第14話 熊と蜂と蜜

清々しい朝だった。

悪魔状態なら食事も睡眠も排泄も必要ない俺だが

人間状態だと全て必要になる。


久しぶりにベッドで寝られたお陰で爽快だ。

早目に起床した俺は、そっと部屋を出て

見張りに用事を説明し、ヴィータ達に言伝を頼んでおく


今日は物資の補給とヨハンの様子見で一日滞在予定だ。

俺は俺で俺でしか出来ない用事を片付けて置くことにした。


里から見えない森の中程まで来ると悪魔化し

上空へ、風下に移動すると。

悪魔耳、悪魔鼻に意識を集中する。


昨日のベアーマンは若いオスだけの戦士で構成されていた

女子供老人を含む集落が近くに存在するハズで

そこに昨日以上の戦力が保有されてないとは言い切れない。


俺達が去った後に襲撃されては意味が無いので

二度と襲わないように話を付ける必要があるのだ。

場合によっては、また皆殺しだ。


昨日の皆殺しは俺自身が高揚したせいだ。

悪魔状態だといわゆる悪感情が悪魔の食事になるようだ

それも文明レベルが高い方が美味い。


なので本当ならエルフ連中を恐怖のズンドコに

陥れた方が悪魔的には正しいのだが

今の悪魔のOSは一般的な日本人若者男性である 

たけしくん なので出来ない。

やはり和平交渉を成立させるのが理想だ。


「さぁーて、ドコにいるのでしょうかねー」


どうせツァツァやかましく騒いでいるに違いないので

すぐ見つかるとタカを括っていた。

 そしてその通りだった。

ただ、なんだ

なんか変だぞ。


鼻と耳で特定したエリアを高性能デビルアイ望遠モードで

観測すると、なんと朝から戦闘中だった。

アホか

どんだけ戦闘民族なんだ。

戦っている相手は初めて見る知らない種族だ。

どうも蜂が人型になったような感じの生き物だ。

蜂人と呼ぼう。


ベアーマン側が襲われいる側で劣勢だ。

ざまあみろ

エルフの気持ちが少しでも分かるといい

昨日の絶望に膝を着き、ただ泣くしか出来なかった

エルフの子供達を思い出す。


大人はいい

何をしようが、どうなろうが、自分の責任だ。

だが、子供はダメだ。

絶対にダメだ。


そのベアーマン側にも子供は居た。

恐怖におびえ必死に母親にしがみ付いているのが見えた。


「・・・・・・見えなきゃ良かったんだがな」


仕方ない、どうせ行くつもりだったし


「森の妖精。出動だぁ」


瞬間的に音速まで加速する。

進行方向の大気をベルトコンベアの要領で回し

ソニック・ブームを起こさない様にした。

ちなみに大気操作はエルフの精霊が行っている事を

見よう見まねだ。


切り裂いて飛んでも俺にダメージは無いが

体表の温度がスゴイ事になるのと

珍走団がカワイくなる程の爆音のせいで面倒なのだ。


もう瞬間移動と変わらない状態でベアーマンの

集落上空まで到達した。


「森をーーーーーー荒らす者はーーー」


ありったけの大声を出したら

気を遣って止めたソニック・ブームの並みの音量になった。

これでは何の為に静かに飛行したのか分からない。


「許さなーい」


小さくするのも変なので

そのままの大声で続ける。


「俺はぁああ!」


戦いの中心部向けて自由落下する。


「森のぉおおお!」


蜂人もベアーマンも戦闘どころではないようだ

上空を見上げて唖然としている。


「妖精ぃいいいいい!」


我ながらナイスタイミング。

いい読みだった。

言い終わると同時に着地した。


ズドーーーン


舞い上がる土煙。

下半身が地面にめり込んだ。

これではカッコ悪いので

すかさず軽くジャンプして脱出する。


「おはよう!みんな、森の仲間達よ」


土煙が晴れるタイミングで笑顔を作る。

毎度の事だが、笑顔が功を奏した事は

この世界に来てから一度たりとも無い

やっぱり今回も攻撃で出迎えられた。


「ギィギィーーー」


近くにいた蜂人の一匹が反射的に槍を突いて来た。

腹より上の重要な臓器がある当たりを狙ってくる

哺乳類型の体の弱点の知識を持っているのか。


俺は笑顔で槍を受ける。

例によってデビルアイで解析済だ。

回避の必要無し。


ガッ


全く刺さらない。

勢い余った蜂人は前のめりになる。


「ギ!?」


最初が肝心だ。

俺は笑顔のまま、槍を奪い膝を使って折り、

次はその持ち主を、掴んだ場所から手あたり次第

脚 ブチッ

羽 ブチィ

最後に頭 ブチィィ

と引きちぎって行く。


「話し合いをしようじゃないか」


頭から顎を引っこ抜きポイ捨てしながら

笑顔で蜂人軍勢を見る。


「「ギィー」」


一斉に襲い掛かってくる蜂人軍団。

バカなのか

流石虫ケラ


「話そうっつてんだろがーー」


面倒なので首振り悪魔光線で一掃した。


ボボボボボボボンボン


記録的なコンボが決まったな。

変な匂いが辺りに充満してきた。

まさかこれが奴らの狙いか

沸騰した彼らの体液は強力な毒になるとか

クソ

俺は罠に嵌められたのか

しばらく様子を伺うが何も起きない。

考えてみれば当たり前か

光線で焼き払われる事を前提なんてするはずない。


飛んで逃げている蜂人に

追撃の悪魔光線を放ち全滅させる。

しまった。

一匹ぐらい情報収集用に取っておけばよかった。

まぁいいや

どうせこの後

お前らの巣に乗り込むからね

必ず見つけるよ

森の妖精はいつでもそばにいるんだよ。


蜂人を仕留め終えると

俺はベアーマン側に振り返る。

彼らが身動きをしていないのは

完全膝カックン耐性で確認済みだ。

振り返ると俺は唖然とした。

ベアーマンは全員、両手を伸ばして

仰向けに寝転んでいる

何してんの

やる気あんのかコラ

ふざけてんのか、ア?


