10.
真琴に相談したところ「お任せください」と自信満々に答えた。
「そんなの警察に任せればいいんですよ」と言わないところが、彼女の魅力のひとつ だと感じていた。ほんの数日の付き合いだが、一緒にいると安心できる人は、中々いない。何かで 恩返しをしないと いけない――。
そんなことを考えていると、真琴が 推理を披露しはじめた。
「ふふん。見た目は子供、頭脳は大人。
この名探偵に 解けない事件 などありません。いいですか?
1.犯人は早妃を殺した後、遺体を隠そうとした。しかし、途中で諦めています。
2.遺体が発見された場所は、ビルの6Fだった。普段は使われていない階です。
3.被害者の所持品は持ち去られていることから、殺害後に盗んだ可能性が高い。
4.被害者が抵抗した跡がないところから、計画的な犯行ではないと考えられます。
5.ビルの管理業者が朝早くに清掃をしている時に、遺体を発見した。
6.犯人は現場に戻るものです。
以上から、早妃を殺害した犯人は、掃除をしていた男性です!」
なぜか、俺を指して 勝ち誇った顔をする。
――どうやら、早くも 前言を撤回せざる終えないようだ。まったく。
「はぁ!? 何言ってんだよ!!ふざけんな!!」
「えぇ~っ、どうして怒ってるんですか~?だって、そうじゃないと説明つかないんですよ~」
「お前、本当に名探偵なのか?そんなの誰でも思いつくぞ!」
「そんなことないですよ~」
――やはり、頼るべき人物を間違えたか?
俺には、どう考えても彼女が迷探偵にしか見えなかった。
「まずは、ビルの管理業者から話を聞きましょう! さあ、行きますよ!」
「えっ? 俺も行くのか?」
「当たり前じゃないですか!」
「嫌なんだけど」
「ダメに決まってますよ!」
「なんでだよ」
「私一人じゃ不安なんです!」
「おい、ふざけんなよ」
「それに、朔也様は主人公なのですから、ヒロインである私のそばにいるべきなのです!」
「いつ、誰が、どこで、そんなことを決めた?」
「今、ここで、私が決めました!」
「……は? なに言ってんの?」
(こいつ、探偵から中二病へジョブチェンジしやがったな)
「とにかく、私は 同胞である早妃ちゃんの仇を討ちたいのです!」
「お前、本当はただの暇つぶしに事件を起こしただけだろ」
「違いますよ~。早妃ちゃんとは友達だったので、悲しいのです」
「嘘つけ」
「本当ですってば~!」
俺はため息をついた。
どこからどこまでが 本気 なのか分からない。
まさに
でも、こういう性格は嫌いじゃない。それに――、
(まあ、言い出したのは 俺だしな)
「仕方ねえな。付き合ってやるよ」
「ありがとうございます~♪」
こうして、俺たちは管理会社へと向かった。
**
すでに警察による捜査は終わっているようで、社員の一人に話を聞いたところ、特に不審な点はなかったようだ。
俺は少し安心したが、真琴の表情は暗かった。
「ここのオーナーは聖称会の 元支部長 です」
「へー」
「名前は、天宮城 光太郎」
「うぶしろ こうたろう?」
「はい」
「どこかで聞いたことがあるような気がする」
「それは当然でしょう。彼は、この辺り一帯の不動産業を営んでいる大地主です」
「なるほどな。元支部長ということは、今は教祖の補佐職にでも就いているのか?」
「いえ、現在は引退していまして、娘さんが後を継いでいます」
「その娘の名前は?」
「大和さんです」
「大和? また、どこかで聞いたことのあるような名前だな」
「はい。その方は、現在、教団の幹部として働いて、今では四天王のリーダーとまで言われています」
「四天王? 何かひっかかるな。それで、そんな奴がどうして……」
「大和さんは 元々一般人でした。いわゆる宗教二世というやつです」
「は? なんだそれ」
「親が熱心な信者で、子供にも入信させようとしているパターンですね」
「ああ、そういうことか。つまり、洗脳されて利用されているってわけだな」
「そうです」
「ふーん。可哀想な奴もいるんだな」
「あの、大和さんですよ?」
「ん?」
「彼女、凄く綺麗ですよね」
「まさ、か…」
「スタイルもいいし、性格も明るくて親しみやすいし、非の打ち所がありませんよね」
「彼女が……」犯人なのか、そう 言いかけてしまった。
「次は、大和さんから話を聞きましょう!」
「えっ? マジか?」
「当たり前じゃないですか!」
「あいつ、なんか苦手なんだよ」
「大丈夫ですよ。私に任せてください!」
くすくすと笑いながら、俺の腕を引っぱった。
まぁ、真琴が自信満々で言うのだから、任せてみることにする。
――だが、すぐに後悔することになった。
◇
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