第8話 プリプラ合流

プリプラ

凡そ名前を付ける事の出来るゲームには

大学時代、全てその名前で通した女。


宍戸小梅

太郎の彼女で大学時代からの友人。

かつてこの俺を自殺寸前にまで追い込んだ女だ。

・・・・完全に自業自得で小梅に罪はない

それにしても太郎、こいつも呼んでいたのか。


【俺たちの理想のゲーム】の俺たちの中にこいつも入っているのか?


「え?・・・・太郎?」


口を押えて困惑する小梅。

瞬間的に思いついた相手の名を口にしたようだ。


「ブゥー。外れ・・・・いや正解。太郎だよwさぁ小梅Hしよう」


「嘘?!やだぁ!えー誰ーェ」


腕をクロスさせ体をガードする小梅。


「・・・人化」


俺は答える代わりに「人化」して宮本たけし異世界Verに変化した。

茶髪だが、これで分かるだろう。

なんとなくだが名乗るのが嫌だったのもある。

何故なのか自分でもよく分からない。


「・・・・。」


何か言えよ。


小梅はガチ泣きモードに入り、俺に拳を放ってきた。

女子パンチなので大した事はないが、たまに鳩尾にいいのが入る。


俺はしばらく殴られ続けた。

落ち着くのを待ってから本題に入る。


「たけし・・・変わったね。天使族とかでプレイすると思ってた。」


俺もそう考えていた時期がありました。

俺は、これまでの経緯をかいつまんで話した。


「えーと私の方は・・・」


俺の事情の方を話し終えたので小梅の方の説明を請うた。

なんと小梅はさっきINしてきたばかりでメニュー画面を

開こうと四苦八苦している所をイジワルな悪魔に襲われたというのだ。

許せんな、その悪魔。


「こっちの一日の時間が何時間なのか知らないが」


俺は思いついた疑問を口にする。


「俺は朝方から今までで既に半日以上経過している事になる

INした時間にそこまでの差があるのか?」


小梅はあっさりと驚くべき回答をしてくれた。


「あーほぼ同時にINしても、その位は差がでるかも・・・こっちは


いわゆる加速時間、何倍速で設定しているのか知らないけど

こっちの一日が現実では数分とかも出来るらしいよ」


これは嫌な情報だ。

運営が異常に気付いたとして強制停止させるにも

数分で出来るとは思えない

そもそも異常にすぐ気が付いてくれるか怪しい。

こちらでは数日になるかも知れない。

長期戦を覚悟した方が良さそうだ。


「今、現実は何時なんだ」


「それもメニューからじゃないと・・・・」


そう、何も出来ない。

分からない。

アイテム一つ取り出せない、しまえない。

魔法一つ唱えられない。

MAPも開けない。

当然方角も分からない。

本来ならばキャラの頭の上に名前や

レベルも半透明で表示されるはずだった

NPCやフレンドなどで色分けされる予定だった。


「有り得なくない?自分の残りHPも分からない。超不便」


「俺なんか他人のキャラだから名前も分からない」


「アモンでしょ」


「そう呼んだ悪魔がいたから、そう名乗ってるけどね。

そいつはNPCだったのかプレイヤーだったのかも

今となってはなぁ・・・」


「その・・・ハンス神父っていう人はNPCなんだよね」


「プレイヤーの言動じゃないね。荷物その他が前もって準備されていたからなぁ」


そこで、思いついた疑問を口に出してみる。


「女神ヴィータはプレイヤーじゃないよな」


顎に手を当て考える小梅。


「んー設定では魔王も神もプレイヤーはなれないハズ」


更に続ける小梅。


「それにしても中間イベントの【降臨】がいきなりとか、しかもハズレだし」


「ハズレ?」


「12段階中下から2番目の神様だよ。ヴィータって」


マジかよw

笑いを堪える俺に構わず説明を続ける小梅。


「えーと上からだと・・・・」


絶対神:エクザス(名目上一位、恐妻家)

慈母神:ユノ  (実質一位、エクザスの嫁。武器は消火器か)

