第9話 エルフの里へ
エルフの村に近づくにつれ周囲の様子は
森と言うより樹海と言った方が近い感じになっていった。
こちらのイメージの樹海と異なるのは樹木が大きい事だ。
段々と巨木に囲まれていく。
直射日光に晒されないのは有難かった。
エルフが色白なのはこのせいか。
「痛っ!!」
咄嗟に声の方向に振り返る。
俺の後方でプリプラが足を抱えてうずくまっている。
「どうした。膝に矢でも受けたか?」
「・・・・。」
俺の冗談に答えられない様子だ。
これは本気だ。
傷口を押さえている手の縁から
出血の溢れる勢いが勝って見る見る血が溢れていく。
「ちょっとゴメンな」
木を削って作った背負式の椅子を下ろす。
乗っているのはヴィータだ。
子供の足ではキツイだろうと思い作ったのだ。
小梅も乗りたがっていたが
人化状態では無理な話だ。
駆け寄ると近くの根に絡まる蔦状の植物が
鋭い棘を持っているのが確認出来た。
「こいつに引っ掛けたのか。プリプラ見せて見ろ」
涙目になってブルブル震えているプリプラは
恐る恐る手をどける。
やはり傷がちょい深い。
側面なのでスジはやられていない様だが結構な切り傷だ。
「ハンス回復呪文を!」
俺は反射的にそう言ったのだが
ハンスの返事は俺と小梅の耳を疑う内容だった。
「・・・回復呪文とは・・・なんでしょうか?」
「!?」
通常の手当てをした。
清潔な布を押し当て血が止まるまで圧迫する。
しかし、ハンスの奴、本当に祈るだけだとは
陣形の話は冗談じゃ無かったのだ。
教会本部の偉い人なら奇跡を起こせるらしい。
他には魔女と呼ばれる邪法の使い手が
たまに捕まって処刑されているとか。
ハンス自身は処刑は勿論
魔女にもお目にかかった事は無いそうだ。
手当をしながらハンスと話した内容をまとめると
この世界には魔法は無い。
いわゆる俺たちが思っている様なヒーラーはいない。
「それが出来るならば素晴らしいでしょうね」
俺の回復呪文の説明を聞いたハンスが言った言葉だ。
そのまま小休止となった。
俺はプリプラの手当てをしている最中に
そっと小声で聞いた。
「自分で回復呪文は唱えられないのか?
エルフならレベル1でも初期の回復呪文が使えそうなモンだが」
「それもメニュー画面が開かないんじゃ・・・」
結局それなんだよな。
落ち込んでいる所に追い打ちを掛ける様で心苦しいが
俺は小梅に自分の考えを打ち明ける事にした。
今後の行動に大きく関係する事だ。
もしそうだったら迂闊な行動は
文字通り命取りになると思ったからだ。
「INする前に太郎とした話ではな・・・」
こちらを伺い俺の話の続きを待っている小梅。
「痛みの感覚はカットしてあるハズなんだ
なのに俺はこの世界に来てからというもの
色々な痛みを味わっている。」
「・・・・。」
「もしかしたこれはゲームじゃなくて
実際の異世界に転送さ・・」
「そんなワケないじゃん。ゲームだよ
きっとバグだよ。全部バグだよ」
俺の言葉を遮る様に小梅は言った。
しかし、その言葉は自分でも想像していた仮定で
それを信じたくない気もちで溢れている。
そんな感じを受けた。
「まぁ、あれだ。痛いの嫌なんで【命だいじに】作戦だ」
俺は努めて明るくそう話した。
「ゾンビアタックとか禁止な。俺もお前も」
「私はか弱い女子だから・・・たけしはイイんじゃない」
・・・・。
しかし実はこの世界に魔法はある。
使用不可能なワケでは無い。
俺は洞窟脱出時にヨハン大司教が何らかの魔法を
発動させ悪魔達の動きを封じたのを見ているのだ。
これは恐らく魔法を一般には普及させず
一部の特権階級が秘匿していると想像できる。
ヴィータはどうだろう。
仮にも女神なんだし出来てもおかしくない
いや
むしろ出来ない方がおかしいだろう。
俺は素直にヴィータにそう尋ねた。
「・・・してやりたいのは山々なんじゃが」
言葉を濁す。
ひどく言いにくそうにヴィータは続ける。
「保有出来ている力は少ない。命関わるケガならばともかく・・・」
珍しく申し訳なさそうだ。
俺は疑問をぶつけてみた。
「信者が近くにもっと大勢いればいいのか」
頷くヴィータ。
人々の信仰がそのままヴィータのMPその他に直結している仕組みか
まぁハンスの祈りで肉体が成長したし
更なる力を得る為に聖地を目指すワケなのだが
「私、信者になります」
プリプラは申し出た。
「・・・良いのか?エルフには宗教は無いぞ
村に居られなくなったりせんかの」
自分の頭の上の方を見ながらプリプラは
