第10話 敵襲

隠れていたのはプラプリだけでは無かった。

村に近づくに連れそこかしこの木から武装したエルフが現れる。

その度にプラプリが事情を説明しては先に進む。


村の安全の為に警備をするのは当然だが

少し大袈裟な気がした。


精霊の見えない俺とハンスはいちいち驚く。


村のふもとまで辿り着くと、プラプリは俺達が

村に入る許可を求めに一人、先に登って行く。

俺たちは入り口になっている木の前で

待たされる事になった。


木には大きな蔦が螺旋状に巻き付いていて

それが階段替わりになっている。

見張りのエルフは無口で「お待ちください」以外は

話をしてくれなかった。

途中で見かけた警備の連中もそうだったが

このエルフも怪我をしている。

戦争でもしている最中なのか。

それならば警備が厳重なのも頷ける。


程なくして螺旋に巻き付いている蔦とは異なり

真っすぐに木に添って伸びている竹のような管から

プラプリの声が聞こえた。

入る許可が下りたとの事、見張りのエルフに一礼して

蔦を登っていくのだが、手すりも無いので結構怖い。

10m位、およそ三階建ての屋根ぐらいの高さまで

登ると村の入り口だ。


プラプリはそこで待っていた。

長に面通しをするので着いてこいとの事。


組み上げられた枝に 

すのこをしいて村の地面は出来ている。

そこ以外に乗ると最悪落ちるから注意しろと

プラプリは言ってくれたのだが。

そういう事は直前でなく

事前に言って欲しかった。


俺は落ちた。


まじで墜落する一秒と少し前。

渋谷はちょっと苦手。

その僅かな時間の中で考える。

エルフ達の目の前で悪魔化はこれからの事を考えると出来ない。

かといって人化状態では怪我間違いなし

もしかしたら死ぬ。

俺は予てから練習していた事を実行に移す。


半人化だ。


イメージするのは人間の皮を被った悪魔。

出来るはずだ。

愛徳高校時代でも、その存在感の無さと、それを裏切ら無い

実力の無さから【羊の皮を被った山羊】と呼ばれていた俺だ。

被っていたあっちの皮の方は小梅にコクる前に

勇み足で高〇クリニックで

いや、何でもない。

ととととにかく、被る!

得意なハズだ。


着地、足が結構深く地面に突き刺さる。

うまくいったのか?

