第3話 私を殺してください

 ライラが屋敷に来てから、だいたい1週間くらいが経った。


 足の怪我は少しずつ回復してきて、左足を着いても痛みは無くなってきた。


 その日も、いつも通り用意された食事をとり、ベッドの上でくつろいでいた。


 この奇妙な屋敷での生活にもそろそろ馴れてきた。そんな時だった。


『はじめまして、ライラ』


 どこからか急に男性の声が聞こえてきた。


 突然のことに、ライラは辺りを見回しながら、手元に置いていた愛用のナイフに手を伸ばし、身構えた。


「何者なの。なんで私の名前を知っているの?」


 声はテレビのモニター越しに聞こえてくるようだ。ライラはナイフを握りしめ、モニターを睨みつける。


『私はこの屋敷の主人です。足の怪我はいかがですか』


 屋敷の主人を名乗るその声は、落ち着いた口調でそう答えた。まるで機械の自動音声のような、感情の読み取れない声だった。


「おかげ様で順調よ。だから、なんで私のこと知ってるのよ。ちゃんと質問に答えて」


 ライラは語気を強め、そう言い返す。


『あなたのことは調べました。あなたの正体は殺し屋ですね。でも、今は裏切り者として組織から追われています』


 屋敷の主人はなぜかライラの正体を把握している。ライラは心臓を掴まれたような感覚になった。ナイフを握る手に力が入る。


 そんなことお構いなしに、屋敷の主人は話を続ける。


『その上で、あなたに依頼をしたいのです』


「依頼・・・?」


 屋敷の主人の言葉に、ライラは訝し気に眉をひそめる。

 

 屋敷の主人が何を言っているのかさっぱりわからず、ライラは動揺を隠せない。


『依頼内容は以下の通りです。ターゲットの人数は1名。殺害方法は自由。決行日は約1か月後の5月10日とさせて頂きます。成功報酬は10億リランです』


「10億リラン!?」


 破格の金額に、ライラは思わず声を上げた。10億リランもあれば、一生遊んで暮らしてもお釣りが出る。


 よほどの大物か、あるいは相当恨みのある人間を殺したいのだろうか。


「随分出すのね。どんな要人を殺すつもりなの。一体ターゲットは誰?」


 そう問い掛けるライラに、屋敷の主人は少し黙ったあと、静かに告げた。


『私を殺してください』


「は?」


 相手の意外な答えに、ライラは言われたことの意味が分からなかった。屋敷の主人は自分の言葉がライラに聞こえなかったと思ったのか、再度言いなおした。


『もう一度言います。私を殺してください』


 相手の言葉に、なおも戸惑うライラだったが、気を取り直してこう言い返す。


「見えない相手は殺しようがないじゃない。幽霊でも殺せって言うの?姿を見せてから言いなさいよ」


『わかりました。では案内しますので、私の言う場所へ来てください』


 屋敷の主人はそう言うと、ある場所へ行くよう促した。

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