聞いてみれば絶対服従のポーズなんだそうだ。

勢いで悪魔光線を打たなくて良かった。

・・・打っても良かったかな


仰向けのまま、足と背中を動かし

俺の足元まで移動してくる一匹のベアーマン。

何て器用な奴だ。

服の装飾からこいつが長っぽいな。


俺も冬場コタツから、なるべく出たくない時に

同じ動作をするが、ここまでスムーズに移動出来ない。

是非コツを教わっておこう。


「我らの忠誠を捧げますツァ。森の妖精様」


「いらん。それより起きろ。俺の方の文化では

かなりふざけた態度だぞ。お前らのソレ」


慌てて起き上がるベアーマン達。

よっぽど俺が怖いらしい。

動作が速い。


集落は簡素で建物から何から

やっつけ仕事なのが見て取れる。

襲撃の為の一時的なキャンプなのだろう。

腑に落ちないのは女子供老人がいる。

人数的に昨日の戦士の3倍位の人数になる。

進軍というより、避難民の群れに見えた。

長から話を聞くと、事実その通りだった。


「妖精の大群だと?!」


こいつらの元々の住処はあの洞窟のある岩山付近で

最近になって妖精が出没するようになり、

蹂躙されたとの事。

仕方なく縄張りを捨て森まで下りてきたらしい。


絶対、俺とその軍団だよな。

降臨と同時に襲撃する為、付近に身を潜めていたい

ベアーマンがその邪魔になるのと恐怖エネルギー補充の

意味で行った蹂躙だよな。


俺じゃないけど俺のせいじゃん


「エルフとはどうして争いになったんだ」


「はぁ・・・エルフが居たからですツァ」


森はエルフの縄張り、そこに大挙して押し寄せれば

まぁ、こうなるのか。


「話合いをしなかったのか」


「・・・話し合いとは、なんですツァ」


「今、俺とお前がやってる事だ。」


こいつらにはそもそも話し合いという概念が無かった。

強者が正義で勝ったモノ総取り文化だ。


「殴って奪うんじゃくて、お互い欲しいモノと余裕のあるモノを

交換しろ。それにはまず話し合いだろ」


「言葉が通じませんツァ」


そうかー

プレイヤーみたく自動翻訳はないもんなー

元の世界の過去の外人達はどうやってファーストコンタクトを

クリアしていったんだ。

開国シテクダサーイ


取り合えず取引という認識を植え付けさえ

ベアーマン側の欲しい物、差し出せる物を

教えてもらった。

後で、エルフ側にも同じ事をしないとな。


当面の争いを避ける為に、また同じ種族でも

交流のある部族とそうでない部族を見分ける手段が欲しい。

交流のあるベアーマンかと思って近づいたら

全然知らない部族でいきなりグサッでは目も当てられない。


そうだ。

こんな時は決まってるじゃないか

手段はひとつだ

性悪だが歌のうまい中華娘とかが

どんな事態になろうとも


「それじゃ私、歌います」


とか言って

実際なんとかなってしまう。

歌だ。でかるちゃー


こいつらでも覚えられそうな単純なメロディーで

キーも高くも無く低くも無いのがいいな。

俺は子供の頃に好きだったヒーロー物の

主題歌をこいつらに丸暗記させる事にした。

とにかくエルフを見かけたらコレを歌えと

通じなかったら警戒、通じたら仲間だと

そう見分けろと教えた。


ベアーマンの子供には特に大受けだった。

いつの時代でもどこの国でも、やはり子供は

同じだなと思った。

特に赤ちゃんは可愛い。

成体になると、ぶっちゃけ醜いベアーマンでも

赤ちゃんは可愛かった。

幼生体を頭や肩の上に乗せて歌の練習に勤しむ。

もう3チャンネル状態だ。


上手に覚えたベアーマンに教師役を押し付けると

俺は族長と話しの続きに入った。


