熱田神宮と、七里の渡し

 江戸時代の、東海道は日本橋にほんばしから京都まで五十三の宿場があったとされ、その中で唯一陸路でないのが熱田から桑名です。

 ここは「七里の渡し」という約28Kmの『海路かいろ』でした。なぜかといえば、今の名古屋の西にある木曽三川きそさんせん長良川ながらがわ、木曽川、揖斐川いびがわの大河3つがあったことに由来します。


 日本には外国ほどの長さ、幅を持つ川はありませんが、平地の少ない火山島であるため、川の流れの激しいものは多く存在します。

 そして、その中でも木曽三川や、利根川、信濃川などの川は流量が多いことと同時に、『天井川てんじょうがわ』として有名でもあります。

 地理学で習った天井川とは堤防の内側の水面が、外側の平地より高い河川のことを指します。そのため、堤防が切れると一気に平野部に水が流れ、水面も高いことから広範囲に影響を与えます。今でも大雨で堤防が切れると大きな被害が出ることは、ここにあります。

 

 家族の話では、戦後の高度経済成長期こうどけいざいせいちょうきであった頃でさえ実家の近くの川である二級河川(県境をまたがないものです)が二年連続切れて大水害が起こったと、聞きおよんでいます。

 そのため、私の育った周辺の各家には、五十年ほど前まで、堤防が切れたとき用の小舟やが備えつけられていたのを知っています。

 信濃川の氾濫はんらんが少なくなったのは実は明治以降になってからです。

 昨年(2022年)、信濃川の『大河津分水おおこうずぶんすい』が明治に着工して完成後一〇〇年にあたり、同様に信濃川下流に造られた『関谷分水せきやぶんすい』が完成五〇年を迎えました。

がその両方によって保っている状態で、2011年には、大河津分水の老朽化による改修工事中に、夏の豪雨があり信濃川の堤防が切れて水害が起こっています。

 

 同様に名古屋の西、蟹江などの地域も木曽三川の決壊けっかいに備え、平地でも、少し高いところに家を建てる「輪中集落わじゅうしゅうらく」があり、同様に小舟等が準備されていたそうです。

 その為か、名古屋市は東側に広く発展し、蟹江かにえ飛島村とびしまむらなどの地域では水田が多く残っています。

 これは戦後の米の増産政策の影響であり、大きな川に対する治水政策がしっかり出来るようになったのは、コンクリートの堤防の普及が大きいと思われます。

 また名古屋市は南へ向かって干拓工事を続けたため、名古屋駅以南は広大な平野のように見えます。

 しかし名古屋城を左に見て名古屋港に向かって国道22号線を下っていくと、熱田神宮を左に見るあたりで『旧七里の渡し跡』の看板が道路横に見えます。

 そうです、江戸時代に「七里の渡し」があったのは現在の熱田神宮の真横になります。つまりそれより西の蟹江や長島(三重県)などは、陸路で西に向かうことが無理ということです。

 ですから熱田から桑名は海路で進んだことになります。今でも実際の木曽三川を橋で渡るとまかりますが、とても対岸が遠く、同時に水面が堤防の外より高いことがわかります。そしてその治水のために造られた水門が「長良川河口長良川河口堰ながらがわかこうせき」でありそれがやっと完成したのは平成になってからです。


 水1立方メートルの重さが1トンであり、その重さを支えるのはどうしても何トンもある大石を切り出し、その隙間を小石や土で固める方法がとられていました。しかしこの工法の弱点はまんべんなく水圧を受け止めることが難しく、それを行うためには、均等に水圧を分散する堤防を作るか、もしくはつづみか放水路を作らなければなりません。果たしてそのような大工事が可能だったのでしょうか?


 堤防や、護岸工事で固めた河川も毎年のように決壊けっかいのニュースを聞きます。地球温暖化や森林の保水機能ほすいきのうがうまくいかなくなったこともありますが、それでも毎年のように大雨洪水のニュースを聞きます。

 銃器による護岸工事が出来なかった時代はどうだったのだろうと考えると、やはり大きな川の周辺に宅地や農地を安定して建てるのは無理であったと考えるのが妥当でしょう。





 

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