第7話 戦場での再会。
「あはは♪ ちょー気持ちいいー♪ このまま敵将めがけて突っ込むわよ!
えい、えい、おー!」
「「えい、えい、おー!」」
前線の一角がくずれた敵軍は、じりじりと後退をしていく。
俺たちは他の隊との連携をとりつつ、じわじわと前進していく。
(敵将めがけて突進……なんて言うものだから内心ヒヤリとしたが、さすがは将軍の娘だ。最低限の兵法は学んでいるらしい)
俺たちの無双ぶりが、味方の兵の士気を押し上げているようだ。
各戦線で、勝どきの声があがっている。
「退け、退けー!」
敵の兵士は、次々と敗走を始めていく。今日の戦闘はここで終了だろう。
充分すぎる戦果だ。
「あはは♪ 敵さん、総崩れだねー。ざーこざーこ♪」
「「ざーこ、ざーこ♪」」
レイニィは、左手を口に当て、大きな声でメスガキちっくに敵軍に罵声を浴びせかける。
そして術にかかっている俺たちも、レイニィのメスガキチックな動きを完全にトレースする。
……なにこれ? めっちゃ恥ずかしい。
「んふ♪ さっさと郷里に戻って「いいこいいこ」ってママになぐさめてもらいなよ♪」
「「ママになぐさめてもらいなよ♪」」
……最悪だ。なにこの羞恥プレイ。
あまりの恥ずかしさにいたたまれなくなっていたときだ。敵軍に動きがあった。
「魔法兵、前へ!!」
20人ほどだろうか。ローブとワンドをもった魔法兵が前方20メートルほど先の最前線に立った。
「はぁ……ようやくわかったようですね。こいつらはただの死体なんだ。死体は焼き払うに限る」
ん? なんだ??
ひとりやたらに知ったかぶった言葉をつぶやいているヤツがいるな。
不死の身体を得て、やたらと耳が良くなった俺は、同じくやたらと良くなった目をこらして、したり顔の男に注視する。
!! あいつ! キタムーじゃないか!
「詠唱はじめ」
敵軍の指揮官の命令を受け、キタムーたち魔法兵は詠唱をはじめる。
「ファイアボール!」
魔法兵たちが放ったファイアボールが、一斉に襲ってくる。
「お! これは直撃するとまずいねぇ!」
「そうなのか??」
「だから消し去る!」
レイニィに操られている俺は、胸元で両手の手のひらを合わせたなにやら不可思議なポーズをとらされる。そして、ファイアボールが着弾しようとする刹那!
「破ッ!」
俺に向かって飛んでくる、2個のファイアボールの前に手のひらを押し当てた。
ジュウ………………
ファイアボールは、俺の手のひらから放たれた不思議な衝撃波でかき消される。
俺以外の不死兵団も、ファイアボールをきれいにかき消していく。
「なんだ……これ?」
「東洋の気功術さ。東洋版魔法といいかえてもいい。射程は短いが魔法を相殺するには充分さ。が、数を打たれちゃうとさすがに火だるまだねぇ」
中央にいたひとりだけが、4発のファイアボールの集中砲火を浴びて炎につつまれている。
「アナー。カナベルー。4號の消化をお願い! 戦線から離脱させて!」
「「はいはいー」」
アナとカナベルーは、毛布をもって、4號と呼ばれた男にかけよると、顔に貼られたお札をとって、毛布でぐるぐるまきにする。
「あいつ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、問題ない。消化が完了しさえすれば、単なる火傷だ。皮膚を移植して、全治一週間ってところだねぇ。けれど……もし、顔に傷がついたら、即スクラップだから♪」
レイニィは、ニヤニヤと笑いながら物騒なことを言い放つ。
「そんなことより……せっかく敵さんが貴重な魔法兵をノコノコと前線に出してきたんだ。こんなチャンスまたとない! 一気に仕留めるよ!! ハッ!!」
レイニィは、地面を大きく蹴ると、思い切り2メートルほど前に飛び出す。
レイニィの動きをトレースする俺たちも、地面を蹴って大きく前に飛び出す。
が、その距離は、レイニィの10倍だ。俺たちは一飛びで魔法兵の前まで駆け寄ると、右手に縛り付けたショートソードで北軍の精鋭であろう、魔法兵をつぎつぎと蹂躙していく。
俺は、ふたりほどの魔法兵を惨殺すると、キタムーの前に立つ。
「久しぶりだな、キタムー」
「ひぃいいいい! 化け物だ……バケモノに殺される……」
キタムーは、俺に気がつくことなく、惨めったらしくにげまくる。そして、
ザシュ! ザシュ!! ザシュ!!!
「いやだ……死にたく……な……」
俺をふくめ、3人の不死兵団に滅多刺しにされて惨殺された。
「ひいいい!」
「バケモノだぁ!」
「逃げろ、にげろぉ!!」
魔法兵を瞬く間に全滅させられた北軍は、蜘蛛の子を散らすように敗走をはじめた。
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