第11話 森の妖精

4m級悪魔(デフォルトサイズ)

爵位を持ち、魔王の次くらいに偉いらしい。


この姿で力を使うとヴィータにダメージが入ってしまうので。

村の端、ベランダ状になっている場所までゆっくりと滞空して移動する。


伝令が降下し前線から兵を撤退させるべく先行して走っていく

陣形は即座に防衛体制にシフト。

負傷した者を抱えてエルフは次々と戻ってくる。


追撃してくる相手は余裕で悠々と歩いて進軍してくる。

やがて、そいつらは姿を見せた。


ベアーマン。

そのままだ。

人型のトカゲがリザードマンなら

そいつらは、まんま人型の熊だ。

熊よりも人型なので、脚は長めで上半身はいかつく

肩もなで肩で無くいかり肩だ。

身長は3m前後、俺の胸辺りだ。

全身黒い体毛で覆われ、首の下辺りだけ白い。

顔はどちらかと言うと熊よりハイエナっぽく見える。

下等な文明を持っている様で、粗末な防具を身に着けている。 

両手の先から伸びる三本の爪が主な攻撃手段なのだろう。

武器を持っている者は少数だった。


村の正面、家などの材料になったのだろう

木々がそこだけ伐採され、ちょっとした広場になっている

そこに俺は陣取り腕を組んで待ちベアーマンと対峙した。


「ツァ!」

俺に気づくと警戒するベアーマン。

4mの見たことも無い生き物がいるのだ。

まぁ普通に警戒するわな


「ヅァツアァ」


「ツァッ」


俺に向けて喋っているのでは無いので翻訳されない。

どっちしろ何を言っても関係ないけどね。


4体のベアーマンが俺を十字に囲む様に包囲した。


「小梅の代わりに聞いてやる。

プリプラをやった奴はこの中にいるのか?」


ベアーマンの三本の爪。

その幅は修復した服のキズの間隔と一致する。

間違いない小梅が憑依・・・ログインか

する前のプリプラを襲ったのは

間違い無くコイツ等だ。


「ヅァアアア!!」


返事の代わりに攻撃してきた。

正面の奴が切りかかると同時に左右と背後の奴も

同じように爪を振りかざしてくる。


 破壊力とは重さだ。


同じ材質で構成されていても軽自動車とトラックでは

どちらが潰れるのか考えるまでもない。

自在に落ちる事が出来る俺は破壊力を上乗せし放題だ。

だが弊害として速度が落ちる。

当たらなければ意味が無い。

当てる為には相手より速い方が望ましい。

なので初手は譲る。

優位を保ったままどこまで重くするか判断するためだ。


ベアーマンの破壊力はデビルアイで解析済みだ。

鋼鉄を上回る悪魔の体にキズを付ける事は出来ない。

どんなに力を入れても爪の方が先に壊れるだけだ。


 ・・・・にしても遅い。


まだ相手の攻撃が届かない。

悪魔状態の俺の思考速度、反射速度はハッキリいってチートだ。


・・・いいや、もう


左右の敵には拳で、背後は足を後方に蹴り上げ

正面は無視、当たるに任せた。


相手の爪はまるでスナック菓子の様だ。

モロすぎる。

拳は爪を抵抗無く砕くと

そのまま相手の腕の骨を破壊する。


肩をライフルで打ち抜かれた様に左右のベアーマンは

まるで鏡写しの様に同じタイミングで後ろに飛ばされていく。


股間を跳ね上げられた後ろのベアーマンは

俺の背中から発射される様に正面で待機している

軍団の中に高速で突っ込んでいく。

何匹かがその飛んできたベアーマンの犠牲になったようだ。

ボーリングのストライクみたいに舞う。


踵を後ろに跳ね上げた事により俺は前傾姿勢になる。

丁度、正面の奴の爪が頭に当たり爪は砕ける。

力のベクトルが上から下方向だったので

そいつは手首を砕かれただけで済んだようだ。


「ヅァアアアアアア!」


変な方向に曲がった手首を押え膝を着く正面のベアーマン

顔も短い毛で覆われているので表情が分かりにくいが

まぁ恐怖しているのだろう。