戦略神:ミネバ

太陽神:フォロン

美麗神:アホデルタ


この辺からちゃんと聞いていなかった。

なんでもヴィータは豊穣神で、その下はなんと台所神だそうだ。

13番目があればトイレの神様を俺は推す。


「豊穣神って・・・効果は?」


HPとか増えるのかな。


「ウーン効果までは資料になかったー」


「後で本人に聞いてみるか・・・。」


まてよ【降臨】て、悪魔側も同時じゃなかったか。

その疑問を小梅に聞く俺。


「そう。魔王も12段階あってーランダムでー」


暗黒魔王:ババアル

疑獄魔王:アイギス

時空魔王:ヴァサー


これも、この辺から聞いてない。

しかし良く覚えているモンだな小梅。

思えば大学時代でもゲーム攻略とかアイテムとか

よくコイツに聞いて済ましていた。

自分で覚えるより確実だったので任せっぱなしだったっけな。

今回も添付されていたPDFファイルを隅々まで熟読したそうだ。


12段階中の何位が降臨しているのか調べる事は出来ないのもだろうか

今後、この問題は必須の情報になる。


そんな事を考えているとエルフのお腹から豪快な音が聞こえる。

グゥウウウウウウ

真っ赤になる小梅。


「・・・確か、朝飯用に取っておいた肉があるけど。食う?」


コクコクと頷く小梅。

ゲームプレイヤーである事は説明が面倒なのでハンスとヴィータには

伏せる方向で打ち合わせをしてから、小屋に向かう事にする。


小梅は迷子のエルフで記憶喪失設定だ。

エルフの初期町の森が近いハズだそうなので

ハンスが道を知っている事を期待しよう。


立ち上がった小梅の背中を見て俺は驚く。

その背中の衣服は三本の爪で切り裂かれた様になっていた。

右肩口から左腰辺りまで、上着の皮ベスト、そのしたの長袖

更に下着と思わる服まで大きく。

しかし、その切り口に血の跡は確認出来ず

切り口から覘く白い肌にはキズは無い。

まるでそう言うデザインの服を着ている様な感じだった。


「・・・小梅」


「なぁに?・・・今の内からプリプラって呼ぶクセつけて置いた方が良く無くない」


「あぁ、そうだな。それより」


振り返り首を傾げる小梅。


「今の内に、プリプラ・・・服を脱げ」


すかさず小梅は後ずさり。

真剣な眼差しで力強く答えた。


「ダメだよ。太郎を裏切れない」


スマン

そういうんじゃない。


「私・・・私、そんな足軽女じゃないもん」


転生したら足軽女だったのでイケメン上様を将軍にさせてみました。


なにソレ面白そう

次回作はソレでいこうか。


「尻軽って言いたかったのか?そう言うんじゃなくて」


また嫌な仮説が思い浮かんだが考えない様にしよう。


「服が背中、スゴイ破損しているんだ。さっきの要領で直すよ」


首と両腕を回して背中を確認する小梅。


「嘘ヤダ!なにコレー!!最低」


気が付いた様だ。

慌てて木の反対側に回ると服を脱ぎ始めるが

かなり手こずっているようだ。


「お、あくしろよ」(オゥ早くしろよ)


自分で着たワケじゃないしな。現代の服とは勝手が違うだろうし

俺は全裸スタートだから分からない苦労だ。

小梅はギャーギャーいいながら、俺の予想した通りの

答えを喚いている。


「終わるまでは、コレを羽織っておけ」


俺は服の上着を脱いで、小梅が隠れている木の枝に引っ掛けて置く。

予想通り脱ぐ際に痛みは無い

待っている間に悪魔化する。

人化状態だとまだ悪魔の力をコントロール出来ないのだ。

悪魔化してから先ほどの木の枝辺りを見ると服は残っていた。

悪魔化と同時に消えるかとも思ったのだが

分離した時点で体の一部では無くなる様だ。

服は消えずに枝に引っかかている。

これを繰り返せば服を大量生産できるのではとも考えたが

いや

最小限にしておこう。

もしかしたら俺自身が減っていくなんてオチじゃ困る。


脱ぎ終わった服を持って木の陰から小梅は出てくる。

服を畳んでいる辺りは好感が持てるが。

それより早い方がいい。


小梅から服を受け取ると俺は早速修理に取り掛かるが

服の修理は想像以上に難航した。


「お、あくしろよ」(オゥ早くしろよ)


