一章 続く世界に君を見る

第10話 君が憑く

 俺は授業が苦手だ。


 授業を受けていたせいで、最期の瞬間君に付き合うことが出来なかった。


 そんな授業はとうに終わり、部活動見学が始まった。


「ねえ、命。何部に行こうか」


 君は生前、俺の人生を天国から見守ってくれると言っていた。


 俺は天国を信じていないが、君のことは信じている。


 だから、迷ったときは、この世にいないと分かっていても君に縋ってしまう。


 当然返答は返ってこない。


 あの素っ気ない、『なに、有』という声はもう聴けない。


 もう何部も見に行かず帰ってしまおうかなという気持ちはあるが、君が人生を楽しめという以上何にも入らないというのは違う気がする。


「永井君は何か部活に入るの?」


 話しかけてきたのは、先日学級委員に決まった――、決まった……?


 誰だっけ。


「何かには入る予定」


 君を亡くした俺は、君の、興味がない人には素っ気ない部分を受け継いでいた。


 多分君が見たらそこを受け継ぐかよと突っ込むだろうけど、勝手に受け継がれてしまったものなので仕方がない。


「そうか。じゃあ生徒会に入ってみたらどう? 永井君は周りより一回り大人に見えるというか達観しているようから向いてると思うよ」


 生徒会って部活動にカウントされるのか。


「楽しくはなさそうだし遠慮しておこうかな」

「そうか。僕は生徒会に入るつもりだから、気が変わったら来てみてね」


 君のようにその人間性に魅力を感じたわけではないのだけれど、いい人だとは思った。


 後で名前を覚えよう。生徒会も検討しておくか。


 とはいってもこの学校で生徒会に任された権限は決して多くない。だからあまり魅力を感じない。


 行く当てもなくぼーっと歩いていると、探求部部室という古びた胡散臭い部屋を見つけた。


 そもそも探求部という名前からして怪しそうだし何を探求しているのだか。


 しかし怪しさは感じるものの興味は惹かれる。


 俺は思わず扉をノックしてしまっていた。


「どなたかいらっしゃいますか」

「入っていいよ」


 中には気だるげな声をした女性がいるようだ。


 その気だるげな声が、素っ気なかった時の君の声に雰囲気がとても似ていて、俺はより探求部に興味が湧いた。


 中に入っても、特に歓迎されることはなかった。


 俺は基本的に、自分含めて人に興味がないので別に構わない。


 だが、中に部員は一人しか見当たらない。


 こんなに部員が少ないのなら新入部員が欲しい状況だから、見学者は歓迎してもおかしくないと思うのだけれど。


「なんでこんな怪しげな部活に来たの」


 中にいる部員が、まるで俺と出会う前とか、病室を初めてノックした時の君のように抑揚のない声で尋ねてくる。


 多分俺が素っ気ない君と話したことがなかったら、部員のこれが質問だとはわかっていなかっただろう。


「探求部、人の気を惹く名前をしてますから」

「普通に歩いていたらこんなところ来ない」

「普通に歩いていませんでした」


 ずっとぼーっとして、君の顔を頭の中で思い出したりしていたからだ。


「そう。この部活にはそのくらいがちょうどいいかも」


 口調は少し違うが、考え方は俺と出会う前の君と似ているこの部員を見ていると、試したいことが出来てきた。


「ねえ、先輩」

「なに、見学」


 見学、というのは多分この部員の中で俺のことだろう。


 この答えで、完全に俺はこの部員を君と重ねてしまった。


 だから、俺は探求部に入ることにした。

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