「で、あの虫みたいなのは何で襲ってきたんだ」


「蜂蜜を盗みまくったので逆襲にきたのかと

思いますですツァ」


お前らが悪いんじゃねーか

どうすんだ、皆殺しにしちまったぞ

まぁ、これから行ってなんとかするか

岩山には恐らくもう悪魔軍団は残っていないので

元の場所に帰る事も可能だろうが、

このままエルフと共存してもらい

肉弾戦担当になってもらう方がいいだろう。

とにかくエルフ弱い。

ベアーマンが交渉で何とかなっても、

他に攻められたら同じ事なのだ。


族長に蜂はなんとかしてくるから

安心しろと言っておき、俺は蜂人の巣の場所を

族長から聞き出し向かうことにした。


巣は岩山の麓すぐで岩の裂け目を上手に

使用して作られていた。


俺の接近に気が付くと蜂人達はヤリを手に

巣から飛び出して来る。

襲い掛かっては来ない。

巣を守る様に列を成し、アゴを打ち鳴らす。

威嚇音っていうやつか。


しかし、困った。

こいつら言語が無い。

何を話しかけても「ギィ」としか返事が聞こえてこない

困り果てていると、蜂人の列が左右に割れ

中央をひと際大きな蜂人が進み出てきた。


「私が女王です」


女王だと!?

一瞬エロキャラを期待したが虫なので

どうせと思った。

進み出てくる女王を凝視して

やっぱりだった。

ちょっと背がデカいだけで

一部をのぞいて他の蜂人と大差無しだった。


はい、ここまでおっぱい無し


で、問題の一部が 

尻・・・内臓があるのでお腹になるのか

その部位が極めてデカイ。

産卵管なんでしょうね。

お付きの蜂人が数人で支えている。

人によっては悲鳴を上げるグロさだ。

虫は苦手ではない俺でも若干嫌悪してしまう。


「ベアーマンを襲撃した連中は俺が皆殺しにした」


どう話そうか悩んだが面倒なので正直に行く。

一斉攻撃を覚悟して身構えるが女王は予想外の

行動にでる。


「命だけは・・・どうか」


あれ?

謝るとしたらこっちなんだけど・・・。

兵隊蜂人よりも小柄な、多分働き蜂人的な連中が

巣からゾロゾロでてくる。

手には巣と同じ材料で作られたと見られるツボを

持っていて甘い匂いをさせている。


蜂蜜を差し出すから殺さないでくれ

という事なのだろう。


「ありがたく貰うが、育児に必要な分は残せよ」


俺は女王にベアーマン達に二度と泥棒を働かない様に

釘を刺してある事を伝え

その代わり彼らを襲撃しないようお願いした。


蜂蜜には何か対価をと思ったのだが、唯一言葉を使う

女王にも対価の概要を理解させられなかった。

まぁ虫だしな。


兵隊の虐殺に関しては怒っていなかった。

話して分かったのだが、あれらは消耗品だ。

個という存在ではなく、女王を重要器官とした

群れで一つの生き物と考えるべき種族だ。

脳や心臓を腕でガードする様に、兵隊は女王を守る。

話せないのも道理で彼らに個々の意識はない。

人に例えれば、

腕や足がそれぞれ勝手に文句を

脳に向かって言い出す事が無いのと同じ感覚だ。


女王にしてみれば種族が滅びなければ

OKだそうで、ベアーマンが盗みに来ないなら

こちらから仕掛ける事はしないと言ってくれた。


俺はエルフ用とベアーマン用

あと自分達パーティ用の蜂蜜3ツボを貰うと巣を後にした。

美味しかったら、また貰いに来よう。




出展


恐怖のズンドコ  「恐怖のどん底」の誤用。とあるキャスターがやらかした。


性悪だが歌のうまい中華娘 TV版です。劇場版では性格が変わりました。柿崎ーィ





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