6.

「ちょっと、女の子泣かしてんじゃないわよ!」

勢いよく、彩花さんが部屋に入ってきた。


月影姉妹の姉の方だ。中学校のブレザー服がよく似合う。

ただ、彼女は怒り心頭といった様子である。


「いや……これは、誤解だ!」


理由はわかる…ような気がする。

だが、初々しく散っていった大和に哀れみはない。


「言い訳無用! とりあえず、謝りなさい!」


「いや……でも、あいつが先に……」

「問答無用!」


彩花は俺の首根っこを掴むと、そのまま部屋の外へ連れて行こうとする。


そこへ、妹の愛生あおいさんがどこからともなく現れた。

巫女のすることじゃないだろ。それ以前に、


(なぜ、ベッドの下から現れる?)


「お姉ちゃん…、ちょっと待って!」

「愛生?! あんた、いったい、いつから そこに居たのよ」



愛生は靴下の匂いを嗅ぎながら、

「……ついさっき来たところだよ」と バレバレの嘘をつく。


(よく靴下が無くなると思ったら、そういうことだったのか……)



彩花の顔色がみるみると青ざめていく。


そして、突然叫んだ。


「あんた! それ朔也の靴下よね!」

「えっ? うん」白衣 と 緋袴(ひばかま)を整えながら聞き流そうとする。


14才、恐るべし…だな。俺が 若さゆえの過ちに 感心していると、


「それをどうするつもりよ!」

「えっ? どうするって?」


と、彩花が俺の気持ちを代弁してくれているようだ。


「えっ? 何が?」姉を挑発するように 靴下を裏返して匂いを嗅ぐ。……。


「な、なな・・・。なんてことしてんのよ、このバカ?!」彩花は大声で怒鳴り散らす。


愛生の方を向くと、彼女は頬に手を当て顔を赤く染めている。

恥ずかしそうにモジモジとしていた。

(なにこれ……可愛い)


俺は思わず胸キュンしてしまう。だが、すぐにハッとする。

(いかんいかん、何を考えているんだ)


頭をブンブンと振り、邪念を振り払う。

それから、改めて愛生を見つめた。


彼女は、まるで恋する乙女のような表情を浮かべている。

潤んだ瞳で俺のことを見る。

(なんかエロいな……)


俺はドキドキしていた。

彼女の視線にドギマギしているのだ。


「朔也くん……」

彼女が俺の名前を呼ぶ。



心臓が高鳴る。



「私ね……」


彼女から目が離せない。


「ずっと前からあなたのことが好きでした!」

彼女は真剣な眼差しで、はっきりと想いを口にした。


「え? この状況で?告白ですか?」

俺は困惑した。頭が混乱している。


「はい」


彼女は大きく返事をした。とても元気な声だった。


(頼むから 空気をよんでくれ!)


俺には理解できない、彼女の不思議ワールド。

ホワイ? 俺は今 まさに愛の告白を受けている最中だ。

おちつけ。

相手は、中学生だ…。


彩花さんの握る手がギュッと強くなっている。

痛いくらいだ。


「朔也くんのことが大好きです。付き合ってください」



「……」

「……」


沈黙が流れる。気まずくて 何も言えない。


「……」

「……」


再び 沈黙が流れた。



彼女は、不安そうな顔で俺のことを見ている。


俺は、どうすればいいのだろうか。正直言って、困っていた。

そもそも、彼女とはほとんど面識がない。

会話すらまともにしたことがない。


だから、いきなり好きだと言われても、オレもです、と簡単には答えられないわけである。

それに、俺には入信の意思はない。


「あの……」

「はい!」


「その前に、一つ聞いてもいいかな?」

「うん」


「君は俺のどこが好きになったの?」

「全部」



――即答であった。



出会って数日しか経っていないというのに、それはないだろう。


つまり、これは俺を入信させる為の演技だ。そうに違いない。

きっとそうだ。騙されてはいけないぞ。俺よ。


「そんなことないよ」

「あるよ」


「ない」


「あります」

「ない」


「じゃあ、証明してあげる」

「へ?」


愛生は、おもむろに服を脱ぎ始めた。

(ちょ……おい……嘘だろ……マジかよ……)


俺は、動揺していた。愛生は脱衣を続ける。


「ちょっと……待ちなさいよ!」


彩花が 慌てて 止めに入った。


「なんで止めるのよ」

「当たり前でしょうが!」


「だって、朔也くんが 私の身体に興味があるって言うんだもん」

「なに、その言い方。まぁ、朔也も いちおう 男なんだし、そういうこともあるかもしれないけど、今はやめてあげなさい!」


――おい、その言い方はなんだ? まるで 俺が 強請った ようじゃないか…。


「でも、もう 脱ぐところ下着姿まで 来ちゃったんだよ?」

「ダメに決まってるじゃない!」


彩花は強い口調で言うと、愛生の手を引いて部屋を出て行った。

日を追うごとに 愛生の行動が、デンジャラスになっていく。

心と体の葛藤で、精神がもたいない。


(はぁ……。一体いつになったら、こんな生活から抜け出せるんだろう?)



俺は、3度目のため息をつく。


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