ダメージを確認しようとしたが

その暇が無かった。


「キャーーーーーーーーーーーーーー」


頭上から悲鳴。

見上げると、スカートを押さえながらプリプラが落ちてくる。

お前もか。

受け止めるべく行動に移ろうかと思ったが

何か様子が変だ。


周囲の空気は巻き上げられる様にプリプラを助ける。

落下速度は明らかに減速していく。

プリプラの頭のすぐ上になにやら光の塊みたいなモノが見えた。

あれが精霊さんなのだろう

なんとなくだが頑張ってる感が伝わってくる。

どうやらデビルアイでも、居ると知って、信じて見れば

感知する事は出来るようだ。


小梅は放っとこう

これは平気だろ。


俺は自分の状態を確認する。

見た感じの変化は無い。OK

痛む場所も無い。OK

これは大成功なんじゃないか。


ゆうっくりと地面に到達するプリプラは着地をミスり

コケた。


精霊パラシュート。

エルフの標準装備とするならば床のずさんな施工も納得だ。

客も滅多に来ないのであれば注意するもの慣れていないのだろう。

プラプリに文句を言うのは止めて置く事にした。


「やーーーービックリしたーーーー」 


プリプラ、お前は落ちちゃマズいだろうに


「た・・・アモン大丈夫」


振りむいて俺に駆け寄ってくるプリプラ

おい、落ちた俺を心配だからワザと落下したみたいな

風にするつもりだろ。

俺の顔を見るとギョっとした表情になる。


「目、目が悪魔になってるよ」


皮の無い部分はそうなるか。

いかんいかん。


「お帰りですか」


落ちてきた俺達に近づいてくる見張りのエルフが

無表情でそう言った。

んなワケあるか。


見張りに気づかれない様に

俺はダメージを受けてますみたいな演技で

その場に座り込み、こめかみを押さえる仕草で

目を自然に隠した。

目だけ戻さねば。


しかし、戻すワケにはいかなくなった。

デビルアイが異物を補足したのだ。


精霊が頭の上に常に滞空しているエルフは

非常に特徴的なので判別がしやすい。

個人を特定するまでは慣れが必要だが

今現在の技量でも集団の中の誰がエルフなのかは判別できる。


木々に阻まれて直視はできないが

正面、およそ100mといった所か

エルフが数人、来る途中すれ違った警備の連中が

一か所に固まって興奮している。

冷静な者が多いエルフにしては珍しいと言える。

彼らのその先には集団が迫っている。


当然、エルフでは無く、もちろん人でもない

体格は大きく2~3mにもなる。

そいつらは殺意に満ちている。

なんらかの意志を持った魔物。

文明のレベルまでは分からない。


エルフの集団から一人だけこちらに急速接近してくる。

伝令だろう。


「敵襲ーーー!ベアーマンだー。」

しまった。

E缶を最後まで取っておいてない。


もはや立っている事も出来ないのか

肩で息をしている伝令は座り込み、見張り役が近くまで駆け寄る。


俺はその隙に「蒸着」を応用して細かいスリットを水平方向に

いくつも刻んだ手の平程の大きさの金属板を生成、

両端を丸めて耳に引っ掛ける部分を作り、顔の湾曲に合う様に

曲げ、鼻骨が当たる部分を調整する。

目元だけを隠す眼鏡形状のマスクだ。

サングラスが最適なのだろがガラスの作り方が分からない。


その間にも床を突き破り、武装したエルフ達が何人も軟着陸してくる。


あの床は手抜き工事では無く、緊急の時に一度に大勢が

出撃出来る為のギミックだったワケだ。

螺旋状の蔦を一列で下りてくるよりよっぽど早い。


「客人は早く上へ」


そう言って素早く俺の横をプラプリが駆け抜けていく


「プリプラも上へ、客人の護衛を」


別のエルフはそう声を掛けて通り過ぎる。

伝令の内容を聞く為に皆、見張りの周りに集まる。


俺とプリプラは言われるまま急いで蔦を登った。

上ではハンスとヴィータが入り口すぐの所で待っていた。


階上は蜂の巣をつついた様な騒ぎになって

今も武装を装着し終えた者が次々と降下していく。

バルコニーには大きな弓を装備したエルフ達が

二列に並んで広がっていた。

間欠無く射るように撃ったら交代するのであろう。


「認めたく無いモノだな自分自身の若さゆえの過ちというやつを」


マスクを付けた俺は、お約束を言っておくが

誰も相手にしてくれなかった。


ただマスクをした意味は分かってくれたようだ。

俺は弓兵の邪魔にならない程度の後ろからデビルアイで

戦況を確認する。


やばい

