第11話 その部室に君がいる
「ところで先輩」
「なに、見学」
しばらく待ってみても何も始まらないので俺はこの部員に尋ねてみることにした。
「ここってどんな活動をしているんですか?」
まだ入部することに決めたとは伝えていないから、活動内容を尋ねても不思議ではないだろう。
「特に活動はない。強いて言えば自分の存在意味について考えること」
「なるほど、自分を探求するから探求部ということだったんですか」
探求部なんて部活動紹介の紙では見つからなかった。だから、活動内容などもわからない。
探求部なんていう珍しい名前の部活があれば頭の片隅には置いているはずだから、載ってなかったか、小さく載っていて見つけられなかったんだろう。
「この部活、いつからあるんですか?」
かなり古びた部室だし、大昔からあったのかもしれない。
「私が入学したとき」
だが、この部員が入学したときにできたらしい。
二年か三年の先輩だからほんの一、二年前にできた部活のようだ。
「それにしては部室が古いですね」
「元は別の部活の部室だったらしい」
とはいってもこの部屋だけ古いのはよく考えても納得できない。この校舎内にあるのだから建てられた時期はこの校舎と同じころのはずなのだけれど。
「でも、それは探求部ができる十年以上前の話。使われてなかったから古い」
そんな疑問を先読みしてこの部員は解決してくれた。初見では友達が少なそうだと思ったが、コミュ力は高いし意外と多かったりするかもしれない。
「そういうことですか。先輩はなんで探求部を作ろうと思ったんですか?」
この部員はたっぷり考えた。
理由を説明しようか迷っているように見える。
「ただ入りたい部活もやりたいことも見つからなかったから」
「じゃあ、俺と同じですね」
ここにいたのが君なら、この部員にやりたいことを見せることが出来たのかもしれない。
「それならこの部活に入る予定なので、名前とか教えてくれますか?」
「二年一組、
君が俺に名前を言った時、君は下の名前だけ答えた。
空崎先輩はそんなことなく、普通にフルネームで答えた。
それで、空崎先輩に重なって見えた君の幻影が、少しだけ薄れたような気がした。
「俺は一年一組永井有です。よろしくお願いします」
空崎先輩と君を重ねていて気付かなかったが、虚とはまた酷い名前を付ける親がいたものだ。何か意図があるのか。
「虚って名前にはどういう意味が込められてるんですか?」
「……」
空崎先輩はまたも考え込んだ。
訊かない方がいい内容だったかもしれない。
「いずれ話す、と思う」
「その話を聞ける日が早く来ることを祈ってますよ」
「聞かない方がいいかもしれない」
だがまあ、俺には君を亡くした経験もあるし、ある程度の辛いことならわかってあげられる気もする。
「いや、聞きたいですから。楽しみにしてますね」
「……そう」
空崎先輩は珍しいものを見るような顔でこちらをちらりと見た。
こちらを見た空崎先輩の顔のタイプは、よく見ると君に似ていた。
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