第159話 夏休みの予定
友哉と沙月の結婚式から半月ほどが経過した。
大学は一部前期試験の前半日程が実施され、いよいよ夏休みという雰囲気になっている。
大学の夏休みは高校とは違い、宿題なども特にないし、その上非常に長い。
央京大学の場合、七月中旬または下旬から、九月中旬くらいまである。
今日は日曜日。
最近特に暑くなってきていて、もう昼間に外に出る気力は、白雪にもない。
なので、和樹と二人、お昼ごはんを食べているところだ。
今日は冷やしうどんと夏野菜の天ぷらである。
「最初からわかってはいましたが、大学の夏休みって……本当に長いんですね」
高校の夏休みは七月下旬から八月いっぱいだった。聖華高校は違ったが、最近では八月下旬には夏休みが終わることも多いらしい。
それに比べると、感覚的には二倍くらいの長さがある。
しかも、特にやらなければならないことが指定されるわけではない。
「そうだな。まあ、この間に何をして過ごすかは本人たちの自由とされてるわけだが」
「和樹さんはどういう予定になっているのでしょう?」
「俺は夏休みという概念自体あやふやだ。まあ教授が八月に長めの休みを設定してて、そこはプロジェクトも休みになるらしいが、あとは基本的に仕事がある感じだ。ああ、あとプロジェクトでの合宿はやるらしいが」
「あ、それは私やみゆさんも声をかけられています」
合宿とはいうが、要は親睦旅行に近い意味合いがある。
場所についてはまだ教授が検討中らしい。そろそろ予約も難しくなる気はするが。
プロジェクトメンバー以外に、一部研究室の学生も声をかけられている。
さすがに全員となると四十人にもなるのでそれは無理があるが。
「あと、墓参りは行かないとだな」
「はい。ありがとうございます」
ごく自然に一緒に行ってくれるつもりなのが嬉しい。
思わず頬が緩みそうになるのを、白雪は必死に耐えた。
夏休みの予定としては最初の一週間ほどは特に予定はなく、七月下旬に墓参り。
八月入ってすぐに合宿の予定だ。
あとは予定はないので基本的には出かけるつもりはない。
和樹は合宿の後、お盆期間を含めて二週間ほど休みの見込みだという。
「誠さんや友哉さんとかとはお出かけにならないので?」
「大学卒業直後は集まったりもしたが、今や卯月家はお子さんが八カ月と大変そうだし、友哉のところは新婚だからな。まあ、新婚旅行からはそろそろ帰ってくるはずで、どっかで一度土産を渡しに来たいとは言っていたが……」
ちなみに新婚旅行先は北欧らしい。
「白雪は予定はないのか?」
「うーん。話はなくもないのですが」
せっかく休みに入るのだしということで、雪奈や佳織と会おうという話はある。
それに大学生なのだから、小旅行に行くのもいいとも思っている。
あまり無駄遣いはもちろん出来ないが、アルバイトで稼いだお金は実は結局全く手を付けてない――食費は和樹が全額出してくれるというか出させてくれない――ので、費用面の心配はない。
実のところ、いまだに玖条家から送られてくる生活費もあまりまくっている。
ちなみにそちらは家賃扱いで一部和樹に渡している(なおそれを受け取ってもらうための説得も結構大変だった)。
他に、大学のクラスメイトから予定は色々聞かれているが、こちらはスルーしている。
なお、現状情報学部の二大美少女扱いされている白雪と美雪だが、この手の話は白雪にしか来ない。
美雪が新入生代表を務めた学生と許嫁同士であるのは、すでにかなり知れ渡っている一方、白雪はそういう相手がいないので、アプローチしてくる学生は引きも切らない。
単純に声を掛けられるペースだけなら、高校生の時以上だ。
改めて、『玖条家』というガードがどれだけ強力だったかを思い知らされる。
実は高校入学直後と今の白雪では、雰囲気があまりに違うのも理由の一つだが、本人にその自覚はない。
美雪に言わせれば、いっそ好きな人がいることだけでも言えばいいのにということだが、高校の同級生たちに言うのと、大学の人に言うのではわけが違う。
大学でその話が広まってしまえば、和樹の耳にも入る可能性があるだろう。
そしてそうなれば、和樹が要らない気を回す可能性がある。
その事態は、白雪としては現状一番歓迎しない展開だ。
今のところ白雪と和樹の関係に気付いている人はいないようだが、登校時に一緒にいるのはよく見られているはずだ。
もっともこれは、白雪があのプロジェクトの協力者になっていて、和樹とは以前から知り合いであることは、少なくとも研究室内では知られているので、それほど不思議ではないという認識になっている。近所に住んでいるのだろうとは推測がつくだろう。
いっそのこと、それで和樹との関係を雪奈たちのように邪推してくれた方が今となっては助かるのだが、残念ながらそういう考えには至ってくれないらしい。
「大学の夏休みは本当に長いからな。ただ、これだけの休みってのは、社会人になったら、普通はないらしいから、大事に使うようにした方がいい」
「……らしい、なんですね」
「俺が一般的じゃないのは自覚があるからな。普通に会社勤めになったら、ホントに貴重らしいぞ。誠の受け売りだが」
その話はよく聞く。
ただ、白雪としては和樹と一緒にいられる時間が多いことが何よりも嬉しいのだ。
今のところ夏休みに一緒に出掛ける予定は両親の墓参りしかないが、毎日一緒にいられるだけで満足してしまうのは否定できない。
とはいえ、少しは有意義な過ごし方をすべきでは、と思わなくはない。
「あの、できれば和樹さんとも一緒にどっかにお出かけしたいな、とは……思うんですが」
「確かに、家族サービスなしは……まずいか」
そういう意味ではないのだが、と反駁したくなったが、とりあえずぐっと我慢した。現状、家族扱いになっているのは、どうしようもない。
「まあ、俺の休みがまだ確定してないからな。それが確定したら相談するよ」
「はい、わかりました。楽しみにしています」
時期は未確定だが、大体の見当はつく。
そのあたりには予定を入れないようにしようと思いつつ、白雪は、今までと違う、新しい夏休みになる予感を感じていた。
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