エルフ弱すぎ。


攻撃にも回避にも防御にも各精霊が全力でサポートしているが

いかんせん元々の体格が小柄なエルフは非力もイイ所だ

魔法が無いのでは話にならない。

担当しているエルフが死亡すると精霊は頭上から離れ

村の中央の一番大きい樹木まで戻ってくるようだ。

それが次々と絶え間なく戻って着ている。

その様子に非戦闘員は驚愕の声も漏らしている。

子供は当然、大人まで泣き出している。

芳しくない状況を伝えに上ってきたエルフは

自身のケガの治療を求めもせず


「お・・・長だけでも反対側から」


おいおい

もう壊滅確定なのかよ。


「やめとけ!正面は囮だ。三方に正面以上の数の

兵がいるぞ脱出する連中は餌食になる」 


俺はたまらず

デビルアイで得た情報を叫んで伝えた。

場の混乱が増したが

出ました殺されましたとなるよりは

いいだろうとの判断だ。

うまいタイミングで斥候が戻り、俺の意見を肯定する。

そんな時、俺の上着をつまんで引っ張る者がいた。

そいつは言ってきた。


「アモン。行ってくれるか」


ヴィータだ。

真面目な表情の彼女は神秘的なまで美しい。

普段のだらけきった顔とは別人のようだった。

元々美形なのだから普段から真面目にしていて欲しい。


「悪魔状態なら余裕で勝てるけど、姿を晒す訳には」


「そこは我の秘策がある」


俺の言葉を遮るようにヴィータは強く言った。


そんな折、なんか装飾が凝りに凝った服を着た

偉そうなエルフ、その両脇に、これもまた凝った装飾の鎧を

着た二人のエルフが中央の樹木の穴から出てきた。

長と護衛だろう。


「皆の者、静まれぃ」


「静まれぇい!」


二人の護衛が声を荒げる。

なんか印籠出しそう


それを見ると長の前に駆け寄るヴィータ。

すかさず護衛に阻まれる。

ヴィータは護衛の手前で止まると周囲にも

言って聞かせるように大声で話し出す。


「兵を引かせるのだ。後は我に任せよ」


ヴィータの言葉に動じる様子も無く

長は落ち着いて答えた。


「・・・人族の客人か。一体どうやってベアーマンの

軍勢を相手するおつもりだ」


だが懐疑的だ。

それはそうだろう。

どうみても強者には見えない

まだ子供だ。


「我が弟子に聖獣を降臨させる。聖獣の力を持ってすれば

あの程度の軍勢、相手にもならんわ」


「・・・・。」


何を言ってるんだ、この子は

そんな感じで護衛達と顔を見合わせる長。


「見ておれ。そして驚愕するがよい」


そんなエルフに構う事無く

ヴィータは後ろに控える俺に振り返り。

瞬く間に黄金の輝きを放ちだす。

これだけでも説得力抜群だ。

皆、驚きの声をあげ

目の前の奇跡に注目した。


「ふんたらかんたら・・・・出でよ聖獣」


俺は両手を広げ自分の体を確認する。

何の変化も無い。


周りの観衆も固唾を飲んで見守るが

変化する気配は一向に無い。


どうした?

まさか失敗したのか・・・・。


俺はヴィータ見る。

そこには顔を真っ赤にしたヴィータが

口をパクパクさせている。

手をブンブン振っている。


聖獣って嘘なのね。

そんな術ないのね。

俺は普通に悪魔化すればいいのね

聖獣というキーワードで先に印象づけして

怖い外見だけど悪魔じゃないよー

ちゃーんと管理下にあるよーって

周囲を安心させつつ

手柄も自分のモノに出来るって寸法か

ごめん

本当に何か降臨してくるのかと勘違いしてた。


「ぅうおおおぉ来てます!!来まくりやがってます!おおおおおぉ!!」


間が空きすぎたので胡麻化そう

多少大袈裟に俺は叫び声を上げ

体をのけ反らせる。

右手が何かを掴むかの様な仕草で天に翳し

悪魔化するタイミングでデビルフラッシュを発動させる。


全方向にカメラのフラッシュ程度の閃光を発する技だ。

コレと言った使い道が無く、

夜、用を足すのに暗いからと女性陣から

頼まれ後ろ向きで使った程度という情けない用途しか無かったが

ここで陽の目を見た。


「「「おおっ!!」」」


悪魔化した俺の姿に周囲が歓声上げた。


嬉しい!!!!

この姿に変化したリアクションで

初めて悲鳴以外を聞いたよ。




出展

羊の皮を被った山羊 :ビーバップハイスクールのギャグ

E缶        :ロックマンのアイテム 

認めたくないものだな:シャア少佐の名セリフ

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