さらりと変な事を言い出した。
「・・・この子も大丈夫だって言っていますし」
プリプラの視線の先を凝視するが当然何も無い。
やだ
この子ったら
「おいプリプラしっかりしろ。出血が多すぎたのか」
「あっこれは、もしかして」
ハンスが何か言いだす。
俺は続きを促す。
「知っているのか?ライデ・・・・ハンス」
「聞いたことがあります。
なんでもエルフには個別で精霊が
付いているとか・・・人間には見えません」
小梅も先に教えておいてくれよ。
つか、デビルアイで見えなかった何故だ。
早速、ハンスが入信の儀式を簡易的にだが行った。
「おっコレは?」
ヴィータに早速変化が表れた様だ。
声を出している。
俺はヴィータを注意深く観察する。
背が2~3cm伸びたぐらいか・・・
あまり変化が無い。
「ハンス君の時は赤子から10歳だったぞ
プリプラお前、信仰心低すぎなんじゃね」
「超ー祈ってるのにー」
手の平の皺と皺を合わせて祈るプリプラ。
うーん、この場合は指をクロスさせる西洋式の方が
いいんじゃあないのかな。
「俺も入信した方がいいんじゃないのか」
着てる服が服なだけに、今現在、詐欺師状態だ。
実は結構心苦しいモノがあったのだ。
しかし、ヴィータはそれを強く拒んだ。
なんでも聖刻だけでも俺の体には相当は負荷になっているらしい
入信などしようモノなら内部から崩壊するそうだ。
「へー」
あまり良く理解していない俺に
ヴィータはハンスに聖書を読んで聞かせてみる様に促す。
人化している状態なら問題は無いようなので
悪魔化して実験した。
死ぬかと思った。
普段はなんでも無いハンスの声が
俺の脳をジリジリと焼いていく様な錯覚を覚える。
効果は抜群だ。
俺は即座にギブアップした。
これは危険な感じだ。
面白がったプリプラがハンスから聖書を
強引に借りると、邪悪な笑みを浮かべる。
「うふふふふ。」
「おい、まさか」
「楽しい絵本の時間よ。」
「おい、やめろ」
「今日はどんなお話かなー良い子はちゃんと聞いてね」
「お前そう言うの本当はキライだろ。
〇のだりょうこおねえさんと同じ目をしているぞ」
勢い良く聖書を読み上げ始めるプリプラだったが
以外になんでも無かった。
即座に人化しようと準備していたが、
ハッキリ言ってその必要は無い。
まるで痛く無い。
口笛を吹いてやる。
「何でよーーーー!!」
「ガッツが足りない」
「サッカーじゃあないでしょーー」
俺達のコントの間に準備が整った。
ヴィータはプリプラの傷口に右手の手の平を翳す。
「では、プリプラいくぞ。」
呪文の詠唱は無い、
ヴィータの体が黄金のオーラに包まれていく
悪魔状態の俺は本能的にその輝きに危険を感じ距離を取る。
高性能デビルアイをフル活用し何が起きているのか
しっかりと目に焼き付けて置くことにした。
「おぉ」
祈りを捧げながらその様子を見ているハンスも
目の前の出来事に思わず感嘆の声を漏らす。
傷は見る見る間に塞がっていき皮膚に付着した
乾いた血液さえも綺麗になっていく。
もし包茎手術をした者にこの術を
いや、何でもない。
今の無し。
「ふぅ」
ヴィータを包む黄金の輝きが収まっていく
終わったようだ。
若干前より背が低くなってしまっている気がする。
ヴィータの言うエネルギー問題は本当なのだろう。
祈り担当はその役目を果たし
笑顔担当はその職務に復帰した。
満面の笑みだ。
俺達は休憩を終え、旅を再開する。
悪魔状態でも俺には精霊が見えなかった。
その件についてヴィータに尋ねたが
精霊が見えるのは特別な力の中でも更に特殊な部類で
実はヴィータにもハッキリと視認出来てきないそうだ。
また、見えていなくとも存在と力は感知できるので
問題になる事はないらしい。
姿
それ自体も正確かどうか怪しい。
元々は形の無い存在なのだ。
蝶の羽を生やした小人とはエルフの脳内イメージを
エルフはそのまま見ているという事らしい。
やっぱり危ない薬とそう変わらないんじゃないかな。
しばらく進むとエルフの村が見えた。
プリプラは斜め上の方を指さす。
俺にだけ聞こえる様に「多分だけど」と言ってきた。
なんでも精霊が集まっている数が異様に多いそうだ。
不自然な位、規則正しく大樹がマス目状に並んでいる。
これまた不自然な位大きな枝が同じ高さで水平に並び
重なり合っている。
そうして床を形成しているのだ。
「ふむ、これはどうしたものかの」
そう言うとヴィータが、なんか重くなったぞ?
