第13話 もし死んだら――

「空崎先輩」

「なに、永井君」


 またも部活中、俺は普段のように空崎先輩に話しかけた。


 今度は、君の生前君が俺を連れて行った、ショッピングモールのカラオケに誘ってみようと思う。


 君が俺を連れて行ったルートを辿れば、俺が救われたように空崎先輩も、自分の意味を探求する手がかりになるかもしれない。


「今週末、空いてますか?」


 とはいっても部活後にカラオケに行くとなるとちょっと時間が足りない。


 休日にでも誘おうと今週末の予定を尋ねる。


「空いてる」


 空崎先輩は相変わらず素っ気ないので会話はやはり続かない。


「じゃあ、また課外活動に行きませんか?」

「……まあ永井君がそういうなら」


 俺と君の間では、自然に会話の中で出た場所に行く雰囲気だった。


 俺と空崎先輩の間では、俺が誘って空崎先輩が返事する以外ない。


 そういうところは、重ならなかった。


「土曜日の午後一時、この間俺が連れて行った東屋に集合でいいですか?」

「わかった」


 あの東屋はショッピングモールにほど近いし、目立つので待ち合わせにはちょうどいい。


 ただ、休日の昼間なら君の記憶を辿っていた時のように人がいるかもしれないのが欠点だ。




 俺が空崎先輩を誘うようになっても、探求部の部活時間中の活動は変わらずに、各々読書をして、ちょっとは二人で喋るくらいだった。


 俺と空崎先輩の話題は、俺と君の話題よりは実用的なものだった。


 別によくわからない政治の話なんてしても、空崎先輩は興味を示さない。


 だから、俺と空崎先輩の話題は君の話がメインだ。……というかそれ以外に興味を示さない。


 この間東屋で空崎先輩に話した時は、普段君と話したことなどの小さなことは紹介しなかった。よって話題はまだ尽きない。


 俺と君の話を聞いてる時だけ、空崎先輩は普通の人でもよく見ればわかる程度に感情を顔に浮かばせる。


 例えば、君と喧嘩したときについて話したら悲しそうに顔を歪める。


 俺は君から人間観察が得意だという部分も受け継いでいたようで、空崎先輩の表情が読める。


 しかし、普通の人がいつもの空崎先輩を見ても大した変化は見つけられない。


 それが、君の話を聞いている間は誰でもよく見れば表情の変化を見つけられるくらいには表情が変わる。


「ねえ、永井君」

「なんでしょうか、空崎先輩」


 普段は俺から話題を振るのに、珍しく空崎先輩が話しかけてくれた。


「通夜と葬式は、行かなかったの?」

「命が死んでダメージを受けて引きこもってしまって、ずっと寝込んでたから行きませんでした」


 それに関しては今言われてまた後悔した。


 葬儀は、俺が君に連絡先を教えていなかった関係上、行くことはできなかっただろうが、お通夜くらいには行きたかった。


「後悔してる?」

「そうですね。もしも誰か他の人が死んだら絶対出席します」


 つい不吉なことを言ってしまったが、本当に次これ以降知り合いが亡くなったら絶対に出席しようと思う。


 ふと空崎先輩の表情を見えると、微妙そうな顔をしていた。


「私でも」


 一瞬頭にはてなマークを浮かべてしまうが、それが疑問形であることに気づく。


 質問に疑問符がついていないということは、空崎先輩にとっては、もう君の話は終わったということらしい。


「不吉なこと言わないでくださいよ。もちろん行きますけど」

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