だ」


ポカンとするキリト隊。

大男は右足の足首のワンアクションで加速

一瞬で平仮名キリトに迫る。

大剣はすでに抜刀済みだ。


ヒュン


大剣を振るった割りには

音は小さく軽かった。

それは圧倒的な速度と鋭さのせいだ

驚愕すべきことだった。


そのひと振りで平仮名キリトは左から右へ

胴体を真っ二つにされた。


「あすなぁあああああああああ」


二つに分断された平仮名キリトは

そう断末魔の悲鳴を上げ

装備品ごとモザイクのような光の粒子に

なって消えていく。


「よくも。ッスッタァァァアバァアア」


カタカナキリトは二本抜刀すると

いきなり奥義を炸裂させようとする。

あのオシャレ気どりがマック広げて

ドヤ顔で居座る毛唐の経営する

ボッタくりカフェ通り


SBS

スター〇ックスストリート


だったかな

確かこんな感じの名前の技だ。


「アスナァアアアアアアアアア」


大男の返す刀でカタカナキリトは

奥義発動前にやられた。

そのまま、また足首のワンアクションで

アルファベットキリトに迫る。


「ASUNAAAAAAAAA」


くそ、一瞬で

ほんの一瞬でキリト隊が全滅だと

いくら、その名前を付けるプレイヤーに


ガチ勢がいない


からって、キリトくんだぞ。

それも三人もあっという間に全滅とか

うろたえるわ

シャアが見てなくてよかった。


消えていく光の粒子を背に

大男はこちらに向く。


「アモン・・・何故裏切ったのです」


もっと喉太い低い声を連想していたのだが

意外にも普通の音域の声だった。


見ている

こいつデビルアイで俺を解析している

半人化、皮の下の俺がアモンだと

もう見破っている。


「えっ・・・と、どちらさん?」


俺もデビルアイで相手を注視する。

こいつ全体と大剣を同じ光?

というか闇というか

なんか禍々しいオーラ的なモノが覆っている

ヴィータとは正反対の感じだ。


「・・・・?!」


大剣を地面に突き刺し考える仕草をする大男。

一見隙だらけだがデビルアイで見る限り

そんな隙は無い。

いつでも俺に切りかかって来られる状態だ。


「冗談を言う方ではありませんが、なんと言うか

あなたであってあなたでは無い・・・」


「それはナニかと尋ねると・・・。」


古いよ分からないだろ


「まぁいいでしょう。あなたを殺して

女神さえ連れて帰ればイイ。それは変わらない」


大男は大剣を地面から引き抜くと

まるで発泡スチロールで出来ているかの如く

軽く持ち上げて構える。


「魔神13将序列2位。ベネットいきますよ」


マイケル=マイク

ジェームス=ジム

デイビッド=デイブ

そんな感じの略称で

ベネディクト=ベネット

だったっけなぁ

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