第13話 ログイン方法

降臨の神託を受けた教会本部は神の保護の為軍勢を率いて出発した。


選りすぐりの聖騎士達と9大司教の「武」担当ヨハン

その補佐の神父数名だ。


両陣営の境目の山脈のひとつの岩山。

教会の修行の場でもあるその岩山が場所。

日時も決まっていたそうだ。


早目に到着し十分に警備をし、その時を待ったのだが

結果的に十分では無かったということだ。


降臨が始まると同時にそれは起こった。

悪魔軍団の襲撃である。

問題はその軍団を率いていた魔神二人。


魔王直轄の配下、13将の序列1位。

力の魔神「アモン」


同じく序列2位

技の魔神「ベネディクト」


力の1号、技の2号・・・・か。


人の対抗出来うる相手では無かった。

一体でも絶望的なのに、2体も同時に襲撃されては

流石の聖騎士達もなす術もなく次々と打ち取られていった。


「私は状況を覆すべく、禁断の秘術を相打ち覚悟で

相手の最大の戦力だった魔神アモンに放ち

見事これを倒した」


ん?


「しかし倒す間際、私はアモンに岩壁に叩きつけられ

重傷を負ってしまったのだ。持っていた貴重な

完全回復薬を使うべく必死に手を動かそうとしたのだが」


あーその辺から知ってるな。


「降臨された神に悪魔達は、もう取りつこうとしていた

急がねばならないのに手は思い通りに動いてはくれなんだ

遂には手から零れ落ち、もはやこれまでかと

諦めかけたその時、信じられない事が起きたのだ」


ここで話を一旦止め、考え込むヨハン。


「今でも信じられない。死にかけた私が見た妄想では

無かったのだろうか。確実に仕留めたハズのアモンが

無傷で近寄って薬を拾って私に手渡してきたのだ」


それなら、驚愕の表情も納得だ。

そら驚くわ


「私は悪魔にすがった。最早、間に合わない

私が拘束の秘術で悪魔を足止めしても神を

連れて脱出する弟子も聖騎士も一人も残っては

いなかったのだ。あろう事か私はアモンに

神を助ける様に頼んでしまった」


頼まれたよ。

うん


「何故なのかは今でも分からない。ただあの時の

アモンの表情、あれは人だった。今しがた命の

奪い合いをしていた悪魔の顔とは明らかに違ったのだ」


違ったんだよ。

中身がね


「アモンは願いを聞き入れ、神をお連れになり

脱出をした。薬で回復した私は拘束の秘術で

命続く限り悪魔どもを足止めしたのだ」


そこでヨハンは俯くと力無く続ける。


「気を失うまで秘術を行使した。その後は分からない

私は森に倒れていたそうでなエルフに助けられた

この森のエルフには若い頃の知り合いがいてな

私の事を覚えていてくれたのだ・・・・しかし

神様がその後どうなったのか・・・・」


そこでヴィータが踏ん反り返り偉そうに割って入る。


「ご苦労じゃったのうヨハンとやら。」


ワケが分からないと言った顔をするヨハン。


「我が女神ヴィータじゃ。その後アモンは仲間に

傷を負わされながらも逃げのび力尽きる前に

この二人に我を託したのじゃ」


黄金の輝きを放ち出すヴィータは癒しをヨハンに施しはじめた。

下手に言葉で証明するよりもこの方が説得力があるだろう。


「おぉ、この力・・・これはまことに」


「本当にようやった人の身でありながら

あそこまで術を行使し、寿命を使い切らんとは

流石は大司教と言ったトコロかのう」


寿命を使い切る?

MP=寿命ってコトかよ


「お主はここで養生しておれ。

聖都までの旅は、この者達に任せて置け」


「結局、私の判断は間違っていたな。

流石は勇者様だ

ハンス、お前が来てくれて助かった」


「いいえ、一緒に行っていたなら私は既に亡き者であったでしょう」


首を静かに横に振るハンス。

何かを察したかヴィータの嘘に突っ込みを入れる様子は無い。


「・・・・少し眠る」


そう言うとヨハンは目を瞑り、直ぐに寝息を立て始めた。

素人目にも衰弱が激しいのが見て取れる。

ヨハンの邪魔にならないように俺たちは部屋を

そっと後にする。

俺は珍しく静かにしていてくれたプりプラを手招きし

二人から離れると、外の光が差し込む窓代わりの穴まで移動する。


聖刻があるので離れたぐらいでは

ヴィータには筒抜けかもしれないが

二人だけで話をしたいという意志は伝わるだろう。


何も言わずついて来てくれたプリプラに

俺は意を決して自分の仮説を話す事にした。


「プリプラ、お前はもう死んでいる」


「あたたたたたたたたたたたたたっ」


返事の代わりにプリプラはカン高い奇声を発し

攻撃をしてきた。

おい、この場合攻守が逆だぞ。


「死んでいるってどういう事?」


パーソナルスペースというのか

小梅の場合それが狭い。

初対面の人を相手にしても、普通なら恋人の領域の

距離で相手の近くに立つ。

もう0距離、クロスレンジだ。

幕の内〇歩VS〇ォルグ・ザンギエフ戦かってぐらい近い。


この距離じゃ(会長キメ顔)

