第11話 メスガキの家に忍び込んだ男。その2

 サカムーは、慣れた手つきで屋敷の外壁に鍵付きのロープをひっかけると、軽快な足取りで壁を登ってひらりと降り立つ。


「ふはw 楽勝楽勝ww」


 サカムーは性格と頭の出来と素行の悪さは最悪の男だったが、盗賊……もとい、斥候レンジャーとしての腕は一流だった。

 サカムーは慣れた手つきで特殊な形のナイフを出すと、窓ガラスに円形の切り込みを入れてパカリと穴を開ける。

 そうして空いた穴に手を通して窓の鍵を開けると、静かに窓をスライドさせてひらりと屋敷の中に忍び込んだ。


(見事なお手並ね)

「ふはw どーいたしまして。だがこっからはあんたのナビゲートが必要だぞ。なんたって俺は字が読めないんだからなww」

(ええ、任せて。忍び込む部屋にもあらかた目処がついている)


 サカムーは、周囲に最大限に気をつけながら、しかし足早にただっぴろい屋敷を探っていく。


(ここよ。この部屋)

「おいおい、随分と堅牢な錠前がぶらさがってるじゃないかww」

(そこはあなたに任せるわ)

「へいへいw ちょーっと時間をいただくぞww」


 サカムーは腰にぶらさげたピッキングツールから細い針金を出すと、錠前に差し込んでカチャカチャといじくり回し始めた。


(どれくらいかかるの?)

「おいおいw えらいことセッカチだな。少なくとも3分くらいは待ってくれよww」


 サカムーは悪態をつきつつも、手は休めない。


「しっかし、不死兵団ってのは、そんなにすごいもんなのか?」

(ええ。不死兵団によって、我が軍の魔法兵は全滅したのよ)

「うはw てことは俺をうらぎった相棒のカタキじゃねーかw」

(そうなの? なら、やる気が出る情報だったんじゃない?)

「カンケーねーよw それに俺は仕事に感情を持ち込まない主義だw」


 カチリ


「おw 空いたようだなww」


 サカムーはピッキングツールを素早くしまうと、静かにドアを押す。


 ギィィィィ……


「うはw 男が眠ってるww」

(それは死体よ)

「うはw まじかよ、どっからどうみても眠ってるようにしか見えねーww」


 男は腕を組んで白いベッドに静かに横たわっていた。周囲にはバラの花が飾られている。


「だれだ、こいつww こんな豪勢なベッドに寝転んで良いご身分だなww」

(ええ、この国の第一皇子だった男よ)

「うはw マジモンの要人じゃねーかww」

(不死兵団の秘術は、反魂はんごんの術の研究から生まれた副産物。この国の第一皇子を蘇らせるために始まった研究よ)

「うわw マジどーでもいい。で、この部屋のどこにあるんだ? 不死兵団を生み出す研究を記した書物ってのはww」

(あそこの白い棚よ)

「うはw すごい量ww」

(ここから先は時間との勝負よ。書物の文字を片っ端から瞳に映してちょうだい。1ページ1秒くらいで構わないから)


 結局サカムーは、まるまる一時間近くかかって、この部屋の書物を瞳に移すと、そのまま誰にも見つからず、まんまと逃げおおした。


 そして一週間後、彼は北軍の街の川から見つかった。


 酒場で派手に飲み散らかしていたところを、街のならずものとトラブルになったあげく殺されてしまったそうだが……真相はだれにもわからない。そしてならずものどうしのイザコザなど、誰も興味をいだかなかった。

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