おい、今度はどんな奇跡だ。
「ちょっと一回、降ろすぞ」
俺はそう言って背負式椅子を下ろすと
なんと
ヴィータは成長していた。
背も伸び、胸が出始めている。
余裕目に作っておいた椅子の幅も少なくなる程
腰骨、お尻がでかくなっている。
「どうやら信者がおるようじゃ」
声も幼い舌足らずだった発音はすっかり消え。
ハッキリ活舌良く喋っている。
椅子から立ち上がった、そのスタイルには
くびれが存在し身体は確実に
女性的になり始めていた。
こちらの感覚で言えば小学校卒業~中学初め位な少女だ。
人によってはどストライクゾーンでござるよ。
天翔る竜がひらいめいちゃいそうだ。
ヴィータの変化を喜び称えるハンス。
俺はその隙にそっとプリプラの傍に近づき
念を押しておいた。
「村でも記憶喪失で通せよ」
もし、その村がプリプラの生まれ育った村
そういう設定だったならば
NPCである村人には、それまで共に過ごしてきた
プリプラの人柄、思い出やらがあるはずなのだが
当のプリプラは小梅100%だ。
いきなり中身が別人だ。
怪しまれてしまうに違いない。
「分かってるってば」
そんな話をしている最中
その人物は木の陰から突如姿を現した。
いつでも引けるように矢を弓につがえたまま
こちらを凝視している。
プリプラと同じような恰好だが
スカートでは無く布製のズボンだ。
体格も同じような感じで
背はややプリプラより高そうだ。
プリプラと同じ金髪で短くカットしている。
目つきは精悍な切れ長だ。
性別の見分けは付かない。
中性的というやつだ。
「・・・・プリプラ、なのか」
声も中性的だ。
なんか宝塚の男性役みたいだ。
「・・・・。」
固まるプリプラ。
すぐに返事するべきなのだが相手の名前も分からない。
俺が名乗り出ようとするより先にハンスが出た。
「プリプラさんのお知り合いの方ですか」
「・・・人族だな」
あからさまに警戒を強めるエルフに
ハンスは綺麗な礼をして続ける。
「初めまして私はハンス。聖都へ向かう旅の途中で
昨夜、プリプラさんを森の中で保護いたしました。」
「保護?」
「どうも記憶を無くしておられる様子。名前以外は
思い出せない状態でして」
打合せもしていないというのに
うまいじゃないかハンス君。
任せたぞ。
「怪我は!?」
弓と矢を慣れた手つきで装備状態に戻すと
心配そうにプリプラまで駆け寄るエルフ。
「ケガは無い・・・の大丈夫。記憶以外は無事。へへ」
硬いぞ小梅、ハンスを見習え
ってハンスは演技じゃないのか。
「こちらはアモンさん、私の同僚で」
俺は見よう見まねでハンスの取った礼をする。
「こちらの方が教会の大事なお客様です。
このお方を聖都まで無事お連れするが我らの役目です。」
エルフは左手の手の平を胸に当て軽く頭を下げる。
エルフ式の礼なのだろう。
「プリプラが世話になったようだ。礼を言う」
俺も何かしよう。
用意していたセリフを言う。
「送り届けるついでと言っては失礼なんですが
旅の為の物資が不足気味でして、つきましては
エルフの里で購入を希望しているのですが」
「うーむ、人族の言う店は無いのだが
余裕のある物なら分けられると思う」
エルフは俺とハンスの服装をジロジロ見ると
言葉を続けた。
「丁度、長の客人が滞在中だ。その服装・・・
客人のお仲間だと見受ける。
村に入れるよう私が話を着けよう」
よし、計画通り。
しかし、お仲間の客人とは予想外。
「ありがとうございます・・・えっとお名前は」
「これは失礼した。私はプラプリという」
ややこしいわ
出展
膝に矢:海外製のオンラインゲームでのセリフ
知っているのかライデン:魁!男塾での何故か有名になった台詞
つ〇だりょうこおねえさん:3chの子供番組で歴代最強と言われる子供嫌いとの噂
ガッツが足りない:サッカーのFCゲーム
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます