第1章 出会い
「帰るべき」は難しい
駅から商店街を抜けると、大通りにでる。国道でもあるこの通りは夜でも車通りはそこそこ多く、横断歩道の待ち時間も長い。隣の女性はスマホと信号にせわしなく目を向けている。
他の人にとっては、イライラする時間かもしれないけれど、私にとってこの待ち時間は決断するのに貴重な時間だ。
なぜなら、ここを渡れば10分ほどで家に着いてしまうから。さて、どうしよう。
アスファルトに信号の点滅がうつる。周りの人もだいぶ増えてきた。
「今日は、こっちにしよう」
つぶやき体の向きを変え、横に立っていた学生の後ろから、人混みを抜けた。横切られた学生はこちらをちらっと見て、顔をしかめている。ごめんね。軽く頭をさげ、大通りを南に向かう。
「まっすぐ家に帰りなさいよ」
叔母のもとで働きだして、仕事場から帰宅する私にいつもかけられる言葉。もう23歳になるにもかかわらず、子ども扱いをされているようで不満だけど、仕方がない。居候は家主には逆らえない。というか、叔母に逆らうとあとが怖い。
退職して家を出ると決めたが、適当な物件を見つけることができず、ふらふらしていたところ、母の妹である瞳が実家にやってきた。
自室で転がって不動産サイトを眺めていると、扉が勢いよく開き、グイッと叔母が入ってきた。
ベリーショートの髪を赤く染め、黒いパーカーを羽織った叔母。
中学生のころあったきりだったけれど、相変わらずの切れ目と目があったとき、ブルッと震えた。
昔から率直、豪快、そして、遠慮なしの人。それが叔母のイメージ。事あるごとに外に連れ出された日々は未だに鮮明に記憶している。
叔母は170センチちょっとある私の足を軽々持つとリビングまで引きずっていき、
「行くとこないなら、うちにきな!仕事を寝る場所ぐらいは用意してあげるから」
と言ってきた。
母は止めてくれると思っていたが、私はその日のうちに実家から2時間ほど離れた叔母の住む街に連行されることになった。
しばらく南に進むと、歩道橋が見えてくる。
もとは綺麗な緑色だったようだけど、今は色あせ、サビも目立つ。
割れたコンクリートの階段をゆっくり上がっていく。遮るものがなくなっていくにつれ、風あたりが強くなり、少し肌寒くなってきた。
上まで登り切ると、行く先に黒く鬱蒼とした影が現れる。月明かりに照らされた空よりも更に濃い。ゆらゆら揺れる隙間から時おり白く滲んで浮き出ているのは街頭の明かりだ。
歩道橋を降りる先は、広大な公園の園内へと繋がっている。
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