7.

このまま部屋にいても 仕方がないので【聖称会】について調べることにした。


教団が用意した一軒家を出ると 黒い雲が 空いっぱいに広がっていた。

「雨雲にしては、湿気を感じない…」

変な天気だな、と思いつつ教団が間借りしている『バ・ビル』へと足を向けた。


少し歩くとクスクスと笑いながら、虹夜さんが俺の方に向かって歩いてきた。

彼女の足元には、太った黒猫が テクテクと 足早に歩いている。


「あら? 朔也さまではありませんか。あまり天気がよろしくありませんが、どちらへ 行かれるのですか?」


小学生の頃の面影が すこし残る 彼女の笑顔に吸い込まれそうになる。

先程までとは、まったく違った ドキドキ だ。


――だが、忘れてはならない。彼女は 初恋モンスターだ。

何度となく ピュアをえぐられた。


たとえ、これが運命の再会と云われても、気をつけねばならない。


「と、図書館で…、しらべごとを……」

「そうですか。それでは、私もご一緒しましょう」


「お、おぉ……。お願いします……」

(なにが、おねがいだ、ちきしょー!)


自分の会話を、憎々しげに振り返る。

これじゃー、まるで小学生の片思いじゃないか。



「どうかしましたか?」



彼女の笑顔に 惹かれまくる 自分が情けない。


――だまされるな。彼女も教団の一員なのだから、きっと良からぬ事をしてくるはずだ。

俺は これでも高校時代は(自称)腹黒王子と言われてきた男。美少女にだって免疫はある。適当に話を合わせていれば、怪しまれないだろう。


まずは、彼女と顔を合わせないように 下を向いて 歩こうではないか。

ふっ。この作戦、完璧だな。教団の思い通りにされてたまるかよ。


そんな俺に、太った猫が すり寄ってきた。


「おい、なんだよ、おまえは……」

「その猫は、ナトリといいますの。悪い魔女の呪いに掛けられて、猫の姿にされてしまったのですわ」


ちょっと 頭のおかしなことを 言いだした。

むかしは こんな性格ではなかったのに……。


そう思うと、なんだが涙が出てきた。

近所に住んでいそうなオジサンの発想だが、これが 年を重ねる ということなのだろうか。


10分ほど歩くと、図書館が見えてきた。

猫を連れて 入ることはできないだろうから、ここで虹夜さんとは、お別れだろう。


「そ、それじゃ、ここで……」

「ええ、そうですわね。お話できて、楽しかったです」


その言葉に、チクリと 心が痛む。


「お、おう……」

などと、自分でも訳の分からない挨拶をして、図書館へと入っていこうとした。


―――と、そのときだ!


虹夜が 俺に驚くことを言った。


「あの4人には 気を付けてください。あー見えて、彼女たちは『高額 奉納者』です。教団内でも【四天王】と恐れられています。」


彼女が どういった理由で警告してきたのか分からない。

ただ、いたずらな風が ラッキースケベを 起こした事だけは、一生忘れないだろう。


何度か 階段につまずいては、転びそうになりつつも 図書館内でインターネットの閲覧許可をもらった。


***


――属に言う、カルト教団。


1960年代後半から、教団系の学生団体である原理研究会による家庭崩壊、学業放棄が社会問題となり、霊感商法が社会問題になった1980年代以降、宗教法人としての認定を受けていないカルト宗教団体の勧誘活動などが問題になっている。


1970年代、インコ真理教の教祖らがテレビに出演したことで、マスコミを中心に新興宗教団体に対するネガティブキャンペーンが行われ、インコ真理教事件以降、多くの宗教団体の批判が行われた結果、現在の日本では、特定の宗教を信仰していない人の方が 多いと言われている。


また、2020年4月に 新型アベルウィルスの感染が広がり、世界中がパニックに陥った際、日本の首相が緊急事態宣言を出したことから、政府を批判する団体が増えた。

2020年に実施された世論調査では、7割の国民が「政府はもっとしっかりして欲しい」「政府の対応が遅い」と回答した。


2022年7月8日、信者の家庭出身の犯人(宗教二世)が起こした首相への銃撃事件以降には、一部の過激派が権民政権打倒を目指して テロ行為を行うようになり、与野党の議員の殺害予告などを行った。


2023年には、宗教団体の開祖の孫が大麻取締法違反で逮捕された。

また、2025年の5月には、闇バイトの斡旋容疑で全国一斉摘発された「快復の会」の会長が、殺人未遂容疑で逮捕されている。



――【聖称会】に ついては、合同結婚式が4年に1度、執り行われること。そして、今年がその年であるということを知った。残念なことに、それ以上に 関連性の高い記事は見当たらなかった。


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