第5話 フレックとは俺の反射の名称だ

 昨日感じたあの温かさがまだ消えない。

 上神にわ家の仕事を順調にこなして褒められても、あんなに心が温かくなったことはなかった。ずっと寒かった。

 この夢の中にいれば、またあれを感じることが出来るんだろうか。

「上神くん、おはよう」

「おはよう、布井ぬのいくん」

「昨日は本当にありがとう」

「フレックが役立てたようでよかった」

「うん。だからフレックってなん……まあいいや。それでさ……上神くんさえよかったらパーティー部に入らない?」

 俺は真っ当な格闘技が身につく部活動がしたい。それは、パーティー部ではないと思う。思うけど、だからパーティー部ってなんなんだ。

「入部は遠慮しておくけど、訊いていいかな、布井くん」

「ん?」

「昨日のショーのどこがパーティーなんだ?」

「え? ……ああ、そうだよね。あれも活動の一環で、いっつもあんなことしてるわけじゃないんだけど。でも、ちゃんと集まって活動してたよな?」

「うん?」

 よくわからないけど、なんとなく噛み合っていないような気だけはする。

「気になるならボクに訊くよりも見学に行ってみたら? 今日は部長もいるから」

「部活見学って入る気がなくても行っていいのか?」

「そりゃそうでしょ。でも、上神にわくんはパーティー部に入るよ」

「なんの予言だよ。俺は入る気ないって言ってるだろ」

「行くだけ行ってみなよ。気になるんでしょ?」

 まあ、ちょっと行ってなんなのか訊いてくるだけならいいか。

「そうだな。じゃあ行ってみる」

「うん」

 布井くん、もっと喜ぶと思ったんだけどな。なんかテンション低いな、今日。よく見ると、顔色も悪い、というか目が腫れぼったいな。花粉症だろうか。

「布井くん、調子悪いのか?」

「え? ……ああ、うん、大丈夫」

 でもやっぱり声に昨日のような張りがない気がする。元々隙だらけなのに、こんなに弱っていたら、ちょっと押しただけで窓から落ちて死にそうだな。いや、やらないけど。

 ついこんなことを考えるのもいい加減やめたい。


 放課後になって、布井ぬのいくんが先に席を立ったからついて行く。

 でも、布井くんは部室ではなく玄関へと向かう。

「布井くん、どこに行くんだ?」

「病院」

「え」

 展開が急すぎてすぐに言葉が出てこない。

 けれど、ああ、そうか。だから布井くんに元気がなかったんだな。

「どっか悪いのか?」

「ううん。晴留はると……ほら、昨日児童館で上神にわくんにぐいぐい行ってた男の子、いただろ」

「ああ、いたな。怪人信者の」

「晴留、車に跳ねられてさ……あのショーの帰りに」

 俺は今更他人の不幸にそこまで心は動かないけど、布井くんはそうじゃないんだな。

「無事なのか?」

「……うん。生きてはいるよ。でも、意識がないんだ」

「そうか」

「日本じゃどうにもならないらしくて、晴留のお母さんが明日アメリカに連れて行くって言ってた」

「そうか」

「だから、今の内に顔だけでも見ておきたくて」

「それは大事だな」

「うん」

「じゃあ、俺はパーティー部に行くな」

「……うん」

 今更俺がなにか出来るわけでもないし、力なく歩く布井くんを見送ってからパーティー部に足を運ぶ。

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