第5話 将軍と謁見する男。
一週間後、俺たちは前線が陣を張る、オオバラ平原へとおもむいた。
もっとも、身体の自由が効かない俺は、棺桶の中で馬車にゆられていたんだけれども。
しかし、正気なのだろうか……。
『簡単。アタシの造った9人の不死兵が戦況を覆す! まずは、一番劣勢の一番隊の救援に向かうわよ!』
俺と同じ紫色の肌をした男9人と、まだ年端のいかない少女ひとり……合計10人で、とても戦況が覆るとは思えない。
しかも、俺以外の8人の男たちは、未だ魂が身体に定着しきっていないという。
「なあ、みんな! 本当に俺たちだけで、この絶望的な戦況をひっくり返せると思うか?」
「「…………………………………………………………」」
返事がない。ただの死屍のようだ。
そう。俺以外の8人は、会話をすることすらままならない。単純な命令にかろうじて反応するだけ。文字通りの木偶の棒だ。
『喜びなさい下僕9號! あなたは今までの中で最高傑作よ!!』
どうやら、少女の言う最高傑作とは『会話ができる』ことを指しているらしい。
こんな布陣で大丈夫か?
「大丈夫だ! 問題ない!!」
突然、レイニィが叫ぶ。なんで?
……あ、俺のさっきの問いかけに応じてくれたのか。
俺は、思ったことを率直に聞いてみる。
「その根拠は?」
「簡単だ。お前たちは死なない。さらには9號、お前以外の不死兵には感情が無い。つまりだ。死ぬこともなく、戦意を喪失することもなく戦場に立ち続けることができるのだ。そんな凶戦士が戦場を自在に駆け回ってみろ! 敵さんはたちまち大混乱さ!」
「そんな簡単にうまく行くものか?」
「やってみれば判る!」
レイニィは、スレンダーな胸を張る。
「そういえばお前、戦場に行ったことは?」
「ある。一度だけだけど。父上とともに馬上から戦況を眺めたことがある」
「そこで思いついたのよ。戦意を喪失しない兵隊さえいれば、どんな劣勢でもくつがえせるってね」
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野営地の陣についた俺たちは、休憩もそこそこに、マードック将軍に謁見することとなった。
レイニィの後を、俺は手を前に突き出して、ぴょんぴょんと足首だけを使ってジャンプしながら追いかける。惨めだ。
「はぁい♪ お父様」
「おぉ、レイニィか!! どうだ? 研究の成果は??」
「どうにか小隊を組める人員は調達できたわ。明日から、戦線に合流するわ」
「そうかそうか! これでこの難局も打破できる! 北軍の工業成金どもが慌てふためくのが目に浮かぶわい!」
俺は激しく後悔していた。レイニィに訳のわからない紫色の肌にされたことじゃあない。
この親バカ将軍の軍に、傭兵として参戦したことにだ。
それさえしなければ、サカムーとキタムーに裏切られることもなかっただろうに……。
俺は本当に人を見る目がないな。
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