第6話 不死兵団、初陣をかざる。
翌朝、『不死兵団』という大層な団名を、将軍によって拝命した俺たちは、団長であるレイニィの進言もあり、もっとも損傷が激しい一番隊への配属が決まった。
チリリン……。
ザッ……ザッ……。
チリリン……。
ザッ……ザッ……。
レイニィが鳴らす鈴の音に合わせて、俺たちはきっちり2メートル間隔に間をあけて、手を伸ばし、足首だけでジャンプしながら進んでいく。
「なんだあれ?」
「知らないのか? マードック将軍のひとり娘、レイニィ様が率いる軍勢だよ」
「マードック将軍に、『不死兵団』って軍団名を拝命したらしい」
「不死兵!? そんな兵士いるのかよ」
「なんでも、レイニィ様が研究していた東洋の秘術らしい」
「しかし、いやに美形揃いだな」
「レイニィ様のお眼鏡にかなったもののみが、不死の身体を手に入れることができるそうだ」
不死の身体になったからだろうか。いやに聴力が鋭くなっている。
前線の兵士たちは、ぴょんぴょんと跳ねながらレイニィの後をついていく俺たちに興味津々だ。
「さてと、ここがアタシたちの持ち場よ」
「は? 前線も前線、最前線じゃ無いか」
「モチロン! アンタたち不死兵団には文字通り『生きた壁』として敵の猛攻を食い止めてもらうから!!」
「はぁ?」
「アナー。カナベルー。こいつらに武器をそうびさせて!」
「「はいはいー。かしこまりましたー」」
どこにいたのだろう。戦場にまでついてきたメイド姿のアナとカナベルは、慣れた手つきで俺たちのカチコチの腕にショートソードを握らせると、その上から包帯でぐるぐる巻きにする。
いや、こんなことされても、俺たちは身体の自由が効かないんだぞ?
それどころか、俺の先輩方は思考もおぼつかないとくる。
「「レイニィ様、つつがなく準備終了しましたー」」
「うん! ご苦労! さて、それじゃあアタシも準備をしようかな♪」
そう言うと、レイニィは、おもむろに白衣を脱ぎ去ると、それを裏表反対にして着直す。白衣の裏地は、黄色い生地で、背中には東洋風の不可思議な紋様が描かれている。
レイニィは、口の中でなにやら不可思議な術をぶつぶつと唱えると、懐から9枚の黄色いお札を取り出した。
「操操術!」
レイニィは叫ぶと同時に、9枚のお札を空中にばら撒く。すると9枚のお札は、まるで吸い寄せられるように俺たちの額に吸着した。
「よし、これで準備オッケー! さあ、暴れ回るわよ! 皆のもの勝どきを挙げよ!」
レイニィは、木製の剣を高々とあげる。すると……
ショートソードを縛り付けられた俺の右手はスルスルと上がっていき、レイニィの仕草をトレースするように、高々と掲げられた。
「えい、えい、おー!」
「「えい、えい、おー!」」
俺は自分の意思とは全く関係なく、武器を持った手を高々とかかげ、謎の掛け声をあげる。
さあ、戦闘開始よ!
レイニィが歩を進めると、数メートル先にいる俺たちは、レイニィの動きをトレースして前進をしていく。
こんな戦い方で大丈夫なのか?
いや、そんなことを考えているヒマなんてない。
一番槍を目指して、俺たちに向かって、猛スピードで突っ込んでくる敵兵とあっという間に衝突したからだ。
俺は、槍をもった兵士に身体を貫かれる。だが、少しも痛くない。
手応えを感じていたのだろう。敵兵たちは、攻撃を受けても一切動じない俺たちにたじろいでいる。
「ハッ!」
レイニィは、上段に剣を構えると、まるで踊るように木剣を振り下ろした。
俺たち不死兵9人は、一糸乱れぬことなく、その動きをトレースする。
「が!? ぐわぁああああ!」
俺を串刺しにした敵兵は、肩口を切られてそのままミシミシとショートソードを食い込ませていく。
「ぎゃあぁああああ!」
俺は、痛みに苦しむ敵兵を見ながら、そのまま力任せに両断した。
「ぐわぁあああ!!」
「なんだこの化け物は!」
「傷を負わせても、ひるむどころか無表情で反撃をしかけてくる!!」
「こんな化け物あいてじゃあ、命がいくつあっても足らないぞ!!」
敵兵の悲鳴があちこちで聞こえている。
惨状を目の当たりにした敵兵たちも、蜘蛛の子を散らかすように逃げていく。
「あはは♪ ちょー気持ちいいー♪ このまま敵将めがけて突っ込むわよ!
えい、えい、おー!」
「「えい、えい、おー!」」
レイニィが歩みを進めると、俺たち不死兵団はその動きを忠実にトレースする。
戦場は大混乱だ。
これが後世に名を残す、「鉄壁の不死兵団」の衝撃的な初陣だった。
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