「何だ・・・お前は何者だ」


俺に向けた言葉なので今度は翻訳された。


「俺か・・・」


俺は不敵な笑みを浮かべていった。


「俺は森の妖精だ」


「はぁ?」


「はぁ、じゃねぇ!!妖精だー」


人をバカにしたような変な顔しやがって

瞬間で怒り沸騰した俺は正面のベアーマンを

お試し最大値で蹴っ飛ばしてみた。


聞こえて来たのは

打撃音でも衝撃音でもなく

まさかの爆発音だった。


蹴った俺がビックリする程の大きな音を立てて

そいつは消えた。

飛ばなかった。

リア充でも無いクセに爆発しやがった。

急激すぎる圧で直撃箇所は一瞬で気化の更に上の段階

プラズマ化しやがった。

プラズマ化を免れたが部分は急激な膨張を

パワーリソースにして細かな炎弾となり

360度方向に散った。

被害は甚大だ。

周囲のあちこちの枝が音を立てて落ちる。

正面の待機している軍団も体のあちこちに穴が開き倒れたり。

失敗したバク転みたいになったりして倒れた。


後ろのバルコニーからはヴィータが「バッカモーン」と

怒鳴っている。

被害がいったようだ。


だがちょっと待って欲しい。


一番近くにいた俺が最大の被害者だ。 

細かい破片が大量当たり「熱っ熱っ」

と、踊ってしまった。


ふざきんなよ普通、爆発とかするかよ


悪魔化した俺にダメージを与えるとは

おのれベアーマン

許さんぞ。

目にでも入ったら大変じゃあないか


「森を荒らす者は許さない!」


まーた、変な顔で俺を見やがって。


「俺は森の妖精ーーーーっ!」


皆殺しにしてやる。

俺は鋭いダッシュで軍団に飛び込む


一見すると物理法則を完全に無視した

減速無しでジグザク一人きり走行。

手あたり次第、殴りつけ(弱で)ていく。


ベアーマンの戦線はあっという間に崩壊した。

散々と敗走を始める。

最初は一々追いかけて倒していたのだが

段々面倒になって来たので、途中からは悪魔光線で

始末していく。

最低値、これ以下だと発動しないレベルで放ったのだが

それでも推定6000度はあるので、次々と爆散していく。


正面の部隊を壊滅させると瞳閉じて翼を広げ

会いたいのに会えない包囲していた軍勢の始末に入る。


包囲していた各部隊は皆、正面の部隊の惨劇を知り

早々に退散を始めていた。


所詮ケダモノか

駆けつけて正面の部隊を助けるとか

一気に村に突入してヴィータを人質に取るとかすればいいものを

そうすれば捕まりながらも「私に構わず撃てーー」とか

叫ぶヴィータもろとも消し去る事が出来たのに


させないけどね

完全膝カックン耐性のレンジを目一杯広げていたので

部隊の動向はお見通しだ。

掃討の為に飛行。

敗走する部隊の上空まで来ると


「森のーぉ」


俺は声を張り上げ


「妖ーー精ーーー!」


上空から悪魔光線で片づけていく。

全滅まで30分程度で終わった。


圧勝。


それよりも引火してしまった。

森の消化の方を急がんと

森の妖精が森を焼いちゃいかんだろ。 





「やりすぎじゃ・・・無駄に命を散らしおって」

女神はその美しい顔を冷酷に氷付かせ、そう吐き捨てた。


「見損ないましたよアモンさん。あなたはやはり悪魔なのですね」

神父は残念そうに下を向いたまま俺を見てくれない。


「・・・最っ低!」

エルフはゴミでも見るかの様に嫌悪を遠慮無しで顔に出す。


狼狽える俺。


「なんだよ。命がけで頑張ったのに、なんだよソレ

見るな・・・そんな目で俺を見るな・・・・・・・

うわぁあああああああ」


ボヤを消火し終えた俺は一人、森の中で練習する。

予想される皆のリアクションに対して最適解を模索中だ。


今のはパターン1【予想外】だ。


「・・・・うわーの声がちょっと裏返ったな」


 消火作業をしている内に自分のした事の重大さに

