第8話 凱旋する不死兵団。

 オオバラ平原での戦いは、南軍の大逆転勝利に終わった。

 数的優位でじわじわと押されていた南軍だが、不死兵団による魔法兵の殲滅が、盤面をひっくりかえした形だ。


 南軍のマードック将軍は、北軍の休戦提案を受け入れて、オオバラ平原の国境の更新と、一年分の小麦で手打ちとした。


 これで向こう一年間、かりそめの平野がおとずれる。


 南軍勝利の報をうけた市民は大盛り上がりだ。中でも勝敗の決め手となった不死兵団の活躍は、大きな話題として取り上げられた。


 不死兵団を率いる小隊長が、マードック将軍の愛娘だという事実もセンセーショナルだったし、なによりも不死兵団がみな見目麗しいイケメンだというのが、大いに受けたらしい。


 俺たち不死兵団が城下町に凱旋したときは、それはそれはすごい騒ぎになった。


 俺たちは、レイニィの鈴の合図に合わせて、手を前に伸ばし、足首だけでジャンプしてレイニィの跡を追いかけていく。


「キャー、かっこいい!!」

「またポーカーフェイスってところがいいのよねぇ!」


 ポーカーフェイスっていうか、単に表情が膠着して変えることができないだけなのだが……。


「……すごい人気だな」

「俺も入団したいぜ」

「どうやったら入団できるんだろうな?」


 やめておいた方がいい。こいつらは、身体の自由を奪われるというのが、どれだけの苦しみなのか理解していない。そもそも、不死兵団に入るためには一度死ななければならない。その上で、レイニィに容姿を気に入られる必要がある。


 命を捨ててまで入るようなところじゃない。

 文字通り死ぬほどこき使われて、しかも、顔に傷がついてしまったらポイだ。


 俺は、4號と呼ばれた男の、哀れな末路を思い返していた。


「アナー。カナベルー。4號の容体を見せて!」

「「はいはいー。レイニィさまー」」

「あー、完全に顔が焼け爛れている。これじゃ使い物になんないわね。

 イケメンが見つかるまで、しばらく4號は欠番ってことで。

 あ、身体はそのまま使えそうだから、皮膚の移植はやっといて!!」

「はいはいー。レイニィさまー。首はどうしますか?」

「切り離して、そこらへんに捨てときなさい」

「はいはいー」


 4號と呼ばれた男は、俺と違い魂が戻っていない。完全に感情を失った男だ。

 とはいえ、まるで道具のように扱われて捨てられるというのは、いくらなんでもひどすぎやしないか?


 とはいえ、こんなことをレイニィに進言したら、機嫌を悪くして俺までスクラップにされかねない。


 こんな目に遭うなら、あの時、さっぱりと死んでしまえばよかった。

 サカムーとキタムーに裏切られ、絶望を胸に抱いたまま死んでしまえばよかった。


「あ、さっき、あたしのこと見てくれた!」

「え? どの人? その人??」

「一番後ろを行進している人!」

「ほんとだぁ! 目線くれた、カッコいい……」


 街娘の黄色い声援を浴びながら、俺は、自分の不運を心から呪った。

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