ここぞとばかりに小梅が逆襲をしてくる。


「すいません。今しばらくお待ちください。」


俺は鼻をほじる仕草をしながら答えて置いた。

服の修理は金属とは勝手が違った。

熱してくっつけるワケにもいかない、燃える。

元は生物なので単一素材で出来ているワケでないので

うまく操作出来なかった。

ぶっちゃけるとくっついていない。

繊維の切れ端を絡めて胡麻化しただけだ。


なんとか服の修理が終えるが

ダメだこれは

服の修理はこれからは止めよう。


小梅は服を着終えると、くるっと一回転ターンする。


「どぅ、変なトコ無い?」


よく見ていなかったが「大丈夫だ」と言っておいた。


小屋に戻ると二人はまだ起きていた。

打合せ通りの説明をするとヴィータは言った。


「ダメじゃ。元の所に戻してくるのじゃ」


捨て猫かよ。

俺はヴィータを無視してハンスにエルフの村の所在地

それを知っているかどうかを尋ねる。


「大体の場所は分かりますが、行った事は無いので

キチンと案内できるか保証はしかねます」


ヴィータが横から口を挟む。


「近くなんじゃろう。

お主が担いでひとっ飛びしてくればよかろう」


それを言われて思い出した。

今夜の飛行訓練の目的であった事だ。


「なぁ担いで飛ぶって話なんだが、4m級のデフォルト悪魔なら


3人位担いで余裕でイケるぞ。一気に聖地まで」


「あぁ・・・説明しておらんかったの」


ヴィータた額に手を当て、立ち上がり考え込んだ様子で

ウロウロし始める。


「少し長くなりそうじゃ・・・プリプラとやらは

食事しながらで良いぞ」


ハンスが腰を上げ、木を削りだして作った、フタ付きの大皿を

部屋の隅から持って来る。

 あざと・・・可愛らしい仕草で受け取り礼をするプリプラは

早速パクつき始めた。


「結論から言うと、それは出来ん。我が消滅する。

神側と悪魔側、恒久的に同時に存在することは不可能なのじゃ

エネルギー交換・・・というよりは対消滅じゃな

それが起こる。」


見た目には10歳そこら、声も舌足らずで幼さ全開の

ヴィータがなにやら難しそうな単語並べ始めた。

実にシュールだ。


「正確では無いがの、分かりやすく例えるなら。

氷・水・蒸気かの。氷が悪魔のエネルギーで存在の力とする

同じように蒸気が神とエネルギーで存在の力とする

まぁ水はこの世界、人間界じゃな」


「んぇーコレ何のおにふー」


「これら二つが一つ所に存在すると互いの熱が消耗しどちらも

水になってしまう。神も悪魔も失われるのじゃ。

まぁ人間界そのものが太古の昔に神と悪魔の戦の傷跡じゃ」


「結構、固いんでふけどぉー」


「それ以降は互いに人間界を通過せねば相手側に行けなくなった

しかし、水を通過した蒸気は力をほぼ失ってしまい微々たる量で

氷の世界にたどり着けたとしても力の差は歴然

たちまち氷付かされてしまう。行く事はできぬ」


「パンとか無いのー」


「しかし、それは悪魔の側も同じ理屈。では残りの総戦力で水を

舞台に戦をしたとしても大量の水を生産し僅かにどちらかが

勝ち残るだけ、しかもその残り僅かが水になってしまうのも

時間の問題というワケじゃ。」


「お水下さぁーい」


「そこで始まった戦いが、水を蒸気にして

戦力の強大化を図る。相手はその逆

水を氷にしおて戦力の強大化を図る。人類の獲得じゃ」


「氷は無いよねーやっぱり」


「神は人類に救いを施し信仰を得る。

悪魔は人間の欲望に漬け込み魂の獲得に乗り出した。

相手を圧倒敵に凌駕する力をため込む戦いにシフトしたのじゃ

此度の降臨も、その長い戦いの一環じゃ」


なんか、さらっと凄いネタバレしてないか

もう最終回近いのか?


「我の今のエネルギー蓄積量では、お主の悪魔エネルギー放出に

長時間は耐えられんのじゃ。聖刻が奇跡的に成功したものの

ハンスの近くまでが耐久の限界じゃった。今は少し蓄積したが

抱えられての飛行は無理じゃ」


「すいませーん。お醤油とか無いですかぁー」


食ってていいとは確かに言ったが、こいつ本気で食ってるだけだ。

聞いちゃいねぇ。


「無い。無理に食わんでもいいぞ。」


かなり口の周りを汚したプリプラは諦めると

また肉にかぶりつき始めた。


「じゃ女神様以外でひと飛びしゅれば」


「食いながら喋るな。それに本末転倒だ

お前、注文した商品忘れた宅急便の兄ちゃんに

玄関まで来られても意味無いだろ」


「飛ぶにしてももうちょい信者が大勢いる地域で蓄積しぇんと・・・・。」


いつの間にか肉にかぶりつき始めるヴィータ。


「まだ食うのかよ」


「あの・・・アモンさんとプリプラさんお二人だと

特別な言語で話されるのですね」


そう日本語です。

話しかける相手の使用する言語で自動で発音してしまう。

意図的に操作出来ない。

変な勘繰りをさせてしまいそうだ。


「話やすいので、ついな。全員に話す時はちゃんとするから」 


ハンスの疑問は適当に流そう。

説明を求められても、これ以上は無理だ。


エルフは無宗教なのでエネルギーの補充が出来ない。

そう言うヴィータをハンスは旅の為の物資が心もとないと言う

理由で説得させた。

明朝出発だ。

陣形は


前衛 俺

中央に保護対象のヴィータで護衛に俺

後衛 俺

ハンスは祈り担当

プリプラは笑顔担当

と、言う事になった・・・。


どこに立ってればいいんだ俺。

明日考えよう。

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