第12話 宴と、もう一人の客人

エルフの里、手前広場に舞い降りると俺は人化した。

正直あのまま逃亡しようかと考えたのだが聖刻がある以上

逃げられはしないだろう。


今回分かった通信機能、それ以外にもどんな機能があるか

分からない以上ヴィータに逆らうのは得策ではな無い。

聖刻に神力を送り込み、俺を破壊する事も出来るのでは

ないだろうか。


恐らく可能なのだろう、だから非力であるにも関わらず

こんな大それた力を持つ悪魔が近くにいても余裕なのである。


「はぁ。戻ってきちまった」


パターン7でいこう。

悶え苦しむのはナシの簡易版でだ。


入り口付近にはあの見張りが居た。

ただ初見の時に見た包帯をしていない。


見張りは俺に気が付くと、素早く竹もどきの伝声管に

何やら喋りだした。


「なんだ?敵襲ぅーとか言ってんじゃねぇだろうな」


俺は念のためマスクを装着すると半人化した。

これならエルフが束になって襲い掛かって来ても

上っ面の皮膚しか傷つけることは出来まい。


見張りが何かを伝えると、一斉に床を突き破りエルフ共が降下してくる。

それも大量にだ。

ただ誰も武装していない。

それどころか子供まで混じっている

むしろ子供の方が多いくらいだ。


歓声。

それも喜びの歓声だ。頭上の精霊の感じからそれは

伝わってくる。


良かった。

少なくとも今駆け寄って来るエルフには

感謝してもらえているようだ。


ほっとした俺は一瞬で気分が良くなり叫んだ。


「3ねーーんBぃぐみーーーー」


もみくちゃにされるタイミングで、そう叫んだが

誰も「金〇先生ーーー」とは言ってくれなかった。


一通り歓迎された後、里に上るとそこではヴィータが

負傷者達に奇跡を行っている最中だった。


ハンスとプリプラもその手伝いに忙しそうだ。

無事なエルフや回復を終えたエルフ達は祈りをしている。

今回の事件で信仰するエルフが大量に増えたようだが

里の治世的には大丈夫なんだろうか。


夕刻から戦勝会と合わせた歓迎の宴を開催する事になり

その前に流れていた長との面通しになった。


プラプリに案内されて、中央のひと際大きい樹木の穴へ

入っていく、中はいくつかの部屋に分かれていて

一番奥の部屋の前には長に付いていた二人の護衛がいた

俺たちに気が付くとエルフ式の礼をし扉をノックする。


返事が聞こえ俺たちは部屋へと促された。


「この度は里の危機を救って頂き誠に感謝の極み

里を代表してお礼を申し上げる」


長は今まで見たエルフ式の礼に加え更に首を垂れるポーズを取る。

最敬礼なのだろう。


俺たちも同じ仕草で返す。ただヴィータだけはふんぞり返って

偉そうにしている。

俺はヴィータの後頭部をふんづかまえて無理やり下げさせた。


ハンスが一歩前に出ると、聖都への旅の途中である事、

必要な物資を分けて欲しい事、これまでの経緯を説明する。

長は快く引き受け「里にあるモノ好きなだけ分け与える」と

心強い返事をしてくれた。


「当然じゃ我らがおらなんだら、全て奪われておったのだ

言ってみれば全て我らのモノになっていても」


俺は「当然」の辺りでヴィータの口を塞ぐと「ありがとう

ございます」と大きな声を出し、その後のセリフ聞こえない様に

してやった。

俺もそう思うが言わなくていい事だ。


戦死者に関しては蘇生の軌跡を一切行っていなかった。


死者蘇生は治癒よりも膨大な力の損失になる上

更にこの里のエルフには行えないらしい。


魂が肉体から完全に分離してしまっているので肉体の

復元は出来ても目を覚まさない結果になるそうだ。


この事に関して長は「フーム」と考え込んだ後

救世主御一行様という事で特別にエルフの生態を教えてくれた。


それはエルフのイメージを根底から覆す

衝撃的な内容だった。


死者の魂は里の柱にもなっている樹木の実に精霊が連れて行く

実の中身はエルフの胎児だそうだ。


強く希望していれば生前の記憶をある程度持ったまま

新生するらしい。


里の柱は歴代の里長の成れの果てで、

里長は人型の寿命が来ると樹木化が訪れる。

これが何故樹木が規則正しく並んでいるのかの理由だ。


樹木は一定の時期になると花を咲かせ、大人のエルフは

いわば花粉を皆でバラまくそうだ。


つまりエルフには人間の言う男女間、親子間の愛情は存在しない

生殖器も存在していない、どこから花粉を出すのか

気になったが失礼な気がして聞かなかった。


そう言う理由でエルフは死に対して、いや生に対して

人間ほど執着していない。悪い言い方をすると

気軽に死を選んでやり直しを行う。


完全に自給自足で他種族との交流は必要無い。

取引が無いので店が無い、貨幣も無いのだ。

長樹木から遠く離れる事は危険なので旅もしない。

なんてことだ


オークに襲われて、今まさに貞操の危機を迎えた

旅の美少女エルフをカッコ良く助け出し

背中から抱きしめて異国の言葉でささやいて

うっしっしな関係になるという

俺の夢が・・・・。


オークに襲われて、今まさに貞操の危機を迎えた

旅の美少女エルフをカッコ良く助け出し

背中から抱きしめて異国の言葉でささやいて

うっしっしな関係になるという

俺の夢が・・・・。(大事な事だった)


