　　　　『四天王（してんのう）！！』

　って書くとバカっぽく聞こえますが実際にある話なのです。　

　戦国時代に九州肥前（ひぜん）の国に竜造寺（りゅうぞうじ）隆信（たかのぶ）という大名がおりました。

　彼は親の代に色々ありほぼ一代で竜造寺家を再興した人物と言われています。そしてその配下には四天王と呼ばれる人物たちがいましたが、書かれている書物によって名前が前後し、「江里口（えりぐち）、木下（きのした）、円城寺（えんじょうじ）、成松（なりまつ）、百武（ひゃくたけ）」の5人がそう呼ばれています。

　なぜそういうことになったのかは定かではないですが、円城寺氏が竜造寺隆信の影武者（かげむしゃ）であった説がありますので、あえて彼を外したとも、言われています。

　竜造寺家には鍋島直茂（なべしまなおしげ）という有能な配下がいましたが、彼はこの四天王には入っていません。彼は竜造寺家の未亡人の夫になるなどして、準一門に近い立場だったとされています。

　しかし島津氏との沖田畷（おきたなわて）の戦いで大名である隆信は討ち死にし、四天王とされた5人も後を追い討ち死にします。

　この時に何故か、鍋島直茂だけが本拠地に戻り、隆信の嫡子に重臣として、後継人として国政を担うことになります。

　その後、徳川の時代になり、竜造寺家は鍋島家になり替わることとなり、幕末史における薩長土肥（さっちょうどひ）の1つに数えられる藩として命脈をつなぎます。

　この一連の流れに竜造寺氏から鍋島氏への権力の移行の意味と、四天王が５人である意味があると思われます。

　「葉隠（はがくれ）」という書物を知っていますか？江戸期に鍋島藩の藩士よって書かれたとするもので「武士道は死ぬことと見つけたり」という言葉の出典元（しゅってんもと）とされる書籍ですが。藩主が鍋島家であり正当な歴史が伝わっているのなら、四天王がこの書籍で入れ替わっていることには不可思議な感じがあります。

　『歴史は生き残った者がつくり、生き残らなかったものに汚名はかぶせられる』というのが私の持論ですから、沖田畷の戦いに何かがあったことが類推されます。

　なぜなら大名が亡くなっても後継者が成人しているのですから、桶狭間（おけはざま）の合戦以降の今川氏がその後十年大名として命脈を保ったことからも、四天王も鍋島直茂と一緒に本拠地に引き上げるという選択肢もあったはずです。

　戦国時代は徳川家の時代の後期とは違い、「主君に力なければ、その元を離れる」ことは当たり前の感覚で人々は生きていました。

　実際、沖田畷の戦いが起きた理由も、従属していた有馬（ありま）氏が島津側に寝返ったというのが発端であり、その行動自体が咎め《とがめ》られる風潮にはありませんでした。

　しかし晩年に差し掛かってきていた、竜造寺隆信はそれを許せず、有馬氏を攻め、そこに援軍に来た島津氏に打ち取られたことになっています。

　実は鍋島直茂と似たような行動をとった人物が同時代にいます。前田利家です。

　彼は織田信長から柴田勝家に付けられた武将で、重臣クラスでありましたが、同時に柴田勝家が何かしでかさないかを見張る役目でもありました。

　そしてその流れから、本能寺の変以降は柴田家の配下のように扱われていましたが、賤ケ岳（しずがたけ）の戦いでは中立を保ち、一戦も行わずに退却しています。

　鍋島直茂の行動が非難されるのであれば、当然、前田利家の行動も非難されてしかるべきものですが、そうはなっていません。

　「それは秀吉と仲が良かったから」と考える方もいましょうが、若いときに前田利家の娘を養女（夫は後の五大老のひとり、宇喜田秀家（うきたひでいえ））にしていますが、その後天下人になってからは利家の娘を側室（三の丸殿と言われた人物）にしています。だとしたら友人の娘に対する扱いとしてはおかしいのではなかろうか？と私は考えます。

　秀吉については徳川家のフィルター、明治政府（薩摩、長州）のフィルター、戦後の教育というフィルターと3つの大きな改編によってどこまでが本当で、どこからが嘘なのかわからない人物となっています。

　同様に、竜造寺、鍋島の二家についてもどこまで真実が伝わっているのかはわかりません。

　ただ最後に昭和の映画が「娯楽の王様」だったころに竜造寺家と鍋島家の関係を面白おかしく書いた「鍋島騒動（なべしまそうどう）」を題材にした「化け猫」が登場する映画が何度かつくられていたのは事実です。