9.

「ほーっほっほっほっ。また会ったわね」


突然の高笑い。意識が柴田早妃からファザー・サンへと移ってしまう。


「こ、こんにちは。ファザー・サン。今日もお美しいですね」

「あら、ありがとう。お世辞でも嬉しいわぁ」


どうしても見てしまう、彼女の胸元。


服は着ているのだが、豊満なバストの膨らみが分かる。

――さすがに、目のやり場に困ってしまうな。


その視線に気付いたのか、俺の頬を ぺしゃりと 両手で捕らえると、


「ちょっとぉ~どこ見てるのよ、スケベねぇ~♪」

「いっ、いや、そんなつもりじゃ……。すみません」


年上の魅力を盛大にアピールしてくる。ヒンヤリとした柔らかい手のひらが心地よい。

――さすが、四天王のボス。


「ふぅん……ま、いいわ。それで、入信する気になったわけ?」

「いえ、まだ悩んでいるところです」


「あら、そうなの?残念ね」

「それに、今は大切な用事があるので、入信するかどうかを決めるのはそれを終えてからにしたいと思います」


「ふぅん、そう」


そう言いながら、俺の耳たぶをつまんで引っ張ってきた。



「痛っ」

「何?彼女がいるの?」

「ち、違います」

「ふぅん。なら、いいじゃない。ね?」

「は、はひ?」


「……」

「……」


無言で見つめ合っていると、彼女の存在に吸い込まれそうになる。

何気ない日常。何気ない仕草。


女性に免疫力のない俺は、流れるようなボディタッチに胸がときめいてしまう。

――これが、恋なのか?



ファザーの瞳の中。俺の目が淡く光っているのが見えた。



徐々に意識が薄れゆくなか、


早妃は、無言のまま俺の腕を引っ張り、エレベーターまで連れてきた。

そして、1階のボタンを押してくれた。


「どうぞ」

「あ、ああ」


扉が閉まる直前、早妃がこちらを見た。

その瞳は、冷たく鋭い眼光を放っていた。


「ふぅん、いい度胸ね」

「え?」


「何でもない。気にしないで」


エレベーターのドアが閉じ、静かに下降していく。


1階に着くまでの間、ずっと心臓の鼓動が高鳴っていた。

――怖かったな。


けど、あの表情は一体、どういうことなんだ?



**


――翌日。


『バ・ベル』から そう遠くない雑居ビルで、柴田早妃が白い布に巻かれ、死体で発見された。


死因は絞殺で、凶器は見つかっていない。



「そんなっ」


思わず、声が出てしまった。


――なぜ、早妃が? あのあと、2人に何かあったのだろうか?


いまいち、教団の理念が分からなかった。

ただ、行き過ぎた【スクール カースト】ならぬ『レリジョン カースト』でもあるというのだろうか?


聖称会では、毎週日曜日の正午に教祖による説法が行われているらしい。

(彼女を殺した犯人と教団の真実を暴くためにも、入信するしかない)


まずは四天王の中でも1番好感を持てた、彼女に接近してみるとするか…。



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