旅もしない。

聞くところオークもこの世界には居ないらしい

とどめは性別だ。長以外は立場的にオスだ。

長もメスとして活動するのは樹木化してからだ。

どうしてもなると樹木にぶっかけるしかないのだが

どうしてなの

悲しみが止まらない。

全ては幻となった。

俺の中の夢がまた一つ死んだ。


先に来訪している長の友人の人族については

宴の後で面会する事になった。

なんでも床に伏せっていて、今は良く眠っているそうだ。

宴の準備がそろそろ終わるということなので

話はそこまでで俺たちは宴の会場になる広場に向かった。


宴は彼らなりに盛大に行われた。

俺たちは上座に当たる席に長と並んで座り。

舞や音楽を鑑賞し次々と食事が出された。

そして気が付いた

こいつら火をほぼ使わない。

金属はほとんど無い、武器防具以外は

扉の蝶番ぐらいで、建物や衣服も全て植物由来だ。

食事も木の実や果物。

主なタンパク質は虫だった。

さすがに皆、これは遠慮した。


まぁ、この環境で火は危険だ。

一度火事になれば全焼してしまうだろう。


戦士は風をある程度は自在に操れるそうなので

初期のボヤなら最小限で消し止められるが

火が大きくなってしまうと反って火の

勢いを増してしまう。


照明は夜になると光るキノコやらコケ。

頭上の精霊も頼めば光を発してくれるらしいので

火は使わない。


数少ない金属は、極まれに訪れる旅のドワーフから

物々交換で入手するそうだ。


「ドワーフとは仲が悪いのでは・・・。」


俺の疑問に長は「誰がそんな事を」と言った。

交流自体がほぼ無いので種族として仲のいい悪いは

無いそうだ。


ちなみに他にもエルフの集落はあるらしいのだが

これも交流がほぼ無いそうだ。


「キライな種族・・・ひとつだけありますな」


それは人族じゃーと言って襲い掛かって来ると思った

身構えるが長は言葉を続けるだけだった。


「・・・ダークエルフですじゃ」


大陸の西、聖都を持つ神側の陣地。

この森から東の山脈を境に魔都を持つ悪魔側の陣地。

その悪魔側の陣地の森に彼らは住んでいる。


エルフが禁忌とする火の力に魅入られ

支配欲、物欲などにまみれた俗世に溺れ

肉体もより動物化してしまった。

もう別種の元エルフ種だそうだ。


「肉体もより動物化・・・だと」


見逃せないキーワードだ。

俺は疑問を全て長に浴びせる。

その勢いに圧倒された長は

「どどどうなされた」と

驚きながらも質問に全て答えてくれた。

イイ人だ


ダークエルフは人間と同じ繁殖方法を取る。

授乳するので当然おっぱいもあるそうだ。


やったー


外見的にはエルフと言うよりは耳の長い人族と言った感じらしい

肌は褐色と限った事は無いそうで

それこそ人族のように肌、髪、瞳などの色は様々らしい

元々の発生は過去に樹木にぶちまけた人族がいたそうだ。

なんてことだ

俺が耐えきれないと判断した

悲しみを乗り越えた勇者が居たという事だ。

勇者に続くか・・・

俺たちは東では無く西の聖都へ向かうのだ

ダークエルフに会える可能性は低くなる。

なら

いっそ

ここでいっそぶちまけて

オペレーション光源氏を発動させるべきか


そんな事を考えていると長はうれしそうに

