第15話 空崎虚と二年間

「空崎先輩、うまいですね」


 俺はこのゲームに詳しくないのだが、何度か遊べるこのゲームのうち、終盤はすごく難しそうな譜面を選んでいた。


 俺はといえば普通かそれ以下くらいだ。初心者なので仕方がない。


 君は俺よりは難しい譜面を叩いていたけれど、空崎先輩の方が上手だ。


「じゃあ次何やりましょうか?」

「うーん、あれかな」


 空崎先輩は次にはアーケードゲームを指差した。排出されたカードで遊ぶやつだ。


 それから一通り遊び、途中までは二人で一緒に帰ることになった。


「どうでした?」


 空崎先輩に、今日の感想を尋ねる。俺と君で来た時の君も、こんな風に感想を聞いてくれた。


「また来たい」


 そう、俺はあの時君に対してそう答えたんだった。


 結局、またゲーセンに来る前に君の入院生活が始まってそのまま亡くなってしまったのだけれど。


「そうですね、また来ましょう」




『有、どうだった?』


 君とショッピングモールに行ったのは、普通に会話する時に素っ気ないということがなくなったころだった。


 俺が、ねえ、命、と話題を振った時はいつも通りの素っ気ない返しをするのだが、普段の会話では普通に会話するようになった。


『また来たいな』


 何気ない返事、ただ未来に期待を置くという、それだけの行動。


 だけどやはり、俺と君と間ではその一つ一つが大きな意味を持った。君の未来はもう短いから。


『そうだね、また来よう』


 君は優しく笑った。胸の内に秘めた、バレバレの寂しさとか悲しさを隠すために。




 翌日の休み時間、俺は教室でいつも通りぼーっとしていた。


「永井君、先輩が訪ねてきてるよ」

「ああ」


 話しかけてきたのは、俺が少しいい人だと思った生徒会の人――確か名前は進藤聡だったはず。


 先輩が訪ねてきているらしい。俺と交流のある先輩は空崎先輩しかいないので、多分空崎先輩だ。


 突然何の用事だろうかと思いつつ廊下に出る。


 そこにいたのは俺の予想通り、空崎先輩だった。


「空崎先輩、どうしたんですか?」

「教室にいても暇だったから」


 孤立気味というか友達が少ないようなので、確かに教室にいたらやることはないだろう。


「じゃあしばらく話しましょうか」


 長めの休み時間を狙って来てくれたので、まだまだ休み時間は長い。


 そうして空崎先輩と話す俺の姿を、クラスメイト達が眺めている。


 普段もっと素っ気なく話すので、空崎先輩に対して普通にしゃべっているのが珍しいのだと思う。


「今度はどこ行きましょうか?」

「どこでもいい」


 空崎先輩がどこでもいいと答える。


 傍から見れば興味がないかのように見えてしまうかもしれないが、空崎先輩はどこでも楽しめるという意図で言っているのだと思う。


「じゃあ、登山とかどうですか?」


 登山は、君と一度だけ行ったことがある。


 その翌日、筋肉痛で動きが鈍り、危うく東屋に遅れてしまうところだったが、当日は君が解説してくれながら歩いていたので、興味深かったのを覚えている。




 それから二年間、空崎先輩が卒業するまで何度も一緒に出掛けた。


 基本的には君と行った場所を辿ったが、たまに初めて行く場所に行ってみたりもした。


 空崎先輩との二年間は、君と過ごした二年間と同じくらい早く過ぎていった。

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