気が付き青くなっていた。


「やべぇ・・・・どう見てもやりすぎだ」


ジェノサイド。

それもあっという間だ。

もう武器のレベルじゃない兵器クラスだ。

圧倒的な差があった。

虐殺しなくても気絶とかさせて

改心させ味方に・・・・無理。

あれだけの数をいちいち手加減して気絶とか

現実的じゃない。

まず、ベアーマンが生理的に無理。

文明も土人レベルだろうし信仰しそうもないし。

味方にするメリットは無いな。


そもそも攻めてきた理由はなんだ?

エルフの方が悪だった場合は?

俺のした事は悪いコトになってしまわないか。


なんて事だ

これじゃ俺はまるで悪魔じゃないか。

悪魔か

いいのか

いや、待て


んーーー善悪はこの際いいか

味方にエルフがいて、その村が襲撃されたのだから

身を守っただけだ。

殺しに来ましたけど反撃しないで下さい

そんな理屈が通るハズがない。

うん

今回は防衛戦だったんだ。

それに「やれ」って言ったのヴィータだし


・・・これだ!!


パターン2【なすりつけ】


早速、練習しよう


「オ・・・俺は嫌だったんだ。こいつがやれって言ったんだ

見てくれこの刻印を俺は逆らえないんだ。俺は操られていたん」


ダメダメダメ

カッコ悪いにも程がある。

・・・・。

あんだけ強いのに

このダメダメさは逆に恐怖を与えるか・・・。

いやダメだ。

パターン2は却下。


次、行ってみよう


パターン3【放心】


「目標をセンターに入れてスイッチ・・・・目標を」


痛い痛い痛い。

うわー、これ扱いに困るだろ。

幽閉されそうだしノーマルに戻るタイミングも難しい。

ウーン保留。


次、パターン4【覚醒】


「フハハハ!!これが力か!僕はこの世界の神に」


いるいるいる。

神もう居るし

松田に撃たれそうだし

絶対バットエンドしか待ってないぞコレ

はいダメー

次いってみよー


パターン5【不敵】


「んー?お前は今まで食ったベアーマンの数を覚えているのか」


食わねえよ誰も

怖いよ

〇安だよ

その時点でダメだよ

んーでも個人的には有りだな

保留っと


次、パターン・・・・いくつだ?あっ6だ【冷酷】


「・・・依頼を遂行したまでだ。」


いいねー

カッコいいねーコレ

なんかプロって感じがバリバリする。

人によって引きそうだなー

でも今までの中では一番イイぞ!


パターン7【呆然自失】


これが実質一番の候補だ。

俺じゃない。

憑依したナニかの意志だという事にしてしまう。

人間状態なら安全ですよと思わせる。

パターン7の利点は仲間の3人以外のエルフ達に効果的な事だ。


「これは・・・俺がやったのか?!」


更に降臨の後遺症に襲われるアモン。

激痛が襲う。

という演技。


「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛」


もう藤〇竜也みたいに悶え苦しむ


「な゛ん゛で゛だ゛よ゛ ど゛う゛し゛て゛な゛ん゛だ゛よ゛」


地面に転がり

靴を片方脱いで手にハメ

顔に押し当てグリグリ動かす

踏みにじられているのだ


「僕ば悪魔ぢゃな゛い゛。信じでぐれ゛よ゛ー」


『何を独りでコントをやっておるのじゃ。

終わったのなら早う戻ってこんかー』


腕の聖刻がチクチク痛むと同時にヴィータの声が聞こえた。


「えぇ?ナニ聖刻ってそんな機能あるの?

もしかして全部聞こえてんの?」


『我のオススメはパターン5じゃな。別に2でも良いぞ

確かに命令したのは我じゃ、責任は我にある』


やばい、本気で恥ずかしい。


『・・・心配しとるような事態にはなっておらん

胸を張って堂々と戻って来い』

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