自分の事を語りだした。


長は昔から人族に友好的だったが、それを快く

思っていない重鎮も少なからずいたそうで

今回の俺たちの活躍はそれら反対派を黙らせる

決定打になると長は喜んでいる。


 人族に助けられた。


人族を信じて良かった。




ごめんなさい

オペレーション光源氏は悪い冗談です。


しかし、そうなると込み上げる熱い情熱を

どこにぶちまければ良いのだろう。


『これでは聖獣では無く、性獣じゃな』


「今、腕の方から何か聞こえませんでしたかな」


「いいえー何も、気のせいです絶対に」


不思議がる長を俺は腕を押さえながら

なんとか胡麻化した。


くっそーコレ、24時間体制で筒抜けなのかよ。


それにしても人族すっげーな

そりゃオークも出番ないわ

  


もしかしたら

オークとは人が認めたく無い人の嫌な部分を

責任逃れに投影された幻種なのかも知れない。


長の友人が目を覚ましたとの事、

丁度、宴も終了になったので俺達は

長の友人に会う為、長の案内でまた

中央の樹木に戻る事になった。


客人の部屋は長の部屋とは別のどちらかというと

入り口付近の部屋だった。

入るなりハンスは声を上げて驚いた。


「ヨハン様!?」


ベットまで駆け寄り膝を着くハンス。

後から部屋に入った俺は少し戸惑った

ヨハン?

洞窟で会ったあの司教なのか

あの状況から生き延びたというのか

人化している今の俺なら分かるなズが無いと思いつつも

俺は恐る恐るハンスの後ろからベットの中の人物を覗き込む。

?!

ハンスがヨハンと言わなければ気づかなかったかもしれない

横たわるその人物は確かに洞窟内で会った司教であったが

その時とは違い明らかに老化している。

俺が会った時とは違い顔には深い皺がいくつも刻まれ、

ほぼ全て白髪となり、痩せこけていたのだ。


洞窟内ではここまで老人では無かった。

初老と言った感じでまだまだアグレシッブに動きそうな人に見えていた。

ハンスも良くヨハンだと分かったモノだ。


「・・・その声。ハンスか」


「はい、私です」


ハンスが珍しく必死な様子だ。

旧知の間柄なのだろうか。


「バカ者め・・・お前は聖都にて勇者様をお守りする役目であろうが」


あれーハンス君、地方の神父って言ってなかったけか


「ガバガバ様にはお許しを頂いて、馳せ参じました」


笑いそうになった。

なに?

勇者の名前ってガバガバっていうの?

王様とかに「なんとガバガバではないか」とか言われちゃうのか

キツイなガバガバなのに


『お主は仲間に討たれた事にしておけ』


音も無く、直接頭の中にヴィータの声が響いた。

この売女!

サイレントモードも出来るんじゃねぇか

今まではワザと音にしてたって事だな。


『そこでお前が我を保護しハンスと合流した事にしておけ』


何を考えていやがるのか知らないがこちらに拒否権は無い。

言う通りにしてやる。

まぁどうでもいい事だしな。


そんな俺の考えとは関係無に

ヨハンは俺達が脱出した後、どうなったのか

その事を語り始めた。

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