第145話 友人とのお出かけ
連休後半の二日目。
白雪と和樹が並んでマンションを出ると、予定通りの二人が待っていた。
「おはようございます、みゆさん、斎宮院さん」
「おはよう、白雪ちゃん。月下さん、今日はお世話になります」
「おはようございます。なんか美雪が無理を言ったようで、すみません」
孝之は申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、俺は構わないが……学生の中にこんな三十路が一人混じっていいのか、というのはあるんだが」
「え? 月下さんって何歳?」
「あれ。言ってないか。今二十六だ。今年で二十七。君たちよりは、八年ほど上なんだ」
「へー、なるほどなるほどー」
美雪がなぜか納得した様に頷いている。
白雪としてはどことなく不安になる納得の仕方な気がするが。
「まあ引率だとでも思ってくれ。じゃあ、行くか。ちなみに、鎌倉とかそのあたりと考えているが、行きたい場所の希望はあるのか?」
「あ、それなのですが……」
美雪がそう言いながらスマホの画面を示す。
白雪と和樹がそれを見ると、海岸地域にあるショッピングモールが表示されていた。
「その、色々買い物したいものがあって、今日はそちらに行きたいな、と思ってまして。結構足りないものとかも多くて」
「すみません、美雪が色々先走ったようなのですが、元々買い物に行こうとは話してたので……あ、なので本当は今日は無理には……」
白雪は和樹と顔を見合わせる。
確かに、引っ越して一ヶ月。
そろそろ生活リズムには慣れてきているだろうから、逆に足りないものなどが見えてくる時期だ。
この辺りは白雪にも覚えがある。
かつて白雪も、高校進学と同時にあの無駄に広い家に引っ越してきたが、あれだけ広かろうが細かいところで足りない物は結構あった。
多分和樹も、似たようなことを思い出していそうだ。
むしろ、彼が今の家に一人で暮らし始めたのは大学生になってから。その意味では、白雪以上に適切なアドバイスができる気がする。
白雪はほとんど駅前のいくつかのお店で揃えてしまったが、確かにショッピングモールで一気にそろえるのは悪くはない。
やや距離があるとはいえ、当該のショッピングモールは電車で一本だ。
観光がてらというのであれば悪くはないだろ言うというのと――。
(多分お二人とも、ああいうショッピングモール自体が初めてでしょうしね)
白雪と違い、ずっと実家住まいだった美雪と孝之は、おそらく自由に買い物に行くことは滅多になかっただろう。
というか、こちらにそれぞれ使用人がついてきているということだから、本来であれば付き添いとしてついてくる。
二人でデートするとしても、だ。
こっそりついてくるくらいはあるだろうが、白雪や和樹が一緒だからついてくるなということになってる気がする。
彼ら二人からすれば、むしろお目付け役がいない状態の自由というのも欲しいのかもしれない。
「和樹さん。私は構いませんよ。あのショッピングモールはしばらく行ってませんし」
「そうか」
「ありがとうございます、月下さん、玖条さん」
孝之が頭を下げる。
和樹はそれに頷くと、駅に向けて歩き始めた。
そのすぐ後に白雪が続き、美雪、孝之が続く。
駅までは歩いても五分程度。
電車に乗ること三十分弱。
目的のショッピングモールは、駅からほぼ直結で行ける場所にあった。
「わー。ホントに駅からすぐですね」
元々この駅前はそこまで発展した場所ではなかったのだろうが、十数年前にこれが完成してからは、このショッピングモール目当ての客が多くて人が良く来るようになったらしい。
白雪のここでの思い出といえば、雪奈、佳織と初めて一緒に映画を観に行った場所であり、同時に偶然和樹たちと遭遇してしまい、雪奈たちに色々と白状させられた場所でもある。
和樹もそれを覚えているのか、少し複雑そうな表情をしてる気もした。
(あれもそういえばこの連休の事でしたね……あれからもう、二年ですか)
その間に自分の状況は驚くほど変わっていると改めて思わされる。
自分がいる環境も、そして自分の気持ちも。
思えばあの時にはとっくに和樹のことが好きだったのだと、改めて思い出された。
「とりあえずどこへ行きましょうか、みゆさん」
「えっと、まずは――」
美雪が予め調べてあったらしい買い物リストを見せてくれた。
ちゃんと、このショッピングモールで買う予定の店もピックアップしてメモしてある。この辺りの几帳面さはさすがというべきか。
「あ、でも白雪ちゃんや月下さんも買う際は意見下さい。私は一人暮らし初めてなので」
「分かりました。そういえば、斎宮院さんは何か買われる物は?」
「俺は日用品の類は柿川が揃えてくれてるからそっちはいい。俺は基本付き添いだしな」
「かきかわ……あ、一緒に住んでるメイドさん?」
そう言われて、孝之は「あ」と言ってから説明をしてくれた。
「
「七菜香さんは、それこそ孝君が赤ん坊の頃からついてるからね。おしめ替えられたことだってあるはず」
「おま、そういうことは言うなっ」
どうやら本当に恥ずかしいらしく、孝之の顔が赤くなっていた。
「もう五十半ばだからな。あまり歩き回らせるのも悪いとは思うから、今日は家で休んでもらってる」
「そういう風に年寄り扱いすると、七菜香さん怒るけどね」
そのあたりは分かる気はする。
そういえば、紗江とは和樹の家に来てからは連絡を取っていないが、今はどうしてるのだろうとふと気になった。
「なので、うちはキッチン周りとかは問題はないので、今日の買い物は主に美雪の家の――」
「孝君は服を買わないとね」
「お洋服、ですか?」
「うん。孝君、いっつも着た切り雀なの。同じ服数着しか持ってきてなくて、それをローテさせてるのよ。私としてはもっとオシャレしてほしいの。さすがに七菜香さんじゃ、センスが昭和だからって、孝君の服は、私が任されているんです」
思わずその言葉に和樹を見ると――予想通りだが目を逸らしていた。
和樹も基本、似たような服ばかり持っていてそれを使いまわしている。
もっとも、和樹の場合は仕事の都合というのも、もちろん小さくはない理由ではある。
スーツを着る必要がないとはいえ、顧客先に行くならそれなりの服装である必要があり、いつ客先に行くことになるか不定期である以上、そういう風になるのは仕方がない。
そういう意味では、六月からはそういう必要がなくなり、外に行くとしても大学に行くようになるのだから、服装に関しては自由度が上がるのかは――学生とは身分が違うからあまり分からないか。
白雪としては違う格好をしている和樹を見てみたいというのもあるが――。
(オシャレになってこれ以上
現状、倉持奈津美は確実に何かしらアプローチしてくるだろう。
家では一緒とはいえ、職場が一緒になるというアドバンテージは無視できない。
和樹から見ても、奈津美は二歳差であり、まして後輩として見られている以上、裏を返せば和樹にとっては付き合うことがあり得ないという人間関係ではない。
娘に位置付けられてしまっている白雪は、その点では圧倒的に不利だ。
これでさらに、和樹に惹かれる女性が増えるのは、白雪としては到底歓迎できる状況ではない。
客観的に見ても和樹は整った容姿を持つと思うので、現状でも不安があるくらいだ。
「白雪ちゃんどうしたの?」
「あ、いえ。それでは、とりあえず行きましょうか、和樹さん」
「ああ、そうだな。まだ時間もあるしな」
時刻は十時を少し回ったくらいだ。
色々見てまわってお昼ご飯となっても、十分時間はあるだろう。
「それじゃ、しゅっぱーつ」
美雪の宣言で、四人はショッピングモールへと入って行った。
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