あの頃の一〇は面白かったな。


くそ

これが、そもそもの勘違いから一連の俺の不幸の

始まりだったんだぞ。


やたら近い距離で首を傾げるプリプラは

俺の説明を待っている。

過去の亡霊を振り払い、俺は説明を始めた。


「この・・・ゲームのログイン方法なんだが」


あえてゲームの部分を強調しておく


「死亡したNPCをプレイヤーが乗っ取る形を取っている」


プリプラは微妙な表情だが

想像はしていた様だ。


「今のヨハンの話で分かる通り。俺のこのゲームに

おけるスタートは回復薬を拾ったトコロからだ」


返事は無いが俺は話を続けた。


「小梅の場合・・・プリプラはベアーマンに

襲われたんだろう。エルフはベアーマンを警戒して

パトロールを出していた、ベアーマンは今日の襲撃の

為に斥候を出していた。そして不幸にもかち合った。」


「・・・・。」


「服のキズとベアーマンの爪は一致する。破れ具合から

5cmほどは体をえぐ・・」


「分かったから」


俺の言葉を遮るプリプラ。


「なんで、そんな仕様に・・・・。」


同感だ。

あまりいい気分にはなれない。


「赤ちゃんから、プレイするキャラの年齢になるまで、

知り合いが一人も居ない状態で、しかもそいつらが大挙して

出現するのに無理があったか」 


無理やり考えてみたがこれも無理があるなぁ


「全員、見知らぬ旅人でイイのに」


それも無理がないか


話を切り替えよう。

これは考えても仕方ない事だ。

コレを踏まえて考えなければいけない事を決めてしまいたい


「まぁ考えても仕方無い、

ログアウトしたら一緒に太郎に文句を言おう」


ハッと顔を上げるプリプラ。


「そう!太郎は?今どこで何してんの」


太郎ーーーお前の恋人はお前の事すっかり忘れているぞーーー


「アイツのキャラって知らないか。」


「・・・・聞いてない」


「名乗ってもらわないと分からんなこれは」


二人とも項垂れる。

手がかりは全くない状態だ。


「インしてる・・・んだよねぇ」


「ログイン前に後は現地でって俺に言ったんだけどね」


俺がINして二日経過した。

いくら加速時間だとはいえ、流石に奴もこちらに来ているハズだ


「太郎もメニューが開かない可能性が高いな」


「えー運営なのにぃー」


「メニューの項目にプレイヤー以上の項目があるンだろうが

メニューが開かないんじゃ太郎と言えど」


「あたし達と同じ、何も出来ないかー」


「あいつの事だから出来るならもうメッセ飛ばすでしょ」


「だよねー」


太郎の話題に飛んでしまったが本来の目的に戻そう。


「で、小梅どうする。やっぱりここに残るのか」


ビックリするプリプラ。


「何でェ?!」


「何でって、そう言う設定で里に来たんだぞ」


「あ、そうか。えーでもあたし一人置いてかれるのー」


小石は落ちていないがプリプラはそれを蹴る様な仕草をする。


「えー、たけしはあたしが一緒だと・・・いや?」


はい、嫌です。

しかし、そうは言えないので

ここは真剣な演技で行こう。


「良い嫌とかじゃなくて、俺はヴィータに聖都

到達あるいは直前で殺されるぞ

そうなれば、お前を守る事も出来ない」


「はぁ?ヴィータちゃんが??何で仲間でしょう」


俺は腕の聖刻を見せる。


「こんなもの刻みつけて無理やり言う事聞かせる

そんな事する連中が仲間なんて言えるのかよ」


思っていた以上に強い口調になってしまった。

いかんいかん


「ごめん、小梅は何にも悪くない。

大きい声を出してすまない」


既に涙ぐんでいる。


「今は俺の方が力が強いからヴィータは護身として

機能させているかも知れないが、今後信者が多い地域に

入ればパワーバランスが逆転する」


「そうしたら、きっと解除してくれるんじゃ」


「無い。

俺は悪魔であいつらは神とその使徒だ

共存は無い。お前も肉食いながら聞いてたろ」


「・・・えーでも殺すなんてそんな事するかな」


「既に殺しているだろ。今そこで寝ているヨハンは

前のアモンの仇だ」


人の意見を否定するなら根拠と示せないものか

イライラしてくる。


「・・・どうするの?」


「どうもしないよ。到着前にログアウトできれば

それでいい」


出来そうもない。

多分だがログアウトは無い。


「どうするのはそっちもなんだが。残る?来る?」


まるで考えていなかったのだろう「えー」しか

言わない。


「残ってても、またベアーマンとか来たら怖いしー」


「それは安心しろ。明日、里の安全を確保する為ちょっと動くよ」


結局、結論はその場では出なかった。

一晩考えるそうだ。


俺は宿泊用にあてがわれた部屋のある樹木まで向かう

プリプラとヴィータ、俺とハンスで一部屋づつ

並びになっている。


ハンスは先に部屋に戻っていた。


「あ、おかえりなさいアモンさん」


「・・・おう、ハンス君もお疲れ」


見た目の肉体年齢では俺の方が若いのだが

なぜが敬語が逆になっている二人だ。


「ヴィータ様はもうお休みになられるそうです

何でも今日は大変疲れたとおっしゃっていました」


俺は上着を適当にその辺に引っ掛けると

ベットにダイブする。


「そうかーあいつも今日は力使いまくったもんな」


俺も大変だったと思うけど

思ってたって

い・わ・な・い・け・ど・ね

近づくハンス。

なんで来るの感じていたくないんだが


「アモンさんも本日は大変でしたね」


「ん?・・・まぁ」


「自分に何か出来る事があれば遠慮無く言ってくださいね」


ヴィータぬっころしてくれ

ついでプリプラも


「あぁ頼りにしてるぜ」


真摯だよなー。

でも地方の神父って嘘なんだよね。

この男は信用しない。

まぁ

いざとなれば悪魔光線範囲焼きでヴィータ共々

最後に差し違える位は出来そうだしな・・・


ヨハンに会う前から完全人化していた俺は

眠気に襲われ、そんな事を思いながら寝てしまった。

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