第7話 ウィぃングとビィぃーム

音を置き去りにして悪魔は夜空を切る。


悪魔の飛行は鳥のソレとは根本から異なる。

空力を使用していない。


生き物でない悪魔は酸素を必要としない

空気はむしろ障害物だ。


どうも引力の正体は勘違いだったらしい。

宇宙には360度ありとあらゆる方向から

物体を押し付ける宇宙線が飛び交っている。


茹で上がったソバを水道水で流しながら冷やす

その時に手に感じる重さ

水がソバを通過する際の抵抗

要約すると重力もそんな感じだ。


足元から星を通過して押してくる力より

より抵抗の少ない天空から押してくる力の方が強い為

俺たちは地面に押し付けられている。


引っ張られているのと勘違いしていたのだ。


大きい天体(生成している素材でも異なるが)は

通過する距離が長い為、結果的に足元から押してくる力が弱まり

結果、重力は強くなる傾向にある。

反対に月の様に体積が少ない小さな星は

足元から押してくる勢いがそれほど弱くならないため

重力は軽くなるのだ。


力の流れは完全均一では無い。

僅かに弱い箇所に雪崩式に加速し流れが生じ回転する力となる。

星が自転し、また、その動きが停止しないのも

そもそも星が球体を成しているのも、そのせいだ。


身近な例では洗面台に貯めた水、栓を抜くと渦巻になっていく

そう言う現象だ。


翼は空気を操るのでは無く、宇宙線を制御している。

飛んでいると言うより、自在に落ちているのだ。


夜は移動を止め野宿となった。

俺は悪魔化して木々をなぎ倒し

簡単な丸小屋をこしらえる。

夜露でずぶ濡れになるより遥かに良いだろう。


食事は食えそうな野生動物をハンスに教わり

適当に狩ってきて焼いた。

ハンスとヴィータは肉を食えない戒律ではと

焼いてから思ったのだが二人とも

何それとモリモリ食いやがった。


宗教感が元の世界とは異なるようだ。


食料事情も異なる。選んでいるほど余裕は無い。

食えるモノを食える時に食っておく。


俺も味に興味があったので、人化して頂いてみたのだが

臭くて食えたモンじゃない。

更に塩も胡椒も無いので味付け無しだ。

食にうるさい日本人には厳しすぎる世界だ。


ハンバーガーが恋しい。


食事の後、二人を小屋に残し俺は単独行動に出た。

この体の性能及び扱い方を把握しておきたかったからだ


そんな訳で今おれは成層圏にいる・・・空気が無くなったので

多分そう言っていい辺りだと思う。


見下ろす大地の地形は俺の知っている地球の大陸のどの形でも無い。

見上げると浮かんでいる月、その模様も異なる様に思える。

つか

近いのかデカいのか、マンガの月みたいだ。

大きく視認できる。


星座は・・・元から詳しくないので分からん。

地球じゃない気がする、ただ万年単位で考えれば

遥か昔か遥か未来の地球という可能性も捨てきれない。


これ以上行っても得るものはなさそうなので

というか今の時点でも、元の小屋に戻れる自信がない。

真っすぐ上昇したので真っすぐ下りよう。

きっと帰れるハズだ。


ドキドキしながら落下する俺。

帰る時は力を抜いてスカイダイビング状態だ。

アニメ化するなら是非オープンニングに加えたいシーンに・・・

いや

こんな醜い悪魔が落ちてくるなんてダメだろう。

どんな終末だよ。


それにやっぱり空から落ちてくるなら美少女でしょ。

つか、美少女が足りない。

確かにヴィータは美少女かもしれないが

あれじゃない。

そう、おっぱいだ。

おっぱいが足りない。

圧倒的に不足している。

総統閣下も怒り出す位足りない。

プルーンプルンが無い。

「おぱーいカモーンぷりーぃずっ」と叫ぶ悪魔が降ってくる

どんな世界だ。

思わず笑ってしまった。


ようやく地表が近づいてくる。

上がるより随分時間が掛かったという事は

自由落下より上昇速度の方が遥かに速かったのだろう。

音速超えたんだからそれもそうだ。


その地表に小屋を確認すると俺は、手のひらや足を上手に使って空気抵抗を

調整し方向を定める。

その最中に俺の高性能デビルアイは人物を補足した。

小屋から数百m程度離れた林の中だ。

俺はデビルアイを調整して拡大する。

その人物は木に背もたれ腰かけている。

単独だ周囲に仲間がいる様子は無い。

目立つ特徴は耳だ。

長い耳、エルフだ。


俺の願いが通じたのか

おっぱいキタのか!?

