第2話 幽霊屋敷の探索

 目が覚めると、ライラはベッドに寝かされていた。


(ここは?確かエントランスで気を失ったはずなのに)


 周りを見渡すと、部屋の中は真っ暗だった。ベッド脇のランプだけが煌々と光っている。

 

 サイドテーブルには食事が置かれている。そして負傷した足には添え木までされていた。誰かが介抱してくれたのだろうか、でも誰が?


(色々気になることはあるけど・・・)


 そう思いつつ、横に置かれた食事に目を向ける。


 ズッキーニやパプリカなどの野菜がふんだんに使われたカポナータ、スモークサーモンと玉ねぎのマリネにコンソメスープ、そして小さなパン。


 ライラはゴクリと唾を呑む。丸三日間ずっと逃げることに必死で、何も食べていない。


 怪しいと思いつつも、空腹には勝てず置かれていた食事に手をのばす。


(おいしい)


 ライラは次々に料理を胃の中にしまいこみ、気付けば全ての料理を平らげてしまった。

 そして逃避行の疲れからか、いつのまにか再びベッドの中で眠りについていた。




 次に目覚めた時、ライラはドアの向こうに人の気配を感じた。


(誰か、いる?)


 ライラは怪我をした左足を引きずり、壁伝いに歩いてどうにかドアまで辿り着いた。

 

 ドアを開けるとそこに人はおらず、その代わりに温かな食事と着替え、ご丁寧に松葉づえまで置かれている。

 

 着替えは男物の大きなワイシャツだった。


(男物のワイシャツ・・・。ということは、住んでいるのは男?)


 ライラは、侵入者の自分を追い出しもせず、それどころか食事や着替えの用意までする不思議な家主の正体を想像した。

 

 頭の中にぼんやりとした男性像が浮かんだが、はっきりとはイメージできず、考えるのをやめた。 




 十分な睡眠と食事である程度の体力を回復したライラは、屋敷を探索してみようと思い、松葉杖をつきながら部屋を出て、エントランスへ向かった。


(うわ、真っ暗。今って朝よね?たぶん…)


 そこはライラが来た時と同様に真っ暗だった。ランプひとつ灯っておらず、今が朝なのか夜なのかも判断できないほどだった。


 そして、エントランスの中央に立って周りを見渡した時、ある違和感を覚えた。


(あれ、階段がない。外からは2階建てに見えたはずなのに)


 この手の屋敷であれば、2階へ上がるための階段は、普通エントランスに設置されているものだ。


 ライラは不思議に思いながらも、客間へ続くドアを開く。開いた瞬間、おびただしい量の埃が舞った。


(なにこの埃、何年も人が出入りしてないみたい)


 とても中へ入る気になれず、ライラはドアを閉めた。


 そして同じようにキッチンやトイレを見て回ったが、やはりどこも人が使ったような形跡がない。


(でも今日の朝食は作り立てだった。一体どこで作ったんだろう)


ライラはこの時、もう一つの違和感に気付いた。


(この屋敷、窓が一つも無い)


 記憶は朧気だが、外から見た建物には確かに窓が付いていたはずなのに、屋敷内には壁しかない。


 そう思って目を凝らすと、壁には窓が設置されていた痕跡があった。


 だが、それも内側からコンクリートで塗り固められている。どうりで、屋敷の中がこんなにも暗いはずだ。


(結局、最後まで誰にも会わなかったわね。この屋敷には人がいないのかしら)


 やはり空き家なのだろうか。ふとライラはそんなことを思ったが、すぐにその考えを打ち消した。


(いやいや、現に食事や着替えも用意されてるじゃない。あれは誰がやってるの?まさか、本当に幽霊でも住んでいるっていうんじゃ・・・)


 ライラは急に気味が悪くなり、背筋に冷たいものが走るのを感じた。


 そして、そそくさと部屋に戻っていった。

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