俺は翼を起動させると落下速度をコントロールし

なるべく音をさせないようにエルフの近くに滞空する。


観察すると、そのエルフは妙な動作をしている。

最初は呪文でも唱えているのかと思ったが、どうも違うようだ。

目を閉じ手のひらを正面に向けて

窓を拭いているような、蚊でも払っているかの様な動作。

首をグルグルさせ方向変えて、またその動作を試しているような・・・。


プレイヤーだ。メニュー画面を開こうとしているのだ。

うわーやっぱり、傍から見ると間抜けだー。


喜びと失望が同時に俺に押し寄せた。


喜びは俺だけがこの世界に飛ばされたのでは無いという事、

これは太郎にも会える可能性が出てきたという事だ。

帰還への可能性は上がったと言っていい。


失望はメニュー画面が表示されないのは俺だけの不具合では無いという事

ヘタをすると誰一人メニュー画面を開けない可能性が出てきた。

これはよろしくない。


とにかく接触しなければ

俺は意を決してエルフの元に近づいていった。


「なんでーぇえ・・・え、なんでー」


ぶつぶつ呟きながら、そのエルフは眉間に皺を寄せ

口を△にし、目を閉じ

おぼつかない様子で右手をヒラヒラ動かしている。


無駄な事を・・・。


おぉ女子だ。

座っているので身長はハッキリしないが

恐らく150cm前後、スリムというより華奢な体型だが

膝まである皮のーブーツからスカートまで伸びる太ももは

中々よろしい。

しかし胸元に注目して失望する。

悲しいレベルでペッタンコだ。


神よ、まだ試練をお与えになりますか。

実りの季節は未だ遠いのか。

まぁ

その神からしてペッタンコだったっけなぁ


帰ろう。

いや待て。

そうじゃない。


俺は目的を思い出し、引き返したくなる気持ちを押さえ

ゆっくりエルフに近づくと

出来うる限りの最高の営業スマイルで話しかけた。


「こんばんはー」


「ふぁ!」


ビクッと体を震わせると勢いよく目を開けるエルフ。

おぉ瞳はグリーンだ。

そして俺に気が付くと


「ビィヤァアアアアア!!悪魔だぁああああ!!」


座った状態のまま腰のレイピアを抜き、そのまま切りつけてきた。

高性能デビルアイはレイピアの刀身の材質、抜刀速度を瞬時に判断する。

俺の物理防御が攻撃力を遥かに上回っていると判断。

回避の必要無しだ。


パキーンとカン高い音を立てレイピアは折れた、

折れた刀身の先は空中で数回回転すると、ちょい離れた地面に刺さる。

身長は調整していたので170cm位になっている俺。

脇腹辺りに切り付けられた。当たった箇所は分かるが

全く痛く無い。

エルフはパニック状態になってしまい折れたレイピアで尚も

俺に切り付けようと滅茶苦茶に振り回す。

いきなり攻撃してくるとか。

なんだこいつムカついてきた。

犯すか

どうせエルフなんざオークに凌辱されるだけの生き物だし

ここで俺がやっちまっても何の問題もないよね。


振り回すのに疲れたのかエルフは荒い呼吸で項垂れる。

さっさと逃げればいいものをと思ったのだが

どうやら腰が抜けているらしい。


「イヤ・・・いやぁーーやめてーーーーー!!」


 遂に泣き出し悲鳴を上げるエルフ。

やめてって、何もしてないだろ・・・。


やはり悪魔状態がいけなかったか

いや

プレイヤーならこっちの方が明らかにゲームキャラだと

判別しやすいどろうと思ったからこそ

この姿のまま近づいたのだ。


むしろ人化した状態だったならば

先刻のレイピアで俺の胴体はAパーツとBパーツが

分離して〇ア・ファイターがむき出しになっていたかもしれない。


まだ、帰れる所があるのかハッキリしていないんだぞ・・・。


ゼェゼェ言いながらブルブル震えるエルフ。

頃合いか。

俺は言葉を続けた。


「すいません。God Or Demonのテストプレイヤーの方ではありませんか

自分もそうなんですけど」


「えっ??」


涙そのまま顔を上げるエルフ。


「嘘っー!!」


嘘じゃねぇよ。


「やだぁーーー!」


嫌なのかよ。

昭和の女子中学生かテメぇは。


「すっごくビックリしたぁー」


レイピアの破片を拾いながら俺も言わせてもらう。


「俺もいきなり切られてビックリしました。」


しかし、俺の質問はGod Or Demonのプレイヤーなのか?

であって、俺を見た感想を聞いているワケじゃあないんだが

まぁ、この反応はYESでいいんだろうな。


「えーだって、怖かったんだもん」


はいはい俺のせいね俺が悪いですね。


「直しますよ。貸してください」


柄から20cm程度になってしまったレイピア。

エルフ若干ビクつきながら俺に手渡す。

手を引っ込める速度が速い。


だから微妙にキズつくんだよなぁ、こういうの


「直せるの?」


お試しだ。

ぶっつけ本番だ。

どうせダメでも、もう使いモノにならない状態だ。

テストに使用してしまっていいだろう。


「ダメだったら鍛冶屋探すしか無いスね」


俺は断面を合わせてレイピアの刀身を握ると

昼間、冗談でやった「蒸着」の感触を思い出しながら

切断面間で金属粒子を交換させるイメージで縫い付けた。

手を離すとレイピアは元通りになっている。

成功だ。


「すっごーい」


ああ、俺も驚いた。


「イリュージョン」


いや手品じゃねぇし


「うーん、まだ結合が甘いな」


高性能デビルアイで刀身を調べる。見た目には元通りだが

衝撃でまた同じように折れるレベルだ。


悪魔光線も試してみるか。


俺は目からビームを放ち、溶け落ちないように小刻みに

刀身に照射し溶接した。


その様子をエルフはきゃあきゃあ言いながら見ていたのだが

集中したかったので途中からは無視して作業を進める。

相当になまくらな剣だったので、溶接ついでに蒸着の要領で

刀身内の酸素を出して真鉄にしておき。分子結合の向きも

そろえておいた。

これで2ランク以上は上等になったんではなかろうか。


修理し終わったレイピアをエルフに返すと俺は改めて確認する。


「で・・・テストプレイヤーさんなんですよね」


「あ・・・はい。エルフ族でキャラ名はプリプラ」


プリプラ

プリティ・プラム

かわいい小梅ちゃん

だったけか

って

おいおいおいおい


「お前!!小梅かっ!?」

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